要旨
本稿が問うのは、平均寿命の男女差(女性 − 男性)がどの年齢で、どの死因で生まれ、いつ開いて、いつ縮んだか、である。人口動態統計の第5.15表(死因別・性別・5 歳階級別の死亡数と死亡率、1950〜2024 年の 24 の年)から、男女それぞれの生命表を本稿の近似で作り、男女差を年齢の区切りと 15 の死因に分けた(アリアガの分解と、死因ごとの死亡率の差による割り振り)。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、公表の平均寿命の男女差は 1950 年の 3.50 年から 2003 年の 6.97 年まで開き、2024 年は 6.04 年である。本稿の生命表の平均寿命は公表値と最大 0.62 年、男女差は最大 0.33 年しか違わない(第3節)。
第二に、これが本稿の芯である。本稿の生命表で 1950→2005 年に男女差は 3.89 年開き、その 0.890 は 65 歳以上(65〜79 歳 +1.82・80 歳以上 +1.64)から来た(第4節)。
第三に、2005→2024 年には男女差は 1.05 年縮み、その 0.665 は 40〜64 歳(−0.70)から来た。80 歳以上だけは逆に +0.10 開いた。 開いた場所と縮んだ場所は同じではない(第4節)。
第四に、15 の死因の中では、開いたときも縮んだときもがんがいちばん大きい。1950→2005 年のがんは +2.18 年(開いた分の 0.562)、2005→2024 年のがんは −0.80 年である。1950 年の男女差のいちばん大きな死因は不慮の事故(+0.78)と結核(+0.57)で、がんは +0.10 だった(第5節)。
第五に、15 の死因に入らない死亡の割合は、男性で 2005 年の 0.148 から 2024 年の 0.293 に増え、2024 年の男女差のいちばん大きな項(+1.86)はこの「その他」である。 2005→2024 年の縮みは、15 の死因の和では −2.00 年、「その他」は +0.95 年だった。死因への割り振りは、分類の外の動きに左右される(第6節)。
第六に、分けているのはどの年齢の、どの死因で男女の死亡率が違うかである。同じ「6 年の差」でも、1950 年と 2024 年とでは中身の年齢も死因も違う。
本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。アリアガの分解と、死因ごとの死亡率の差で寄与を割り振る方法は既知で、本稿はそれを公表された表に当てて、男女差の中身の年齢と死因がどう動いたかを測るだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 一人の見通しではない。どの数も各年の死亡状況が一定と仮定した生命表の数である(M003)。なぜ男女で死亡率が違うか(体の違い・暮らし方・働き方など)には立ち入らない。 本稿の生命表は近似である。5 歳階級の死亡率から作ったもので、公表の生命表の作り方ではない。死因の割り振りも近似である。各年齢の区切りの寄与を、死因ごとの死亡率の男女差の割合で分けた。死亡数が 10 未満の升目は割合の計算には使うが、本文には出さない。データについて:e-Stat の人口動態統計は政府標準利用規約(第2.0版)、厚生労働省ホームページの図表データは公共データ利用規約(第1.0版)に従って使い、本稿の生命表と分解は加工して作成した。出典:厚生労働省「人口動態統計」「令和 6 年簡易生命表の概況」。加えたのは、1950 年から 2024 年までの 24 の年について、男女差を同じ年齢の区切りと 15 の死因に分け、開いた時期と縮んだ時期で中身の年齢が入れ替わったことを示したこと、分類の外の死因の増加が、死因への割り振りをどれだけ動かすかを数で示したこと、本稿の近似の生命表を公表の平均寿命で確かめたことである。
1. 記法と問い
- 平均寿命の男女差:同じ年の女性の平均寿命 − 男性の平均寿命。本稿では「男女差」と書く。
- アリアガの分解:二つの生命表の平均寿命の差を、年齢の区切りごとの寄与に分ける方法(M013 と同じ式)。本稿では同じ年の男性の生命表と女性の生命表を比べる。ある区切りの寄与が正なら、その年齢で女性の死亡率が男性より低いことが差を広げている。
- 死因への割り振り:各区切りの寄与を、その区切りの死因ごとの死亡率の男女差が全死因の死亡率の男女差に占める割合で分ける。15 の死因は第5.15表の死因年次推移分類の 16 のうち、不慮の事故の再掲である交通事故を除いたもの。残りを「その他」とする。
問い:平均寿命の男女差は、どの年齢で、どの死因で生まれているか。差が開いた時期と縮んだ時期とで、その中身は同じか。
観察 1.1:平均寿命の男女差は一つの数だが、その中身は「どの年齢で、どの死因で、男性の死亡率が女性より高いか」の足し合わせである。差が同じ大きさでも、中身は時代で違いうる。
2. 下見と設計
正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。
| 中身 | |
|---|---|
| 死亡数と死亡率 | 第5.15表:「総数」と 16 の死因のシート。性別・5 歳階級別の死亡数と死亡率(人口 10 万対)。1950〜2010 年は 5 年おき、2014〜2024 年は毎年の 24 の年 |
| 人口 | 死亡数 ÷ 死亡率 × 10 万(「総数」のシートから)。死因ごとの死亡率はこの人口で割り直す |
| 年齢の区切り | 0〜4 歳から 5 歳おき、90 歳以上をまとめる。結果は 0〜14・15〜39・40〜64・65〜79・80 歳以上の五つに束ねて示す |
| 比べる年 | 1950 年、公表の男女差がほぼ最大の 2005 年(最大は 2003 年だが第5.15表に無い)、2024 年 |
| 確かめ | 本稿の生命表の平均寿命を、概況の参考資料2 の公表値と突き合わせる |
3. データと、その確かめ
計算 3.1 取得したファイルを SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。
| 確かめたこと | 結果 |
|---|---|
| 公表の男女差 | 1950 年 3.50 年・最大 6.97 年(2003 年)・2005 年 6.96 年・2024 年 6.04 年 |
| 公表の平均寿命 | 1950 年 男 58.00・女 61.50/2005 年 男 78.56・女 85.52/2024 年 男 81.09・女 87.13 |
| 本稿の生命表の平均寿命 − 公表値 | 1950 年 男 −0.41・女 −0.62/2005 年 男 +0.14・女 +0.35/2024 年 男 +0.06・女 +0.14。48 組の最大 0.62 年 |
| 本稿の男女差 − 公表の男女差 | 最大 0.33 年 |
| 年齢と死因の寄与の和 | どの年も本稿の男女差に一致する(アリアガの恒等式) |
観察 3.2:本稿の生命表は 5 歳階級からの近似なので、平均寿命では 1950 年の女性で 0.62 年ずれるが、男女差では最大 0.33 年に収まる。本稿は男女差の中身の割合と、その動きを読むので、この近似で足りる。
4. 芯、高い年齢で開き、中年で縮んだ
計算 4.1 男女差を年齢の区切りの寄与に分ける(年)
| 男女差 | 0〜14 歳 | 15〜39 歳 | 40〜64 歳 | 65〜79 歳 | 80 歳以上 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1950 年 | 3.29 | +0.50 | +0.35 | +1.37 | +0.95 | +0.12 |
| 2005 年 | 7.18 | +0.09 | +0.50 | +2.05 | +2.78 | +1.76 |
| 2024 年 | 6.13 | +0.00 | +0.28 | +1.36 | +2.63 | +1.86 |
| 1950→2005 年 | +3.89 | −0.41 | +0.15 | +0.69 | +1.82 | +1.64 |
| 2005→2024 年 | −1.05 | −0.09 | −0.22 | −0.70 | −0.14 | +0.10 |
観察 4.2:1950→2005 年に本稿の男女差は 3.89 年開き、その 0.890 は 65 歳以上(65〜79 歳 +1.82・80 歳以上 +1.64)から来た。 0〜14 歳の寄与は −0.41 と縮み、2024 年には +0.00 になった。差を作る場所が、子どもから高い年齢へ移った。
観察 4.3:2005→2024 年に男女差は 1.05 年縮み、その 0.665 は 40〜64 歳(−0.70)から来た。 65〜79 歳の縮みは −0.14 と小さく、80 歳以上は逆に +0.10 開いた。 縮みは中年から起き、いちばん高い年齢では差がまだ開いている。

図1:本稿の生命表の男女差を、年齢の区切りの寄与として積み上げたもの(1950〜2024 年)。青が 0〜14 歳、緑が 15〜39 歳、茶が 40〜64 歳、橙が 65〜79 歳、紫が 80 歳以上。破線は公表の男女差。茶の帯が 2005 年ごろから細くなり、紫の帯は太いまま残る。
5. 死因で見る
計算 5.1 男女差を死因に分ける(寄与の大きい順・年)
| 年・区間 | 大きい順 |
|---|---|
| 1950 年(3.29) | 不慮の事故 +0.78・結核 +0.57・その他 +0.45・胃潰瘍 +0.37・脳血管疾患 +0.32・自殺 +0.19・喘息 +0.14・がん +0.10・肺炎 +0.09 |
| 2005 年(7.18) | がん +2.28・心疾患 +0.95・その他 +0.92・肺炎 +0.71・脳血管疾患 +0.62・自殺 +0.60・不慮の事故 +0.50・肝疾患 +0.21・慢性気管支炎 +0.15 |
| 2024 年(6.13) | その他 +1.86・がん +1.48・心疾患 +0.94・脳血管疾患 +0.40・肺炎 +0.36・自殺 +0.31・不慮の事故 +0.28・肝疾患 +0.20・腎不全 +0.12 |
| 1950→2005 年(+3.89) | がん +2.18・心疾患 +0.88・肺炎 +0.63・結核 −0.54・その他 +0.46・自殺 +0.41・胃潰瘍 −0.34・脳血管疾患 +0.30・不慮の事故 −0.28 |
| 2005→2024 年(−1.05) | その他 +0.95・がん −0.80・肺炎 −0.35・自殺 −0.28・不慮の事故 −0.23・脳血管疾患 −0.22・慢性気管支炎 −0.09・腎不全 +0.03・高血圧性疾患 +0.03 |
観察 5.2:1950 年の男女差の中身は、不慮の事故(+0.78)と結核(+0.57)がいちばん大きく、がんは +0.10 だった。 2005 年には、がんが +2.28 で男女差のいちばん大きな項になった。
観察 5.3:15 の死因の中では、開いたときも縮んだときもがんがいちばん大きい。 1950→2005 年のがんは +2.18 年で、開いた分の 0.562 を占める。2005→2024 年のがんは −0.80 年で、ほかに肺炎(−0.35)・自殺(−0.28)・不慮の事故(−0.23)・脳血管疾患(−0.22)が縮んだ。

図2:1950・2005・2024 年の男女差の、主な死因の寄与。灰が 1950 年、紺が 2005 年、赤茶が 2024 年。がんは 2005 年に高く 2024 年に下がり、結核は 1950 年にだけ大きい。「その他」は年を追って伸びている。
6. 分類の外の死因
計算 6.1 死亡のうち、15 の死因に入らない割合
| 年 | 男性 | 女性 | この分類の肺炎の男性の死亡数 |
|---|---|---|---|
| 1950 | 0.360 | 0.380 | 28090 |
| 1985 | 0.110 | 0.122 | 25520 |
| 2005 | 0.148 | 0.170 | 57310 |
| 2016 | 0.211 | 0.221 | 65661 |
| 2017 | 0.229 | 0.236 | 53143 |
| 2024 | 0.293 | 0.270 | 46529 |
観察 6.2:15 の死因に入らない死亡の割合は、1985 年の男性 0.110 から 2024 年の 0.293 まで増えた。 表の注は「死亡総数には、死因年次推移分類以外の死因を含む」と書く。2016→2017 年には、この分類の肺炎の男性の死亡数が 65661 から 53143 に減り、分類の外の割合は 0.211 から 0.229 に増えた。本稿はこの動きの理由には立ち入らない。
観察 6.3:その結果、2024 年の男女差のいちばん大きな項は「その他」(+1.86)で、2005→2024 年の縮みは 15 の死因の和で −2.00 年、「その他」で +0.95 年と、逆向きに分かれた。 年齢への分け方は分類に左右されないが、死因への割り振りは分類の外の動きに左右される。死因の寄与を年をまたいで比べるときは、「その他」の大きさを一緒に見る。
7. 限界
- 期間の数である(M003)。
- 本稿の生命表は近似である。 公表の平均寿命と最大 0.62 年、男女差で最大 0.33 年違う。
- 死因の割り振りは近似である。 各区切りの寄与を死亡率の差の割合で分けたもので、死因どうしの重なり(一人が複数の病気を持つこと)は扱わない。
- 分類の外の死因が大きい。 2024 年の男性で 0.293 が 15 の死因に入らない。
- なぜ男女で死亡率が違うかには立ち入らない。
- 公表値は、2005 年は完全生命表、1950 年と 2024 年は簡易生命表の値である。 1971 年以前は沖縄県を除く値である(概況の表の注)。年齢不詳の死亡は除いた。
- 一人の見通しではない。
結び
本稿の生命表で、平均寿命の男女差は 1950→2005 年に 3.89 年開き、その 0.890 は 65 歳以上から来た。2005→2024 年には 1.05 年縮み、その 0.665 は 40〜64 歳から来て、80 歳以上だけは逆に +0.10 開いた。15 の死因の中では、開いたときも縮んだときもがんがいちばん大きかった。ただし 15 の死因に入らない死亡は男性で 0.293 まで増え、2024 年の差のいちばん大きな項になっている。
分けるものは一つ、どの年齢の、どの死因で男女の死亡率が違うか、である。
「男女の寿命の差が縮んだ」と聞いたら、どの年齢で縮み、どの年齢ではまだ開いているのかを、一緒に思い出す。 同じ 6 年の差でも、1950 年と 2024 年とでは中身が違う。
データと再現
| データ | 厚生労働省『人口動態統計』令和6年(確定数)上巻 第5.15表(e-Stat・2026 年 9 月 25 日に利用)、「令和 6 年簡易生命表の概況」図表データ 参考資料2(厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/index.html ・2026 年 9 月 25 日に利用) |
| 利用条件 | e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)、厚生労働省ホームページのコンテンツは公共データ利用規約(第1.0版)に準拠。本稿の生命表と分解は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない |
| 範囲 | 日本・男女別・1950〜2024 年の 24 の年・5 歳階級・15 の死因と「その他」 |
| 検算 | 検算/M015.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M015_output.txt から取っている |
| 生データ | data/ に取得したファイル 2 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・計算の置き方) |
| 図 | 図/M015_zu1・図/M015_zu2(png・svg・英語版) |
参考文献
- 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.15表. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 厚生労働省. 令和6年簡易生命表の概況 図表データ 参考資料2(2026年9月25日に利用). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/xls/life24-13.xlsx
- 山岸勇輝 (2026). 平均余命は、誰かが実際に生きる年数ではない [M003]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963485
- 山岸勇輝 (2026). 平均寿命の延びは、はじめは若い年齢の、いまは高い年齢の死亡が減ったことから来ている [M013]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22966888
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「平均寿命の男女差は、65 歳以上で開き、40〜64 歳で縮んだ」[M015]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22967085
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M015・DOI 10.5281/zenodo.22967085・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 平均寿命の男女差は、65 歳以上で開き、40〜64 歳で縮んだ [M015]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M015 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22967085
Yamagishi, Y. (2026). The Sex Gap in Life Expectancy Widened at Ages 65 and Over and Narrowed at Ages 40–64 [M015]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M015; DOI: 10.5281/zenodo.22967085
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author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The Sex Gap in Life Expectancy Widened at Ages 65 and Over and Narrowed at Ages 40–64},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M015},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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