要旨
ねじは幾何で力を増幅する装置だと思われている。本稿が示すのは、幾何が約束した $\mathbf{718.0783}$ 倍のうち、届くのは $\mathbf{11.61}$ パーセントであることである。残りは摩擦に消える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、レバー $20$ cm・ピッチ $1.75$ mm の理想倍率は $\mathbf{718.0783}$ である(第2節)。
第二に、$50$ N m をかけたときの理想の軸力は $\mathbf{179519.5802}$ N である(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。実際の軸力は $\mathbf{20833.3333}$ N で、理想の $\mathbf{0.1161}$ 倍しかない(第3節)。
第四に、トルク係数を $0.30$ から $0.10$ にすると軸力はちょうど $\mathbf{3.000000000}$ 倍になる(第3節)。
第五に、同じトルクでも径が小さいほど軸力が大きく、$\mathrm{M}8$ では $\mathbf{31250.0000}$ N になる(第3節)。
第六に、分離子は「幾何が決めるか、幾何と摩擦の組が決めるか」である(第4節)。
キーワード:ねじの締結、トルク係数、軸力、機械的利得、摩擦損失。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ねじの機械的利得、トルク係数法、摩擦による損失はすべて既知である。締結を設計しない。強度区分、座面、緩み止め、疲労は主題ではない。実際の設計は必ずこれらを含む。数値は代表値である。トルク係数 $0.10$〜$0.30$ は代表的な範囲であり、実測ではない。表面処理と潤滑で大きく動く。塑性域を扱わない。降伏点締付けや塑性域回転角法は主題ではない。測定を論じない。トルクレンチの精度、軸力の直接測定は主題ではない。既刊との関係:論文462 は同じ流量を出す状態が二つあることを示した。そこでも、観測できる量と本当に知りたい量が違った。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「理想の倍率」と「実際の軸力」は、その基準で別根である。論文459 は往復すれば損失が $1.9$ 倍になることを示した。そこでも、表示された数が経路全体を表していなかった。加えたのは、理想倍率を $718.0783$ と出したこと、理想の軸力を $179519.5802$ N と出したこと、実際との比を $0.1161$ と出したこと、潤滑の効きを厳密に $3.000000000$ 倍と出したこと、軸力が径に反比例することを $\mathrm{M}8$ で確かめたこと、分離子を「幾何か、幾何と摩擦の組か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:ピッチ $p$ のねじを、長さ $L$ のレバーで回す。摩擦がなければ、仕事の保存から機械的利得は
$$\mathrm{MA}_{0}=\frac{2\pi L}{p}$$
である。同じくトルク $T$ から得られる理想の軸力は
$$F_{0}=\frac{2\pi T}{p}$$
となる。実際には、締付けトルクと軸力の関係はトルク係数 $K$ とねじの呼び径 $d$ を用いて
$$T=K\,F\,d$$
と書かれる。以下 $L=0.20$ m、$p=1.75$ mm、$d=12$ mm、$T=50$ N m とする。
観察 1.1 ねじは幾何で力を増幅する装置だと思われている。斜面を巻いたものだから、ピッチが細かいほど強い、という像である。
観察 1.2 だが斜面には摩擦がある。しかもねじ面と座面の二か所で、増幅した力が、そのまま摩擦の大きさになる。
問い:約束のうち、どれだけ届くのか。
2. 幾何は 718.0783 倍を約束する
計算 2.1:摩擦がない場合の機械的利得を出す。
$2\pi\times0.20/0.00175=\mathbf{718.0783}$ である。
観察 2.2 七百倍を超える。手で $10$ kg ぶんの力を出せば、$7$ トン、これが「ねじは強い」という直観の根拠である。
計算 2.3:$50$ N m のトルクから、摩擦がない場合の軸力を出す。
$2\pi\times50/0.00175=\mathbf{179519.5802}$ N である。
観察 2.4 $18$ トンに相当する。$\mathrm{M}12$ のボルト一本で、もしこれが本当なら、ボルトのほうが先に切れる。
3. 届くのは 11.61 パーセントである
計算 3.1:四つのトルク係数で、実際の軸力を出す。
| トルク係数 $K$ | 軸力 [N] |
|---|---|
| $0.10$(潤滑あり) | $\mathbf{41666.6667}$ |
| $0.15$ | $27777.7778$ |
| $0.20$(標準) | $\mathbf{20833.3333}$ |
| $0.30$(乾燥・粗面) | $13888.8889$ |
観察 3.2 $K=0.20$ での $20833.3333$ N は、理想の $\mathbf{0.1161}$ 倍しかない。$\mathbf{88.39}$ パーセントが摩擦に消える。幾何が約束した $718$ 倍のうち、届くのは $83.3$ 倍ぶんである。
観察 3.3 これは既知の目安と合う。ねじの締付けでは、入力の $1$ 割強しか軸力にならないと言われる。$11.61$ パーセントは、その範囲に入る。
観察 3.4 $K$ を $0.30$ から $0.10$ にすると、軸力はちょうど $\mathbf{3.000000000}$ 倍になる。$13888.8889$ から $41666.6667$ へ、$K$ に反比例するので、比が厳密に $3$ になる。
観察 3.5 つまり同じトルクレンチの設定で、潤滑の有無だけで軸力が $3$ 倍動く。締めた人には区別がつかない。トルクは測れても、軸力は測れていない。
計算 3.6:同じ $50$ N m を $\mathrm{M}8$(呼び径 $8$ mm)にかけたときの軸力を出す。
$\mathbf{31250.0000}$ N である($\mathrm{M}12$ の $20833.3333$ N の $1.5$ 倍)。
観察 3.7 軸力が径に反比例する。$31250\times0.008=20833.3333\times0.012$ で厳密に一致、細いボルトほど、同じトルクで強く引っ張られる。だから細いほうが先に切れる。
4. 分離子
分離子:幾何が決めるか、幾何と摩擦の組が決めるか。
観察 4.1 幾何が決めるなら、ピッチとレバーで計算できる。$718.0783$ という数が出る。図面だけで分かる。
観察 4.2 幾何と摩擦の組が決めるなら、表面の状態を知らなければ計算できない。同じ図面のねじが、$0.1161$ 倍にも $0.2321$ 倍にもなる。潤滑、めっき、汚れ、締付け回数で動く。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「ねじの締付け力」と呼ばれる。一方は幾何の量、一方は幾何と表面状態の組の量である。
観察 4.4 論文462 と同じ形である。そこでは断面で数えた流量が二つの状態に対応した。ここでは測ったトルクが幅のある軸力に対応する。どちらも、測れる量が知りたい量を決めていない。
観察 4.5 論文459 とも重なる。そこでは表示された $0.90$ が経路全体を表していなかった。ここでは表示されたトルクが軸力を表していない。
観察 4.6 だから重要な締結では、トルクではなく別の量で管理する。回転角法、伸び測定、超音波、どれも $K$ を経由しない道を選んでいる。
観察 4.7 正直に言えば、$K$ の値は代表値である。$0.10$ から $0.30$ という幅そのものが、この論文の主張の中身である。幅があること自体が問題であって、どの値が正しいかではない。
5. 点呼と結び
- 理想倍率は $718.0783$(計算 2.1):幾何の約束。
- 理想の軸力は $179519.5802$ N(計算 2.3):$18$ トン相当。
- 実際は $20833.3333$ N(計算 3.1):本稿の芯。
- 比は $0.1161$(観察 3.2):$88.39$ % が摩擦に。
- 既知の目安と合う(観察 3.3):入力の $1$ 割強。
- 潤滑で $3.000000000$ 倍(観察 3.4):$K$ に反比例。
- 締めた人には区別がつかない(観察 3.5):トルクは測れる、軸力は測れない。
- $\mathrm{M}8$ では $31250.0000$ N(計算 3.6):径に反比例。
- 分離子は幾何か、幾何と摩擦の組か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
- 重要な締結は別の量で管理する(観察 4.6):$K$ を経由しない。
結び:ねじは幾何で力を増幅する装置だと思われている。斜面を巻いたものだから、ピッチが細かいほど強いという像がある。だが斜面には摩擦があり、しかもねじ面と座面の二か所にある。増幅した力が、そのまま摩擦の大きさになる。幾何の約束は大きい。レバー $20$ cm・ピッチ $1.75$ mm の理想倍率は $\mathbf{718.0783}$ で、手で $10$ kg ぶんの力を出せば $7$ トンになる。これが「ねじは強い」という直観の根拠である。$50$ N m から得られる理想の軸力は $\mathbf{179519.5802}$ N、$18$ トンに相当する。$\mathrm{M}12$ のボルト一本でこれが本当なら、ボルトのほうが先に切れる。ところが届くのは一割強である。$K=0.20$ での実際の軸力は $\mathbf{20833.3333}$ N、理想の $\mathbf{0.1161}$ 倍しかない。$\mathbf{88.39}$ パーセントが摩擦に消え、約束した $718$ 倍のうち届くのは $83.3$ 倍ぶんである。これは既知の目安と合う。ねじの締付けでは入力の $1$ 割強しか軸力にならないと言われ、$11.61$ パーセントはその範囲に入る。そして $K$ を $0.30$ から $0.10$ にすると軸力はちょうど $\mathbf{3.000000000}$ 倍、$13888.8889$ から $41666.6667$ へ動く。$K$ に反比例するので比が厳密に $3$ になる。つまり同じトルクレンチの設定で、潤滑の有無だけで軸力が $3$ 倍動く。締めた人には区別がつかない。トルクは測れても、軸力は測れていない。同じ $50$ N m を $\mathrm{M}8$ にかければ $\mathbf{31250.0000}$ N になり、$31250\times0.008=20833.3333\times0.012$ と厳密に一致する。軸力は径に反比例し、細いボルトほど同じトルクで強く引っ張られるので、細いほうが先に切れる。分けているものは一つ、幾何が決めるか、幾何と摩擦の組が決めるか。幾何が決めるならピッチとレバーで計算でき、$718.0783$ という数が図面だけで分かる。幾何と摩擦の組が決めるなら表面の状態を知らなければ計算できず、同じ図面のねじが $0.1161$ 倍にも $0.2321$ 倍にもなる。論文300 の基準で別根であり、一方は幾何の量、一方は幾何と表面状態の組の量である。論文462 と同じ形で、そこでは断面で数えた流量が二つの状態に対応した。どちらも、測れる量が知りたい量を決めていない。論文459 とも重なり、そこでは表示された $0.90$ が経路全体を表していなかった。ここでは表示されたトルクが軸力を表していない。だから重要な締結では、トルクではなく回転角法・伸び測定・超音波といった別の量で管理する。どれも $K$ を経由しない道を選んでいる。正直に言えば、$K$ の値は代表値である。$0.10$ から $0.30$ という幅そのものがこの論文の主張の中身であって、幅があること自体が問題であり、どの値が正しいかではない。
参考文献
- Motosh, N. (1976). Development of Design Charts for Bolts Preloaded up to the Plastic Range. Journal of Engineering for Industry.
- Bickford, J. H. (1995). An Introduction to the Design and Behavior of Bolted Joints (3rd ed.). Marcel Dekker.
- Shigley, J. E., & Mischke, C. R. (2001). Mechanical Engineering Design (6th ed.). McGraw-Hill.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『九割の効率が二度あれば、残るのは八割一分である』[論文459]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733103
- 山岸勇輝 (2026). 『同じだけ運べる状態が、二つある』[論文462]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733178
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「幾何が約束した七百倍のうち、届くのは一割強である」[論文463]. Zenodo.
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 幾何が約束した七百倍のうち、届くのは一割強である [論文463]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/463 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733205
Yamagishi, Y. (2026). Of the Seven Hundredfold Geometry Promises, One Tenth Arrives [Paper 463]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/463; DOI: 10.5281/zenodo.22733205
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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