要旨
「有意水準 $5\%$」は、一回の検定について偽陽性を $5\%$ に抑えるという約束である。本稿が問うのは、何回か試したときも $5\%$ かである。答は、そうならないである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、回数で崩れる。$5$ 回で $0.226219$、$10$ 回で $0.401263$(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。$20$ 回試せば、どこかが有意になる確率は $\mathbf{0.641514}$(第2節)。
第三に、$100$ 回なら $0.994079$ である。ほぼ確実に何かが出る(第2節)。
第四に、締めれば戻る。一回あたりを $0.0025$ にすると、全体の偽陽性は $\mathbf{0.048830}$(第3節)。
第五に、締めた分だけ見つからなくなる。偽陽性と偽陰性は同時には下げられない(第4節)。
第六に、分離子は「何回試したか」であり、それはデータに書かれていない(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。有意水準の定義、多重比較の族あたり誤り率、ボンフェローニ補正、検出力と第二種の誤りは、いずれも標準的である。統計学を作らない。使うのは一つの冪と、一つの割り算だけである。検定の是非を論じない。有意性検定そのものの妥当性は扱わない。約束が何回ぶんの約束かだけを見る。補正法を比較しない。ボンフェローニ以外(ホルム・ベンヤミニ=ホッホバーグなど)の性能比較には立ち入らない。検出力を計算しない。具体的な検出力の値は、効果量と標本数を決めないと出ない。本稿は向きだけを言う。再現性危機を論じない。学術出版の制度的な問題は扱わない。既刊との関係:論文223 は「ランダムである」が検定を通ることと短く書けないことの二つを指すと示し、全部の検定を通る構造つきの列を出した。向きが逆である。223 は検定が構造を見落とす側、本稿は検定が無い構造を見つける側である。論文164 は「確率」が四つの住所を持つと示した。本稿の $0.641514$ はそのうち一つの住所(頻度)の中での話である。論文183 は同じ表が二つの正しい答を持つと示した。本稿は同じデータが、試行回数の申告によって別の結論になることを示す。論文255 は「精度」が二つあり、較正で消えるのは一方だけだと示した。本稿の偽陽性と偽陰性も、同じ操作では両方下がらない。論文250 は同じ問いを二つの物差しで測ると符号が逆になると示した。本稿は物差しの本数そのものが答を変える。加えたのは回数ごとの族あたり誤り率を計算したこと、$20$ 回で $0.641514$、$100$ 回で $0.994079$ と出したこと、ボンフェローニ後の全体誤り率を $0.048830$ と確かめたこと、分離子を「何回試したかはデータに書かれていない」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:有意水準 $\alpha=0.05$ の検定を考える。帰無仮説が本当に正しいとき、誤って棄却する確率が $0.05$、これが約束である。
観察 1.1 この約束は「一回について」書かれている。独立に $k$ 回試せば、どれも誤らない確率は $(1-\alpha)^k$、したがって少なくとも一回誤る確率は $1-(1-\alpha)^k$ である。
問い:では、何回か試したときも $5\%$ なのか。
観察 1.2 答はそうならないである。回数を増やすだけで、約束は崩れる。
2. 芯:$20$ 回で $0.641514$
検算 2.1:$\alpha=0.05$、独立な $k$ 回。
| 検定の回数 $k$ | 少なくとも一回偽陽性 $1-(0.95)^k$ |
|---|---|
| $1$ | $0.050000$ |
| $5$ | $0.226219$ |
| $10$ | $0.401263$ |
| $\mathbf{20}$ | $\mathbf{0.641514}$ |
| $50$ | $0.923055$ |
| $100$ | $\mathbf{0.994079}$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。$20$ 回で $\mathbf{0.641514}$、三回に二回は、何も無いところから「有意」が出る。
観察 2.3 $100$ 回なら $0.994079$である。ほぼ確実に何かが出る。出たこと自体は、何の証拠にもならない。
観察 2.4 $k$ が小さいうちの伸びが速い。$1\to5$ で $4.5$ 倍、$5\to20$ で $2.8$ 倍、$20\to100$ で $1.5$ 倍、最初の数回でほとんど壊れる。
観察 2.5 正直に書くべき点、独立を仮定している。実際の検定は相関することが多く、相関があれば族あたり誤り率はこれより小さい。上の表は上限である。
3. 締めれば戻る
設定:ボンフェローニ補正は、一回あたりの水準を $\alpha/k$ に下げる。
検算 3.1:
| $k$ | 一回あたり $\alpha’=\alpha/k$ | 全体の偽陽性 $1-(1-\alpha’)^k$ |
|---|---|---|
| $20$ | $0.002500$ | $\mathbf{0.048830}$ |
| $100$ | $0.000500$ | $\mathbf{0.048782}$ |
観察 3.2 どちらも $0.05$ を下回って戻っている。しかも $k$ が大きいほどわずかに保守的になる。$0.048830$ と $0.048782$。
観察 3.3 約束を守るために払ったのは、水準である。$0.05$ が $0.0025$ になった。$20$ 分の一に締めた。
4. 締めた分だけ、見つからなくなる
観察 4.1 水準を締めると、本当に在る効果も棄却しにくくなる。偽陽性(第一種の誤り)を下げると、偽陰性(第二種の誤り)が上がる。同じ標本のままでは、両方は下げられない。
検算 4.2:何が動くかを並べる。
| 操作 | 偽陽性 | 偽陰性 | 代価 |
|---|---|---|---|
| 水準を締める | 下がる | 上がる | 見つからなくなる |
| 標本を増やす | 。 | 下がる | 手間と費用 |
| 検定の回数を減らす | 下がる | 。 | 問える問いが減る |
観察 4.3 ただで下げられるのは二行目だけである。そして二行目だけが金を要る。
観察 4.4 論文255 は「精度は二つあり、較正で消えるのは一方だけ」と書いた。ここでも同じ形である。一つの操作は一方しか動かさない。
5. 分離子:何回試したかは、データに書かれていない
観察 5.1 分離子、何回試したか。そしてそれは、出てきた数値のどこにも書かれていない。
検算 5.2:同じ $p=0.03$ という値が、文脈で意味を変える。
| 状況 | 補正後の閾値 | $p=0.03$ は |
|---|---|---|
| 検定を $1$ 回だけ行った | $0.05$ | 有意 |
| 検定を $20$ 回行った | $0.0025$ | 有意でない |
| 検定を $100$ 回行った | $0.0005$ | 有意でない |
観察 5.3 同じ $p$ 値が、三つの別の身分を持つ。データは同じ、計算も同じ、違うのは、報告されていない回数だけである。
観察 5.4 論文183 は「同じ表が二つの正しい答を持つ」と書いた。本稿は一段きつい。183 では二つの答が両方とも表の中にあったが、本稿の分岐はデータの外にある。
観察 5.5 論文223 との向きの違いを書いておく。
| 検定が | 中身は | |
|---|---|---|
| 論文223 | 通してしまう | 構造が在るのに見落とす |
| 本稿 | 弾いてしまう | 何も無いのに拾う |
観察 5.6 二つは同じ道具の、二つの外れ方である。論文300 の基準を当てると、同じ「検定」という語の下に別根が二つある。片方は検出力の不足、他方は回数の申告漏れであり、直し方が違う。
観察 5.7 最後に一つ、$0.641514$ は、誰かが不正をした数ではない。全員が正直に、規則どおりに $\alpha=0.05$ で検定して、それでもこうなる。約束の単位を取り違えているだけである。
6. 点呼と結び
- $5$ 回で $0.226219$(検算2.1):すぐに崩れる。
- $20$ 回で $0.641514$(検算2.1):三回に二回は出る。
- $100$ 回で $0.994079$(検算2.1):ほぼ確実。
- 最初の数回で壊れる(観察2.4):$1\to5$ で $4.5$ 倍。
- 独立は仮定(観察2.5):表は上限である。
- 締めれば $0.048830$(検算3.1):$0.05$ に戻る。
- 水準は $20$ 分の一(観察3.3):$0.05\to0.0025$。
- 両方は下げられない(検算4.2):ただなのは標本増だけ。
- 同じ $p$ が三つの身分(検算5.2):回数が書かれていない。
- 223 と向きが逆(観察5.5):見落としと、拾いすぎ。
結び:「有意水準 $5\%$」は一回の検定についての約束であり、研究一本についての約束ではない。独立に $k$ 回試せば、少なくとも一回誤る確率は $1-(0.95)^k$ である。$5$ 回で $0.226219$、$10$ 回で $0.401263$、$20$ 回で $\mathbf{0.641514}$、$100$ 回で $\mathbf{0.994079}$。三回に二回は、何も無いところから「有意」が出る。そして$100$ 回ならほぼ確実に出るので、出たこと自体は何の証拠にもならない。締めれば戻る。一回あたりを $0.0025$($20$ 分の一)にすれば全体の偽陽性は $\mathbf{0.048830}$ で $0.05$ を下回る。だが締めた分だけ、本当に在る効果も見つからなくなる。偽陽性と偽陰性は、同じ標本のままでは両方下げられない。ただで下げられるのは標本を増やすことだけで、それだけが金を要る。分けるものは一つ、何回試したか。そしてそれは、出てきた数値のどこにも書かれていない。同じ $p=0.03$ が、$1$ 回なら有意、$20$ 回なら有意でない。データも計算も同じで、違うのは報告されていない回数だけである。論文223 とは向きが逆である。223 は構造が在るのに検定が通してしまう側、本稿は何も無いのに検定が拾ってしまう側。同じ道具の二つの外れ方であり、直し方が違う。最後に一つ、$0.641514$ は誰かが不正をした数ではない。全員が正直に規則どおり検定して、それでもこうなる。約束の単位を取り違えているだけである。
参考文献
- Bonferroni, C. E. (1936). Teoria statistica delle classi e calcolo delle probabilita. Pubblicazioni del R. Istituto Superiore di Scienze Economiche e Commerciali di Firenze, 8.
- Holm, S. (1979). A Simple Sequentially Rejective Multiple Test Procedure. Scandinavian Journal of Statistics, 6(2).
- Benjamini, Y. and Hochberg, Y. (1995). Controlling the False Discovery Rate. Journal of the Royal Statistical Society B, 57(1).
- Ioannidis, J. P. A. (2005). Why Most Published Research Findings Are False. PLoS Medicine, 2(8).
- Miller, R. G. (1981). Simultaneous Statistical Inference, 2nd edition. New York: Springer.
- 山岸勇輝 (2026). 「確率」は四つの住所を持つ [論文164]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092815
- 山岸勇輝 (2026). 同じ表が、二つの正しい答を持つ [論文183]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104230
- 山岸勇輝 (2026). 検定を全部通り、それでも点は十五枚の平面に乗っている [論文223]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22120728
- 山岸勇輝 (2026). 同じ問いを二つの物差しで測ると、符号が逆になった [論文250]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22160733
- 山岸勇輝 (2026). 「精度」は二つあり、較正で消えるのは一方だけ [論文255]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168883
- 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「有意水準は「一回あたり」の約束であって、研究あたりではない」[論文317]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22208819
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/317・DOI 10.5281/zenodo.22208819・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 有意水準は「一回あたり」の約束であって、研究あたりではない [論文317]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/317 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22208819
Yamagishi, Y. (2026). A Significance Level Is a Promise per Test, Not per Study [Paper 317]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/317; DOI: 10.5281/zenodo.22208819
@misc{yamagishi2026yoi317,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {A Significance Level Is a Promise per Test, Not per Study},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/317},
doi = {10.5281/zenodo.22208819},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
9b17713a47df36d700a5098165e86dad0b2edfb16f938b1fb0ba0e9497dab697 yamagishi_yoi317_v1_jp.pdfc70fbb42a18980ae9f6b1c99ee1ca65deedff8341be0a5d46437c99f481c8295 yamagishi_yoi317_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。