【論文287】連続無限の誤りを離散にしているのは、符号ではなく測定である

要旨

量子ビットに入る誤りは連続無限にある。それを有限個の符号で訂正できるのは、なぜか。本稿が問うのは、離散化しているのは誰かである。答は、符号ではなく測定である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、一量子ビットの誤りを数える。$E=c_0I+c_1X+c_2Y+c_3Z$ には実パラメータが $\mathbf{8}$ つあり、連続無限である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。測定がそれを $I,X,Y,Z$ の $\mathbf{4}$ 通りに射影する。離散にしているのは測定であって、符号ではない(第2節)。

第三に、$X$ と $Z$ を直せば $Y$ も直る。$Y=iXZ$ だから、独立に直すべきは $2$ 種類だけである(第3節)。

第四に、符号が直せるのはごく一部である。$9$ 量子ビットのパウリ演算子 $4^9=\mathbf{262144}$ 個のうち、距離 $3$ が直すのは $\mathbf{28}$ 個、割合は $\mathbf{1.068\times10^{-4}}$(第4節)。

第五に、表面符号では $3.24$ 倍で $100$ 分の一である。$d=5\to9$、物理量子ビット $25\to81$ で論理誤り率 $10^{-3}\to10^{-5}$(第5節)。

第六に、分離子は「射影があるか」である。古典符号には射影が要らない。誤りが最初から離散だからである(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。誤りの離散化、パウリ基底、安定符号、表面符号、閾値定理は、いずれも標準的である。符号を作らない。数えるのはパラメータの個数と、誤りの個数だけである。閾値定理を証明しない。$p_{th}\approx10^{-2}$ という値は数値として引くのみである。論理誤り率の式を導出しない。$(p/p_{th})^{(d+1)/2}$ は漸近形の目安であり、定数因子を無視している。第5節の値は「桁」であって予言値ではない。表面符号の実装を論じない。格子の形も、測定回路も、デコーダも一切扱わない。物理量子ビット数 $\approx d^2$ は最も単純な見積りである。相関誤りを扱わない。第4節の数え上げは独立な単一量子ビット誤りを仮定している。相関があれば重み $1$ の枠から外れる。$1.068\times10^{-4}$ を悲観的に読まない。これは全パウリ演算子に対する割合であって、実際に起きる誤りに対する割合ではない。起きやすい誤りが重み $1$ に集中していれば実用上は十分である。本稿はどちらが実際かを主張しない。兄弟編について:論文281 は同じ量子誤り訂正を扱い、シンドロームが誤りについて $8$ ビット・状態について $0$ ビット語ることを数えた。根は同じ(測定が状態を壊さない)だが、問いが違う。あちらは測定が何を取らないか、本稿は測定が何を離散にするかである。読者は両方を並べて読むことを勧める。既刊との関係:論文163 は「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」を分けた。本稿は構成された符号が実際に何個の誤りを覆うかを数える。論文179 は「構成できない」に別根があると示した。本稿の $d=4$ 不可も数え上げが根である。論文252 は「情報量」が四つあると数えた。本稿は連続なパラメータと離散な結果を分ける。論文269 は結晶が禁じるのが周期性だと示した。本稿の離散化も構造が課すものである。加えたのは一量子ビットの誤りが実パラメータ $8$ つで、測定後に $4$ 通りになると数えたこと、$4^9=262144$ に対して距離 $3$ が覆うのが $28$ 個・$1.068\times10^{-4}$ だと計算したこと、表面符号で $3.24$ 倍が $100$ 分の一に対応すると確かめたこと、古典との差を「射影が要るかどうか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:一量子ビットに入る誤りは、$2\times2$ の行列 $E$ で表される。パウリ行列を基底に取れば

$$E=c_0 I+c_1 X+c_2 Y+c_3 Z$$

と書ける。

問い:$c_i$ は連続に動く。それでも有限個の誤りしか直せない符号で訂正できるのは、なぜか。

観察 1.1 よくある説明は「符号が誤りを離散化する」である。本稿はこれを正確でないと見る。離散化しているのは測定である。

2. 芯:$8$ つの実パラメータが $4$ 通りに落ちる

検算 2.1:測定の前後で、誤りの自由度を数える。

誤りの種類 個数・次元
測定前 $c_0I+c_1X+c_2Y+c_3Z$ 実パラメータ $\mathbf{8}$ つ(連続無限)
測定後 $I$ または $X$ または $Y$ または $Z$ $\mathbf{4}$ 通り(離散)

観察 2.2 これが本稿の芯である。符号は何も離散化していない。シンドローム測定が、状態を四つの枝のどれか一つに射影する。そのあとに残っているのは一つのパウリ誤りであり、それを打ち消せばよい。

観察 2.3 したがって「連続が離散になる」のは測定のしわざである。同じ射影が、論文281 では状態について $0$ ビットしか取らないという形で現れた。同じ一つの測定が、二つの働きをしている。

検算 2.4:$n$ 量子ビットに広げる。

$n$ パウリ演算子 $4^n$ 測定前の実パラメータ $2\cdot4^n$
$1$ $4$ $8$
$5$ $1024$ $2048$
$7$ $16384$ $32768$
$9$ $\mathbf{262144}$ $524288$

観察 2.5 $n=9$ でも、測定後に残るのは $\mathbf{262144}$ 通りの離散な誤りである。$524288$ 次元の連続空間が、有限集合に落ちている。この落下だけが、訂正を可能にしている。

3. $X$ と $Z$ を直せば、$Y$ も直る

観察 3.1 パウリ行列には $Y=iXZ$ という関係がある。したがって $X$ 型の誤りと $Z$ 型の誤りを別々に直せる符号は、$Y$ 型も自動的に直る。$3$ 種類ではなく $2$ 種類を直せばよい。

観察 3.2 ショアの $9$ 量子ビット符号がこの形をしている。三個ずつの束で位相反転($Z$)を、束の中でビット反転($X$)を直す。$3\times3$ という構造は、$2$ 種類を別々に扱うためのものである。

観察 3.3 ここが古典符号と違う点である。古典では誤りはビット反転の一種類しかない。位相という自由度が無いからである。

検算 3.4:同じ距離の古典符号と量子符号で、直すべき誤りの数を比べる。

符号 $n$ 誤りの種類 訂正すべき誤りの数
古典ハミング $[7,4,3]$ $7$ ビット反転のみ $1+n=\mathbf{8}$
量子 $[[7,1,3]]$(ステイン) $7$ $X$、$Y$、$Z$ $1+3n=\mathbf{22}$
比 $\mathbf{2.75}$ 倍

観察 3.5 同じ $n=7$、同じ距離 $3$ で、量子符号は $\mathbf{2.75}$ 倍の誤りを覆わねばならない。それでも $k=1$ が取れる。古典の $k=4$ と比べて、埋め込める情報が $4$ 分の一に減っている。

4. 符号が直せるのは、$1.068\times10^{-4}$ にすぎない

設定:距離 $d$ の符号は重み $t=\lfloor(d-1)/2\rfloor$ 以下のパウリ誤りを直す。その個数は $\sum_{k=0}^{t}\binom{n}{k}3^k$ である。

検算 4.1:

$d$ $t$ 物理量子ビット $n$ 直せる誤りの数 $4^n$ に占める割合
$3$ $1$ $9$ $\mathbf{28}$ $\mathbf{1.068\times10^{-4}}$
$5$ $2$ $25$ $2776$ $2.466\times10^{-12}$
$7$ $3$ $49$ $508180$ $1.604\times10^{-24}$
$9$ $4$ $81$ $137095984$ $2.345\times10^{-41}$

観察 4.2 $9$ 量子ビットのパウリ誤りは $\mathbf{262144}$ 通りあり、距離 $3$ の符号が直せるのは $\mathbf{28}$ 通りだけである。割合は $\mathbf{1.068\times10^{-4}}$、符号は、ほとんどの誤りを直せない。

観察 4.3 しかも符号を大きくすると、割合は急速に下がる。$d=9$ では $2.345\times10^{-41}$、直せる誤りの数は増えるのに、全体に占める割合は $10^{37}$ 分の一に落ちる。

観察 4.4 正直に書くべき点、この数を悲観的に読んではいけない。これは全パウリ演算子に対する割合であって、実際に起きる誤りに対する割合ではない。物理的な誤りが重み $1$ のあたりに集中していれば、$28$ 個で足りる。

観察 4.5 したがって符号が前提しているのは「誤りが疎である」ことである。相関誤りが入れば、この仮定は破れる。$1.068\times10^{-4}$ という数は、その仮定の重さを示している。

5. 表面符号:$3.24$ 倍で $100$ 分の一

設定:表面符号は物理量子ビット数がおよそ $d^2$ で、論理誤り率が $(p/p_{th})^{(d+1)/2}$ に従う。$p=10^{-3}$、$p_{th}=10^{-2}$ とする。

検算 5.1:

$d$ 物理量子ビット $d^2$ 論理誤り率
$3$ $9$ $1.000\times10^{-2}$
$5$ $25$ $1.000\times10^{-3}$
$7$ $49$ $1.000\times10^{-4}$
$9$ $81$ $1.000\times10^{-5}$
$11$ $121$ $1.000\times10^{-6}$

検算 5.2:代償を比で書く。

$d$ の変化 物理量子ビットの倍率 論理誤り率の倍率
$3\to5$ $2.7778$ $1/10$
$\mathbf{5\to9}$ $\mathbf{3.2400}$ $\mathbf{1/100}$
$3\to9$ $9.0000$ $1/1000$
$9\to11$ $1.4938$ $1/10$

観察 5.3 物理量子ビットを $\mathbf{3.24}$ 倍にすると、論理誤り率が $\mathbf{100}$ 分の一になる。三倍の資源で二桁、多項式の代償で指数の利得であり、これが閾値定理の中身である。

観察 5.4 ただし $p<p_{th}$ でなければならない。$p>p_{th}$ なら $(p/p_{th})>1$ となり、$d$ を上げるほど悪くなる。同じ式が、閾値の両側で向きを変える。

観察 5.5 正直に書くべき点、$(p/p_{th})^{(d+1)/2}$ は定数因子を落とした漸近形である。第5節の値は「桁」であって、実機の予言ではない。

6. 分離子:射影が要るかどうか

観察 6.1 分離子、何を動かすと、離散化の必要が消えるか。誤りが最初から離散であることである。

誤りの空間 離散化
古典符号 $\{0,1\}^n$(最初から離散) 不要
量子符号 $2^n\times2^n$ 行列(連続) 測定による射影が要る

観察 6.2 古典符号では、誤りはビットが反転したかどうかであり、中間が無い。量子では振幅がわずかにずれるという誤りがある。「わずかにずれた」を直すことはできないが、測ってしまえば「ずれた」か「ずれていない」かになる。

観察 6.3 これは論文269 の構図と似ている。あちらでは周期性という構造が、許される対称性を離散な五つに絞った。ここでは測定という操作が、連続な誤りを離散な四つに絞る。どちらも、絞っているのは対象そのものではない。

観察 6.4 論文163 は「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」を分けた。本稿は構成された符号について、それが実際に何を覆うかを数えた。$262144$ 個のうち $28$ 個であり、存在の証明では見えない数である。

7. 点呼と結び

  1. 一量子ビットの誤りは実パラメータ $8$ つ(検算2.1):連続無限。
  2. 測定後は $4$ 通り(検算2.1):離散化は測定のしわざ。
  3. $n=9$ で $4^9=262144$(検算2.4):$524288$ 次元が有限集合に落ちる。
  4. $Y=iXZ$(観察3.1):独立に直すのは $2$ 種類。
  5. 古典 $8$ 対 量子 $22$(検算3.4):$2.75$ 倍。
  6. 距離 $3$ が直すのは $28$ 個(検算4.1):$1.068\times10^{-4}$。
  7. $d=9$ では $2.345\times10^{-41}$(検算4.1):割合は下がる。
  8. $d=5\to9$ で $3.2400$ 倍(検算5.2):論理誤り率 $1/100$。
  9. $p>p_{th}$ なら逆向き(観察5.4):同じ式が向きを変える。
  10. 古典に射影は要らない(観察6.1):最初から離散だから。

結び:量子誤り訂正でよく言われる「連続な誤りが離散化される」は正しい。ただし離散化しているのは符号ではなく、測定である。一量子ビットの誤りには実パラメータが $\mathbf{8}$ つあり、連続無限であるが、シンドローム測定が $I,X,Y,Z$ の $\mathbf{4}$ 通りに射影する。そのあとに残るのは一つのパウリ誤りであり、打ち消せばよい。$Y=iXZ$ なので、独立に直すべきは $2$ 種類である。一方で、符号が覆う範囲は狭い。$9$ 量子ビットのパウリ誤り $\mathbf{262144}$ 通りのうち、距離 $3$ が直せるのは $\mathbf{28}$ 通り、$\mathbf{1.068\times10^{-4}}$ にすぎない。それでも動くのは誤りが疎だという仮定が効いているからである。そして代償は多項式で済む、物理量子ビットを $\mathbf{3.24}$ 倍にすると、論理誤り率が $\mathbf{100}$ 分の一になる。分けるものは一つ、誤りが最初から離散か、射影を要するか。古典符号に射影は要らない。量子符号では、測ることが訂正の前提であり、測ることが状態を壊さないという別の事実が、それを可能にしている。

参考文献

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  8. 山岸勇輝 (2026). 「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」は、別の文である [論文163]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092677
  9. 山岸勇輝 (2026). 複製できないのに、訂正はできる [論文281]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171058
  10. 山岸勇輝 (2026). 「構成できない」にも別根がある [論文179]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22098419
  11. 山岸勇輝 (2026). 「情報量」は四つあり、要るものが違う [論文252]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22161148
  12. 山岸勇輝 (2026). 結晶が禁じているのは対称性ではなく、周期性である [論文269]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169855

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「連続無限の誤りを離散にしているのは、符号ではなく測定である」[論文287]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22171265

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 連続無限の誤りを離散にしているのは、符号ではなく測定である [論文287]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/287 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171265

Yamagishi, Y. (2026). What Discretises a Continuum of Errors Is Not the Code but the Measurement [Paper 287]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/287; DOI: 10.5281/zenodo.22171265

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