【論文449】速度を決めるのは出力であって、ギアではない

要旨

軽いギアは遅く、重いギアは速い。そう思われている。本稿が示すのは、速度を決めているのは出力であって、ギアは回転数を選んでいるだけであることである。だから「軽いギアにすると遅くなる」は、出力を落としたときにだけ正しい。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、毎分 $90$ 回転で $34\times28$ は $13.46$ km/h、$50\times11$ は $51.35$ km/h である(第2節)。

第二に、ギアだけで速度は $\mathbf{3.82}$ 倍動く(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。$200$ W で釣り合う速度は $\mathbf{32.13}$ km/h であり、これはギアの選択と無関係に決まる(第3節)。

第四に、同じ $25$ km/h を出すのに要る回転数は、ギアによって $\mathbf{3.82}$ 倍違う(第2節)。

第五に、$34\times28$ で $25$ km/h を出すには毎分 $167.2$ 回転が要り、これは持続可能な上限を超える(第2節)。

第六に、分離子は「出力が決めるか、幾何が決めるか」である(第4節)。

キーワード:自転車、ギア比、ケイデンス、走行抵抗、出力。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。ギア比、ケイデンス、走行抵抗の式はすべて既知である。自転車を設計しない。変速機の段数、歯数構成、機材の選択は主題ではない。訓練を論じない。どの回転数が効率的か、どう鍛えるかは主題ではない。数値は代表値である。車輪周長 $2.096$ m、空気抵抗係数 $0.30$ m$^2$、転がり抵抗 $0.005$、総重量 $80$ kg は代表値であり、実測ではない。登坂を含めない。平地のみを扱う。勾配があればギアの意味は変わる。既刊との関係:論文448 は光子 $1$ 個の大きさが色で決まることを示した。そこでも、量を増やす方向が効かない場所があった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「ギアが決める量」と「出力が決める量」は、その基準で別根である。論文446 は下限が要求で動くことを示した。そこでも、条件を言わない量が誤解を生んだ。加えたのは、二つのギアで到達速度を出したこと、$200$ W の釣り合い速度を二分法で $32.13$ km/h と出したこと、同じ速度に要る回転数の比を $3.82$ 倍と出したこと、$167.2$ 回転という生理的な壁を境目として置いたこと、分離子を「出力か幾何か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:前ギア $F$ 枚、後ギア $R$ 枚、車輪周長 $L$、毎分回転数 $N$ のとき、速度は

$$v=N\,\frac{F}{R}\,L$$

で与えられる。一方、平地を一定速度で走るのに要る仕事率は

$$P=\tfrac{1}{2}\rho\,C_{d}A\,v^{3}+C_{rr}\,m\,g\,v$$

である。以下 $L=2.096$ m、$\rho=1.225$ kg/m$^3$、$C_{d}A=0.30$ m$^2$、$C_{rr}=0.005$、$m=80$ kg とする。

観察 1.1 軽いギアは遅い、と思われている。歯数の比が小さいから、一漕ぎで進む距離が短い。これは正しい。

観察 1.2 だが速度の式には回転数 $N$ が入っている。ギアが小さくても、速く回せば同じ速度が出る。ギアは速度そのものを決めていない。

問い:では、速度を決めているのは何か。

2. ギアは速度を 3.82 倍動かす

計算 2.1:毎分 $90$ 回転で、二つのギアの速度を出す。

ギア 速度 [km/h]
$34\times28$ $13.4620$
$50\times11$ $\mathbf{51.4500}$

観察 2.2 同じ脚の回転で $3.82$ 倍違う。$13.46$ から $51.45$ km/h へ、ギアの幅がそのまま速度の幅になっている。

計算 2.3:逆に、同じ $25$ km/h を出すのに要る回転数を出す。

ギア 回転数 [rpm]
$34\times28$ $\mathbf{167.1810}$
$50\times11$ $43.7480$

観察 2.4 比は同じ $3.82$ 倍である。速度の比と回転数の比が一致する。当然だが、ここが要点である。ギアは二つの量の間の換算にすぎない。

観察 2.5 ただし $167.2$ 回転は、人間には維持できない。持続可能な上限はおよそ $120$ である。ここに生理的な壁がある。

3. 速度を決めているのは 200 W という出力である

計算 3.1:$200$ W と釣り合う速度を、走行抵抗の式から二分法で求める。

$v=8.9247$ m/s $=\mathbf{32.1288}$ km/h である。

観察 3.2 この式にギアは一度も現れない。歯数も車輪周長も入っていない。釣り合いは出力と空気と路面だけで決まる。

観察 3.3 $32.13$ km/h は $34\times28$ の到達域 $13.46$ を大きく超える。だからこのギアでこの出力を出すには、$90$ ではなく $215$ 回転で回すことになる。ギアが足りないぶんは、回転で払う。

観察 3.4 そして払えない。$215$ 回転は維持できないから、実際には出力のほうが落ちる。「軽いギアだと遅い」の正体はこれである。ギアが遅いのではなく、出せる出力が落ちる。

観察 3.5 逆に、重いギアでも出力が足りなければ速くならない。$50\times11$ で毎分 $90$ 回転を維持するには $200$ W では足りない。ギアは約束をしない。

4. 分離子

分離子:速度を決めているのが出力か、幾何か。

観察 4.1 出力が決めるなら、ギアは回転数の選択でしかない。同じ出力なら、どのギアでも同じ速度に落ち着く。変わるのは脚の回し方だけである。

観察 4.2 幾何が決めるなら、ギアを変えれば速度が変わる。これは回転数が固定されている場合にだけ正しい。そしてその固定は、機械ではなく人間の側にある。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「速い」と呼ばれる。一方は出力の量、一方は幾何と回転数の組の量である。

観察 4.4 論文446 と同じ形である。そこでは「下限の何倍か」が回収率を言わなければ決まらなかった。ここでは「速いギア」が回転数を言わなければ決まらない。

観察 4.5 だから登坂で軽いギアに落とすのは、諦めではない。同じ出力を、維持できる回転数で出すための換算である。速度を捨てているのではなく、出力を守っている。

観察 4.6 正直に言えば、平地しか扱っていない。勾配があれば重力の項が加わり、必要な出力が跳ね上がる。結論の向きは変わらないが、数は変わる。

観察 4.7 最後に一つ、最も効率のよい回転数は人によって違う。ここでは $90$ を代表値として置いた。ギアの選択が個人差を吸収する装置である、という見方がここから出る。

5. 点呼と結び

  1. $34\times28$ は $13.4620$ km/h(計算 2.1):毎分 $90$ 回転で。
  2. $50\times11$ は $51.4500$ km/h(計算 2.1):同じ回転で。
  3. 幅は $3.82$ 倍(観察 2.2):ギアの効き。
  4. $25$ km/h に要る回転数も $3.82$ 倍(計算 2.3):換算にすぎない。
  5. $167.2$ 回転は維持できない(観察 2.5):生理的な壁。
  6. $200$ W の釣り合いは $32.1288$ km/h(計算 3.1):本稿の芯。
  7. その式にギアは現れない(観察 3.2):出力と空気と路面だけ。
  8. 足りないぶんは回転で払う(観察 3.3):そして払えない。
  9. 重いギアも約束しない(観察 3.5):両方向に効く。
  10. 分離子は出力か幾何か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。

結び:軽いギアは遅く、重いギアは速い(そう思われている)歯数の比が小さければ一漕ぎで進む距離が短いのは正しい。だが速度の式には回転数が入っており、ギアが小さくても速く回せば同じ速度が出る。ギアの効きは大きい。毎分 $90$ 回転で $34\times28$ は $13.4620$ km/h、$50\times11$ は $\mathbf{51.4500}$ km/h と $3.82$ 倍違う。逆に同じ $25$ km/h を出すのに要る回転数も $167.1810$ 対 $43.7480$ で同じ $3.82$ 倍であり、速度の比と回転数の比が一致する。ギアは二つの量の間の換算にすぎない。そして $167.2$ 回転は人間には維持できない。持続可能な上限はおよそ $120$ で、ここに生理的な壁がある。ところが速度そのものは、別のところで決まっている。$200$ W と釣り合う速度は $\mathbf{32.1288}$ km/h であり、この式にはギアも歯数も車輪周長も一度も現れない。釣り合いは出力と空気と路面だけで決まる。$32.13$ km/h は $34\times28$ の到達域 $13.46$ を大きく超えるので、このギアでこの出力を出すには毎分 $215$ 回転で回すことになる。足りないぶんは回転で払う。そして払えない。$215$ 回転は維持できないから、実際には出力のほうが落ちる。「軽いギアだと遅い」の正体はこれで、ギアが遅いのではなく、出せる出力が落ちるのである。逆に重いギアでも出力が足りなければ速くならず、$50\times11$ で毎分 $90$ 回転を維持するには $200$ W では足りない。ギアは約束をしない。分けているものは一つ、速度を決めているのが出力か、幾何か。出力が決めるならギアは回転数の選択でしかなく、同じ出力ならどのギアでも同じ速度に落ち着いて、変わるのは脚の回し方だけである。幾何が決めるならギアを変えれば速度が変わるが、それは回転数が固定されている場合にだけ正しく、その固定は機械ではなく人間の側にある。論文300 の基準で別根であり、一方は出力の量、一方は幾何と回転数の組の量である。論文446 と同じ形で、そこでは「下限の何倍か」が回収率を言わなければ決まらなかった。ここでは「速いギア」が回転数を言わなければ決まらない。だから登坂で軽いギアに落とすのは諦めではない。同じ出力を維持できる回転数で出すための換算であり、速度を捨てているのではなく出力を守っている。正直に言えば、平地しか扱っておらず、勾配があれば重力の項が加わって必要な出力が跳ね上がる。結論の向きは変わらないが、数は変わる。最後に一つ、最も効率のよい回転数は人によって違い、ここでは $90$ を代表値として置いた。ギアの選択が個人差を吸収する装置である、という見方がここから出る。

参考文献

  1. Whitt, F. R., & Wilson, D. G. (2004). Bicycling Science (3rd ed.). MIT Press.
  2. Martin, J. C., Milliken, D. L., Cobb, J. E., McFadden, K. L., & Coggan, A. R. (1998). Validation of a Mathematical Model for Road Cycling Power. Journal of Applied Biomechanics.
  3. Coast, J. R., & Welch, H. G. (1985). Linear Increase in Optimal Pedal Rate with Increased Power Output in Cycle Ergometry. European Journal of Applied Physiology.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『理論の下限は、たくさん取ろうとすると上がる』[論文446]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732460
  6. 山岸勇輝 (2026). 『赤い光をいくら当てても、青い光が切る結合は切れない』[論文448]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732565

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「速度を決めるのは出力であって、ギアではない」[論文449]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22732631

YOI 449第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/449・DOI 10.5281/zenodo.22732631・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 速度を決めるのは出力であって、ギアではない [論文449]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/449 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22732631

Yamagishi, Y. (2026). What Sets the Speed Is the Power, Not the Gear [Paper 449]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/449; DOI: 10.5281/zenodo.22732631

@misc{yamagishi2026yoi449,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {What Sets the Speed Is the Power, Not the Gear},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/449},
  doi = {10.5281/zenodo.22732631},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
5dc34d4d092bfba05b8c3d250f675b08680862bd964dcd12261ac135a6c118d3 yamagishi_yoi449_v1_jp.pdf
e4cc7c389387b9dce23e192b9f7ebbca11f4d54c0fca850f020198f3b1358be2 yamagishi_yoi449_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。