【論文186】代理を目標にすると、代理でなくなる

要旨

測るものを目標にすると、それは測るものでなくなる。この言い回しは、しばしば「人が制度を出し抜くから」と説明される。本稿は、そこに誰もいなくても起きる 三つがあることを書く。新しい数学定理も新しい統計手法も主張しない。

第一に、雑音のある代理で選抜すると、選ぶほど雑音を拾う。雑音の標準偏差が $1.0$ のとき、上位 $0.1\%$ を代理で選ぶと目標の平均は $2.378$ にとどまり、目標そのもので選んだ $3.359$ に $0.981$ 届かなかった(第2節)。

第二に、これが柵である。誤差の裾が軽ければ、代理を強く最適化するほど目標も良くなる。ところが裾が重いと、最適な最適化量があり、それを越えると悪くなる。コーシー誤差では上位 $20\%$ の $0.528$ が頂点で、上位 $0.01\%$ では $0.005$、すなわち無作為と変わらない(第3節)。

第三に、相関そのものが裾では効かない。相関 $0.99$ の正規対でも、上位 $q$ での一致率は $0.901$ から $0.765$ へ落ち続けた(第4節)。

第四に、これが本稿の芯である。代理は目標を予測するが制御しない。相関 $0.995$ の設定で、$P$ を観測して $2.5$ だったときの目標の平均は $2.477$、ところが $P$ を $2.5$ に書き込んだときの目標の平均は $-0.0001$、差は値の全部である(第5節)。

射程(何を示さないか)

本稿の射程:新しい数学定理も新しい統計手法も主張しない。選抜による偏り、正規対に裾の依存が無いこと、観測と介入の区別は、いずれも標準的である。また、いかなる制度・組織・政策についても主張しない。扱うのは、代理量と目標量のあいだの数学だけである。論文183 との関係:183 は同じ表が二つの正しい答を持つことを示し、決めるのは矢印だと書いた。本稿の第四の根はその機械をそのまま使う。新しい型ではなく、同じ型が代理量のところにも現れるという報告である。語について:本体系で「指標」はこれまで一貫して表現論の指標であった(論文70・152・181)。本稿の「代理」はそれとは無関係である。加えたのは四つの根を「何が繋がりを切るか」で分けたこと、柵が誤差の大きさではなく裾にあることを測ったこと、裾の依存の無さを五桁にわたって追ったこと、観測と介入の差を数で並べたことである。

1. 記法と位置づけ

本当に良くしたい量を目標、実際に測る量を代理と呼ぶ。以下、目標は標準正規に従うものとし、代理は目標に誤差を足したものとする。数値はすべて自前の抽出であり、標本数を明記する。

位置づけ:論文164 は「確率」に四つの住所があると書き、論文183 は同じ表が二つの正しい答を持つことを示した。本稿はその隣で、測ることと良くすることの隙間を測る。

2. 雑音のある代理で選ぶと、選ぶほど雑音を拾う

検算 2.1:目標を標準正規、代理をそれに雑音を足したものとし、$200$ 万点から上位を選ぶ。

雑音の標準偏差 上位 代理で選んだ目標の平均 目標で選んだ場合
$0.0$ $0.1\%$ $3.359$ $3.359$
$0.5$ $0.1\%$ $2.996$ $3.359$
$1.0$ $10\%$ $1.241$ $1.755$
$1.0$ $1\%$ $1.890$ $2.667$
$1.0$ $0.1\%$ $\mathbf{2.378}$ $\mathbf{3.359}$
$2.0$ $0.1\%$ $1.503$ $3.359$

(証明終)

観察 2.2 選抜が厳しいほど、選ばれたものに占める雑音の割合が増える。ここには誰もいない。出し抜こうとする者も、制度も、意図もない。代理に誤差があるというだけで起きる。

3. 柵は、誤差の大きさではなく裾である

検算 3.1:同じ設定で、誤差を正規(軽い裾)とコーシー(重い裾)に取り替え、選抜を強くしていく。

上位 正規の誤差 コーシーの誤差
$50\%$ $0.566$ $0.418$
$20\%$ $0.991$ $\mathbf{0.528}$
$10\%$ $1.244$ $0.336$
$1\%$ $1.885$ $0.024$
$0.1\%$ $2.383$ $-0.007$
$0.01\%$ $\mathbf{2.752}$ $\mathbf{0.005}$

(証明終)

観察 3.2 正規の誤差では、強く最適化するほど目標が良くなる(単調である)。コーシーの誤差では上位 $20\%$ が頂点であり、そこから先は下がって、上位 $0.01\%$ では $0.005$、無作為に選ぶのと変わらない。

観察 3.3 分けているのは誤差の大きさではない。第2節では雑音を $2.0$ まで大きくしても単調のままだった。分けているのは裾である。重い裾では、代理の最上位を占めるのが目標の高い個体ではなく、誤差がたまたま巨大だった個体になる。

観察 3.4 したがって「最適化は良いことだ」も「最適化は危険だ」も、どちらも半分の文である。正しくは、どこまで最適化してよいかは誤差の裾が決める。論文157 が最小二乗をコーシー誤差で壊したのと同じ場所に、同じ理由で柵が立っている。

4. 相関そのものが、裾では効かない

検算 4.1:相関 $\rho$ の正規対 $(X,Y)$ を $800$ 万点取り、$X$ が上位 $q$ にあるとき $Y$ も上位 $q$ にある割合を測る。

$\rho$ 上位 $10\%$ 上位 $1\%$ 上位 $0.1\%$ 上位 $0.01\%$
$0.50$ $0.325$ $0.128$ $0.057$ $0.015$
$0.90$ $0.689$ $0.542$ $0.442$ $0.381$
$0.99$ $\mathbf{0.901}$ $0.850$ $0.810$ $\mathbf{0.765}$

いずれの行も標本は $800$ 以上である。(証明終)

観察 4.2 相関 $0.99$ でも、先端へ行くほど一致率が落ち続ける。正規対には裾の依存が無い。$\rho$ が $1$ 未満である限り、極限では一致率は $0$ になる。ただし本稿の計算はその極限に到達していないし、到達したとも言わない。示したのは、五桁進んでもまだ落ち続けているということである。

観察 4.3 相関は真ん中で測られる。最適化はこちらを先端へ連れて行く。測った場所と使う場所が違う。これは誤差の話ですらなく、領域の話である。

5. 芯:代理は予測するが、制御しない

観察 5.1 代理が目標から生じる場合を考える。矢印は目標から代理へ向かい、$P=T+0.1\varepsilon$ である。観測上、代理は目標をよく予測する(相関 $0.995$)。

検算 5.2:$400$ 万点。

$P$ の値 標本数 観測 $E[T\mid P]$ 介入 $E[T\mid \mathrm{do}(P)]$
$1.0$ $38645$ $0.989$ $\mathbf{-0.0001}$
$2.0$ $8912$ $1.977$ $\mathbf{-0.0001}$
$2.5$ $2789$ $\mathbf{2.477}$ $\mathbf{-0.0001}$

(証明終)

観察 5.3 代理を見て高ければ、目標は高い。代理を書いて高くしても、目標は動かない。矢印が目標から代理へ向かっているからである。差は $2.477$ 対 $-0.0001$、すなわち値の全部である。

観察 5.4 この型は本体系の新顔ではない。論文183 は同じ表が二つの正しい答を持つことを示し、決めているのは矢印であって表の欄ではないと書いた。本稿が加えるのは、同じ型が代理量のところにも現れるという一点だけである。

6. 点呼:何が繋がりを切るのか

観察 6.1 

根 何が切るか 現れ方 本稿の検算
回帰的 誤差そのもの 選抜が誤差を拾う 第2・3節
極値的 測った領域を出る 裾では相関が効かない 第4節
因果的 矢印の向き 予測するが制御しない 第5節
敵対的 相手がいる 代理を直接動かされる 測っていない

観察 6.2 四つのうち三つは、誰もいなくても起きる。「人が制度を出し抜くから」という説明は、四番目にしか当たらない。前の三つには意図も主体も要らず、誤差・領域・矢印という数学だけで起きる。

観察 6.3 そして対処も四つとも違う。回帰的な根には、誤差を減らすか最適化を止める場所を決めることである(柵は裾)。極値的な根には、使う領域で測り直すことである。因果的な根には、介入で測ることである。観測をいくら増やしても足りない。敵対的な根には、相手の側の話が要る。一語で呼ぶから、対処も一つだと思ってしまう。

7. 結論

  1. 選抜は誤差を拾う(検算2.1):上位 $0.1\%$ で $2.378$ 対 $3.359$。
  2. 柵は誤差の裾(検算3.1):正規では単調、コーシーでは上位 $20\%$ が頂点。
  3. 裾では相関が効かない(検算4.1):$\rho=0.99$ でも $0.901$ から $0.765$ へ。
  4. 予測と制御は別(検算5.2):$2.477$ 対 $-0.0001$。
  5. 三つは誰もいなくても起きる(観察6.2)。

結び:「この指標は目標にした途端に壊れた」と言われたら、次に問うべきは何が繋がりを切ったのかである。誤差か、領域か、矢印か、相手か。そして最初の三つには、出し抜こうとした者は一人もいない。

参考文献

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  2. Campbell, D. T. (1979). Assessing the Impact of Planned Social Change. Evaluation and Program Planning, 2(1).
  3. Sibuya, M. (1960). Bivariate Extreme Statistics. Annals of the Institute of Statistical Mathematics, 11(3).
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  9. 山岸勇輝 (2026). 重なりか、隔たりか [論文139]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22081801
  10. 山岸勇輝 (2026). 二乗の点呼 [論文157]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22091931
  11. 山岸勇輝 (2026). 「確率」は四つの住所を持つ [論文164]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092815
  12. 山岸勇輝 (2026). 柵は線形性である [論文171]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22094287
  13. 山岸勇輝 (2026). 「次元の呪い」は一つの呪いではない [論文182]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104170
  14. 山岸勇輝 (2026). 同じ表が、二つの正しい答を持つ [論文183]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104230
  15. 山岸勇輝 (2026). 両立しなくなるのは、三つ目の選択肢からである [論文184]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22105459
  16. 山岸勇輝 (2026). 欠陥を分類しているのは行き先の空間である [論文185]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22105496

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「代理を目標にすると、代理でなくなる」[論文186]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22105530

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 代理を目標にすると、代理でなくなる [論文186]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/186 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22105530

Yamagishi, Y. (2026). When a Proxy Becomes the Target It Stops Being a Proxy [Paper 186]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/186; DOI: 10.5281/zenodo.22105530

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