要旨
二倍体では、有利な変異が固定する確率を優性の度合いが分け、相加なら半数体の半分に近い(論文982)。そこでは、オスとメスの数の違い(性比)を入れなかった。本稿は、オスとメス合わせて 40 個体の二倍体で、変異の写しの数をオスとメスで別に数える遷移行列を厳密に解き、変異がオスに出たかメスに出たかで固定する確率がどう違うかを、有効な集団の大きさの式と比べる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、中立では、少ない性に出た変異ほど固定しやすい。オスに出た変異は 1/(4×オスの数)、メスに出た変異は 1/(4×メスの数) と $10^{-10}$ 以内で一致し、オス 2・メス 38 で $\mathbf{0.125000}$ と $0.006579$ だった(第2節)。
第二に、中立の平均は性比によらない。オスとメスに出る数で重みをつけた平均は、四つの性比のどれでも 1/(2N) = $0.012500$ だった(第2節)。
第三に、有利な変異でも、オスに出た変異はずっと固定しやすい。有利さ 0.05 で、オス 2・メス 38 ではオスに出た変異 $0.212137$、メスに出た変異 $0.012209$ で、比は $\mathbf{17.375044}$(中立では 19)だった(第3節)。
第四に、有利な変異の平均は、有効な大きさの式よりさらに小さい。平均÷有効な大きさの拡散の式は、20:20 で $0.970541$、2:38 で $\mathbf{0.921808}$ とオスが少ないほど小さく、等しい性比に対する比は 2:38 で厳密 $0.240347$、式 $0.253053$ だった(第3節)。
第五に、分離子は、変異がどちらの性に出たかを見るか、集団の平均を見るか。一つの写しの重みは少ない性で大きく、中立ではその重みがちょうど固定する確率になった。平均だけを見ると中立では性比が消え、有利な変異では有効な大きさの式から外れた(第4節)。
キーワード:性比、有効な集団の大きさ、固定する確率、二倍体、遷移行列、集団遺伝学。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。オスとメスの数が違うと有効な集団の大きさが 4×オス×メス÷(オス+メス) になること、中立の変異が固定する確率はその写しの占める割合に等しいこと、各性は次の世代の遺伝子の半分ずつを出すことは、いずれも集団遺伝学で既知である。実在の値を主張しない。合わせて 40 個体、オスとメスの数 20:20・10:30・5:35・2:38、写しごとの有利さ 0.05 は模型の値で、どの動物にも対応しない。模型を広げない。常染色体の一か所で、選択は各性の写しの割合に同じ有利さでかけ、子の割合は両性の平均とした。性染色体、性の決まり方、性による有利さの違い、世代の重なりは入れない。仕組みを分けない。有利な変異で平均が有効な大きさの式から外れる分を、拡散の近似の外れと性比の効きに分けては測っていない。既刊との関係:論文982 の射程注記は、模型を広げず、任意交配で世代が重ならない二倍体とし、近交、性比、世代の重なり、遺伝子どうしのつながり、優性の仕組みは入れないと書いた。本稿はそのうち性比の席に座る(先客なし。近交の席には論文984 が座った)。論文982 は、二倍体で有利な変異が固定する確率を優性の度合いが分け、拡散の式は遷移行列の厳密解より大きく出ることを示した。ここでは、同じく遷移行列で、オスとメスの数の違いを入れる。論文984 は、近交が劣性の変異の固定を最も押し上げることを示した。ここでは近交ではなく、性ごとの数の偏りを数える。加えたのは、四つの性比でオスに出た変異とメスに出た変異の固定する確率を厳密に出したこと、中立で 1/(4×その性の数) と一致すると確かめたこと、出る数で重みをつけた平均が中立では性比によらないと確かめたこと、有利な変異の平均を有効な大きさの式と比べたこと、分離子を「どちらの性に出たか、平均か」に置いたことである。
1. 記法と問い
模型:オス $N_m$・メス $N_f$($N_m+N_f=40$)の二倍体の常染色体の一か所で、オスの写し $2N_m$ のうち変異が $x$、メスの写し $2N_f$ のうち $y$ とする。各性の割合 $p$ に写しごとの有利さ $s$ で選択をかけて $p(1+s)/(1+ps)$ とし、子の割合を両性の平均 $\bar p$ として、次の世代のオスの写し $2N_m$ とメスの写し $2N_f$ をそれぞれ $\bar p$ の二項分布で独立に引く。状態 $(x,y)$ の遷移行列(行の和のずれは最大 $5.1\times10^{-14}$)で、全部が変異になる確率を解いた。はじめは、オスかメスの写しの一つだけが変異である。
比べる式:有効な大きさ $N_e=4N_mN_f/(N_m+N_f)$ と、はじめの割合 $p_0=1/(2N)$ で
$$u=\frac{1-e^{-4N_e s p_0}}{1-e^{-4N_e s}}$$
とし、中立では $u=p_0$ とする。厳密解の側は、変異がオスとメスに出る数($N_m$ と $N_f$)で重みをつけて平均した。
問い:オスとメスの数が違うと、変異がどちらに出たかで固定する確率はどう違い、集団の平均は有効な大きさの式とどう合うか。
2. 中立の変異
計算 2.1:中立($s=0$)で固定する確率。
| オス:メス | 有効な大きさ | オスに出た変異 | メスに出た変異 | 平均 |
|---|---|---|---|---|
| 20:20 | $40.0000$ | $0.012500$ | $0.012500$ | $0.012500$ |
| 10:30 | $30.0000$ | $0.025000$ | $0.008333$ | $0.012500$ |
| 5:35 | $17.5000$ | $0.050000$ | $0.007143$ | $0.012500$ |
| 2:38 | $7.6000$ | $\mathbf{0.125000}$ | $0.006579$ | $0.012500$ |
四つの性比で、オスに出た変異は $1/(4N_m)$、メスに出た変異は $1/(4N_f)$ と、平均は $1/(2N)$ と $10^{-10}$ 以内で一致した。
3. 有利な変異
計算 3.1:有利さ $s=0.05$ で固定する確率。
| オス:メス | オスに出た変異 | メスに出た変異 | オス÷メス | 平均 | 平均÷有効な大きさの式 |
|---|---|---|---|---|---|
| 20:20 | $0.092390$ | $0.092390$ | $1.000000$ | $0.092390$ | $0.970541$ |
| 10:30 | $0.135656$ | $0.047478$ | $2.857251$ | $0.069522$ | $0.959773$ |
| 5:35 | $0.159990$ | $0.024608$ | $6.501456$ | $0.041531$ | $0.940902$ |
| 2:38 | $0.212137$ | $0.012209$ | $\mathbf{17.375044}$ | $0.022206$ | $\mathbf{0.921808}$ |
有効な大きさの式の値は、20:20 から 2:38 へ $0.095195$・$0.072436$・$0.044140$・$0.024089$ だった。等しい性比に対する平均の比は、10:30・5:35・2:38 で厳密 $0.752485$・$0.449519$・$0.240347$、式 $0.760927$・$0.463679$・$0.253053$(厳密÷式 $0.988906$・$0.969461$・$0.949788$)だった。
観察 3.2 有利な変異では、性比の効きは有効な大きさの式よりわずかに強かった。20:20 でも平均は式の $0.970541$ 倍で、この分は性比によらない拡散の近似の外れを含む。等しい性比に対する比で比べると、2:38 で厳密は式の $0.949788$ 倍だった。オス÷メスは、中立の 3・7・19 に対して有利さ 0.05 では $2.857251$・$6.501456$・$17.375044$ だった。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、変異がどちらの性に出たかを見るか、集団の平均を見るか。各性は次の世代の写しの半分ずつを出すので、少ない性の一つの写しは多い性の一つの写しより大きな重みを持つ。中立では、その重み $1/(4N_m)$ と $1/(4N_f)$ がちょうど固定する確率になり、出る数で重みをつけて平均すると $1/(2N)$ に戻った。有利な変異では、平均は有効な大きさの式からオスが少ないほど外れたが、その外れを近似の外れと性比の効きに分けては測っていない。
観察 4.2 言わないこと。性染色体、性の決まり方、性ごとに違う有利さ、世代の重なり、実在の動物の性比、個体数を大きくしたときの形は扱わない。示したのは、40 個体の模型で、変異の出た性と性比によって固定する確率がどう分かれるかである。
5. 点呼と結び
- オスとメスの写しを別に数える遷移行列(第1節):厳密解。
- 中立でオス 2 に出た変異 $\mathbf{0.125000}$(計算 2.1):1/(4×オスの数)。
- 中立の平均は 0.012500 のまま(計算 2.1):性比によらない。
- 有利な変異のオス÷メス $\mathbf{17.375044}$(計算 3.1):オスに出るほど固定しやすい。
- 平均÷有効な大きさの式 $\mathbf{0.921808}$(計算 3.1):オスが少ないほど外れる。
- どちらの性に出たか、平均か(観察 4.1):分離子・論文982 の射程注記。
結び:オスが少ない集団では、オスに出た変異ほど固定しやすいが、中立の平均は性比によらない。オスとメスの写しを別に数えて遷移行列で解くと、中立ではオスに出た変異が 1/(4×オスの数)、メスに出た変異が 1/(4×メスの数) で、オス 2・メス 38 では $0.125000$ と $0.006579$、平均は四つの性比で $0.012500$ だった。有利さ 0.05 ではオス÷メスが $17.375044$ で、平均は有効な大きさの式の $0.921808$ 倍だった。分離子は、変異がどちらの性に出たかを見るか、集団の平均を見るか。既刊との位置:論文982 が性を分けずに数えた二倍体に、論文982 が入れなかった性比を足した。正直に言えば、40 個体の一つの模型で、性ごとの固定する確率を並べた。性比で固定の確率がどう分かれるか、そこまでである。
参考文献
- Hartl, D. L., & Clark, A. G. (2007). Principles of Population Genetics (4th ed.). Sinauer.
- Kimura, M. (1962). On the probability of fixation of mutant genes in a population. Genetics.
- 山岸勇輝 (2026). 『二倍体では、有利な変異が固定する確率を優性の度合いが分け、相加なら半数体の半分に近い』[論文982]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/982
- 山岸勇輝 (2026). 『近交は劣性の変異が固定する確率を最も押し上げ、近交係数 1 では優性の度合いの差が消える』[論文984]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/984
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「オスが少ない集団では、オスに出た変異ほど固定しやすいが、中立の平均は性比によらない」[論文994]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/994
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/994・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). オスが少ない集団では、オスに出た変異ほど固定しやすいが、中立の平均は性比によらない [論文994]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/994
Yamagishi, Y. (2026). With Few Males, Mutations Arising in Males Fix More Readily, Yet the Neutral Average Ignores the Sex Ratio [Paper 994]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/994
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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