要旨
規則には、たいてい「ここが核心である」と名指された条件がある。本稿が示すのは、その条件を外しても成績が動かない場合があることである。そして、動かないことは測れる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、これが本稿の芯である。核心と名指された条件を外しても、$4$ 系列すべてで差は $\mathbf{0.0100}$ 以下である。外した方が良い系列もある(第2節)。
第二に、どの系列も符号は負のままである。条件は大きさも符号も変えない(第2節)。
第三に、一方でバリア幅を $5$ から $40$ へ振ると、勝率は $\mathbf{16.00\%}$ から $\mathbf{45.75\%}$ へ、$\mathbf{29.75}$ ポイント動く(第3節)。
第四に、それだけ動いても期待値は $\mathbf{-3.4000}$ のまま、四つの幅すべてで一定である(第3節)。
第五に、勝率の振れ幅は閉じた式 $\frac{c}{2}\left(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}\right)$ と $\mathbf{29.7500}$ で完全に一致する(第3節)。
第六に、分離子は「外したら動くか」である。名指しは根拠にならない(第4節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。任意停止定理、対称バリアのタッチ確率(初通過確率)、除外検定の考え方はすべて既知である。特定の規則や商品を論じない。実在の手法、その提唱者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。扱うのは「スイング安値のブレイク規則」という一般的な形だけである。その規則を評価しない。良い悪いを言わない。核心と名指された条件が結果を動かすかどうかだけを見る。予測を主張しない。どの規則が利益を生むかは主題ではない。ドリフトのある場合を扱わない。第3節の導出は、ドリフト無し・有界な停止時刻という条件の下でのものである。コストの模型を一つに固定する。仕掛けで一度だけ $c$ を払うとしている。実務の費用構造はこれより複雑である。既刊との関係:論文298 は勝率 $99.9999\%$ の戦略の期待値がちょうど $0$ であることを示した。そこでは極端な勝率を見た。ここでは勝率を連続的に振って、期待値が動かないことを見る。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「核心と名指されている」と「結果を動かす」は、その基準で別根である。論文421 は先行して見えるものが先行していないことを示した。そこでは在ると思われたものが無かった。ここでは効くと思われたものが効かない。論文416 は積が同じでも結果が同じにならないことを示した。そこでは式が結果を決めなかった。ここでは条件が結果を決めない。加えたのは、核心条件を外した場合との差を $4$ 系列で並べたこと、外した方が良い系列があることを示したこと、勝率の振れ幅を閉じた式と一致させたこと、期待値がコストと符号込みで一致することを逆算で確かめたこと、コストがゼロなら勝率が動かないという境目の反対側を置いたこと、分離子を「外したら動くか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:直近安値を更新した足の高値を基準線とし、後続の足がその線を上抜けたら買う。 この形の規則を、以下「スイング安値のブレイク規則」と呼ぶ。 仕様は、基準足が下向きの実体を持つこと(実体の符号が負であること)を核心と定める。 出口は仕掛け値から上下に等距離 $R$ の対称バリアとし、仕掛けで一度だけ費用 $c$ を払う。
観察 1.1 規則には、たいてい「ここが核心である」と書かれた条件がある。それを外したら別物になる、と説明される。名指しは、その条件が効いているという主張である。
観察 1.2 だがそれは主張であって、測定ではない。外して測れば済む、外したものと外さないものを、同じ物差しで並べればよい。
問い:外したら、どれだけ動くのか。
2. 外しても、差は 0.0100 以下である
計算 2.1:核心条件を課した場合と、外した場合の成績を並べる。単位は一件あたりである。
| 系列 | 条件あり | 条件なし | 差 |
|---|---|---|---|
| 甲 | $-0.0110$ | $-0.0130$ | $0.0020$ |
| 乙 | $-0.0350$ | $-0.0250$ | $0.0100$ |
| 丙 | $-0.0450$ | $-0.0460$ | $0.0010$ |
| 丁 | $-0.1000$ | $-0.1020$ | $0.0020$ |
差の最大は $\mathbf{0.0100}$ である。
観察 2.2 この大きさは、量そのものより二桁小さい。丁では $-0.1000$ に対して差が $0.0020$、測定の限界に埋もれている。
観察 2.3 向きすら定まらない。乙では条件を外した方が良い。もし条件が効いているなら、外すと必ず悪くなるはずである。
観察 2.4 符号も変わらない。どの系列も、条件のあるなしにかかわらず負である。条件は大きさも向きも符号も動かしていない。
観察 2.5 作り物で確かめる。結果と無関係な印で標本を二つに割ると、平均の差は $0.0288$ にとどまる。実測の $0.0100$ と同じ桁である。
観察 2.6 測定器が鈍いのではない。同じ作り物で、本当に効く条件を入れると差は $2.5296$ に開く。効くものは効くと出る道具である。
3. 勝率は 29.75 ポイント動き、期待値は動かない
計算 3.1:対称バリアの幅 $R$ を振る。ドリフト無し・有界な停止時刻の下で、先に上へ触る確率は距離の逆比で決まる。
$$p(R)=\frac{R-c}{2R},\qquad
\mathbb{E}=p(R)\,R-\bigl(1-p(R)\bigr)R=-c$$
| $R$ | 勝率 | 期待値 |
|---|---|---|
| $5$ | $16.00\%$ | $-3.4000$ |
| $10$ | $33.00\%$ | $-3.4000$ |
| $20$ | $41.50\%$ | $-3.4000$ |
| $40$ | $45.75\%$ | $-3.4000$ |
観察 3.2 勝率は $\mathbf{29.75}$ ポイント動く。$16.00\%$ から $45.75\%$、三分の一から半分近くまで、大きく動く。
観察 3.3 期待値は四つの幅すべてで $\mathbf{-3.4000}$ である。小数点以下 $12$ 桁まで一定、そしてその値は費用 $c$ と符号込みで一致する。
計算 3.4:振れ幅を閉じた式で書く。
$$p(R_2)-p(R_1)=\frac{c}{2}\left(\frac{1}{R_1}-\frac{1}{R_2}\right)
=\frac{3.4}{2}\left(\frac{1}{5}-\frac{1}{40}\right)=\mathbf{0.2975}$$
数値で出した $29.7500$ ポイントと完全に一致する。
観察 3.5 振れ幅は費用に比例する。$c$ が大きいほど、幅を変えたときの勝率の動きが大きい。つまり「勝率が幅で大きく動く」ことは、費用が大きいことの現れである。
観察 3.6 境目の反対側を置く。費用をゼロにすると、勝率はどの幅でもちょうど $0.5$ で動かない。勝率が動く原因が費用だけであることを、これが示す。
4. 分離子
分離子:外したら動くか。
観察 4.1 核心と名指すことは、根拠ではない。規則の説明の中で最も強調される条件が、成績を動かしていないことがある。名指しと効きは別である。
観察 4.2 測り方は簡単である。条件を外した版を同じ物差しで走らせ、差を見る。差が測定の限界に埋もれるなら、その条件は効いていない。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。「核心と名指されている」は説明の中の位置、「結果を動かす」は測定の中の位置。同じ規則の、別の層である。
観察 4.4 一方で、効いているものは別にある。バリアの幅は勝率を $29.75$ ポイント動かす。ただしそれも期待値は動かさない。勝率を動かすことと、期待値を動かすことは別である。
観察 4.5 だから「勝率が上がった」は、それ自体では何の報告にもならない。幅を広げれば上がる。論文298 が極端な例で示したことが、ここでは連続的な形で出ている。
観察 4.6 正直に言えば、差が測定の限界以下であることは、条件が無意味であることの証明ではない。標本を増やせば見えるかもしれない。言えるのは「この標本では、量そのものより二桁小さい」ことだけである。
観察 4.7 最後に一つ、規則を否定していない。本稿はその規則が良いとも悪いとも言っていない。言ったのは、核心と名指された条件が、この物差しの上で結果を動かしていない、ということだけである。
5. 点呼と結び
- 差の最大は $0.0100$(計算 2.1):$4$ 系列すべて。
- 量より二桁小さい(観察 2.2):測定の限界。
- 外した方が良い系列がある(観察 2.3):向きすら定まらない。
- 符号はどれも負のまま(観察 2.4):条件は符号も変えない。
- 無関係な印での差は $0.0288$(観察 2.5):同じ桁。
- 効く条件を入れると $2.5296$(観察 2.6):道具は鈍くない。
- 勝率は $16.00\%\to45.75\%$(計算 3.1):$29.75$ ポイント。
- 期待値は四つとも $-3.4000$(計算 3.1):$12$ 桁まで一定。
- 閉じた式と $0.2975$ で一致(計算 3.4):逆算。
- 費用ゼロなら勝率は $0.5$ で不動(観察 3.6):境目の反対側。
結び:規則には、たいてい「ここが核心である」と書かれた条件がある。それを外したら別物になる、と説明される。だがそれは主張であって、測定ではない。外して測ると、動かない。スイング安値のブレイク規則で、核心と名指された「基準足の実体の符号」を外しても、$4$ 系列すべてで差は $\mathbf{0.0100}$ 以下である。丁では量そのものが $-0.1000$ なのに差は $0.0020$ で、二桁小さい。向きすら定まらず、乙では外した方が良い。もし条件が効いているなら、外すと必ず悪くなるはずである。符号もどの系列も負のままで、条件は大きさも向きも符号も動かしていない。測定器が鈍いのではないことは、作り物で確かめてある。結果と無関係な印で割ると差は $0.0288$ にとどまり、本当に効く条件を入れると $2.5296$ に開く。一方で、大きく動くものは別にある。対称バリアの幅を $5$ から $40$ へ振ると、勝率は $\mathbf{16.00\%}$ から $\mathbf{45.75\%}$ へ $\mathbf{29.75}$ ポイント動く。それだけ動いても期待値は四つの幅すべてで $\mathbf{-3.4000}$ のまま、小数点以下 $12$ 桁まで一定であり、その値は費用と符号込みで一致する。振れ幅は閉じた式 $\frac{c}{2}(1/R_1-1/R_2)$ と $\mathbf{0.2975}$ で完全に一致し、費用をゼロにすると勝率はどの幅でもちょうど $0.5$ で動かない。勝率が動く原因が費用だけであることを、この対照が示す。分けているものは一つ、外したら動くか。核心と名指すことは根拠ではなく、規則の説明の中で最も強調される条件が成績を動かしていないことがある。測り方は簡単で、条件を外した版を同じ物差しで走らせて差を見ればよい。論文300 の基準で別根であり、「核心と名指されている」は説明の中の位置、「結果を動かす」は測定の中の位置である。そして勝率を動かすことと期待値を動かすことも別で、「勝率が上がった」はそれ自体では何の報告にもならない。幅を広げれば上がる。論文298 が極端な例で示したことが、ここでは連続的な形で出ている。正直に言えば、差が測定の限界以下であることは、条件が無意味であることの証明ではない。標本を増やせば見えるかもしれない。言えるのは「この標本では、量そのものより二桁小さい」ことだけである。最後に一つ、規則そのものを否定していない。良いとも悪いとも言っていない。言ったのは、核心と名指された条件が、この物差しの上で結果を動かしていない、ということだけである。
参考文献
- Doob, J. L. (1953). Stochastic Processes. New York: Wiley.
- Williams, D. (1991). Probability with Martingales. Cambridge: Cambridge University Press.
- Feller, W. (1968). An Introduction to Probability Theory and Its Applications (3rd ed.). New York: Wiley.
- Bailey, D. H., Borwein, J. M., López de Prado, M., & Zhu, Q. J. (2014). Pseudo-Mathematics and Financial Charlatanism. Notices of the American Mathematical Society.
- 山岸勇輝 (2026). 『勝率 $99.9999\%$ の戦略の期待値は、ちょうど $0$ である』[論文298]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171857
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『積が同じでも、結果が同じにならない』[論文416]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699831
- 山岸勇輝 (2026). 『「先行して見える」ものは、先行していない』[論文421]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700022
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「規則の核心と名指された条件を外しても、成績が動かない」[論文422]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22700081
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 規則の核心と名指された条件を外しても、成績が動かない [論文422]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/422 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22700081
Yamagishi, Y. (2026). The Condition Named as the Core of a Rule Does Nothing [Paper 422]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/422; DOI: 10.5281/zenodo.22700081
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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