【I014】薬をネットで売る店は11,910(12.8%)

要旨

薬機法の特定販売(店舗にいない相手に一般用医薬品などを売ること。インターネットや電話での販売)を届け出ている施設の数と、薬事監視で見つかった違反を、衛生行政報告例(令和6年度、厚生労働省【薬事】第4表-1・第2表)で数えた。

特定販売を実施している施設は 11,910。 薬局63,203と店舗販売業29,535を合わせた92,738の 12.8% にあたる。人口10万人あたり9.6。

県による差が7.6倍ある。 1位は新潟県27.9%、2位岐阜県23.5%、3位富山県23.3%。逆に東京都は6.5%で下から3番目、沖縄県4.6%、山口県3.7%と続く。ネット販売は都会に多い、という形にはなっていない。

立入検査193,543に対して、違反が見つかったのは9,537施設(4.9%)。 違反発見件数は16,374件で、最多は「その他」7,723(47.2%)、次いで管理者に係る違反2,560、販売体制の不備1,817である。特定販売に係る違反は98件(0.60%)しかない。

処分は2,633件で、違反発見施設の27.6%。そのうち許可取消・業務停止は6件(0.063%)にとどまり、告発は0件である。

1. はじめに

I013 は、薬機法の許可・登録・届出が697,897あり、そのうち薬局は9.1%であることを示した。同じ表の隣には、監視の結果が載っている。

そして特定販売実施施設数という欄がある。これは、店舗にいない相手に薬を売る届出をした施設の数である。インターネット販売がここに入る。

薬をネットで売っている店は、何軒あるのか。そして、薬事監視は何を見つけているのか。

2. データ

特定販売・違反・処分 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」【薬事】第4表-1 医薬品等営業許可・登録・届出施設数、薬事監視立入検査施行施設数、違反発見施設数、特定販売実施施設数、違反・処分・告発件数、都道府県別
薬局・店舗販売業 同 第2表(I013 で用いた)
経済センサス 「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類 603(釧路管内の参考)
人口・65歳以上 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日

47都道府県すべての行がそろい、合計は全国の欄と一致する(総数 697,897、立入検査 193,543、違反発見施設 9,537、特定販売 11,910)。

特定販売の分母を「薬局+店舗販売業」としたのは本稿の判断である。 表にその比は載っていない。特定販売の届出ができるのは薬局と店舗販売業に限られるため、この2つを分母に取った。

衛生行政報告例には市区町村別が無い(都道府県・指定都市・中核市まで)。

3. 結果

3-1 ネットで薬を売る店は11,910

特定販売実施施設 11,910
薬局 + 店舗販売業 92,738
割合 12.8%
許可・登録・届出の総数(697,897)に対して 1.71%
人口10万人あたり 9.6

薬を売る店の8軒に7軒は、店の外に売っていない。

I013 で見たとおり、薬局63,203と店舗販売業29,535を合わせても92,738である。そのうち特定販売の届出をしているのは1割強にとどまる。

3-2 東京は下から3番目、1位は新潟

横棒グラフ。47都道府県ごとの、薬局+店舗販売業に占める特定販売実施施設の割合。新潟県27.9%が最も高く、山口県3.7%が最も低い。北海道を色を変えて示し、全国12.8%に縦線を引いている。

図1 薬局+店舗販売業に占める特定販売実施施設の割合(47都道府県、令和6年度末)。
灰色は都道府県、橙は北海道、青の破線は全国の12.8%。

割合が高い 割合が低い
新潟県 27.9% 東京都 6.5%
岐阜県 23.5% 沖縄県 4.6%
富山県 23.3% 山口県 3.7%

上と下で 7.6倍。中央値は13.2%である。

東京都が下から3番目である。 人口の常用対数との相関は r = −0.107 で、人口の多い県ほど特定販売が多いという関係は無い。 高齢化率との相関も r = +0.257 と弱い。

ネット販売は、買う人が都会にいるかどうかではなく、売る店がどこにあるかで決まる。 上位の新潟・岐阜・富山は、いずれも大都市圏ではない。

3-3 違反が見つかるのは、検査した施設の4.9%

立入検査施行施設(年度中) 193,543
違反発見施設 9,537
立入検査に対して 4.9%
許可等の総数に対して 1.37%

3-4 違反の中身、半分は「その他」

違反発見件数は合計 16,374 件(20区分)。

違反の区分 件数 割合
その他 7,723 47.2%
医薬品販売業者の管理者に係る違反 2,560 15.6%
販売体制等の不備 1,817 11.1%
構造設備の不備 1,183 7.2%
法令遵守体制整備の不備 820 5.0%
毒劇薬の貯蔵陳列 619 3.8%
未承認医薬品等の広告 354 2.2%
虚偽・誇大広告 233 1.4%
無許可・無登録・無届業 209 1.3%
不正表示品 168 1.0%
無承認品 157 1.0%
不良品 156 1.0%

「その他」が47.2%を占める。 その中身は、この表からは分からない。

「その他」を除いた8,651件のうち、いちばん多いのは管理者に係る違反2,560(29.6%)である。薬局や店舗販売業に置くことになっている管理者(管理薬剤師など)についての違反で、人の配置の問題が最多ということになる。

特定販売に係る違反は98件で、違反発見件数の0.60%にすぎない。 ネット販売そのものが、監視で見つかる違反の中心ではない。

3-5 処分はほとんど出ない

処分の種類 件数(年度中)
許可取消・登録取消・業務停止 6
改善命令等 17
その他 2,610
計 2,633

違反発見施設9,537に対して、処分は2,633で 27.6%。

そのうち許可取消・業務停止は6件で、違反発見施設の0.063%である。告発は年度中0件。

処分の大半(2,610件、99.1%)は「その他」で、その中身はこの表からは分からない。指導や口頭注意がここに入るとみられるが、確かめていない。

3-6 検査する県ほど、違反が見つかる割合は低い

立入検査に対する違反発見の割合(全国4.9%) 高い 低い
青森県42.3%/福島県25.1%/秋田県22.8% 三重県0.2%/岩手県0.2%/和歌山県0.1%

上と下で623.6倍。 これは事業者の遵守の差というより、検査のしかたと違反の記録のしかたの差を映していると考えるほうが自然である。

そのことは、相関にも表れる。

立入検査率(I013 で見た、総数に対する立入検査の割合)と、違反発見の割合の相関は r = −0.407 である。 たくさん検査する県ほど、検査あたりの違反発見は少ない。

広く浅く回る県と、絞って深く見る県がある、という読み方ができる。ただし本稿は検査の中身を見ていないので、これは説明であって検証ではない。

3-7 北海道と釧路総合振興局管内

北海道の特定販売実施施設は 647。薬局+店舗販売業3,551の 18.2% で、47都道府県中 7位。全国の12.8%を大きく上回る。

立入検査は3,612施設、違反発見は408施設で 11.3%(12位)。全国の4.9%の2倍以上である。

釧路管内は、衛生行政報告例に市区町村別が無いため、経済センサスの603(医薬品・化粧品小売業。薬局と同じものではない)のみを示す。

市町村 人口 603 事業所
釧路市 151,566 110
釧路町 18,021 12
厚岸町 7,976 5
浜中町 5,172 2
標茶町 6,698 5
弟子屈町 6,327 7
鶴居村 2,368 0
白糠町 6,840 5

4. 考察

4-1 ネット販売は、まだ1割強

薬局と店舗販売業を合わせて92,738あるうち、店の外に売っているのは11,910、12.8%である。

これは「ネットで薬が買えるようになった」という言い方から想像するより小さい。 8軒に7軒は、店に来た人にしか売っていない。

小規模な薬局や店舗販売業にとっては、まだ届出していない店のほうが圧倒的に多いという事実になる。届出は制度として用意されていて、使っている店は1割強である。

4-2 都会ほど多い、ではない

特定販売の割合は新潟県27.9%、東京都6.5%である。人口との相関は r = −0.107 で、ほぼ無い。

I012 では、人口10万人あたりの特定建築物が人口の大きさと無関係(r = +0.013)だった。ここも同じで、「都会だから多い」という形になっていない。

考えられるのは、店に来てもらえる場所にある店は、外に売る必要が小さいということである。東京の薬局は、店の前を人が通る。新潟の薬局は、そうとは限らない。ただし本稿はこれを確かめていない。

4-3 見つかる違反は、人と体制のこと

「その他」を除くと、いちばん多い違反は管理者に係るもの(2,560件、29.6%)である。次が販売体制の不備1,817、構造設備の不備1,183、法令遵守体制820。

上位4つはいずれも、薬そのものではなく、人と体制の話である。 不良品156、無承認品157、不正表示品168は、それぞれ1.0%にとどまる。

薬事監視が実際に見つけているのは、置くべき人が置かれていない、記録が足りない、設備が基準に合っていないといったことである。

特定販売に係る違反は98件(0.60%)。ネット販売が監視の中心という形にはなっていない。

4-4 処分は、ほとんど出ない

違反発見施設9,537に対して、許可取消・業務停止は6件である。0.063%。告発は0件。

違反の大半は、指導で終わっているとみられる。制度は、罰することよりも直させることで動いていると読める。ただし処分の「その他」2,610件の中身が分からないので、確かなことは言えない。

I012 の特定建築物では、管理技術者の選任率が99.65%と高かった。規制の実効性は、処分の数では測れない。

4-5 違反発見率は、事業者ではなく行政を映している

違反発見の割合は青森県42.3%、和歌山県0.1%で623.6倍違う。

これを「青森の薬局は和歌山の623倍だらしない」と読むことはできない。 I013 で見たとおり、立入検査率そのものが長野県91.6%から奈良県4.1%まで22.1倍違う。そのうえ、検査率が高い県ほど違反発見の割合は低い(r = −0.407)。

同じ統計の同じ列が、事業者の姿ではなく行政の運用を映していることがある。 これは I011 の行商(宮崎県に21.0%)でも触れた論点である。

公的統計から地域を語るとき、その数が誰の行動を数えているのかを、先に確かめる必要がある。

5. 限界

  • 衛生行政報告例は令和6年度、経済センサスは令和3年6月1日、人口は2026年1月1日。時点が違う
  • 特定販売の分母を「薬局+店舗販売業」としたのは本稿の判断で、表にその比は無い
  • 違反発見件数は件数で、施設の数ではない。1施設で複数の違反が見つかりうる
  • 違反の「その他」が47.2%を占め、その中身はこの表からは分からない
  • 処分の「その他」が2,610件(処分の99.1%)を占め、その中身も分からない
  • 立入検査の密度が県で22.1倍違う(I013)ので、違反発見の割合を県どうしで比べることはできない
  • 検査のしかたや違反の記録のしかたの差については、本稿は確かめていない
  • 経済センサスの603は薬局と同じものではない
  • 衛生行政報告例には市区町村別が無い。釧路管内はセンサスの値のみ
  • 売上・取扱量・ネット販売の規模は見ていない

6. 再現の手順

  1. e-Stat から「令和6年度 衛生行政報告例」【薬事】第4表-1(CSV)を取得する
  2. 47県の合計が全国の欄と一致することを確かめる(総数 697,897/立入検査 193,543/違反発見施設 9,537/特定販売 11,910)
  3. 同じ報告の第2表から、薬局(列5)と店舗販売業(列19)を取り、足して分母にする(92,738)
  4. 違反発見件数の20区分(列5〜27)を足し、「その他」(列27)の割合を出す
  5. 処分件数(列28・29・32)を足し、違反発見施設に対する割合を出す
  6. 住民基本台帳の人口・65歳以上人口を都道府県ごとに合計する

本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_203)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。

この論文の位置づけ

新しい理論を主張するものではない。薬機法の特定販売(ネット・電話での販売)の届出数と、薬事監視で見つかった違反・処分の数を読んだものである。I013(医薬品等の営業)の続きにあたる。ネット販売が薬局+店舗販売業の12.8%にとどまること、人口の大きさと関係しないこと、違反の中身が人と体制に偏ること、処分がほとんど出ないことを示した。違反の「その他」と処分の「その他」の中身、県ごとの違反発見率の差の原因は確かめていない。

参考文献・データの出典

  1. 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」【薬事】第4表-1・第2表
  2. 総務省統計局・経済産業省「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類別 事業所数(市区町村別)
  3. 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
  4. 山岸勇輝「薬局が1つも無い町村が140ある」(I007)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876130
  5. 山岸勇輝「届出を要する食品営業は865,122」(I011)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876599
  6. 山岸勇輝「特定建築物48,608を管理する登録営業所は17,842」(I012)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877101
  7. 山岸勇輝「医薬品等の営業697,897のうち、薬局は9.1%」(I013)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877276

版の記録

版 日付 内容
第1版 2026-09-21 初出

引用のしかた

山岸勇輝(2026)「薬をネットで売る店は11,910(12.8%)、東京は下から3番目で、1位は新潟 [I014]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877337

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書誌

山岸勇輝(2026)「薬をネットで売る店は11,910(12.8%)」[I014]. Zenodo.
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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 薬をネットで売る店は11,910(12.8%) [I014]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I014 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22877337

Yamagishi, Y. (2026). 11,910 Shops Sell Medicines Remotely (12.8%) [I014]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I014; DOI: 10.5281/zenodo.22877337

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