【論文484】期待値を最大にする賭け方は、確率 1 で破産する

要旨

賭け金は期待値が最大になるところに置けばよいと思われている。本稿が示すのは、その置き方が確率 $\mathbf{1}$ で破産することである。期待値の最大は $f=1$、成長率の最大は $f^{*}=0.200000$ で、両者は $0.8000$ ずれる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、期待値は全額を賭けたときに最大の $\mathbf{1.200000}$ になる。$f=0.2$ なら $1.040000$ である(第2節)。

第二に、その全額賭けを $50$ 回続けたときの破産確率は $\mathbf{1.000000000}$ である(第2節)。

第三に、成長率を最大にする賭け金は $\mathbf{f^{*}=0.200000}$ で、閉じた式と数値最大化が一致する(第3節)。

第四に、これが本稿の芯である。成長率が $0$ へ戻るのは $2f^{*}$ ではなく $\mathbf{0.389391}$、すなわち $\mathbf{1.946953}$ 倍のところである(第3節)。

第五に、二次近似のなかでなら、ちょうど $\mathbf{0.400000}$ で $2$ 倍になる。「$2$ 倍で $0$」はその近似の性質である(第3節)。

第六に、分離子は「並行する世界で平均するか、時間に沿って平均するか」である(第4節)。

キーワード:ケリー基準、期待値、破産確率、対数効用、エルゴード性。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。ケリー基準も、対数効用も、破産確率の計算も標準的である。最適戦略を勧めない。どの賭け金を選ぶべきかは主題ではない。二つの目的関数が別の点で最大になることを数で示すだけである。現実の市場を扱わない。取引費用、相関、勝率の推定誤差、資金の分割不能性は入れない。勝率と配当が既知の理想化に立つ。効用理論に立ち入らない。対数効用が正しい選好かどうかは論じない。ここでの対数は選好ではなく、積を和に直す道具である。破産の定義を一つに固定する。全額を賭けて一度でも負ければ資金が $0$ になる、という意味でのみ用いる。既刊との関係:論文292 は足せるのが対数だけであることを示した。本稿はその上に、和が最大になる点を置く。論文298 は射程注記で「ケリー基準にも、効用関数にも、破産確率の最小化にも立ち入らない」と明記した。本稿はその予約席に座る。論文383 は保険料が期待損失でないことを示した。そこでも期待値だけでは決まらなかった。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、期待値の最大 $1.200000$ と成長率の最大 $f^{*}=0.200000$ を並べたこと、$50$ 回での破産確率を $1.000000000$ と出したこと、閉じた式と数値最大化の一致を確かめたこと、成長率が $0$ へ戻る点を $0.389391$($1.946953$ 倍)と測ったこと、二次近似ではちょうど $2$ 倍になることを示したことである。

1. 記法と問い

設定:勝率 $p=0.60$、負ける確率 $q=1-p=0.40$、配当は等倍($b=1.0$)とする。資金の割合 $f$ を毎回賭けると、一回あたりの資金の倍率は

$$1+bf\ \ (\text{確率 } p),\qquad 1-f\ \ (\text{確率 } q)$$

である。一回あたりの期待値と、繰り返したときの成長率を並べる。成長率は

$$g(f)=p\ln(1+bf)+q\ln(1-f)$$

で、これは論文292 の「足せるのは対数だけ」を賭け金の関数として書いたものである。

観察 1.1 賭け金は期待値が最大になるところに置けばよいと思われている。期待値が正なら、賭ければ賭けるほど得、一回あたりの計算から素直に出る像である。

観察 1.2 だが資金は掛け算で動く。一度 $0$ になれば戻らない。足し算の期待値は、その事情を見ていない。

問い:二つの目的関数は、どこで、どれだけ離れるのか。

2. 期待値の最大は、全額である

計算 2.1:一回あたりの期待倍率を出す。

賭け金の割合 $f$ 一回あたりの期待倍率
$0.2$ $1.040000$
$1.0$ $\mathbf{1.200000}$

観察 2.2 期待値は $f=1$ で最大になる。$1.200000 > 1.040000$、期待倍率は $f$ の一次関数で、傾きが正なら端で最大になる。

観察 2.3 その全額賭けを $50$ 回続けると、破産確率は $\mathbf{1.000000000}$ である。$1-p^{50}$、一度でも負ければ資金が $0$ になり、そこから先は何を賭けても戻らない。

観察 2.4 期待値が正であることと、資金が増えることは別である。期待倍率 $1.2$、増えているのは「並行する世界を横に平均した値」であって、一つの世界を縦にたどった値ではない。

観察 2.5 横の平均が正なのは、ごく稀な大勝ちが持ち上げているからである。$50$ 回全部勝つ確率は $p^{50}$、その一本が平均を支えており、残りは全部 $0$ である。

3. 成長率の最大と、ゼロへ戻る点

計算 3.1:$g(f)$ を賭け金ごとに出す。

賭け金の割合 $f$ 成長率 $g(f)$
$0.0500$ $+0.008757$
$0.1000$ $+0.015042$
$\mathbf{0.2000}$ $\mathbf{+0.020136}$
$0.3000$ $+0.014749$
$0.4000$ $-0.002447$
$0.5000$ $-0.033980$

観察 3.2 最大は $f^{*}=0.200000$ である。閉じた式 $f^{*}=p-q/b$ と、数値最大化が一致する。$0.200000$ 対 $0.200000$ で、独立な確認になる。

観察 3.3 $2f^{*}=0.4$ では成長率が負である。$-0.002447$、賭けすぎると、期待値が正のままでも資金は減る。

計算 3.4:成長率が $0$ へ戻る点を数値で解くと $f=\mathbf{0.389391}$、すなわち $f^{*}$ の $\mathbf{1.946953}$ 倍である。その点で $g$ を計算し直すと $-0.000000000$ になり、逆算が戻る。

観察 3.5 ちょうど $2$ 倍ではない。$1.946953 < 2$、$5.3$ パーセント手前で、すでに $0$ を割っている。

観察 3.6 二次近似のなかでなら、ちょうど $2$ 倍になる。近似解は $0.400000$、対数を二次までで切ると $g$ が放物線になり、頂点が $f^{*}$、根が $0$ と $2f^{*}$ に来る。

観察 3.7 だから「$2$ 倍で $0$」は放物線の性質であって、対数の性質ではない。対数の側は $1.946953$ 倍、三次以上の項が、$0$ へ戻る点を手前に引いている。

4. 分離子

分離子:平均しているのが並行する世界の横断か、一つの世界の時間か。

観察 4.1 横断で平均するなら、$f=1$ が答である。期待倍率 $1.200000$、ごく稀な一本が平均を支えており、その一本を引ける保証は無い。

観察 4.2 時間で平均するなら、$f^{*}=0.200000$ が答である。成長率 $0.020136$、一つの世界をたどったときに増える量である。

観察 4.3 二つの答は $0.8000$ 離れている。$1.0$ 対 $0.2000$、論文300 の基準で別根であり、目的関数も、平均の取り方も違う。

観察 4.4 ずれの原因は、積を和に直したことである。論文292 が示したとおり、足せるのは対数だけ、倍率の期待値は和で、資金の成長は積であり、その二つを結ぶのが対数である。

観察 4.5 論文298 は同じ縁に立って、そこで止めた。射程注記に「ケリー基準にも、効用関数にも、破産確率の最小化にも立ち入らない」とある。本稿はその一行が空けておいた席に座っている。

観察 4.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「期待値が正だから賭けてよい」という主張が外れたとき、勝率の見積もりが外れたのか、平均の取り方が違ったのかで、直す先が違う。

観察 4.7 正直に言えば、ここでの破産は定義された破産である。全額を賭けて一度でも負ければ $0$、分割不能な最小単位や、負けても残る資金を入れれば、確率 $1$ ではなくなる。$f=1$ という端の値が効かせている性質であって、$f<1$ では別の議論が要る。

5. 点呼と結び

  1. 期待値の最大は $1.200000$(計算 2.1):$f=1$ で。
  2. $50$ 回で破産確率 $1.000000000$(観察 2.3):一度負ければ戻らない。
  3. 横の平均を支えるのは $p^{50}$ の一本(観察 2.5):残りは全部 $0$。
  4. 成長率の最大は $f^{*}=0.200000$(観察 3.2):閉じた式と一致。
  5. $2f^{*}$ で成長率が負(観察 3.3):$-0.002447$。
  6. $0$ へ戻るのは $0.389391$(計算 3.4):本稿の芯。
  7. $1.946953$ 倍で $2$ 倍ではない(観察 3.5):$5.3$ パーセント手前。
  8. 二次近似なら $0.400000$(観察 3.6):放物線の性質。
  9. 分離子は横断か時間か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
  10. 破産は定義された破産(観察 4.7):$f=1$ という端が効かせている。

結び:賭け金は期待値が最大になるところに置けばよいと思われている。期待値が正なら賭ければ賭けるほど得だという、一回あたりの計算から素直に出る像である。だが資金は掛け算で動き、一度 $0$ になれば戻らない。足し算の期待値は、その事情を見ていない。期待値の最大は、全額である。勝率 $0.60$・等倍配当で、一回あたりの期待倍率は $f=0.2$ なら $1.040000$、$f=1.0$ なら $\mathbf{1.200000}$ で、期待倍率は $f$ の一次関数だから端で最大になる。その全額賭けを $50$ 回続けたときの破産確率は $1-p^{50}=\mathbf{1.000000000}$ で、一度でも負ければ資金が $0$ になり、そこから先は何を賭けても戻らない。期待値が正であることと資金が増えることは別で、増えているのは並行する世界を横に平均した値であって、一つの世界を縦にたどった値ではない。横の平均が正なのは $50$ 回全部勝つ確率 $p^{50}$ のごく稀な一本が持ち上げているからで、残りは全部 $0$ である。成長率の最大と、ゼロへ戻る点、$g(f)=p\ln(1+bf)+q\ln(1-f)$ の最大は $\mathbf{f^{*}=0.200000}$ で $g=0.020136$、閉じた式 $f^{*}=p-q/b$ と数値最大化が $0.200000$ 対 $0.200000$ で一致する。$2f^{*}=0.4$ ではすでに $-0.002447$ と負で、賭けすぎると期待値が正のままでも資金は減る。成長率が $0$ へ戻る点を数値で解くと $\mathbf{0.389391}$、すなわち $f^{*}$ の $\mathbf{1.946953}$ 倍で、その点で $g$ を計算し直すと $-0.000000000$ になり逆算が戻る。ちょうど $2$ 倍ではなく、$5.3$ パーセント手前ですでに $0$ を割っている。二次近似のなかでなら近似解は $0.400000$ で、対数を二次までで切ると $g$ が放物線になり、頂点が $f^{*}$、根が $0$ と $2f^{*}$ に来る。だから「$2$ 倍で $0$」は放物線の性質であって対数の性質ではなく、三次以上の項が $0$ へ戻る点を手前に引いている。分けているものは一つ、平均しているのが並行する世界の横断か、一つの世界の時間か。横断で平均するなら $f=1$ が答で、期待倍率は $1.200000$ だが、ごく稀な一本が平均を支えており、その一本を引ける保証は無い。時間で平均するなら $f^{*}=0.200000$ が答で、成長率 $0.020136$ は一つの世界をたどったときに増える量である。二つの答は $1.0$ 対 $0.2000$ と $0.8000$ 離れており、論文300 の基準で別根で、目的関数も平均の取り方も違う。ずれの原因は積を和に直したことにあり、論文292 が示したとおり足せるのは対数だけで、倍率の期待値は和、資金の成長は積、その二つを結ぶのが対数である。論文298 は同じ縁に立って、射程注記に「ケリー基準にも、効用関数にも、破産確率の最小化にも立ち入らない」と書いて止めた。本稿はその一行が空けておいた席に座っている。これは論文481 でいう分離子の一本で、「期待値が正だから賭けてよい」という主張が外れたとき、勝率の見積もりが外れたのか平均の取り方が違ったのかで直す先が違う。正直に言えば、ここでの破産は定義された破産である。全額を賭けて一度でも負ければ $0$ という意味であり、分割不能な最小単位や、負けても残る資金を入れれば確率 $1$ ではなくなる。$f=1$ という端の値が効かせている性質であって、$f<1$ では別の議論が要る。

参考文献

  1. Kelly, J. L. (1956). A New Interpretation of Information Rate. Bell System Technical Journal.
  2. Thorp, E. O. (1969). Optimal Gambling Systems for Favorable Games. Review of the International Statistical Institute.
  3. Peters, O. (2019). The Ergodicity Problem in Economics. Nature Physics.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『足せるのは対数だけである』[論文292]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171519
  5. 山岸勇輝 (2026). 『勝率 $99.9999\%$ の戦略の期待値は、ちょうど $0$ である』[論文298]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171857
  6. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 『保険料は期待損失ではない。そして上乗せを決めているのは、確率の精度ではなく加入者の数である』[論文383]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699062
  8. 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「期待値を最大にする賭け方は、確率 1 で破産する」[論文484]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22759898

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 期待値を最大にする賭け方は、確率 1 で破産する [論文484]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/484 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22759898

Yamagishi, Y. (2026). The Bet That Maximises Expectation Goes Bust with Probability One [Paper 484]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/484; DOI: 10.5281/zenodo.22759898

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