【論文301】値で組むと、根で組んだのと逆になる

要旨

黄金比は体系に三度現れた。結晶が五回対称を禁じる理由(論文269)、割線法の収束次数(論文288)、そして本稿が加えるフィボナッチ母関数の極である。本稿が問うのは、三つは同根かである。答は、二つは同根で、一つは別根である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、数値では $(1)$ と $(3)$ が完全に一致する。$2\cos72^\circ$ と母関数の極は差が $\mathbf{0}$、$(2)$ だけ違う数である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。判定は逆になる。$(2)$ と $(3)$ が同根で、$(1)$ が別根である(第3–5節)。

第三に、基準A が $(1)$ を落とす。$2\cos(2\pi/n)$ を $n$ で動かすと、黄金比が出るのは $\mathbf{n=5}$ の一点だけである(第3節)。

第四に、基準B が $(2)$ と $(3)$ をつなぐ。割線法の誤差に現れる $e_0$、$e_1$ の指数は、$F_{n-1}$ と $F_n$ そのものである(第4節)。

第五に、基準C も同じ判定を返す。$(1)$ は幾何から、$(2)$ と $(3)$ は同一の漸化式から来る(第5節)。

第六に、三基準が一致した。値による組分けは、三つとも否定した(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。結晶学的制限、割線法の収束次数、フィボナッチ母関数、ビネの公式は、いずれも標準的である。数論を作らない。使うのは一つの漸化式と、二つの二次方程式だけである。黄金比に意味を主張しない。美的な性質も、自然界での普遍性も一切扱わない。三つの出現の系譜だけを判定する。基準を新しく作らない。使う三つの基準は論文31・101(変数を動かす)、論文56(恒等性を保つ対応)、論文279(道筋)であり、いずれも既刊にある。五つの基準を全部は使わない。論文116(量の持ち物)と論文153(写像の個数)は本件に適用できる形になっていない。三つで一致したことをもって、五つで一致するとは言わない。$(1)$ を格下げしない。別根であることは、劣っていることではない。論文269 の結論は本稿によって何も変わらない。代数的な関係を否定しない。$\varphi$ と $1/\varphi$ は同じ体 $\mathbb{Q}(\sqrt5)$ に属し、相反多項式の根である。本稿が別根と呼ぶのは、その代数的関係ではなく、体系の中での由来である。既刊との関係:論文300 は体系が使ってきた同根判定の基準を五つ集め、そのうえで「つなぐ回数が増え、基準を書く回数が増えていない」と自分に警告した。本稿はその警告に答える最初の編であり、集めた基準を明示的に適用する。論文288 は $\varphi$ と $1/\varphi$ が同じ二次方程式から出ることに触れ、「この一致に意味があるとは主張しない」と保留した。本稿はその保留を、基準を使って解く。論文269 は結晶が禁じるのが周期性だと示した。本稿の $(1)$ はその帰結の数である。論文112 は「同じ韻を踏む六つの別根」を数えた。本稿は韻が三つあり、根は二つという場合である。加えたのは数値による組分けと判定による組分けが完全に食い違うと示したこと、割線法の誤差指数がフィボナッチ列と $n=2$ から $10$ まで完全一致すると確かめたこと、三つの基準がすべて同じ判定を返すと確かめたこと、論文300 の警告に対する最初の応答としたことである。

1. 三度目の出会い

体系は黄金比に三度出会った。

出どころ 値
$(1)$ 結晶学的制限 $2\cos72^\circ$(論文269) $0.6180339887498949$
$(2)$ 割線法の収束次数 $p$、$p^2=p+1$(論文288) $1.6180339887498949$
$(3)$ フィボナッチ母関数 $G(x)=x/(1-x-x^2)$ の極(本稿) $0.6180339887498949$

観察 1.1 論文288 はこの一致に触れ、「本稿はこの一致に意味があるとは主張しない」と保留した。当時、判定基準は五編に散らばったままだった。論文300 がそれを集めた。

観察 1.2 論文300 は同時に、自分に警告を出した。「つなぐ回数が増え、基準を書く回数が増えていない」。本稿はその警告に答える最初の編である。基準を明示して、適用する。

2. 芯の前半:値で組むと $(1)$ と $(3)$ になる

検算 2.1:三つの値を突き合わせる。

組 差
$(1)$ と $(3)$ $\mathbf{0.00\times10^{0}}$ 完全に一致
$(1)$ と $(2)$ $1.0000000000$ 別の数
$(2)$ と $(3)$ $1.0000000000$ 別の数

観察 2.2 数値だけを見れば、答は明白に見える。$(1)$ と $(3)$ が同じで、$(2)$ が違う。しかも差は近いのではなく $\mathbf{0}$である。浮動小数点の最終桁まで一致する。

検算 2.3:満たす方程式も見ておく。

満たす二次方程式 残差
$\varphi=1.618\dots$ $x^2-x-1=0$ $0.00\times10^{0}$
$1/\varphi=0.618\dots$ $x^2+x-1=0$ $1.11\times10^{-16}$

観察 2.4 二つは同じ方程式ではない。相反多項式であり、同じ体 $\mathbb{Q}(\sqrt5)$ に属するが、多項式としては別である。

観察 2.5 したがって値で組めば $\{(1),(3)\}$ 対 $(2)$、方程式で組んでも同じである。見えるところは、すべて同じ組分けを支持している。

3. 基準A(変数を動かす)は $(1)$ を落とす

設定:論文31 と論文101 の基準は、一点の値の一致ではなく、変数を動かしたときに一致し続けるかである。

検算 3.1:$(1)$ の属する族 $2\cos(2\pi/n)$ を $n$ で動かす。

$n$ $2\cos(2\pi/n)$
$1$ $+2.0000000000$
$2$ $-2.0000000000$
$3$ $-1.0000000000$
$4$ $+0.0000000000$
$\mathbf{5}$ $\mathbf{+0.6180339887}$ ここだけ $1/\varphi$
$6$ $+1.0000000000$
$7$ $+1.2469796037$
$8$ $+1.4142135624$

観察 3.2 黄金比が出るのは $\mathbf{n=5}$ の一点だけである。$n$ を一つ動かせば $0$ になり、もう一つ動かせば $1$ になる。動かすと消える。

観察 3.3 $(2)$ と $(3)$ には、動かす変数が無い。$p^2=p+1$ も $1-x-x^2=0$ も$n$ を持たない。恒等的に $\varphi$ であり、一点の値ではない。

観察 3.4 論文101 の言い方をそのまま当てはめる。「一点の値の一致でなく、変数を動かしたときに関数として一致し続けるか」。$(1)$ は一点の値の一致である。基準A は $(1)$ を落とす。

観察 3.5 ここで結晶学的制限の側から見ておく。$2\cos(2\pi/n)$ が整数になるのは $n=1,2,3,4,6$ であり、$n=5$ で整数にならないことが五回対称を禁じる。つまり $(1)$ の黄金比は、「整数でない」という性質のほうで働いている。値が $\varphi$ であることは、この禁止に使われていない。

4. 基準B(恒等性を保つ対応)は $(2)$ と $(3)$ をつなぐ

設定:論文56 の定義4.1 は、恒等性を保つ対応が存在することを求め、数値的一致のみでは同根と見なさないと書いた。

検算 4.1:割線法の誤差は $e_{n+1}\sim C e_n e_{n-1}$ で伝わる。展開したとき、$e_0$ と $e_1$ の指数を数える。

$n$ $e_0$ の指数 $e_1$ の指数 $F_{n-1}$ $F_n$
$2$ $1$ $1$ $1$ $1$
$3$ $1$ $2$ $1$ $2$
$4$ $2$ $3$ $2$ $3$
$5$ $3$ $5$ $3$ $5$
$6$ $5$ $8$ $5$ $8$
$7$ $8$ $13$ $8$ $13$
$8$ $13$ $21$ $13$ $21$
$9$ $21$ $34$ $21$ $34$
$10$ $34$ $55$ $34$ $55$

観察 4.2 $n=2$ から $10$ まで、完全に一致する。割線法の誤差指数はフィボナッチ列そのものである。似ているのではなく、同じ列である。

観察 4.3 これは数値の一致ではない。一致しているのは列と列であり、各項が対応している。論文56 が求めた「恒等性を保つ対応」が、そのまま存在する。

検算 4.4:母関数の側を見る。

量 値
$G(x)=x/(1-x-x^2)$ の極 $+0.6180339887498949$、$-1.6180339887498949$
収束半径(最小の極) $0.6180339887498949=1/\varphi$
$F_n$ の増大率($1/$収束半径) $\mathbf{1.6180339887498947}=\varphi$

観察 4.5 母関数の分母 $1-x-x^2$ は、フィボナッチの漸化式 $F_n=F_{n-1}+F_{n-2}$ をそのまま書いたものである。そして割線法の指数も同じ漸化式に従う。$(2)$ と $(3)$ は、同じ一つの漸化式の二つの姿である。

検算 4.6:ビネの公式で裏を取る。

$n$ $F_n$ $(\varphi^n-\psi^n)/\sqrt5$ 差
$10$ $55$ $55.000000$ $1.42\times10^{-14}$
$20$ $6765$ $6765.000000$ $4.55\times10^{-12}$
$30$ $832040$ $832040.000000$ $8.15\times10^{-10}$
$40$ $102334155$ $102334155.000000$ $1.34\times10^{-7}$

観察 4.7 差は浮動小数点の丸めだけである(相対で $10^{-15}$)。$\varphi$ はフィボナッチ列の中に、定義から入っている。外から一致したのではない。

検算 4.8:比 $F_{n+1}/F_n$ の収束。

$n$ $F_{n+1}/F_n$ $\varphi$ との差
$5$ $1.6000000000000001$ $1.80\times10^{-2}$
$10$ $1.6181818181818182$ $1.48\times10^{-4}$
$20$ $1.6180339985218033$ $9.77\times10^{-9}$
$30$ $1.6180339887505408$ $6.46\times10^{-13}$
$40$ $1.6180339887498949$ $\mathbf{0.00\times10^{0}}$

観察 4.9 $n=40$ で機械精度に達する。$(3)$ の $\varphi$ は、列そのものが生む、$(2)$ の $\varphi$ も、同じ列が生んでいる。

5. 基準C(道筋)も同じ判定を返す

設定:論文279 の基準は、同根か別根かは道筋で判定するである。

検算 5.1:

どこから来たか 種類
$(1)$ 正五角形の対角線比 $/$ 並進対称性の制限 幾何
$(2)$ 誤差の二項漸化式 $e_{n+1}\sim e_ne_{n-1}$ 漸化式
$(3)$ 母関数の分母 $1-x-x^2$ 漸化式(同一)

観察 5.2 $(2)$ と $(3)$ は同じ漸化式に行き着く。$(1)$ はそこへ行かない。正五角形の対角線比は、漸化式を経由せずに $\varphi$ を出す。

観察 5.3 正直に書くべき点、$(1)$ にも漸化式との関係はある。五角形を入れ子にすれば $\varphi$ の冪が並び、フィボナッチと結びつく。しかしそれは別の話であり、論文269 が使った経路ではない。本稿が判定しているのは、体系の中で実際に通った道筋である。

6. 三基準が一致し、値による組分けを否定した

検算 6.1:判定表をまとめる。

基準A(動かす) 基準B(対応) 基準C(道筋)
$(1)$ 結晶 一点だけ 無し 幾何
$(2)$ 割線法 恒等 $F_n$ と一致 漸化式
$(3)$ 母関数 恒等 $F_n$ そのもの 漸化式

観察 6.2 これが本稿の芯である。

組み方 出る組
値で組む $\{(1),(3)\}$ 対 $(2)$
判定で組む $\{(2),(3)\}$ 対 $(1)$

観察 6.3 二つは完全に食い違っている。値で同じだった $(1)$ と $(3)$ が別根になり、値で違った $(2)$ と $(3)$ が同根になる。差 $\mathbf{0}$ の一致が、間違った組分けを指していた。

観察 6.4 論文56 の定義4.1 は「数値的一致のみでは同根と見なさない」と書いた。本稿はそれより強いことを示している。数値的一致は、証拠にならないだけでなく、逆を指すことがある。

観察 6.5 三つの基準が独立に同じ判定を返したことも記録する。基準A は $(1)$ を落とし、基準B は $(2)(3)$ をつなぎ、基準C は両方を確認した。一つの基準だけなら偶然かもしれないが、三つが揃った。

観察 6.6 正直に書くべき点、論文300 が集めた基準は五つあり、本稿は三つしか使っていない。論文116(量の持ち物=質量次元)と論文153(写像の個数)は、本件に適用できる形になっていない。三つで一致したことをもって、五つで一致するとは言わない。

観察 6.7 そして $(1)$ を格下げしない。別根であることは、劣っていることではない。論文269 の結論は本稿によって何も変わらない。変わったのは、三つを一本にまとめたくなる誘惑への答だけである。

観察 6.8 分離子、何を動かすと、判定が入れ替わるか。見る対象である。出てきた数を見れば $\{(1),(3)\}$、数を生んだものを見れば $\{(2),(3)\}$、同じ三つの対象が、見る場所で二通りに分かれる。

7. 点呼と結び

  1. $(1)$ と $(3)$ の差は $0$(検算2.1):最終桁まで一致。
  2. $\varphi$ と $1/\varphi$ は別の多項式(検算2.3):相反だが同一ではない。
  3. $2\cos(2\pi/n)$ は $n=5$ だけ(検算3.1):動かすと消える。
  4. $(2)(3)$ には動かす変数が無い(観察3.3):恒等。
  5. 誤差指数は $F_{n-1}$、$F_n$ そのもの(検算4.1):$n=2$–$10$ で完全一致。
  6. 母関数の分母は漸化式そのもの(観察4.5):$1-x-x^2$。
  7. ビネの差は丸めだけ(検算4.6):相対 $10^{-15}$。
  8. $F_{41}/F_{40}$ は差 $0$(検算4.8):$n=40$ で機械精度。
  9. 三基準が同じ判定(検算6.1):$(2)(3)$ 同根、$(1)$ 別根。
  10. 値と判定が完全に食い違う(観察6.3):差 $0$ が逆を指した。

結び:黄金比は体系に三度現れた。結晶が五回対称を禁じる理由、割線法の収束次数、フィボナッチ母関数の極である。数値だけを見れば答は明白に見える。$(1)$ と $(3)$ は差が $\mathbf{0}$ で最終桁まで一致し、$(2)$ だけが違う数である。ところが判定は逆になる。基準A(変数を動かす)は $(1)$ を落とす。$2\cos(2\pi/n)$ で黄金比が出るのは $\mathbf{n=5}$ の一点だけで、動かせば消える。基準B(恒等性を保つ対応)は $(2)$ と $(3)$ をつなぐ、割線法の誤差に現れる $e_0$、$e_1$ の指数は $F_{n-1}$ と $F_n$ そのものであり、$n=2$ から $10$ まで完全に一致する。基準C(道筋)も同じ判定を返す。$(1)$ は幾何から、$(2)$ と $(3)$ は同一の漸化式から来る。分けるものは一つ、出てきた数を見るか、数を生んだものを見るか。値で組めば $\{(1),(3)\}$、判定で組めば $\{(2),(3)\}$、差 $\mathbf{0}$ の一致が、間違った組分けを指していた。論文56 は「数値的一致のみでは同根と見なさない」と書いた。本稿が加えるのは、それより一段強い一文である。数値的一致は、証拠にならないだけでなく、逆を指すことがある。

参考文献

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  13. 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「値で組むと、根で組んだのと逆になる」[論文301]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22171947

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 値で組むと、根で組んだのと逆になる [論文301]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/301 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171947

Yamagishi, Y. (2026). Grouping by Value Gives the Reverse of Grouping by Root [Paper 301]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/301; DOI: 10.5281/zenodo.22171947

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