【F014】素朴な t 値は、一日あたりの件数で膨らむ

要旨

本稿が問うのは、手法に添えられた t 値が何によって膨らむのか、である。答えは、一日あたりの件数である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、同じ信号・同じ先の長さ(24 時間)で足種だけを変えると、一日あたりの件数の中央は五分足 227.9935・十五分足 76.0392・一時間足 19.0390 となり、11.9751 倍動く(第3節)。

第二に、日の中の相関 ρ の中央は 0.1430 で、幅は +0.0010 から +0.6348 である。ゼロではない。 そして日の中の件数が多いほど、日次の標準誤差は素朴な標準誤差より膨らむ。その比の中央は 2.5265、幅は 1.1070 から 6.1256 である(第4節)。

第三に、この比が √(1 + (m − 1)ρ) になることは恒等式である。 ρ をその式から逆算しているからである。本稿が測ったのは式の正しさではなく、ρ と m の実際の値である(第4節)。

第四に、同じデータ・同じ信号で分母の作り方だけを変えると、素朴な t の絶対値が 2 以上になるセルは 48 のうち 19 だが、日次クラスタでは 48 のうち 6 になる。 中央は 1.8046 と 0.7218 である(第5節)。

第五に、これが本稿の芯である。方向の情報がゼロだと構成から分かっている合成乱数でも、五分足では素朴な t の絶対値の中央が 2.0893 になり、2 以上になった割合は 0.5437 である。 一時間足では 1.6494 と 0.4500 である(第6節)。

第六に、日次クラスタにしても足りない。 同じ合成乱数で、一時間足の日次 t の絶対値の中央は 1.3530 である。24 時間先まで見ているので、日をまたぐ重なりが残る(第6節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。級内相関、クラスタ頑健な標準誤差、重複した観測が t を膨らませることはすべて既知である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。扱うのは公知の報告の仕方そのものである。売買を論じない。本稿が測るのは t 値の作り方であって、手数料・約定・資金管理を含む売買の成績ではない。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・三年・三つの足種の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。式を検定していない。標準誤差の比が √(1 + (m − 1)ρ) になることは、ρ の定義から出る恒等式である。本稿はそれを「確かめた」とは書かない(第4節)。信号の族を四つに固定する。別の族では数字が変わる(第7節)。重複を除いていない。24 時間先まで見ているので観測は重なる。日次クラスタでも日をまたぐ分は残る(第6節・第7節)。予測を主張しない。既刊との関係:本系列は、t を報告するときに、それが偶然なら何になるかを必ず併記する。F010 は重複を除くと日次 t が落ちることを示し、F013 は入れ子が滑らかさを作ることを示した。本稿は、分母の作り方だけで有意性が三倍変わることを示す。加えたのは、足種を変えて一日あたりの件数を動かしたこと、ρ を実際に測ったこと、エッジが無いと分かっている系列で素朴な t の分布を出したことである。

1. 記法と問い

手法の成績に t 値が添えられていることがある。その多くは、標準偏差を件数の平方根で割ったものを分母にしている。

呼び方 分母の作り方 前提
素朴な t 標準偏差 ÷ 件数の平方根 観測が互いに独立である
日次クラスタの t 日ごとの平均の標準偏差 ÷ 日数の平方根 日をまたぐと独立である
本稿が問うこと 前者はどれだけ膨らむのか

観察 1.1:同じ日の観測は独立でない。 同じ相場の同じ動きを、何度も数えているからである。

観察 1.2:一日あたり m 件、日の中の相関を ρ とすると、日ごとの平均の分散は(一件あたりの分散)×(1 + (m − 1)ρ) ÷ m になる。ここから標準誤差の比 = √(1 + (m − 1)ρ) が出る。ρ が 0 なら膨らまず、ρ が 1 なら √m 倍になる。

観察 1.3:★ ただし本稿は ρ をこの式から逆算する。 したがって標準誤差の比とこの式は恒等式であって、検定にならない。 測れるのは ρ と m の実際の値である。恒等式を「確かめた」と書いてはいけない。

観察 1.4:そこで決着は別の形でつける。 ① 足種を変えて m を動かし、膨らみがどれだけ変わるかを見る。② 方向の情報がゼロだと分かっている合成乱数で、素朴な t が実際にどれだけ 2 を超えるかを数える。

問い:手法に添えられた t 値は、何によって膨らむのか。

2. 測る量と設計を、先に書く

設計(走らせる前に宣言し、実行時に変えていない)

項目 決めたこと
足種 五分足・十五分足・一時間足(中値・完成足のみ)
先の長さ 三つとも 24 時間ぶん(288 本・96 本・24 本)。★ 同じ時間を見るようにそろえる
信号① 直前 1 本の値動きの符号(順張り)
信号② 移動平均のクロス(短 5・長 20)
信号③ RSI(14) の 50 に対する上下
信号④ ボリンジャーバンド(20, 2.0) の外側で逆張り
素朴な t 平均 ÷(標準偏差 ÷ 件数の平方根)
日次 t 日ごとの平均の平均 ÷(その標準偏差 ÷ 日数の平方根)
ρ 日ごとの平均の分散から逆算した、日の中の相関
基準線 足の中まで合成乱数(10 系列)
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
期間 2019–2024。評価 2022–2024

観察 2.1:足種を変えても先の長さは 24 時間で同じにする。 ここをそろえないと、「t が変わったのは件数のせいか、見ている時間のせいか」が分けられない。

観察 2.2:信号は四つとも符号を持つ。 大きさだけの量(ボラティリティなど)では方向の情報が原理的に 0 になるので、t の話をする土台にならない。

観察 2.3:合成乱数は、方向の情報がゼロであることが構成から分かっている。 だから「それでも t が 2 を超えるか」という問いに答えられる。

足種ごとの先の本数は 288・96・24 本である。

3. 足種を変えると、一日あたりの件数が 12 倍動く

計算 3.1 同じ信号・同じ 24 時間で、足種だけを変える(USDJPY・評価期間)

信号 足種 件数 日数 一日あたり 素朴な t 日次 t
直前の符号 5m 211,932 935 226.6652 1.8711 0.9910
直前の符号 15m 71,021 935 75.9583 1.5341 1.3190
直前の符号 1h 17,815 935 19.0535 0.8918 0.5379
移動平均のクロス 5m 213,995 935 228.8717 8.0036 1.8794
移動平均のクロス 15m 71,355 935 76.3155 6.0353 2.1279
移動平均のクロス 1h 17,841 935 19.0813 2.2359 1.1385
RSI の 50 5m 214,003 935 228.8802 11.2668 2.4086
RSI の 50 15m 71,356 935 76.3166 7.7751 2.1832
RSI の 50 1h 17,841 935 19.0813 1.2776 0.7736
バンドの外側 5m 25,288 929 27.2207 −2.7480 −0.3760
バンドの外側 15m 9,268 890 10.4135 −3.2830 0.0574
バンドの外側 1h 2,310 692 3.3382 −3.2502 1.7219

計算 3.2 足種ごとの一日あたりの件数

足種 一日あたりの件数の中央
5m 227.9935
15m 76.0392
1h 19.0390

観察 3.3:五分足と一時間足で、一日あたりの件数は 11.9751 倍ちがう。 見ている時間は同じ 24 時間で、信号も同じである。

観察 3.4:素朴な t は足種とともに大きく動く。 移動平均のクロス(USDJPY)では五分足で 8.0036、一時間足で 2.2359 である。同じ信号・同じ 24 時間なのに三倍以上ちがう。

観察 3.5:日次 t は同じ場所で 1.8794 と 1.1385 で、動きがずっと小さい。 ★ 素朴な t のほうが足種に敏感である。

観察 3.6:バンドの外側(USDJPY・十五分足)では、素朴な t が −3.2830 なのに日次 t が 0.0574 である。符号が変わっている。 これは「有意に負」と「何も言えない」の差であって、小さな違いではない。

4. 日の中の相関 ρ と、標準誤差の膨らみ

計算 4.1 ρ と標準誤差の比(XAUUSD・評価期間)

信号 足種 一日あたり ρ 標準誤差の比 上限 √m 比 ÷ √m
直前の符号 5m 227.7614 0.0051 1.4654 15.0918 0.0971
直前の符号 15m 76.0011 0.0131 1.4087 8.7179 0.1616
直前の符号 1h 19.0261 0.1143 1.7495 4.3619 0.4011
移動平均のクロス 5m 228.2255 0.1225 5.3695 15.1071 0.3554
移動平均のクロス 15m 76.0773 0.2148 4.1387 8.7222 0.4745
移動平均のクロス 1h 19.0316 0.3939 2.8465 4.3625 0.6525
RSI の 50 5m 228.2255 0.1607 6.1256 15.1071 0.4055
RSI の 50 15m 76.0773 0.2696 4.6089 8.7222 0.5284
RSI の 50 1h 19.0316 0.4178 2.9213 4.3625 0.6696
バンドの外側 5m 27.7052 0.1866 2.4462 5.2636 0.4647
バンドの外側 15m 10.9698 0.3134 2.0310 3.3121 0.6132
バンドの外側 1h 3.3523 0.6348 1.5790 1.8309 0.8624

観察 4.2:ρ の中央は 0.1430 で、幅は +0.0010 から +0.6348 である。 ゼロではない。 独立を仮定してよい場面ではない。

観察 4.3:標準誤差の比の中央は 2.5265 で、幅は 1.1070 から 6.1256 である。 分母の作り方だけで、標準誤差が二倍半ちがう。

観察 4.4:★ この比が √(1 + (m − 1)ρ) になることは恒等式である。 ρ をその式から逆算しているからである。本稿は式を検定していない。 測ったのは ρ と m の実際の値である。

観察 4.5:比を上限 √m で割った値の中央は 0.4055 である。上限(日の中が完全に相関している場合)の四割ほどにとどまる。 つまり √m を目安に割り引くのは、割り引きすぎである。

観察 4.6:ρ は足種が粗いほど大きい(XAUUSD のバンドの外側で 0.1866 → 0.3134 → 0.6348)。粗い足では一日あたりの件数が少なく、残った観測どうしが強く相関する。膨らみの総量は、m と ρ の積み方で決まる。

図1 膨らみ方は、一日あたりの件数で決まる

図1:横が一日あたりの件数、縦が素朴な t を日次 t で割った値。破線が上限 √m である。

5. 有意なセルの数が、分母の作り方だけで変わる

計算 5.1 同じデータ・同じ信号で、t の作り方だけを変える(評価期間)

足種 セル 素朴な t の絶対値が 2 以上 日次 t の絶対値が 2 以上 素朴な t の中央 日次 t の中央
5m 16 8 / 16 1 / 16 2.0127 0.6475
15m 16 7 / 16 2 / 16 1.8048 0.6343
1h 16 4 / 16 3 / 16 1.2798 0.7617

観察 5.2:全 48 セルで、素朴な t の絶対値が 2 以上になるのは 19、日次クラスタでは 6 である。 中央は 1.8046 と 0.7218 である。

観察 5.3:中身は同じである。 データも信号も期間も先の長さも変えていない。変えたのは分母の作り方だけである。

観察 5.4:差は足種が細かいほど大きい。 五分足では 8 / 16 が 1 / 16 に落ちるが、一時間足では 4 / 16 が 3 / 16 にしか落ちない。件数の多い手法ほど、素朴な t は膨らむ。

観察 5.5:★ したがって、件数の多い手法と少ない手法の t を、素朴なまま並べて比べてはいけない。 前者が有利に出るのは、当たっているからではなく、同じ日を何度も数えているからである。

図2 同じ中身でも、分母の作り方で t は変わる

図2:横が素朴な t の絶対値、縦が日次 t の絶対値。点が対角線の下(右側)に寄り、二本の赤い線が 2 の位置である。

6. 基準線、エッジが無い合成乱数でも素朴な t は 2 を超える

計算 6.1 足の中まで合成乱数で作った系列(10 系列・評価期間)

足種 一日あたり 素朴な t の絶対値の中央 日次 t の絶対値の中央 素朴な t が 2 以上の割合
5m 228.8802 2.0893 0.8516 0.5437
15m 76.3166 0.8718 0.7512 0.2687
1h 19.0813 1.6494 1.3530 0.4500

観察 6.2:★ これが本稿の芯である。方向の情報がゼロだと構成から分かっている系列で、五分足の素朴な t の絶対値の中央は 2.0893 である。 2 以上になった割合は 0.5437 である。

観察 6.3:半分以上のセルが「有意」に見える。 当たっているからではない。素朴な t は「当たっているか」を測っていない。

観察 6.4:★ そして日次クラスタにしても足りない。 同じ合成乱数で、一時間足の日次 t の絶対値の中央は 1.3530 である。五分足の 0.8516 より大きい。

観察 6.5:足りない理由は、24 時間先まで見ていることである。 隣り合う観測は重なっており、日次クラスタは同じ日の中の重なりしか畳まない。日をまたぐ重なりは残る。

観察 6.6:十五分足だけ値が小さい(素朴 0.8718・2 以上の割合 0.2687)。三つの足種で単調ではない。 本稿はこの非単調を説明できていない。第7節の限界である。

7. 限界

  1. ⚠️ ★ 式を検定していない。 標準誤差の比が √(1 + (m − 1)ρ) になることは、ρ の定義から出る恒等式である。本稿が測ったのは ρ と m の実際の値だけである。
  2. ★ 重複を除いていない。 24 時間先まで見ているので観測は重なる。日次クラスタでも日をまたぐ分は残り、合成乱数での日次 t の絶対値の中央 1.3530 がその証拠である。 本稿は「日次クラスタにすれば十分だ」とは言っていない。
  3. 合成乱数での三つの足種が単調でない。 十五分足だけ値が小さい理由を、本稿は説明できていない。ここは次に埋めるべき穴である。
  4. 信号の族を四つに固定している。 別の族では数字が変わる。ただし ρ が 0 でないことと m が足種で 12 倍動くことは、族に依らない。
  5. ρ を一つの定義で測っている。 日を群とした級内相関である。別の群(週・時間帯)では別の値になる。
  6. 合成乱数は独立な正規増分である。 ボラティリティの群れは入っていない。
  7. 四銘柄・三年である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。

結び

同じ信号を、同じ 24 時間の先を見て測っても、足種を変えるだけで一日あたりの件数は 19.0390 件から 227.9935 件へ、11.9751 倍動く。

日の中の相関は中央 0.1430 でゼロではないので、日次の標準誤差は素朴なそれより中央 2.5265 倍膨らむ。その結果、素朴な t の絶対値が 2 以上になるセルは 48 のうち 19 だが、日次クラスタでは 48 のうち 6 になる。中身は同じで、変えたのは分母だけである。

そして方向の情報がゼロだと構成から分かっている合成乱数でも、五分足では素朴な t の絶対値の中央が 2.0893、2 以上になった割合は 0.5437 である。

素朴な t は、当たっているかを測っていない。測っているのは、同じ日を何回数えたかである。

そして日次クラスタにしても足りない。同じ合成乱数で、一時間足の日次 t の絶対値の中央は 1.3530 である。24 時間先を見ている以上、日をまたぐ重なりが残る。 本稿が示せたのは「素朴では足りない」までであって、「日次なら十分」ではない。

データと再現

データ 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy
期間 2019–2024(六年)。評価 2022–2024
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
足 五分足・十五分足・一時間足。中値・完成足の終値のみ。ティックの無い足は作らない
先の長さ 三つとも 24 時間(288 本・96 本・24 本)
検算 検算/F014.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F014_output.txt から取っている
図 図/F014_zu1・図/F014_zu2(png・svg・英語版)
乱数の種 0〜9 に固定。再実行しても同じ値が出る
土台の検査 _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt

参考文献

  • 山岸勇輝 (2026). 多時間軸をそろえても、そろえた分だけ件数が減る [F010]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22891380
  • 山岸勇輝 (2026). 閾値の掃引は、原理的にプラトーを作れない [F013]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22891660

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「素朴な t 値は、一日あたりの件数で膨らむ」[F014]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22891694

YOI F014FX と金融ビットコインに記録済み

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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F014・DOI 10.5281/zenodo.22891694・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 素朴な t 値は、一日あたりの件数で膨らむ [F014]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F014 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22891694

Yamagishi, Y. (2026). A Naive t Value Inflates with the Number of Observations per Day [F014]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F014; DOI: 10.5281/zenodo.22891694

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