【論文958】巻き弦は重さを巻き線に持たせ、同じ重さの素の弦より倍音のずれがずっと小さい

要旨

低い音の弦は重くしなければならないが、素の鋼の弦を太くすると曲げの硬さも増え、倍音が整数倍から高くずれる(論文942)。本稿は、鋼の芯に銅線を巻いた弦と、同じ線密度の素の鋼の弦を同じ高さに合わせ、曲げの係数と倍音のずれを比べる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、同じ線密度なら、同じ高さでの張力は同じである。芯 $0.4$ mm・巻き線 $0.3$ mm の弦の線密度 $5.629122\times10^{-3}$ kg/m は、直径 $0.955522$ mm の素の鋼の弦と同じで、長さ $0.648$ m・$110$ Hz ではどちらも張力 $114.403$ N だった(第2節)。

第二に、重さの大部分は巻き線が持つ。線密度のうち巻き線の割合は $0.824758$ だった(第2節)。

第三に、曲げの係数は芯と素の弦の直径の比の 4 乗に下がる。曲げの係数は巻き弦で $5.163611\times10^{-5}$、素の弦で $1.681419\times10^{-3}$ で、比は $\mathbf{0.030710}$ だった(第3節)。

第四に、倍音のずれはずっと小さい。$20$ 番目の音のずれは、巻き弦で $\mathbf{17.6520}$ セント、素の弦で $443.7844$ セントで、$25.140729$ 倍違った。巻き弦の式は差分の固有値と相対 $10^{-4}$ 未満で合った(第3節)。

第五に、分離子は、重さと曲げの硬さを一本の断面に持たせるか、別の部品に分けるかである。素の弦では重さを増やすと曲げの硬さも一緒に増える。巻き弦では重さを巻き線に、曲げの硬さを細い芯に分けて持たせるので、高さを決める重さを保ったまま倍音のずれを小さくできる(第4節)。

キーワード:巻き弦、非調和性、曲げ剛性、線密度、倍音、弦の振動。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。曲げの硬さを持つ弦の倍音の式、巻き弦が低い音を細い芯で作るための工夫であること、巻き線が曲げの硬さにあまり寄与しないことは、いずれも楽器の物理で既知である。巻き線の曲げの硬さを 0 と置く。巻き線は重さだけを足し、曲げの硬さは芯だけが持つと置いた。実際の巻き線の小さな寄与は入れない。置いた値である。長さ $0.648$ m は論文857・942 と同じで、芯 $0.4$ mm・巻き線 $0.3$ mm・銅の密度 $8960$ kg/m³・高さ $110$ Hz は本稿で置いた。どの楽器の弦にも対応しない。楽器と調律を扱わない。実在のギターやピアノ、ずれに合わせて音程を広げる調律、音色の聞こえ方は扱わない。既刊との関係:論文942 の射程注記は、楽器と調律を扱わず、巻き弦、実在のピアノやギター、倍音のずれに合わせて音程を広げる調律、音色の聞こえ方は扱わないと書いた。本稿はそのうち巻き弦の席に座る(先客なし)。論文857 の射程注記も、巻き弦を入れず、芯線に巻き線を巻いた弦は扱わないと書いた。本稿はその席にも座る。論文942 は、曲げの硬さで倍音が整数倍より高くなり、同じ高さの弦では太いほどずれることを示した。ここでは、同じ重さのまま曲げの硬さだけを芯に閉じ込めると、そのずれがどれだけ小さくなるかを数える。加えたのは、同じ線密度の素の弦と巻き弦で張力が同じになることを示したこと、曲げの係数の比を芯と素の弦の直径の比の 4 乗として出したこと、倍音のずれを並べたこと、式を差分の固有値で確かめたこと、分離子を「一本の断面に持たせるか、別の部品に分けるか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:長さ $L=0.648$ m(論文857・942 と同じ)、高さ $f_0=110$ Hz。鋼の密度 $7850$ kg/m³・銅 $8960$ kg/m³・ヤング率 $200$ GPa。巻き弦は芯の直径 $d_c=0.4$ mm に直径 $d_w=0.3$ mm の銅線を隙間なく巻いたもので、線密度は芯と巻き線の和である。

$$\mu=\rho_s\frac{\pi d_c^2}{4}+\rho_{Cu}\frac{\pi^2(d_c+d_w)d_w}{4}$$

同じ線密度を持つ素の鋼の弦の直径を $d_{eq}$ とする。同じ高さに合わせると張力 $T=\mu(2Lf_0)^2$ はどちらも同じで、曲げの係数は曲げの硬さを持つ直径(巻き弦は $d_c$、素の弦は $d_{eq}$)で決まる。

$$B=\frac{\pi^3Ed^4}{64TL^2},\qquad \frac{B_{\text{巻き}}}{B_{\text{素}}}=\left(\frac{d_c}{d_{eq}}\right)^4$$

倍音のずれは論文942 と同じく $1200\log_2\bigl(f_n/(nf_1)\bigr)$ セントで数える。

問い:同じ重さの弦で、曲げの硬さを芯だけに持たせると、倍音のずれはどれだけ小さくなるか。

2. 線密度と張力

計算 2.1:線密度は芯 $9.864601\times10^{-4}$、巻き線 $4.642662\times10^{-3}$、合計 $5.629122\times10^{-3}$ kg/m(巻き線の割合 $0.824758$)。同じ線密度の素の鋼の直径は $0.955522$ mm。張力はどちらも $114.403$ N だった。

観察 2.2 重さの大部分は巻き線が持ち、張力は重さだけで決まる。線密度の $0.824758$ を巻き線が持つので、芯は $0.4$ mm と細いままでよい。同じ線密度・同じ長さ・同じ高さなら張力は同じ $114.403$ N で、張力からは二つの弦を区別できない。

3. 曲げの係数と倍音のずれ

計算 3.1:曲げの係数は巻き弦 $5.163611\times10^{-5}$、素の弦 $1.681419\times10^{-3}$ で、比 $\mathbf{0.030710}$ は(芯÷素の弦の直径)の $4$ 乗 $0.030710$ と $10^{-12}$ 以内で一致した。

計算 3.2:倍音のずれ(セント)。

弦 $n=2$ $n=5$ $n=10$ $n=20$
巻き弦 $0.1341$ $1.0720$ $4.4135$ $\mathbf{17.6520}$
素の弦 $4.3481$ $34.1884$ $133.0750$ $443.7844$

$n=20$ で素の弦のずれは巻き弦の $25.140729$ 倍だった。巻き弦を $1500$ 点の差分にした固有値は $n=1$・$5$・$10$・$20$ で $110.0028$・$550.3524$・$1102.8161$・$2222.4382$ Hz、式は $110.0028$・$550.3549$・$1102.8363$・$2222.6038$ Hz で、相対差の最大は $7.45\times10^{-5}$ だった。

観察 3.3 同じ重さでも、曲げの硬さを芯だけに持たせると倍音のずれはずっと小さい。曲げの係数は直径の $4$ 乗で効くので、芯の直径が素の弦の $0.4/0.955522$ になると係数は $0.030710$ 倍になった。$20$ 番目の音のずれは $443.7844$ セントから $17.6520$ セントに下がった。

4. 分離子

観察 4.1 分離子は、重さと曲げの硬さを一本の断面に持たせるか、別の部品に分けるかである。素の弦では、重さも曲げの硬さも同じ断面が持つので、低い音のために重くすると曲げの硬さも増える(論文942):巻き弦では、高さを決める重さの $0.824758$ を巻き線に、曲げの硬さを細い芯に分けて持たせた。張力は $114.403$ N のまま、曲げの係数は $0.030710$ 倍になった。

観察 4.2 言わないこと。巻き線の曲げの硬さへの実際の寄与、実在のギターやピアノの弦、調律、音色の聞こえ方は扱わない。示したのは、巻き線の寄与を $0$ と置いた模型で、同じ重さのまま曲げの硬さを芯に分けると、倍音のずれが芯と素の弦の直径の比の $4$ 乗で小さくなることである。

5. 点呼と結び

  1. 巻き弦の線密度と曲げの係数(第1節):係数の比は直径の比の 4 乗。
  2. 張力はどちらも $114.403$ N(計算 2.1):同じ線密度・同じ高さ。
  3. 巻き線の割合 $0.824758$(計算 2.1):重さは巻き線が持つ。
  4. 曲げの係数の比 $\mathbf{0.030710}$(計算 3.1):芯だけが曲げを持つ。
  5. $n=20$ で $\mathbf{17.6520}$ セント対 $443.7844$(計算 3.2):差分の固有値と合う。
  6. 一本の断面か、別の部品か(観察 4.1):分離子・論文942 と論文857 の射程注記。

結び:巻き弦は重さを巻き線に持たせ、同じ重さの素の弦より倍音のずれがずっと小さい。芯 $0.4$ mm に銅線 $0.3$ mm を巻いた弦は、直径 $0.955522$ mm の素の鋼の弦と同じ線密度で、同じ $110$ Hz で張力も同じ $114.403$ N だった。曲げの係数は $0.030710$ 倍になり、$20$ 番目の音のずれは $443.7844$ セントから $17.6520$ セントに下がった。分離子は、重さと曲げの硬さを一本の断面に持たせるか、別の部品に分けるかである。既刊との位置:論文942 が素の弦で数えた倍音のずれを、論文942 と論文857 が入れなかった巻き弦で数え、同じ重さのまま小さくできることを示した。正直に言えば、巻き線にも少しは曲げの硬さがある。それを $0$ と置いた模型で、重さと曲げの硬さを分けるとずれがどれだけ減るか、そこまでである。

参考文献

  1. Fletcher, H. (1964). Normal vibration frequencies of a stiff piano string. The Journal of the Acoustical Society of America.
  2. Fletcher, N. H., & Rossing, T. D. (1998). The Physics of Musical Instruments (2nd ed.). Springer.
  3. 山岸勇輝 (2026). 『音の高さは張力と重さの比しか見ないが、楽器にかかる力は張力そのものである』[論文857]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/857
  4. 山岸勇輝 (2026). 『曲げの硬さで倍音は整数倍より高くなり、同じ高さの弦では太いほどずれる』[論文942]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/942

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「巻き弦は重さを巻き線に持たせ、同じ重さの素の弦より倍音のずれがずっと小さい」[論文958]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/958

YOI 958第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 巻き弦は重さを巻き線に持たせ、同じ重さの素の弦より倍音のずれがずっと小さい [論文958]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/958

Yamagishi, Y. (2026). A Wound String Carries Its Weight in the Winding, and Its Overtones Stray Far Less Than a Plain String of the Same Weight [Paper 958]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/958

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