要旨
本稿が問うのは、直近の統計量で割って正規化したとき、選ばれているのは何か、である。答えは、分子だけでなく分母も選んでいる。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、割った量の上位と、割らない量の上位は、半分ほどしか重ならない。 重なりは N = 16 で 0.4968、N = 256 で 0.6695 である(第3節)。
第二に、★ 割った量の上位では、分母が全体より小さい。 z の上位 5% では分母が全体の 0.6327 から 0.9330 倍である。対して割らない量の上位では、分母は 1.2989 から 1.4307 倍である(第3節)。
第三に、これが本稿の芯である。★ 割ると、層の比がほぼ 1 に落ちる。 割らずに選べば先の値動きは全体の 1.3795 倍だが、割ってから選ぶと 1.0440 倍である。割らない ÷ 割るは中央 1.3081 である(第4節)。
第四に、★ 分母だけで選ぶと、層の比は 1 を下回る。 分母が小さい方から 5% を選ぶと 0.6635 倍である。割るという操作は、この「小さい方を選ぶ」を分子と混ぜている(第4節)。
第五に、★ z の分布は時間帯で大きく違う。 N = 64 での z の中央は、UTC 21 時の 0.3222 から UTC 14 時の 1.3972 まで 4.3363 倍動く。分母の窓が時間帯をまたぐためである(第5節)。
第六に、★ 合成乱数では、これが全部消える。 割らない ÷ 割るは 0.9969 倍、時間帯の幅は 1.1260 倍である。つまり本稿が測ったのは、ボラティリティの群れがある系列に特有の現象である(第6節)。
本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。正規化、ボラティリティの群れ、時間帯によるボラティリティの違いはすべて既知である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。正規化を否定しない。本稿は正規化が何を持ち込むかを測るだけで、してはいけないとは述べない(第7節)。方向を測っていない。扱うのは大きさだけで、買いか売りかは出てこない(第7節)。売買を論じない。コストも成績も測っていない(第7節)。分子と分母を一つずつに固定している。|直前の足の値動き| と直近 N 本の標準偏差だけである(第7節)。時間帯の効果の機序を説明しない(第7節)。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・六年・1 時間足の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。予測を主張しない。
1. 記法と問い
「直近の平均で割って正規化した」。指標ではよく行われる。
| 言われること | 言われないこと |
|---|---|
| 正規化して銘柄をそろえた | 分母が何を持ち込むか |
| z が大きいときに入る | それが「分子が大きい」のか「分母が小さい」のか |
| 正規化は中立な前処理である | 割る前と割った後で、選ばれる時点が変わること |
観察 1.1:★ 割り算は、分子と分母の両方を答えに入れる操作である。 z が大きいのは、分子が大きいからかもしれないし、分母が小さいからかもしれない。
観察 1.2:そして分母は「直近 N 本」から作られる。 ★ つまり z は、N 本前までの相場の状態を必ず持ち込んでいる。
観察 1.3:分離子は「何で割ったか」である。 分子・期間・銘柄・先の長さをすべて固定し、分母の窓の長さ N と、そもそも割るかどうかだけを変える。
問い:直近の統計量で割って正規化したとき、選ばれているのは何か。
2. 測る量と設計を、先に書く
走らせる前に宣言し、実行時には変えていない。
| 格子 | 1 時間足(中値・完成足のみ) |
| 分子 | r = |直前の足の値動き|(pips) |
| 分母 | d = 直近 N 本の値動きの標準偏差。N = 16 / 64 / 256 |
| 量 | z = r ÷ d |
| 上位 | 5% |
| 先の長さ | 24 本(四時間) |
| 層別 | r で上位 5% / d で下位 5% / z で上位 5% |
| 基準線 | 足の中まで合成乱数(3 系列) |
| 分離子 | 何で割ったか(分母の窓の長さ N、または割らないこと) |
| 銘柄・期間 | USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD/2019–2024 |
観察 2.1:★ 分母は直前の足までで作る。 足 i の値を含めると、その足自身の大きさが分母に入って先読みになる。
観察 2.2:★ 「d で下位 5%」を並べるのが要である。 分母だけで選んだときに何が出るかを見なければ、割り算が何を混ぜたのか分からない。
観察 2.3:使える点は 34,611 から 36,273 である。 先の値動きの平均は EURUSD で 36.3662 pips、XAUUSD で 129.3685 pips である。
予言(測る前に書いた)
① z の上位は、正規化しない値動きの上位とは半分しか重ならない。
② 割った量の上位では、分母が全体より小さい(=静かな時を選んでいる)。
③ 先の値動きの比は、正規化しない層別より z の層別の方が小さい。
④ z の分布は時間帯で違う(分母の窓が時間帯をまたぐため)。
⑤ 合成乱数では、z の層別と正規化しない層別の差が小さくなる。
3. z の上位は、何を選んでいるか
同じ上位 5% を、割らない量と割った量で選ぶ。
計算 3.1 重なりと、選ばれた側の分子・分母(四銘柄の中央)
| N | 重なり | z上位の r 倍 | z上位の d 倍 | r上位の r 倍 | r上位の d 倍 |
|---|---|---|---|---|---|
| 16 | 0.4968 | 3.7525 | 0.6327 | 4.8803 | 1.4307 |
| 64 | 0.6022 | 4.1063 | 0.8377 | 4.8793 | 1.3736 |
| 256 | 0.6695 | 4.3332 | 0.9330 | 4.8758 | 1.2989 |
観察 3.2:予言①は当たった。 重なりは 0.4968 から 0.6695、中央 0.6022 である。★ 同じ「上位 5%」でも、割るか割らないかで半分近くが入れ替わる。
観察 3.3:★ 予言②も当たった。そして向きが正反対である。 z の上位では分母が全体の 0.6327 から 0.9330 倍、つまり小さい。対して r の上位では 1.2989 から 1.4307 倍、つまり大きい。
観察 3.4:★ つまり割ると、「静かな時期に起きた中くらいの動き」が上位に来る。 z の上位の分子は全体の 3.7525 から 4.3332 倍で、r の上位の 4.8758 から 4.8803 倍より小さい。分子で負けた分を、分母の小ささで取り返した点が入っている。
観察 3.5:N を伸ばすほど、割らない選び方に近づく。 重なりは 0.4968 → 0.6022 → 0.6695、分母の倍率は 0.6327 → 0.8377 → 0.9330 である。★ 窓が長いほど分母は動かなくなり、割り算が効かなくなる。
4. 層の比を、三通りの層別で比べる
層の比 = 選んだ側の四時間先の値動き ÷ 全体。
計算 4.1 三通りの層別(四銘柄の中央)
| N | r で上位 | z で上位 | d で下位 | r ÷ z |
|---|---|---|---|---|
| 16 | 1.3795 | 1.0440 | 0.6635 | 1.3213 |
| 64 | 1.3789 | 1.0541 | 0.6020 | 1.3081 |
| 256 | 1.3795 | 1.1145 | 0.6016 | 1.2378 |
観察 4.2:★ これが本稿の芯である。割らなければ 1.3795 倍なのに、割ると 1.0440 倍、つまりほぼ全体と同じになる。 予言③は当たった。
観察 4.3:★ 分母だけで選ぶと、1 を下回る。 d の下位 5% では 0.6635 から 0.6016 倍である。静かな時期のあとは、先も静かである。
観察 4.4:★ 割るという操作は、この二つを混ぜている。 分子は 1 より上へ引き、分母は 1 より下へ引く。結果として、z の層別はほぼ 1 に落ち着く。
観察 4.5:銘柄ごとに見ても同じである。 USDJPY は r で 1.6855 倍、z で 1.0410 倍、d で 0.5387 倍である。EURUSD では z の層の比が 0.9769 と 1 を下回った。
観察 4.6:N を伸ばすと、z の層の比は少し戻る。 1.0440 → 1.0541 → 1.1145 である。★ 分母が動かなくなるほど、割らない場合に近づくからである。
観察 4.7:★ 大きさで層別すると先の値動きが分かれることは、[F035] で格子を変えても動かないと測ってある。 本稿が示すのは、そこに割り算を入れると、その分かれ方がほぼ消えるということである。

図1:横が分母の窓の長さ N、縦が層の比。上から r で上位(割らない)、z で上位(割る)、d で下位(分母だけ)、灰色の破線が合成乱数の z である。 点線は 1、つまり「選んでも先の値動きは全体と変わらない」ところである。
5. z の分布は、分母の窓と時間帯に依る
計算 5.1 N ごとの z(四銘柄)
| 銘柄 | N=16 の中央 | N=64 の中央 | N=256 の中央 | N=16 の最大 | N=64 の最大 | N=256 の最大 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| USDJPY | 0.8518 | 0.7087 | 0.6311 | 77.5291 | 54.2396 | 39.6234 |
| EURUSD | 0.7899 | 0.6735 | 0.6247 | 45.4594 | 34.4802 | 19.5921 |
| GBPUSD | 0.7873 | 0.6813 | 0.6312 | 38.0312 | 27.9930 | 35.0643 |
| XAUUSD | 0.7954 | 0.6681 | 0.6191 | 52.1277 | 36.3213 | 38.2047 |
観察 5.2:z の中央は N で 0.6279 から 0.7927 まで動く。 ★ 「z が 1 を超えたら」という条件は、N を決めなければ意味が定まらない。
計算 5.3 時間帯ごとの z の中央(四銘柄の中央・N=64)
| 時間帯(UTC) | z の中央 | 時間帯(UTC) | z の中央 |
|---|---|---|---|
| 04時 | 0.4188 | 13時 | 1.3755 |
| 07時 | 1.0709 | 14時 | 1.3972 |
| 12時 | 1.1784 | 21時 | 0.3222 |
観察 5.4:★ 予言④は当たった。z の中央は UTC 21 時の 0.3222 から UTC 14 時の 1.3972 まで、4.3363 倍動く。
観察 5.5:★ 理由は分母の窓が時間帯をまたぐからである。 静かな時間帯が続いたあとに賑やかな時間帯が来ると、分母はまだ静かなままなので z が大きく出る。
観察 5.6:N を変えても同じである。 時間帯の最大 ÷ 最小は 5.3367(N=16)・4.5706(N=64)・4.2731(N=256)である。★ 窓を伸ばすと少し縮むが、消えない。

図2:横が時間帯(UTC)、縦が z の中央。四銘柄それぞれを別の色で描いている(N=64)。 四つとも同じ形をしている。
6. 基準線、合成乱数で同じことをする
作り方の上で、ボラティリティの群れが無い系列である。
計算 6.1 実測と合成乱数
| N | 重なり 実測 | 重なり 乱数 | z上位の d 倍 実測 | z上位の d 倍 乱数 |
|---|---|---|---|---|
| 16 | 0.4968 | 0.6317 | 0.6327 | 0.8112 |
| 64 | 0.6022 | 0.8106 | 0.8377 | 0.9500 |
| 256 | 0.6695 | 0.9029 | 0.9330 | 0.9870 |
| N | r 層 実測 | z 層 実測 | r÷z 実測 | r 層 乱数 | z 層 乱数 | r÷z 乱数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 16 | 1.3795 | 1.0440 | 1.3213 | 0.9972 | 1.0063 | 0.9909 |
| 64 | 1.3789 | 1.0541 | 1.3081 | 0.9965 | 0.9997 | 0.9969 |
| 256 | 1.3795 | 1.1145 | 1.2378 | 0.9940 | 0.9914 | 1.0026 |
観察 6.2:★ 予言⑤は当たった。合成乱数では、割っても割らなくても層の比は 1 である。 r÷z は中央 0.9969 で、実測の 1.3081 とはっきり違う。
観察 6.3:★ そもそも合成乱数では、r で層別しても 0.9972 倍にしかならない。 群れが無いので、大きく動いた直後が特別ではない。 これは [F033] で測ってある。
観察 6.4:★ 時間帯の効果も消える。 最大 ÷ 最小は実測 4.5706 に対し合成乱数 1.1260 である。合成乱数には時間帯が無いので当然だが、これが検算になっている。
観察 6.5:重なりも合成乱数の方が高い。 N=256 で 0.9029 対 実測 0.6695 である。★ 群れが無ければ分母はほぼ一定なので、割っても順位がほとんど変わらない。
観察 6.6:★ したがって本稿が測ったのは、ボラティリティの群れがある系列に特有の現象である。 割り算そのものの性質ではない。
7. 限界
- ⚠️ 正規化を否定していない。 本稿は正規化が何を持ち込むかを測るだけで、してはいけないとは述べない。
- 方向を測っていない。 扱うのは大きさだけで、買いか売りかは出てこない。
- 売買を論じていない。 コストも成績も測っていない。
- 分子を一つに固定している。 \|直前の足の値動き\| だけである。
- 分母を一つに固定している。 直近 N 本の標準偏差だけで、ATR や中央絶対偏差では測っていない。
- 時間帯の効果の機序を説明していない。 分母の窓がまたぐためと読むが、分解はしていない。
- 上位を 5% に固定している。 別の割合では数字が変わる。
- 四銘柄・六年・1 時間足である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。
結び
「直近の平均で割って正規化した」。指標ではよく行われる。だが割り算は、分子と分母の両方を答えに入れる操作である。
同じ上位 5% を、割らずに選ぶ場合と割ってから選ぶ場合で比べた。 重なりは 0.4968 から 0.6695 で、半分近くが入れ替わる。
★ そして向きが正反対である。 割った量の上位では分母が全体の 0.6327 から 0.9330 倍と小さく、割らない量の上位では 1.2989 から 1.4307 倍と大きい。割ると、「静かな時期に起きた中くらいの動き」が上位に来る。
★ その結果、層の比がほぼ 1 に落ちる。 割らずに選べば先の値動きは全体の 1.3795 倍だが、割ってから選ぶと 1.0440 倍である。割らない ÷ 割るは中央 1.3081 である。
★ 分母だけで選ぶと、1 を下回る。 d の下位 5% では 0.6635 倍である。静かな時期のあとは、先も静かである。つまり割り算は、1 より上へ引く分子と、1 より下へ引く分母を混ぜている。
★ そして z は時間帯を持ち込む。 N = 64 での z の中央は UTC 21 時の 0.3222 から UTC 14 時の 1.3972 まで 4.3363 倍動く。分母の窓が時間帯をまたぐので、静かな時間帯のあとに賑やかな時間帯が来ると z が大きく出る。 窓を伸ばしても 5.3367 → 4.2731 と少し縮むだけで、消えない。
★ 合成乱数では、これが全部消える。 割らない ÷ 割るは 0.9969、時間帯の幅は 1.1260 倍である。群れが無ければ分母はほぼ一定なので、割っても順位がほとんど変わらない。
したがって、「正規化した」と書くときに必要なのは、何で割ったかである。 ★ 分母の窓の長さは前処理の細部ではなく、選ばれる時点そのものを決めている。そして割った量で選ぶと、割らなければ見えていた差が、ほぼ消える。
データと再現
| データ | 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy |
| 期間 | 2019–2024(六年) |
| 銘柄 | USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD |
| 足 | 1 時間足・中値・完成足の終値のみ。ティックの無い足は作らない |
| 分子 | r = |直前の足の値動き|(pips) |
| 分母 | d = 直近 N 本の標準偏差(N = 16・64・256)。直前の足までで作る |
| 量 | z = r ÷ d |
| 層別 | r で上位 5%/d で下位 5%/z で上位 5% |
| 先の長さ | 24 本(四時間) |
| 基準線 | 足の中まで合成乱数(3 系列)。一定のばらつきの差を足して作る |
| 検算 | 検算/F039.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F039_output.txt から取っている |
| 図 | 図/F039_zu1・図/F039_zu2(png・svg・英語版) |
| 乱数の種 | 固定。再実行しても同じ値が出る |
| 土台の検査 | _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt |
参考文献
- 山岸勇輝 (2026). 合成乱数には、ボラティリティの群れが無い [F033]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893674
- 山岸勇輝 (2026). 格子を変えると閾値は動き、形は動かない [F035]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893852
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「自己正規化は、分母に使った窓を持ち込む」[F039]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22894073
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F039・DOI 10.5281/zenodo.22894073・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 自己正規化は、分母に使った窓を持ち込む [F039]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F039 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22894073
Yamagishi, Y. (2026). Self-Normalization Brings In the Window You Divided By [F039]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F039; DOI: 10.5281/zenodo.22894073
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