【論文193】結合した二つの費用は、別々に見積もって足せない

要旨

一つの自由エネルギーが二つの長さを自分で作り、その比だけが振る舞いを決める。本稿はその長さを厳密に計算し、そして足し算の見積もりが失敗する場所を測る。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。

第一に、二つの長さはどちらも係数から作られる。秩序が回復する長さと場が侵入する長さは、どちらも自由エネルギーの係数の組合せであり、試料の大きさは一度も現れない(第2節)。

第二に、壁の費用は厳密に求まる。求積で $1.88561808316413$、閉じた形 $4\sqrt2/3$ と差ゼロで一致した(第3節)。

第三に、これが本稿の芯である。「壁が費やし、場が節約する」という足し算の見積もりは交差点を $1.885618$ に置くが、正確な答は $0.707107$ である。比はちょうど $8/3$($4\times10^{-31}$ で一致)(第4節)。

第四に、その食い違いは小さな補正ではない。比が $0.707$ と $1.886$ のあいだでは、二つの見方が正反対の答を出す。見積もりは、それを使いたい帯でこそ間違う(第4節)。

第五に、正確な値 $1/\sqrt2$ は引用である。それを出すには二つの方程式を一緒に解く必要があり、本稿はそれをしていない(第4節)。

射程(何を示さないか)

本稿の射程:新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。ギンツブルグ=ランダウの自由エネルギー、二つの特性長、界面エネルギーが $\lambda/\xi=1/\sqrt2$ で符号を変えることは、いずれも標準的である。実在の物質について何も主張しない。どの物質がどちらの側かは本稿の扱う問いではない。そして正確な交差点を導出しない。本稿が厳密に計算したのは壁の費用だけであり、$1/\sqrt2$ は引用である。論文191 との関係:191 は「単独では何もしない二つが、合わさると逆のことをする」を書いた。本稿は同じ形の見積もりの側を書く。別々に費用を出して足すと、交差点が $8/3$ ずれる。加えたのは二つの長さがどちらも係数から作られることを並べたこと、壁の費用を求積と閉じた形の両方で出して一致を確かめたこと、足し算の見積もりの誤差がちょうど $8/3$ であることを示したこと、二つの答が逆になる帯を書いたことである。

1. 記法と位置づけ

秩序変数 $f$ について、二次の項の係数を $-a$、四次の項を $b$、勾配項の剛さを $g$、場との結合の強さを $q$ とする自由エネルギーを考える。$f$ は無秩序側で $0$、秩序側で $1$ に規格化する。数値はすべて自前の計算であり、求積は多倍長で行った。

位置づけ:論文191 は「長さが無いところに長さが生まれる」を扱った。本稿は長さが二つ生まれ、比だけが効く場合を扱う。そして、その比を素朴に見積もるとどうなるかを測る。

2. 二つの長さは、どちらも係数から作られる

検算 2.1:$\xi=\sqrt{g/a}$(秩序が回復する長さ)と $\lambda=\sqrt{b/(q^2a)}$(場が侵入する長さ)を、係数を動かして測る。

$a$ $b$ $g$ $q$ $\xi$ $\lambda$ 比
$1$ $1$ $1$ $1$ $1.0$ $1.0$ $1.0$
$1$ $1$ $4$ $1$ $2.0$ $1.0$ $\mathbf{0.5}$
$1$ $4$ $1$ $1$ $1.0$ $2.0$ $\mathbf{2.0}$
$4$ $1$ $1$ $1$ $0.5$ $0.5$ $1.0$
$1$ $1$ $1$ $2$ $1.0$ $0.5$ $0.5$

(証明終)

観察 2.2 どちらの長さも係数の組合せである。試料の大きさは式のどこにも現れない。論文191 で容器が現れなかったのと同じである。そして四行目のように、両方を同じだけ縮めても比は動かない。

3. 壁の費用は、厳密に求まる

観察 3.1 秩序変数は $f(x)=\tanh\!\left(x/(\sqrt2\,\xi)\right)$ という形で回復する。単位面積あたりの費用は、勾配項と ポテンシャル項の積分である。

検算 3.2

$\xi$ 求積 $4\sqrt2\,\xi/3$ 差
$1$ $1.88561808316413$ $1.88561808316413$ $\mathbf{0}$
$2$ $3.77123616632825$ $3.77123616632825$ $\mathbf{0}$
$0.5$ $0.942809041582063$ $0.942809041582063$ $\mathbf{0}$

(証明終)

観察 3.3 本稿の初稿はこの閉じた形を $2\sqrt2/3$ と書いており、求積と二倍食い違った。食い違いが誤りを捕まえたのである。閉じた形と積分の両方を出して突き合わせること、片方しか持たなければ、誤りは静かに通る。

4. 芯:別々に見積もって足すと、$8/3$ だけ外す

観察 4.1 素朴な見積もりはこうである。界面は壁の費用を払い、そのかわり深さ $\lambda$ にわたって場を締め出す分を節約する。だから両者が釣り合うところで界面のエネルギーが消えるはずだ。

検算 4.2

量 値
足し算の見積もりが与える交差点 $1.885618083$
正確な交差点 $\mathbf{0.707106781}$
二つの比 $\mathbf{2.666666667}$
$8/3$ $2.666666667$
比と $8/3$ の差 $3.9\times10^{-31}$

(証明終)

観察 4.3 足し算の見積もりは、ちょうど $8/3$ だけ外している。そしてこれは小さな補正ではない。

検算 4.4:二つの見方が何と答えるかを並べる。

比 $\lambda/\xi$ 足し算の見積もり 正確な答
$0.5$ 締め出す 締め出す
$0.707107$ 締め出す 締め出す
$1.0$ 締め出す 受け入れる
$1.3$ 締め出す 受け入れる
$1.886$ 受け入れる 受け入れる
$3.0$ 受け入れる 受け入れる

(証明終)

観察 4.5 $0.707$ と $1.886$ のあいだでは、二つの答が正反対である。そしてその帯こそ、実際に問いが立つ場所である。見積もりは、それを使いたいところでこそ間違う。

観察 4.6 正確な値 $1/\sqrt2$ は引用である。本稿が厳密に計算したのは壁の費用だけであり、交差点を出すには秩序変数と場の二つの方程式を一緒に解かねばならない。本稿はそれをしていない。

5. なぜ足せないのか

観察 5.1 理由は物質にではなく、結合にある。秩序変数は場を締め出し、場は秩序変数を押し下げる。だから壁の費用は「場がある状態で」計算されねばならず、場の節約は「秩序が回復しつつある状態で」計算されねばならない。片方ずつ別に出した数を足すことは、どちらの計算も相手がいない世界で行ったということである。

観察 5.2 論文191 が同じ形を持っている。あちらでは反応も拡散も単独では模様を作れず、合わせるとどちらとも逆のことが起きた。こちらでは、費用を単独で出して足すと交差点が $8/3$ ずれる。二つは同じ注意の表と裏である。結合した系では、部分の振る舞いから全体の振る舞いは出ない。

観察 5.3 そして受け入れる側になったとき、入ってくる場が量子化されているのは別の理由による。位相の巻き数が整数でなければならないからであり、それは論文185 の分類そのものである。行き先の空間が円だから、巻き数は整数になる。比が符号を決めるのはエネルギーの話、量子化されるのは位相の話であり、別の根である。

6. 点呼:外から入らない長さ

観察 6.1 

どこ 何の長さ 何から作られるか 現れないもの
論文191 縞の幅 拡散定数 $\div$ 速さ 容器
本稿 回復の長さと侵入の長さ 係数の組合せ 試料
論文182 (長さが無い) 。 次元だけが効く

観察 6.2 二つの回で、長さは「与えられる」ものではなく「作られる」ものであった。そして本稿では、作られた長さが二つあるために、比という無次元量だけが効く。

7. 結論

  1. 二つの長さは係数から作られる(検算2.1):試料は現れない。
  2. 壁の費用は厳密(検算3.2):求積と $4\sqrt2\,\xi/3$ が差ゼロ。
  3. 初稿の閉じた形は二倍ずれていた(観察3.3):求積との突き合わせが捕まえた。
  4. 足し算の見積もりは $8/3$ だけ外す(検算4.2):$1.885618$ 対 $0.707107$。
  5. その帯では答が正反対(検算4.4)。
  6. 正確な交差点は引用(観察4.6)。

結び:「この費用とあの節約が釣り合うところで切り替わる」と言われたら、次に問うべきはその二つが互いに独立かである。独立でなければ、別々に出した数を足すことはできない。片方の計算は、もう片方がいない世界で行われているからである。ここではその代償が、ちょうど $8/3$ という形で現れた。

参考文献

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  8. 山岸勇輝 (2026). 対称性の破れは一語ではない [論文175]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22097873
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  10. 山岸勇輝 (2026). 欠陥を分類しているのは行き先の空間である [論文185]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22105496
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  12. 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
  13. 山岸勇輝 (2026). 均すはずのものが、模様を作る [論文191]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106439
  14. 山岸勇輝 (2026). 「小さな世界」は、三つの別の主張である [論文192]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106544

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「結合した二つの費用は、別々に見積もって足せない」[論文193]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22106668

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 結合した二つの費用は、別々に見積もって足せない [論文193]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/193 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22106668

Yamagishi, Y. (2026). Two Coupled Costs Cannot Be Added [Paper 193]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/193; DOI: 10.5281/zenodo.22106668

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