【F039】自己正規化は、分母に使った窓を持ち込む

要旨

本稿が問うのは、直近の統計量で割って正規化したとき、選ばれているのは何か、である。答えは、分子だけでなく分母も選んでいる。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、割った量の上位と、割らない量の上位は、半分ほどしか重ならない。 重なりは N = 16 で 0.4968、N = 256 で 0.6695 である(第3節)。

第二に、★ 割った量の上位では、分母が全体より小さい。 z の上位 5% では分母が全体の 0.6327 から 0.9330 倍である。対して割らない量の上位では、分母は 1.2989 から 1.4307 倍である(第3節)。

第三に、これが本稿の芯である。★ 割ると、層の比がほぼ 1 に落ちる。 割らずに選べば先の値動きは全体の 1.3795 倍だが、割ってから選ぶと 1.0440 倍である。割らない ÷ 割るは中央 1.3081 である(第4節)。

第四に、★ 分母だけで選ぶと、層の比は 1 を下回る。 分母が小さい方から 5% を選ぶと 0.6635 倍である。割るという操作は、この「小さい方を選ぶ」を分子と混ぜている(第4節)。

第五に、★ z の分布は時間帯で大きく違う。 N = 64 での z の中央は、UTC 21 時の 0.3222 から UTC 14 時の 1.3972 まで 4.3363 倍動く。分母の窓が時間帯をまたぐためである(第5節)。

第六に、★ 合成乱数では、これが全部消える。 割らない ÷ 割るは 0.9969 倍、時間帯の幅は 1.1260 倍である。つまり本稿が測ったのは、ボラティリティの群れがある系列に特有の現象である(第6節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。正規化、ボラティリティの群れ、時間帯によるボラティリティの違いはすべて既知である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。正規化を否定しない。本稿は正規化が何を持ち込むかを測るだけで、してはいけないとは述べない(第7節)。方向を測っていない。扱うのは大きさだけで、買いか売りかは出てこない(第7節)。売買を論じない。コストも成績も測っていない(第7節)。分子と分母を一つずつに固定している。|直前の足の値動き| と直近 N 本の標準偏差だけである(第7節)。時間帯の効果の機序を説明しない(第7節)。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・六年・1 時間足の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。予測を主張しない。

1. 記法と問い

「直近の平均で割って正規化した」。指標ではよく行われる。

言われること 言われないこと
正規化して銘柄をそろえた 分母が何を持ち込むか
z が大きいときに入る それが「分子が大きい」のか「分母が小さい」のか
正規化は中立な前処理である 割る前と割った後で、選ばれる時点が変わること

観察 1.1:★ 割り算は、分子と分母の両方を答えに入れる操作である。 z が大きいのは、分子が大きいからかもしれないし、分母が小さいからかもしれない。

観察 1.2:そして分母は「直近 N 本」から作られる。 ★ つまり z は、N 本前までの相場の状態を必ず持ち込んでいる。

観察 1.3:分離子は「何で割ったか」である。 分子・期間・銘柄・先の長さをすべて固定し、分母の窓の長さ N と、そもそも割るかどうかだけを変える。

問い:直近の統計量で割って正規化したとき、選ばれているのは何か。

2. 測る量と設計を、先に書く

走らせる前に宣言し、実行時には変えていない。

格子 1 時間足(中値・完成足のみ)
分子 r = |直前の足の値動き|(pips)
分母 d = 直近 N 本の値動きの標準偏差。N = 16 / 64 / 256
量 z = r ÷ d
上位 5%
先の長さ 24 本(四時間)
層別 r で上位 5% / d で下位 5% / z で上位 5%
基準線 足の中まで合成乱数(3 系列)
分離子 何で割ったか(分母の窓の長さ N、または割らないこと)
銘柄・期間 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD/2019–2024

観察 2.1:★ 分母は直前の足までで作る。 足 i の値を含めると、その足自身の大きさが分母に入って先読みになる。

観察 2.2:★ 「d で下位 5%」を並べるのが要である。 分母だけで選んだときに何が出るかを見なければ、割り算が何を混ぜたのか分からない。

観察 2.3:使える点は 34,611 から 36,273 である。 先の値動きの平均は EURUSD で 36.3662 pips、XAUUSD で 129.3685 pips である。

予言(測る前に書いた)

① z の上位は、正規化しない値動きの上位とは半分しか重ならない。

② 割った量の上位では、分母が全体より小さい(=静かな時を選んでいる)。

③ 先の値動きの比は、正規化しない層別より z の層別の方が小さい。

④ z の分布は時間帯で違う(分母の窓が時間帯をまたぐため)。

⑤ 合成乱数では、z の層別と正規化しない層別の差が小さくなる。

3. z の上位は、何を選んでいるか

同じ上位 5% を、割らない量と割った量で選ぶ。

計算 3.1 重なりと、選ばれた側の分子・分母(四銘柄の中央)

N 重なり z上位の r 倍 z上位の d 倍 r上位の r 倍 r上位の d 倍
16 0.4968 3.7525 0.6327 4.8803 1.4307
64 0.6022 4.1063 0.8377 4.8793 1.3736
256 0.6695 4.3332 0.9330 4.8758 1.2989

観察 3.2:予言①は当たった。 重なりは 0.4968 から 0.6695、中央 0.6022 である。★ 同じ「上位 5%」でも、割るか割らないかで半分近くが入れ替わる。

観察 3.3:★ 予言②も当たった。そして向きが正反対である。 z の上位では分母が全体の 0.6327 から 0.9330 倍、つまり小さい。対して r の上位では 1.2989 から 1.4307 倍、つまり大きい。

観察 3.4:★ つまり割ると、「静かな時期に起きた中くらいの動き」が上位に来る。 z の上位の分子は全体の 3.7525 から 4.3332 倍で、r の上位の 4.8758 から 4.8803 倍より小さい。分子で負けた分を、分母の小ささで取り返した点が入っている。

観察 3.5:N を伸ばすほど、割らない選び方に近づく。 重なりは 0.4968 → 0.6022 → 0.6695、分母の倍率は 0.6327 → 0.8377 → 0.9330 である。★ 窓が長いほど分母は動かなくなり、割り算が効かなくなる。

4. 層の比を、三通りの層別で比べる

層の比 = 選んだ側の四時間先の値動き ÷ 全体。

計算 4.1 三通りの層別(四銘柄の中央)

N r で上位 z で上位 d で下位 r ÷ z
16 1.3795 1.0440 0.6635 1.3213
64 1.3789 1.0541 0.6020 1.3081
256 1.3795 1.1145 0.6016 1.2378

観察 4.2:★ これが本稿の芯である。割らなければ 1.3795 倍なのに、割ると 1.0440 倍、つまりほぼ全体と同じになる。 予言③は当たった。

観察 4.3:★ 分母だけで選ぶと、1 を下回る。 d の下位 5% では 0.6635 から 0.6016 倍である。静かな時期のあとは、先も静かである。

観察 4.4:★ 割るという操作は、この二つを混ぜている。 分子は 1 より上へ引き、分母は 1 より下へ引く。結果として、z の層別はほぼ 1 に落ち着く。

観察 4.5:銘柄ごとに見ても同じである。 USDJPY は r で 1.6855 倍、z で 1.0410 倍、d で 0.5387 倍である。EURUSD では z の層の比が 0.9769 と 1 を下回った。

観察 4.6:N を伸ばすと、z の層の比は少し戻る。 1.0440 → 1.0541 → 1.1145 である。★ 分母が動かなくなるほど、割らない場合に近づくからである。

観察 4.7:★ 大きさで層別すると先の値動きが分かれることは、[F035] で格子を変えても動かないと測ってある。 本稿が示すのは、そこに割り算を入れると、その分かれ方がほぼ消えるということである。

図1 割ると層の比は下がる

図1:横が分母の窓の長さ N、縦が層の比。上から r で上位(割らない)、z で上位(割る)、d で下位(分母だけ)、灰色の破線が合成乱数の z である。 点線は 1、つまり「選んでも先の値動きは全体と変わらない」ところである。

5. z の分布は、分母の窓と時間帯に依る

計算 5.1 N ごとの z(四銘柄)

銘柄 N=16 の中央 N=64 の中央 N=256 の中央 N=16 の最大 N=64 の最大 N=256 の最大
USDJPY 0.8518 0.7087 0.6311 77.5291 54.2396 39.6234
EURUSD 0.7899 0.6735 0.6247 45.4594 34.4802 19.5921
GBPUSD 0.7873 0.6813 0.6312 38.0312 27.9930 35.0643
XAUUSD 0.7954 0.6681 0.6191 52.1277 36.3213 38.2047

観察 5.2:z の中央は N で 0.6279 から 0.7927 まで動く。 ★ 「z が 1 を超えたら」という条件は、N を決めなければ意味が定まらない。

計算 5.3 時間帯ごとの z の中央(四銘柄の中央・N=64)

時間帯(UTC) z の中央 時間帯(UTC) z の中央
04時 0.4188 13時 1.3755
07時 1.0709 14時 1.3972
12時 1.1784 21時 0.3222

観察 5.4:★ 予言④は当たった。z の中央は UTC 21 時の 0.3222 から UTC 14 時の 1.3972 まで、4.3363 倍動く。

観察 5.5:★ 理由は分母の窓が時間帯をまたぐからである。 静かな時間帯が続いたあとに賑やかな時間帯が来ると、分母はまだ静かなままなので z が大きく出る。

観察 5.6:N を変えても同じである。 時間帯の最大 ÷ 最小は 5.3367(N=16)・4.5706(N=64)・4.2731(N=256)である。★ 窓を伸ばすと少し縮むが、消えない。

図2 z の分布は時間帯で違う

図2:横が時間帯(UTC)、縦が z の中央。四銘柄それぞれを別の色で描いている(N=64)。 四つとも同じ形をしている。

6. 基準線、合成乱数で同じことをする

作り方の上で、ボラティリティの群れが無い系列である。

計算 6.1 実測と合成乱数

N 重なり 実測 重なり 乱数 z上位の d 倍 実測 z上位の d 倍 乱数
16 0.4968 0.6317 0.6327 0.8112
64 0.6022 0.8106 0.8377 0.9500
256 0.6695 0.9029 0.9330 0.9870
N r 層 実測 z 層 実測 r÷z 実測 r 層 乱数 z 層 乱数 r÷z 乱数
16 1.3795 1.0440 1.3213 0.9972 1.0063 0.9909
64 1.3789 1.0541 1.3081 0.9965 0.9997 0.9969
256 1.3795 1.1145 1.2378 0.9940 0.9914 1.0026

観察 6.2:★ 予言⑤は当たった。合成乱数では、割っても割らなくても層の比は 1 である。 r÷z は中央 0.9969 で、実測の 1.3081 とはっきり違う。

観察 6.3:★ そもそも合成乱数では、r で層別しても 0.9972 倍にしかならない。 群れが無いので、大きく動いた直後が特別ではない。 これは [F033] で測ってある。

観察 6.4:★ 時間帯の効果も消える。 最大 ÷ 最小は実測 4.5706 に対し合成乱数 1.1260 である。合成乱数には時間帯が無いので当然だが、これが検算になっている。

観察 6.5:重なりも合成乱数の方が高い。 N=256 で 0.9029 対 実測 0.6695 である。★ 群れが無ければ分母はほぼ一定なので、割っても順位がほとんど変わらない。

観察 6.6:★ したがって本稿が測ったのは、ボラティリティの群れがある系列に特有の現象である。 割り算そのものの性質ではない。

7. 限界

  1. ⚠️ 正規化を否定していない。 本稿は正規化が何を持ち込むかを測るだけで、してはいけないとは述べない。
  2. 方向を測っていない。 扱うのは大きさだけで、買いか売りかは出てこない。
  3. 売買を論じていない。 コストも成績も測っていない。
  4. 分子を一つに固定している。 \|直前の足の値動き\| だけである。
  5. 分母を一つに固定している。 直近 N 本の標準偏差だけで、ATR や中央絶対偏差では測っていない。
  6. 時間帯の効果の機序を説明していない。 分母の窓がまたぐためと読むが、分解はしていない。
  7. 上位を 5% に固定している。 別の割合では数字が変わる。
  8. 四銘柄・六年・1 時間足である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。

結び

「直近の平均で割って正規化した」。指標ではよく行われる。だが割り算は、分子と分母の両方を答えに入れる操作である。

同じ上位 5% を、割らずに選ぶ場合と割ってから選ぶ場合で比べた。 重なりは 0.4968 から 0.6695 で、半分近くが入れ替わる。

★ そして向きが正反対である。 割った量の上位では分母が全体の 0.6327 から 0.9330 倍と小さく、割らない量の上位では 1.2989 から 1.4307 倍と大きい。割ると、「静かな時期に起きた中くらいの動き」が上位に来る。

★ その結果、層の比がほぼ 1 に落ちる。 割らずに選べば先の値動きは全体の 1.3795 倍だが、割ってから選ぶと 1.0440 倍である。割らない ÷ 割るは中央 1.3081 である。

★ 分母だけで選ぶと、1 を下回る。 d の下位 5% では 0.6635 倍である。静かな時期のあとは、先も静かである。つまり割り算は、1 より上へ引く分子と、1 より下へ引く分母を混ぜている。

★ そして z は時間帯を持ち込む。 N = 64 での z の中央は UTC 21 時の 0.3222 から UTC 14 時の 1.3972 まで 4.3363 倍動く。分母の窓が時間帯をまたぐので、静かな時間帯のあとに賑やかな時間帯が来ると z が大きく出る。 窓を伸ばしても 5.3367 → 4.2731 と少し縮むだけで、消えない。

★ 合成乱数では、これが全部消える。 割らない ÷ 割るは 0.9969、時間帯の幅は 1.1260 倍である。群れが無ければ分母はほぼ一定なので、割っても順位がほとんど変わらない。

したがって、「正規化した」と書くときに必要なのは、何で割ったかである。 ★ 分母の窓の長さは前処理の細部ではなく、選ばれる時点そのものを決めている。そして割った量で選ぶと、割らなければ見えていた差が、ほぼ消える。

データと再現

データ 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy
期間 2019–2024(六年)
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
足 1 時間足・中値・完成足の終値のみ。ティックの無い足は作らない
分子 r = |直前の足の値動き|(pips)
分母 d = 直近 N 本の標準偏差(N = 16・64・256)。直前の足までで作る
量 z = r ÷ d
層別 r で上位 5%/d で下位 5%/z で上位 5%
先の長さ 24 本(四時間)
基準線 足の中まで合成乱数(3 系列)。一定のばらつきの差を足して作る
検算 検算/F039.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F039_output.txt から取っている
図 図/F039_zu1・図/F039_zu2(png・svg・英語版)
乱数の種 固定。再実行しても同じ値が出る
土台の検査 _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt

参考文献

  • 山岸勇輝 (2026). 合成乱数には、ボラティリティの群れが無い [F033]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893674
  • 山岸勇輝 (2026). 格子を変えると閾値は動き、形は動かない [F035]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893852

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「自己正規化は、分母に使った窓を持ち込む」[F039]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22894073

YOI F039FX と金融ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F039・DOI 10.5281/zenodo.22894073・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 自己正規化は、分母に使った窓を持ち込む [F039]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F039 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22894073

Yamagishi, Y. (2026). Self-Normalization Brings In the Window You Divided By [F039]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F039; DOI: 10.5281/zenodo.22894073

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