【F017】練行足は、別の時計である

要旨

本稿が問うのは、練行足のレンガの幅を変えると何が動いて何が動かないのか、である。答えは、時間は動き、そして脚の長さも動いた。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、レンガの幅を 1 倍から 16 倍へ動かすと、一本あたりの時計時間の平均は 6.1214 分から 397.0326 分へ、64.8597 倍になる(USDJPY)。本数は 257,348 本から 3,964 本へ減る(第3節)。

第二に、だが書いた予言は外れた。 価格が拡散なら時間は幅の 2 乗に比例するはずだが、両対数の傾きは 1.5074 から 1.5449、中央 1.5250 である。予言からのずれは −0.4750 である(第3節)。

第三に、もう一つの予言も外れた。 「脚の長さ(同じ向きに続くレンガの本数)は幅に依らない」と書いたが、脚の平均の中央は 1 倍で 5.1897、16 倍で 2.3517 へ落ちる。比は 0.4357 から 0.4967 である(第4節)。

第四に、これが本稿の芯である。方向の情報がゼロだと分かっている合成乱数でも、傾きは 1.5626 から 1.6016 である。 実測との差の中央は −0.0474 にすぎない。二つの外れは、市場ではなく、もとにした五分足の粗さが作っている(第5節)。

第五に、一本で反転した割合は 1 倍で 20.7604%、16 倍で 42.4257% である。粗いレンガほど、格子の上をでたらめに歩く場合に近づく(第4節)。

第六に、レンガの向きに信号を置いて 24 時間先を測ると、日次 t の絶対値が 2 以上のセルは 20 のうち 0 である。偶然なら およそ 0.9 である。スプレッドの中央は 0.8000 pips である(第6節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。練行足の作り方、拡散、ランダムウォークはすべて既知である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。扱うのは公知の足種そのものである。売買を論じない。本稿が測るのは本数・時間・脚の長さ・方向の情報であって、手数料・約定・資金管理を含む売買の成績ではない。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・三年の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。★ もとの足を五分足の終値に固定する。足の中の動きは使わない。この粗さが、本稿の二つの外れの原因である(第5節・第7節)。反転の特別扱いをしない。一本ぶん離れたらレンガを立てる形で、二本ぶんを要求する流儀は扱わない。予測を主張しない。既刊との関係:本系列は、予言を測る前に書き、外れたら外れたと書く。F001 は移動平均の「周期」が二本の期間の比から来ることを示した。本稿は同じ問いを、時間ではなく値動きで刻む足に当てる。加えたのは、予言を二つ書いて両方とも外したこと、その外れ方を合成乱数と並べて、原因が格子にあることを示したことである。

1. 記法と問い。予言を先に書く

練行足(レンガ足)は、時間ではなく値動きで刻む。一定の幅だけ動いたら一本立てる。

足種 何で刻むか 一本の意味
時計の足 時間 五分・一時間という約束
練行足 値動き 決めた幅だけ動いたこと
本稿が問うこと 幅を変えると何が動くか

観察 1.1:「時間のノイズが消える」「本質だけが残る」という言い方がある。だが幅を決めるのは人である。 幅を変えれば、同じ相場から別の足の列ができる。

観察 1.2:予言A。 価格が拡散(一歩の分散が時間に比例する過程)なら、幅 k のレンガを一本作るのにかかる時計時間は k の 2 乗に比例する。

観察 1.3:予言B。 脚の長さ(同じ向きに続くレンガの本数)は、格子の上の歩みの性質なので、k に依らないはずである。

観察 1.4:★ この二つは測る前に書いた。 逆順にすると、どんな結果も「予言どおり」に読めてしまう。そして本稿では、二つとも外れた。

問い:レンガの幅を変えると、何が動いて何が動かないのか。

2. 測る量と設計を、先に書く

設計(走らせる前に宣言し、実行時に変えていない)

項目 決めたこと
もとの足 五分足(中値・完成足のみ)の終値だけ
レンガ 直前のレンガの終値から k だけ離れたら一本立てる。反転の特別扱いはしない
幅 k その銘柄の五分足の値動きの大きさの中央を 1 として、1・2・4・8・16 倍
脚 同じ向きに続いたレンガの本数
一本あたりの時間 連続するレンガの時刻の差(分)。同じ足で何本も立ったら 0 として数える
方向の情報 レンガが立った足に信号(そのレンガの向き)を置き、288 本先(24 時間)
基準線 足の中まで合成乱数(5 系列)
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
期間 2019–2024。評価 2022–2024

観察 2.1:★ 足の中の動きは使わない。 使うと同じ足で何本もレンガが立ち、「いつ立ったか」が決まらなくなる。 終値だけで作れば、立った時刻は一意に決まる。

観察 2.2:その代わり、五分足より細かい動きは見えない。 幅が小さいと、一本の足の中で起きた往復が見えず、同じ向きのレンガが連続して立つ。 第5節で、これが二つの外れの原因であることを示す。

観察 2.3:幅は銘柄ごとに自動で決める。 pips で固定すると、銘柄ごとに意味が変わる。五分足の値動きの中央は USDJPY 2.1000、EURUSD 1.3000、GBPUSD 1.7500、XAUUSD 4.7000 pips である。

3. 時間は、幅とともに大きく動く

計算 3.1 レンガの本数と一本あたりの時間(評価期間)

銘柄 倍率 幅(pips) 本数 一本あたり 分(中央) 同(平均)
USDJPY 1 2.1000 257,348 0.0000 6.1214
USDJPY 2 4.2000 104,245 5.0000 15.1118
USDJPY 4 8.4000 38,124 15.0000 41.3219
USDJPY 8 16.8000 12,711 40.0000 123.9347
USDJPY 16 33.6000 3,964 130.0000 397.0326
EURUSD 1 1.3000 257,722 0.0000 6.1126
EURUSD 16 20.8000 3,791 140.0000 415.5079
GBPUSD 1 1.7500 250,933 0.0000 6.2780
GBPUSD 16 28.0000 3,664 135.0000 429.9017
XAUUSD 1 4.7000 235,535 0.0000 6.6881
XAUUSD 16 75.2000 3,268 160.0000 481.8090

計算 3.2 予言A との比較

銘柄 1 倍の平均分 16 倍の平均分 比 両対数の傾き 拡散の予言
USDJPY 6.1214 397.0326 64.8597 1.5074 2.0000
EURUSD 6.1126 415.5079 67.9752 1.5230 2.0000
GBPUSD 6.2780 429.9017 68.4773 1.5269 2.0000
XAUUSD 6.6881 481.8090 72.0400 1.5449 2.0000

観察 3.3:幅を 16 倍にすると、一本あたりの時間は 64.8597 倍から 72.0400 倍になる。 本数は 257,348 本から 3,964 本へ(USDJPY)減る。

観察 3.4:★ だが両対数の傾きは 1.5250(中央)で、予言の 2 に届かない。 ずれは −0.4750 である。予言A は外れた。

観察 3.5:一本あたりの時間の中央が、1 倍では 0.0000 分である。 幅が小さいので、一本の五分足の中で何本ものレンガが立っている。 そこが怪しい。 第5節でそこを確かめる。

観察 3.6:四銘柄の傾きは 1.5074 から 1.5449 で、よくそろっている。 外れ方がそろっているなら、外れの原因は市場ではなく手続きにある。

図1 一本あたりの時間は、幅の 2 乗で動く

図1:両対数。横がレンガの幅、縦が一本あたりの時間。破線が傾き 2(拡散の予言)で、四本の線はそれより寝ている。

4. 脚の長さも、動いた。予言B が外れた

計算 4.1 脚の長さ(評価期間)

銘柄 倍率 脚の数 中央 平均 一本で反転した割合
USDJPY 1 49,242 3.0000 5.2262 20.9862%
USDJPY 2 27,866 3.0000 3.7409 28.9959%
USDJPY 4 12,520 2.0000 3.0450 34.8003%
USDJPY 8 4,716 2.0000 2.6953 39.3130%
USDJPY 16 1,527 2.0000 2.5959 40.2750%
EURUSD 1 49,456 3.0000 5.2111 20.4303%
EURUSD 16 1,633 2.0000 2.3215 43.2333%
GBPUSD 1 48,552 3.0000 5.1683 20.5347%
GBPUSD 16 1,627 2.0000 2.2520 44.9908%
XAUUSD 1 48,241 3.0000 4.8825 21.8922%
XAUUSD 16 1,372 2.0000 2.3819 41.6181%

計算 4.2 幅ごとの中央

倍率 脚の平均の中央 脚の中央の中央 一本で反転した割合の中央
1 5.1897 3.0000 20.7604%
2 3.6536 3.0000 29.1667%
4 2.9073 2.0000 36.1727%
8 2.5392 2.0000 40.3046%
16 2.3517 2.0000 42.4257%

観察 4.3:★ 脚の平均は 5.1897 から 2.3517 へ、単調に落ちる。 16 倍を 1 倍で割った比は 0.4357 から 0.4967 である。予言B は外れた。

観察 4.4:一本で反転した割合は 20.7604% から 42.4257% へ上がる。でたらめに歩くなら、この割合は 50% に近づくはずである。粗いレンガほど、そちらに近づいている。

観察 4.5:細かいレンガで脚が長いのは、往復が見えないからである。 一本の五分足の中で価格が行って戻っても、終値だけを見ればレンガは一方向に何本も立つ。「トレンドが続いている」ように見えるが、見えていないだけである。

観察 4.6:★ したがって「練行足にするとトレンドがきれいに見える」は、幅を細かくするほど強くなる。 そしてそれは、もとの足の粗さが作っている。

図2 同じ幅の変更で、脚の長さは動かない

図2:横がレンガの幅の倍率、縦が脚の長さの平均。予言どおりなら水平になるはずだが、右下がりである。

5. 基準線、外れの原因は、市場ではなく格子である

計算 5.1 合成乱数の練行足(5 系列・評価期間)

銘柄 実測 傾き 合成乱数 傾き 実測 脚の平均 合成乱数 脚の平均
USDJPY 1.5074 1.6016 3.0450 2.6120
EURUSD 1.5230 1.5762 2.8977 2.6875
GBPUSD 1.5269 1.5626 2.9168 2.7360
XAUUSD 1.5449 1.5865 2.8649 2.6496

観察 5.2:★ これが本稿の芯である。合成乱数は定義から拡散なので、予言が厳密に成り立つ側である。 それなのに傾きは 1.5626 から 1.6016 で、2 に届かない。

観察 5.3:実測と乱数の傾きの差の中央は −0.0474 である。 予言からのずれ −0.4750 のうち、市場のせいにできるのは一割ほどしかない。

観察 5.4:★ したがって予言A の外れは、格子の産物である。 もとにした五分足より細かい動きが見えないので、小さいレンガは「速く立ちすぎる」ように見える。 その結果、幅に対する時間の伸び方が 2 乗より鈍くなる。

観察 5.5:脚の平均も、実測 2.8649 から 3.0450、乱数 2.6120 から 2.7360 で、差の中央は +0.2128 である。予言B の外れ(5.1897 から 2.3517 への落ち方)に比べれば小さい。

観察 5.6:★ 二つの外れが、同じ一つの原因を指している。 どちらも「もとの足が粗い」ことから出る。測る道具の粗さが、測った量の両方に現れた。

観察 5.7:本稿はこれを「練行足の欠陥」とは書かない。 五分足から作れば五分足の粗さが残るのは当然である。書くべきは、練行足で見た「トレンドの続き方」が、もとの足の粗さに依存するということである。

6. レンガの向きに、方向の情報はあるか

計算 6.1 レンガが立った足に信号を置く(評価期間・pips)

銘柄 1 倍 2 倍 4 倍 8 倍 16 倍
USDJPY 0.6585(t 1.64) 0.7647(t 0.76) 1.1790(t 0.65) 1.7997(t 1.09) 2.4412(t 1.96)
EURUSD −0.3464(t −0.92) −0.4828(t −1.21) −0.5546(t −0.48) −0.8529(t 0.15) −1.4264(t −1.17)
GBPUSD −0.3204(t −0.67) −0.4659(t −0.52) −0.7403(t −0.65) −0.7733(t −0.11) −0.4669(t −0.77)
XAUUSD 0.5818(t 0.18) 0.4149(t 0.03) 0.8262(t −0.53) 0.9658(t −0.79) 1.6760(t 0.73)

観察 6.2:D の中央は幅ごとに +0.1307・−0.0255・+0.1358・+0.0963・+0.6045 pips である。スプレッドの中央は 0.8000 pips である。

観察 6.3:日次 t の絶対値が 2 以上のセルは、20 のうち 0 である。 偶然なら およそ 0.9 なので、偶然を下回っている。

観察 6.4:符号は銘柄で固定されている。 USDJPY と XAUUSD は五つの幅すべてで正、EURUSD と GBPUSD は五つとも負である。これは幅の効果ではなく、その期間にその銘柄がどちらへ動いたかの言い換えでありうる。本稿はドリフトを分離していない。

観察 6.5:幅を 16 倍にすると D の絶対値は大きくなる(USDJPY で 0.6585 から 2.4412)。だが件数は 257,348 から 3,964 に減っており、t は 1.64 から 1.96 にしか動かない。 ★ 額が大きくなるのは、一本が大きくなったからである。

7. 限界

  1. ⚠️ ★ もとの足を五分足の終値に固定している。 足の中の動きは使わない。この粗さが、本稿の二つの外れの原因である(第5節)。ティック単位で作れば、傾きは 2 に、脚の平均は幅に依らない値に近づくはずである。だが本稿はそれを測っていない。ここが最大の限界である。
  2. 反転の特別扱いをしていない。 一本ぶん離れたらレンガを立てる形で、二本ぶんを要求する流儀(そちらが一般的なこともある)は扱っていない。
  3. 幅を 5 段に限っている。 1 倍から 16 倍である。もっと粗い幅では、脚の平均が 2 に近づくかが見えるはずだが、件数が足りなくなる。
  4. ★ ドリフトを分離していない。 第6節の D の符号は、その期間にその銘柄がどちらへ動いたかを含む。
  5. 一本あたりの時間を、同じ足で何本も立ったときに 0 として数えている。 別の数え方(一本の足の中で等分するなど)では、傾きが変わる。ただし実測と乱数で同じ数え方を使っているので、比較は成り立つ。
  6. 合成乱数は独立な正規増分である。 ボラティリティの群れは入っていない。
  7. 四銘柄・三年である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。

結び

レンガの幅を 16 倍にすると、一本あたりの時間は 64.8597 倍になり、本数は 257,348 本から 3,964 本へ減る。練行足が変えているのは時計である。 そこまでは予言どおりだった。

だが書いた予言は二つとも外れた。時間の伸び方は、拡散の予言 2 乗に対して両対数の傾き 1.5250 だった。そして「脚の長さは幅に依らない」という予言も外れ、脚の平均は 5.1897 から 2.3517 へ落ちた。

外れ方が、二つとも同じ原因を指していた。 方向の情報がゼロだと構成から分かっている合成乱数でも、傾きは 1.5626 から 1.6016 である。実測との差の中央は −0.0474 にすぎない。

もとにした五分足より細かい動きが見えないので、小さいレンガは往復を見落とす。 だから脚が長く見え、時間の伸び方が鈍く見える。

★ 「練行足にするとトレンドがきれいに見える」は、幅を細かくするほど強くなる。そしてそれは、もとの足の粗さが作っている。

レンガの向きに方向の情報があるかは、日次 t の絶対値が 2 以上のセルが 20 のうち 0(偶然なら 0.9)だった。

そして本稿が測れたのは、五分足から作った練行足だけである。ティックから作ればどうなるかは、ここでは何も答えていない。

データと再現

データ 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy
期間 2019–2024(六年)。評価 2022–2024
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
もとの足 五分足・中値・完成足の終値のみ。ティックの無い足は作らない
レンガ 直前のレンガの終値から k だけ離れたら一本。反転の特別扱いはしない
幅 五分足の値動きの大きさの中央の 1・2・4・8・16 倍
検算 検算/F017.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F017_output.txt から取っている
図 図/F017_zu1・図/F017_zu2(png・svg・英語版)
乱数の種 0〜4 に固定。再実行しても同じ値が出る
土台の検査 _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt

参考文献

  • 山岸勇輝 (2026). 移動平均のクロスが見つける「周期」は、二本の期間の比が作っている [F001]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22880428

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「練行足は、別の時計である」[F017]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22891823

YOI F017FX と金融ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F017・DOI 10.5281/zenodo.22891823・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 練行足は、別の時計である [F017]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F017 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22891823

Yamagishi, Y. (2026). A Renko Chart Is a Different Clock [F017]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F017; DOI: 10.5281/zenodo.22891823

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