要旨
電気泳動は電場で分子を分けている、と思われている。本稿が示すのは、電場だけでは分離がまったく起きないことである。分けているのはゲルの網目であり、それを外すと分離が厳密に消える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、自由溶液での移動度は $\mathbf{1.061033\times10^{-8}}$ で、$100$ 塩基対も $5000$ 塩基対も同じである(第2節)。
第二に、比は厳密に $\mathbf{1.000000000000}$ で、長さが分離に効かない(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。ふるいを入れると比が $\mathbf{11.5883}$ 倍になる(第3節)。
第四に、その比は閉じた式 $e^{a(n_{2}-n_{1})}$ と厳密に一致する(第3節)。
第五に、ふるいの係数をゼロにすると、比が厳密に $\mathbf{1.000000000000}$ へ戻る(第3節)。
第六に、分離子は「場が分けるか、媒質が分けるか」である(第4節)。
キーワード:電気泳動、ゲル、移動度、DNA、ふるい効果。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。電気泳動移動度、ストークスの抵抗、ゲルのふるい効果はすべて既知である。実験を設計しない。緩衝液、ゲル濃度、電圧、染色は主題ではない。高分子の形態を単純化する。電荷も抵抗も長さに比例する棒状近似を用いた。実際の $\mathrm{DNA}$ はコイルを巻き、蛇行運動する。パルス電場を扱わない。超長鎖を分けるパルスフィールド法は主題ではない。等電点電気泳動を扱わない。電荷が長さに比例しない分子系は主題ではない。既刊との関係:論文472 は同じ体を保つのに正反対の装置が要ることを示した。そこでも、名前が同じで中身が違った。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「場による駆動」と「媒質による分離」は、その基準で別根である。論文451 は断熱しているのが雪ではなく空気であることを示した。そこでも、名前のついたものと働いているものが違った。加えたのは、四つの長さで自由溶液の移動度を出して同一であることを示したこと、ゲル中の比を $11.5883$ 倍と出したこと、それが閉じた式と厳密に一致することを確かめたこと、ふるいを外すと分離が厳密に消えることを示したこと、分離子を「場か媒質か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:電荷 $q$、半径 $r$ の粒子が粘度 $\eta$ の液中を電場で動くとき、電気泳動移動度は
$$\mu=\frac{q}{6\pi\eta r}$$
である。核酸のように、電荷も抵抗も鎖長 $n$ に比例する分子(棒状近似)では $q\propto n$、$r\propto n$ となる。ゲルの網目によるふるい効果を、指数因子で
$$\mu_{\mathrm{gel}}(n)=\mu\,e^{-a n}$$
と置く。以下 $\eta=1.0\times10^{-3}$ Pa s、$a=5\times10^{-4}$ とする。
観察 1.1 電気泳動は電場で分子を分けている、と思われている。名前にも「電気」が入っている。電圧をかけると分かれる、という像である。
観察 1.2 だが電荷と抵抗が同じ割合で増えるなら、比は変わらない。分子の $\mu$ が $q/r$ で決まるから、長さが消える。
問い:では何が分けているのか。
2. 自由溶液では、まったく分かれない
計算 2.1:四つの鎖長で、自由溶液の移動度を出す。
| 鎖長 [塩基対] | 移動度 |
|---|---|
| $100$ | $\mathbf{1.061033\times10^{-8}}$ |
| $500$ | $1.061033\times10^{-8}$ |
| $1000$ | $1.061033\times10^{-8}$ |
| $5000$ | $\mathbf{1.061033\times10^{-8}}$ |
観察 2.2 四つとも同じ値である。$100$ と $5000$ の比は厳密に $\mathbf{1.000000000000}$、$50$ 倍の長さの差が、まったく効いていない。
観察 2.3 移動度そのものはゼロではない。$1.061033\times10^{-8}$、分子は動く。だが全部が同じ速さで動く。
観察 2.4 電荷が $n$ 倍、抵抗も $n$ 倍だからである。押す力と引き止める力が、同じ割合で増える。比が保たれるので、速さが変わらない。
観察 2.5 だから電場だけでは、長さで分けられない。電圧をいくら上げても、全員が速くなるだけである。
3. ふるいを入れると 11.5883 倍になる
計算 3.1:ゲル中の移動度を出す。
| 鎖長 [塩基対] | ゲル中の移動度 |
|---|---|
| $100$ | $\mathbf{1.009286\times10^{-8}}$ |
| $500$ | $8.263333\times10^{-9}$ |
| $1000$ | $6.435490\times10^{-9}$ |
| $5000$ | $\mathbf{8.709489\times10^{-10}}$ |
観察 3.2 $100$ と $5000$ の比が $\mathbf{11.5883}$ 倍になった。自由溶液では $1.000000000000$ だったものが、同じ電場、同じ分子で、媒質だけを変えて。
観察 3.3 その比は閉じた式 $e^{a(n_{2}-n_{1})}$ と厳密に一致する。$e^{5\times10^{-4}\times4900}=11.588347$、相対差 $10^{-9}$ 未満。
観察 3.4 ふるいの係数を $a=0$ にすると、比が厳密に $\mathbf{1.000000000000}$ へ戻る。分離が消える。分離の全部が、この項から来ている。
観察 3.5 これは境目の確認である。$a>0$ なら分かれ、$a=0$ なら分かれない。片側でだけ現象が存在する。
観察 3.6 だから「電気泳動」という名前は、駆動の側だけを指している。分離の側を指していない。電場は全員を同じだけ押し、網目が長いものだけを引き止める。
4. 分離子
分離子:場が分けるか、媒質が分けるか。
観察 4.1 場が分けるなら、電圧を変えれば分離が変わる。強くすればよく分かれる。そういう調整が効く。
観察 4.2 媒質が分けるなら、電圧は速さだけを変える。分離はゲルの目の細かさで決まる。直すべきところが違う。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「電気泳動の性能」と呼ばれる。一方は駆動の量、一方は媒質の量である。
観察 4.4 論文451 と同じ場所にいる。そこでは断熱しているのが雪ではなく空気だった。ここでは分けているのが電場ではなくゲルである。どちらも、名前のついたものと働いているものが違う。
観察 4.5 論文472 とも重なる。そこでは同じ「浸透圧調節」が符号の違う二つを指していた。ここでは同じ「電気泳動」が、駆動と分離という別の役を指している。
観察 4.6 そして電荷が長さに比例しない分子系では、話が変わる。たんぱく質の等電点電気泳動では、電荷そのものが分離子になる。同じ名前の下に、二つの機構がある。
観察 4.7 正直に言えば、棒状近似を用いた。実際の核酸はコイルを巻き、網目の中を蛇行して進む、$11.5883$ という値はこの近似に依るが、自由溶液で分離が消えるという結論は、電荷と抵抗が同じ割合で増えることだけから出ており、近似に依らない。
5. 点呼と結び
- 自由溶液で $1.061033\times10^{-8}$(計算 2.1):四つとも同じ。
- 比は厳密に $1.000000000000$(観察 2.2):$50$ 倍の差が効かない。
- 移動度はゼロではない(観察 2.3):全員が同じ速さ。
- 電荷も抵抗も $n$ 倍(観察 2.4):比が保たれる。
- ゲル中で比が $11.5883$ 倍(観察 3.2):本稿の芯。
- 閉じた式と厳密に一致(観察 3.3):$e^{a(n_{2}-n_{1})}$。
- $a=0$ で $1.000000000000$ へ戻る(観察 3.4):分離が消える。
- 片側でだけ存在する(観察 3.5):境目の確認。
- 分離子は場か媒質か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
- 等電点電気泳動は別の機構(観察 4.6):同じ名前の下に二つ。
結び:電気泳動は電場で分子を分けている、と思われている。名前にも「電気」が入っており、電圧をかけると分かれるという像がある。だが電荷と抵抗が同じ割合で増えるなら比は変わらない。移動度が $q/r$ で決まるので、長さが消える。自由溶液では、まったく分かれない。$100$、$500$、$1000$、$5000$ 塩基対のどれもが $\mathbf{1.061033\times10^{-8}}$ で、$100$ と $5000$ の比は厳密に $\mathbf{1.000000000000}$。$50$ 倍の長さの差が、まったく効いていない。移動度そのものはゼロではなく、分子は動く。だが全部が同じ速さで動く。電荷が $n$ 倍、抵抗も $n$ 倍だからである。押す力と引き止める力が同じ割合で増えるので、比が保たれて速さが変わらない。だから電場だけでは長さで分けられない。電圧をいくら上げても、全員が速くなるだけである。分けているのは、網目である。ゲル中では $100$ が $\mathbf{1.009286\times10^{-8}}$、$5000$ が $\mathbf{8.709489\times10^{-10}}$ となり、比は $\mathbf{11.5883}$ 倍になる。自由溶液では $1.000000000000$ だったものが、同じ電場・同じ分子で媒質だけを変えて。その比は閉じた式 $e^{a(n_{2}-n_{1})}=e^{5\times10^{-4}\times4900}=11.588347$ と相対差 $10^{-9}$ 未満で一致する。ふるいの係数を $a=0$ にすると比は厳密に $\mathbf{1.000000000000}$ へ戻り、分離が消える。分離の全部が、この項から来ている。$a>0$ なら分かれ、$a=0$ なら分かれない。片側でだけ現象が存在する。だから「電気泳動」という名前は駆動の側だけを指しており、分離の側を指していない。電場は全員を同じだけ押し、網目が長いものだけを引き止める。分けているものは一つ、場が分けるか、媒質が分けるか。場が分けるなら電圧を変えれば分離が変わり、強くすればよく分かれる。媒質が分けるなら電圧は速さだけを変え、分離はゲルの目の細かさで決まる。直すべきところが違う。論文300 の基準で別根であり、一方は駆動の量、一方は媒質の量である。論文451 と同じ場所にいて、そこでは断熱しているのが雪ではなく空気だった。どちらも、名前のついたものと働いているものが違う。論文472 とも重なり、そこでは同じ「浸透圧調節」が符号の違う二つを指していた。ここでは同じ「電気泳動」が、駆動と分離という別の役を指している。そして電荷が長さに比例しない分子系では話が変わり、たんぱく質の等電点電気泳動では電荷そのものが分離子になる。同じ名前の下に、二つの機構がある。正直に言えば、棒状近似を用いた。実際の核酸はコイルを巻き、網目の中を蛇行して進む。$11.5883$ という値はこの近似に依るが、自由溶液で分離が消えるという結論は、電荷と抵抗が同じ割合で増えることだけから出ており、近似に依らない。
参考文献
- Tiselius, A. (1937). A New Apparatus for Electrophoretic Analysis of Colloidal Mixtures. Transactions of the Faraday Society.
- Ogston, A. G. (1958). The Spaces in a Uniform Random Suspension of Fibres. Transactions of the Faraday Society.
- Viovy, J.-L. (2000). Electrophoresis of DNA and Other Polyelectrolytes. Reviews of Modern Physics.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『断熱しているのは雪ではなく、雪が抱えている空気である』[論文451]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732772
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ体を保つのに、正反対の向きに働いている二つがある』[論文472]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733502
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「分けているのは電場ではなく、通り道の狭さである」[論文473]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733552
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 分けているのは電場ではなく、通り道の狭さである [論文473]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/473 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733552
Yamagishi, Y. (2026). What Separates Them Is Not the Field but the Narrowness of the Path [Paper 473]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/473; DOI: 10.5281/zenodo.22733552
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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