【論文198】「まっすぐ」は「最短」を意味せず、柵は二つある

要旨

測地線の定義は「加速度がゼロ」であって「最短」ではない。本稿は二つがいつずれるかを数で測り、柵が二つあることを示す。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。

第一に、曲率の符号が共役点の有無を決める。ヤコビ方程式を積分すると、$K=+1$ では最初の零点が $3.141592653592$ に現れ、$K=0$ と $K=-1$ では長さ $40$ まで一度も現れない(第2節)。

第二に、第二変分は長さ $\pi$ でちょうど符号を変える。単位球の大円弧について指数形式を求積すると、$L=3$ で $+0.144934066848226$、$L=3.2$ で $-0.057874312329788$ であり、閉じた形 $(\pi^2-L^2)/(2L)$ と十五桁で一致した(第4節)。

第三に、これが本稿の芯である。平らな円筒には共役点が一つも無い。それでも半周を超えると最短でなくなる。指数形式は $L=6$ でも $+0.822467033424$ と正のままであり、それでも反対回りのほうが短い(第5節)。

第四に、二つの柵を分けているのは数ではない。球の共役点も円筒の切断点もどちらも $\pi\times$ 半径であり、値は一致する。分けているのは共役点が在るか無いかである(第6節)。

第五に、光の焦線は同じ方程式の同じ零点である。集光の強さ $K$ の細い光束は $y”+Ky=0$ に従い、零点は $\pi/\sqrt{K}$ に来る。$K=4$ で $1.570796326795$(第8節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。ヤコビ方程式、共役点、切断点、スツルムの比較定理は、いずれも標準的である。一般の多様体について切断点の位置を決めない。本稿が扱うのは球面と円筒という二つの例だけである。曲率の定義や種類を点呼しない。「曲率」という語の別根は論文91の主題であり、本稿はそこへ立ち入らない。実在の光学系について何も主張しない。第8節は方程式の形が同じであることを言うだけである。論文111 との関係:111 は光がどこまで幾何を決めるかを扱った。本稿は測地線という一つの語が三つの主張に分かれることを扱う。加えたのは曲率の符号と共役点の有無の対応を数値で並べたこと、第二変分の符号反転を求積と閉じた形の両方で確かめたこと、共役点を一つも持たない面で最短性が破れる例を測ったこと、二つの柵を分けているのが値ではなく存在であることを半径を変えて確かめたことである。

1. 記法と位置づけ

測地線とは、共変微分の意味で加速度がゼロの曲線である。これは微分の条件であって、長さについては何も言っていない。以下では三つの主張を区別する。(a) まっすぐ(加速度ゼロ)、(b) 局所最短(近くの曲線と比べて最短)、(c) 大域最短(すべての曲線と比べて最短)。数値積分はすべて自前の四次ルンゲ=クッタである。

位置づけ:論文91 は「曲率」という語の別根を点呼し、内在性を書いた。本稿はそこへは立ち入らず、定義と直観がどこでずれるかだけを測る。そして、ずれる場所が二か所あることを示す。

2. 曲率の符号が、共役点の有無を決める

測地線に沿った測地線の族のずれは、ヤコビ方程式 $J”+KJ=0$ に従う。$J(0)=0$、$J'(0)=1$ として、最初の零点を探す。零点があればそこが共役点である。

検算 2.1:

曲率 最初の零点 閉じた形
$K=+1$(球面) $3.141592653592$ $\pi=3.141592653590$
$K=0$(平面) $t=40$ まで無し $J=t$(零点なし)
$K=-1$(双曲面) $t=40$ まで無し $J=\sinh t$(零点なし)

観察 2.2 正の曲率だけが束を絞り、零と負は絞らない。共役点は「曲がっているから起きる」のではなく、正に曲がっているから起きる。

3. 曲率が大きいほど、共役点は早く来る

検算 3.1:定数曲率について最初の零点を測り、$\pi/\sqrt K$ と比べる。

$K$ 最初の零点 $\pi/\sqrt K$
$0.25$ $6.283185307178$ $6.283185307180$
$1$ $3.141592653592$ $3.141592653590$
$2$ $2.221441469079$ $2.221441469079$
$4$ $1.570796326795$ $1.570796326795$
$9$ $1.047197551196$ $1.047197551197$

検算 3.2:曲率が動く場合を試す。$K(t)=1+\sin^2 t$ は $1$ と $2$ のあいだを動く。最初の零点は $2.371344171431$ であり、$\pi/\sqrt2=2.221441$ と $\pi=3.141593$ のあいだに入った。

観察 3.3 スツルムの比較定理が言うとおり、曲率を上下から挟めば零点も挟まれる。曲率は「どこで絞るか」を決めており、絞るか絞らないかは符号が決めている。

4. 第二変分は、長さ $\pi$ でちょうど符号を変える

単位球面上の大円弧を長さ $L$ だけ取り、法線方向に $f(t)=\sin(\pi t/L)$ で揺らす。長さの二階の変分(指数形式)は $\int_0^L (f’^2-Kf^2)\,dt$ であり、$K=1$ である。

検算 4.1:

$L$ 求積 閉じた形 $(\pi^2-L^2)/(2L)$ 判定
$2$ $1.467401100272340$ $1.467401100272339$ 最短
$3$ $0.144934066848226$ $0.144934066848226$ 最短
$\pi$ $-0.000000000000000$ $0.000000000000000$ 境目
$3.2$ $-0.057874312329788$ $-0.057874312329788$ 最短でない
$3.5$ $-0.340056514130092$ $-0.340056514130092$ 最短でない
$4$ $-0.766299449863830$ $-0.766299449863830$ 最短でない

観察 4.2 長さが $\pi$ を超えると、すぐ近くにより短い曲線がある。大円弧はもはや局所的にすら最短ではない。そしてこの $\pi$ は、第2節で共役点が現れた $\pi$ と同じ点である。共役点は、局所最短性が終わる場所である。

5. 芯:平らな円筒には共役点が一つも無い

半径 $1$ の円筒を考える。円筒はガウス曲率が恒等的に零である(紙を丸めただけで、伸び縮みしていない)。ゆえにヤコビ方程式は $J”=0$ となり、解は $J=t$ で、どこまで行っても零にならない。共役点は一つも無い。

検算 5.1:それでも、円周方向に巻く測地線は半周を超えると最短でなくなる。

弧長 $L$ 反対回り 真の距離 判定
$1$ $5.283185$ $1.000000$ 最短
$3$ $3.283185$ $3.000000$ 最短
$\pi$ $3.141593$ $3.141593$ 最短(ただし一意でない)
$3.5$ $2.783185$ $2.783185$ 最短でない
$5$ $1.283185$ $1.283185$ 最短でない
$6$ $0.283185$ $0.283185$ 最短でない

検算 5.2:同じ測地線について指数形式を測る。$K=0$ なので $\int_0^L f’^2\,dt$ である。

$L$ 指数形式
$3$ $+1.644934066848$
$4$ $+1.233700550136$
$6$ $+0.822467033424$

観察 5.3 指数形式はどの $L$ でも正である。すなわちこの測地線は最後まで局所最短であり、近くの曲線をどう選んでも短くならない。それでも $L>\pi$ では最短ではない。短い道は「近く」には無く、反対回りという遠いところにある。

観察 5.4 ゆえに柵は二つある。局所最短性を囲っている柵は共役点の不在であり、大域最短性を囲っている柵は切断点の手前にいることである。二つは別の柵であり、円筒はその二つを完全に分離してみせる。共役点が一つも無いのに、切断点はある。

6. 二つの柵を分けているのは、数ではない

球の共役点は $\pi\times$ 半径にあり、円筒の切断点も $\pi\times$ 半径にある。数が一致しているので、同じものに見えるかもしれない。

検算 6.1:半径を変えて両方を測る。

半径 球の共役点 球の $\pi r$ 円筒の共役点
$0.5$ $1.570796326795$ $1.570796326795$ 無し
$1$ $3.141592653592$ $3.141592653590$ 無し
$2$ $6.283185307178$ $6.283185307180$ 無し
$3$ $9.424777960761$ $9.424777960769$ 無し

観察 6.2 二つの $\pi$ は独立に動かない。どちらも「半径 $r$ の円をちょうど半周した長さ」だからである。値が一致することに意味は無い。二つの柵を分けているのは値ではなく、共役点が在るか無いかである。球ではどちらも同じ場所にあるので分離できず、円筒では片方だけが在るので分離できる。

観察 6.3 ゆえに球だけを見ていると、二つの柵は一つに見える。最も対称な例が、いちばん区別を隠す。

7. 切断点は、最短性ではなく一意性が終わる場所である

検算 7.1:半径 $1$ の円筒で、弧長を切断点のまわりで動かす。

$L$ 反対回り 状況
$3.000000000$ $3.283185307$ 唯一の最短
$\pi=3.141592654$ $3.141592654$ 同点:最短が二本ある
$3.300000000$ $2.983185307$ 最短でない

観察 7.2 切断点でまず失われるのは最短性ではなく一意性である。ちょうど切断点では、その測地線はまだ最短であり、ただしもう一本と並んでいる。最短でなくなるのはその一歩先である。

8. 光の焦線は、同じ方程式の同じ零点である

細い光束の横方向のずれ $y$ は、集光の強さを $K$ として $y”+Ky=0$ に従う。焦点とは $y$ が零に戻る場所であり、これはヤコビ方程式と同じ方程式の同じ零点である。

検算 8.1:

集光の強さ $K$ 最初の零点 $\pi/\sqrt K$
$4$ $1.570796326795$ $\pi/2$
$1$ $3.141592653592$ $\pi$
$0.25$ $6.283185307178$ $2\pi$

観察 8.2 焦線と共役点は、同じ零点に別の名前をつけたものである。ただしこれは方程式の形が同じという主張であって、実在の光学系についての主張ではない。

9. 点呼と結び

三つの主張と、それぞれが破れる場所を並べる。

主張 球面での破れ 円筒での破れ
まっすぐ(加速度ゼロ) 破れない 破れない
局所最短(指数形式が正) $\pi r$ を超えると破れる 破れない
大域最短 $\pi r$ を超えると破れる $\pi R$ を超えると破れる

本稿が確かめたことを並べる。

  1. 正の曲率だけが共役点を作る(検算2.1):$K=+1$ で $3.141592653592$、$K\le0$ では長さ $40$ まで無し。
  2. 曲率が大きいほど早い(検算3.1):最初の零点は $\pi/\sqrt K$ に十二桁で一致。
  3. 第二変分は $\pi$ で符号を変える(検算4.1):求積と閉じた形が十五桁で一致。
  4. 円筒には共役点が一つも無く、それでも最短でなくなる(検算5.1、5.2):指数形式は $L=6$ でも $+0.822467033424$。
  5. 分けているのは値ではなく存在(検算6.1):どちらも $\pi\times$ 半径であり、球では二つの柵が重なって見えない。
  6. 切断点で先に失われるのは一意性(検算7.1)。
  7. 焦線は同じ方程式の同じ零点(検算8.1)。

結び:「測地線は最短経路である」という言い方は、二重に条件つきである。測地線の定義は加速度がゼロであり、それは長さについて何も言っていない。そこから最短へ行くには柵を二つ越えねばならず、その二つは別の柵である。一つめは共役点の不在であり、これは曲率が正のときだけ問題になる。二つめは切断点の手前にいることであり、これは曲率が零でも問題になる。平らな円筒は、一つめを一度も踏まずに二つめだけを踏んでみせる。曲がっていないのに、まっすぐ進むと遠回りになる。

参考文献

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  2. Bonnet, O. (1855). Sur quelques propriétés des lignes géodésiques. Comptes Rendus de l’Académie des Sciences, 40.
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  4. Klingenberg, W. (1959). Contributions to Riemannian Geometry in the Large. Annals of Mathematics, 69(3).
  5. do Carmo, M. P. (1992). Riemannian Geometry. Boston: Birkhäuser.
  6. Cheeger, J., Ebin, D. G. (1975). Comparison Theorems in Riemannian Geometry. Amsterdam: North-Holland.
  7. 山岸勇輝 (2026). 曲率は内在的である [論文91]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758406
  8. 山岸勇輝 (2026). スペクトルから形を聴く [論文102]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21836735
  9. 山岸勇輝 (2026). 光はどこまで幾何を決めるか [論文111]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21961685
  10. 山岸勇輝 (2026). 光が測れないのは、密度である [論文150]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22083989
  11. 山岸勇輝 (2026). 「安定」は六つの別の言葉であり、分けているのは何を揺らすかである [論文195]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22107170
  12. 山岸勇輝 (2026). 「収束する」は四つの別の主張であり、分けているのは何を捨てることを許すかである [論文197]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22107590

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「まっすぐ」は「最短」を意味せず、柵は二つある」[論文198]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22107954

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「まっすぐ」は「最短」を意味せず、柵は二つある [論文198]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/198 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22107954

Yamagishi, Y. (2026). “Straight” Does Not Mean “Shortest”, and There Are Two Fences [Paper 198]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/198; DOI: 10.5281/zenodo.22107954

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