【論文147】同じ $H^2$ でも、係数が違えば量子化しない

要旨

体系は「局所では自明、大域では自明でない」という形に何度も出会ってきた(論文92・70・128・146)。本稿はその障害たちを点呼し、住所と型を書く。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。

第一に、障害は群であり、その次元は体系の数ではない。円周・球面・トーラス・穴あき三次元空間のいずれでも、最上次のコホモロジーは一次元である。体系の $4\pi$ はその次元ではない。$4\pi$ は対の値(周期)であって、群の大きさではない(第2節)。

第二に、一次元だからこそ、面積形式とオイラー形式は比例している。半径 $R$ の球面で、面積形式の積分は $4\pi R^2$、$K\,dA$ の積分は $4\pi$、比は $R^2$(本稿で記号計算)。同じ一次元の群の中で、片方は計量に依り、片方は依らない。論文128 の分離が、一つの群の内側に $R^2$ という因子として見えている(第3節)。

第三に、$2\pi$ と $4\pi$ は生成元の周期として現れる。円周の $H^1$ の生成元の周期は $2\pi$、単位球面の $H^2$ の生成元の周期は $4\pi$ である(本稿で計算)。ただしこれは共通の言語であって共通の根ではない。論文142 の $2\pi$ は滑らかさ、論文128 の $4\pi$ は $\mathrm{Vol}(S^2)$ であり、来た場所は違う(第4節)。

第四に、これが本稿の芯である。同じ $H^2$ でも、係数が違えば量子化しない。$H^2(S^2;\mathbb{R})=\mathbb{R}$ は連続体であり、どんな流束も許す。$H^2(S^2;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}$ は格子であり、整数の類しか現れない。ド・ラーム・コホモロジーは実係数だから、何も量子化しない(第5節)。

第五に、ゆえに電荷はガウスの法則からは量子化されない。量子化されるのは単磁極が在る場合だけで、しかも同じ整数を逆から読んだ結果である。$2eg/\hbar=n$ は積を縛るから、単磁極が一つ在れば、あらゆる電荷が量子化される(第6節)。

射程(何を示さないか)

本稿の射程:新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。ド・ラームの定理、チェック=ド・ラームの一致、指数列、ディラックの量子化はいずれも標準的である。本稿が加えるのは、四つの障害を住所と型で並べたこと、$4\pi$ が次元でなく周期であると明示したこと、同じ一次元の群の中に計量依存と位相の両方が住むことを $R^2$ として見せたこと、量子化の分離子が係数であると書いたことだけである。単磁極が存在するとは主張しない(論文146 と同じ)。

1. 記法と位置づけ

実係数のド・ラーム・コホモロジーを $H^k(M;\mathbb{R})$、整数係数の特異コホモロジーを $H^k(M;\mathbb{Z})$ と書く。

位置づけ:既存の定理を並べ、住所と型を書く。新しい定理は主張しない。論文146 は最も小さい例で「貼り合わせの失敗」に名前を付けた。本稿はその点呼を体系の他の場所へ広げる。

2. 障害は群であり、その次元は体系の数ではない

観察 2.1 

空間 ド・ラーム・コホモロジー 最上次の次元 体系の数
$S^1$ $H^0=\mathbb{R},\ H^1=\mathbb{R}$ 1 $2\pi$
$S^2$ $H^0=\mathbb{R},\ H^1=0,\ H^2=\mathbb{R}$ 1 $4\pi$
$T^2$ $H^0=\mathbb{R},\ H^1=\mathbb{R}^2,\ H^2=\mathbb{R}$ 1 面積
$\mathbb{R}^3\setminus\{0\}$ $H^0=\mathbb{R},\ H^2=\mathbb{R}$ 1 $4\pi$

観察 2.2 (次元と周期は別の量である) どの場合も次元は $1$ である。体系の $4\pi$ はその次元ではない。$4\pi$ は生成元を積分して得られる値、すなわち周期である。

「障害は一次元である」と「その数は $4\pi$ である」は、同じ $H^2$ についての別の言明である(論文17)。片方は群の大きさ、片方は正規化の値である。

3. 一次元だから、二つの形式は比例している

検算 3.1:半径 $R$ の球面で、本稿の記号計算では

形式 積分 身分
面積形式 $R^2\sin\theta$ $4\pi R^2$ 計量に依る
$K\,dA=\sin\theta$ $4\pi$ 位相的
比 $R^2$

(証明終)

観察 3.2 (これが要点である) $H^2(S^2)$ は一次元だから、この二つの $2$-形式は同じ群の元であり、互いの定数倍である。同じコホモロジー類の族に属することは、どちらが強制されているかを何も言わない。

論文128 は $\mathrm{Vol}(S^2)$ と $2\pi\chi(S^2)$ を分けた。ここではその分離が、一つの群の内側に $R^2$ という因子として見えている。「同じ群に住んでいる」は「同じものである」ではない。

4. $2\pi$ と $4\pi$ は、生成元の周期である

検算 4.1:本稿の計算では

群 生成元 周期
$H^1(S^1)$ $d\varphi$ $2\pi$
$H^2(S^2)$(単位球) $\sin\theta\,d\theta\wedge d\varphi$ $4\pi$

(証明終)

観察 4.2 (共通の言語であって、共通の根ではない) この言語では $2\pi$ と $4\pi$ は一次違いの生成元の周期として並ぶ。だがそれは、二つが同じ根を持つということではない。

論文142 の $2\pi$ は円錐特異点を消す滑らかさの条件であり、論文128 の $4\pi$ は方向の空間の体積である。同じ棚に並べられることと、同じところから来たことは違う(論文100)。棚は言語であり、来歴は根である。

5. 同じ $H^2$ でも、係数が違えば量子化しない

観察 5.1 

係数 何が許されるか
$H^2(S^2;\mathbb{R})=\mathbb{R}$ 実数 連続体、どんな流束も
$H^2(S^2;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}$ 整数 格子、整数の類だけ

観察 5.2 (これが芯である) ド・ラーム・コホモロジーは実係数だから、何も量子化しない。整数性は整数係数の類から来る。同じことだが、$U(1)$ の遷移関数が一価であることを要求するところから来る(論文146)。

ゆえに「大域的な障害があるから量子化される」は正しくない。障害があることと、その値がとびとびであることは別の言明である。分離子は係数である。

6. 電荷は、ガウスの法則からは量子化されない

観察 6.1 ガウスの法則 $\oint\mathbf{E}\cdot d\mathbf{A}=q/\varepsilon_0$ は、$q$ について何の制限も置かない。流束は実数の連続体を走る。

観察 6.2 (では電荷はなぜ量子化されているのか) この議論からは出てこない。単磁極が一つでも存在すれば、$2eg/\hbar=n$ が積を縛るから、$g$ を固定してあらゆる $e$ が量子化される(ディラック)。だが単磁極は発見されていない。

観察 6.3 (同じ整数を、逆から読む) 論文146 では $g$ の量子化として読んだ整数を、ここでは $e$ の量子化として読んでいる。同じ一つの整数であり、どちらを既知とするかで役割が入れ替わる(論文16 の等号の根の話と同型、一つの関係が、立つ場所で別の言明になる)。

7. 点呼

観察 7.1 

どこか 障害の住所 型 振る舞い
ストークス(論文92) $H^k=0$ 、 障害が無い(閉ならば完全)
ガウスの法則 $H^2_{\rm dR}(\mathbb{R}^3\!\setminus\!\{0\};\mathbb{R})$ 実数 電荷とともに連続に動く
ディラック(論文146) $H^2(S^2;\mathbb{Z})$ 整数 とびとびに動く
ポアンカレ=ホップ(論文128) オイラー類 $\in H^2(M;\mathbb{Z})$ 整数 $\chi(M)$

観察 7.2 「局所では自明、大域では自明でない」という一語が、四つの別の障害を指している。そして二番目と三番目を分けているのは、空間でも次元でもなく、係数である。

観察 7.3 (層は何をしているか) 層は「局所の資料と重なりでの一致」を記帳する。記帳法が共通だからといって、記帳される中身が同じではない。グロタンディークの見方が与えるのは共通の言語であって、共通の根ではない。そして体系が守ってきたのは、言語の一致を根の一致と読まないことであった。

8. 結論

  1. 障害は群であり、次元は $1$ である(観察2.1)。体系の $4\pi$ はその次元ではなく、生成元の周期である。
  2. 一次元だから二つの形式は比例している(検算3.1)。面積形式は $4\pi R^2$、$K\,dA$ は $4\pi$、比は $R^2$。同じ群に住むことは、同じものであることではない(論文128)。
  3. $2\pi$ と $4\pi$ は生成元の周期として並ぶ(検算4.1)。だがそれは共通の言語であって共通の根ではない(論文100)。
  4. 同じ $H^2$ でも係数が違えば量子化しない(観察5.1)。実係数は連続体、整数係数は格子。ド・ラームは何も量子化しない。
  5. 電荷はガウスの法則からは量子化されない(観察6.1)。単磁極が在れば同じ整数を逆から読んで量子化される(論文146)。
  6. 四つの障害が並ぶ(観察7.1)。二番目と三番目を分けているのは係数である。

結び:同じ棚に並べられることは、同じところから来たことではない。層とコホモロジーは、体系が何度も出会ってきた形に共通の名前を与える。だが名前が同じでも、係数が違えば結論が違う。連続に動くか、とびとびに動くか。住所を書くとは、群だけでなく係数まで書くことである。

参考文献

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  5. Bott, R. & Tu, L. W. (1982). Differential Forms in Algebraic Topology. Springer.
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  7. 山岸勇輝 (2026). 等号は六つの別根を持つ [論文16] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21600471
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  12. 山岸勇輝 (2026). ゲージ原理(ワイル) [論文96]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758671
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  15. 山岸勇輝 (2026). $4\pi=2\pi\chi$ が成り立つのは、三次元だけである [論文128]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22079576
  16. 山岸勇輝 (2026). 渦線が終われないのは、法則ではなく恒等式である [論文130]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22079996
  17. 山岸勇輝 (2026). どこまでがハミルトニアンかは、規約である [論文138]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22081512
  18. 山岸勇輝 (2026). 動かすと、$2\pi$ だけが残る [論文142]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082281
  19. 山岸勇輝 (2026). ディラックの弦は、一枚の紙で書こうとした跡である [論文146]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082868

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書誌

山岸勇輝(2026)「同じ H^2 でも、係数が違えば量子化しない」[論文147]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22083144

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 同じ H² でも、係数が違えば量子化しない [論文147]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/147 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22083144

Yamagishi, Y. (2026). The Same H², and with Different Coefficients Nothing Is Quantised [Paper 147]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/147; DOI: 10.5281/zenodo.22083144

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