【論文317】有意水準は「一回あたり」の約束であって、研究あたりではない

要旨

「有意水準 $5\%$」は、一回の検定について偽陽性を $5\%$ に抑えるという約束である。本稿が問うのは、何回か試したときも $5\%$ かである。答は、そうならないである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、回数で崩れる。$5$ 回で $0.226219$、$10$ 回で $0.401263$(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。$20$ 回試せば、どこかが有意になる確率は $\mathbf{0.641514}$(第2節)。

第三に、$100$ 回なら $0.994079$ である。ほぼ確実に何かが出る(第2節)。

第四に、締めれば戻る。一回あたりを $0.0025$ にすると、全体の偽陽性は $\mathbf{0.048830}$(第3節)。

第五に、締めた分だけ見つからなくなる。偽陽性と偽陰性は同時には下げられない(第4節)。

第六に、分離子は「何回試したか」であり、それはデータに書かれていない(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。有意水準の定義、多重比較の族あたり誤り率、ボンフェローニ補正、検出力と第二種の誤りは、いずれも標準的である。統計学を作らない。使うのは一つの冪と、一つの割り算だけである。検定の是非を論じない。有意性検定そのものの妥当性は扱わない。約束が何回ぶんの約束かだけを見る。補正法を比較しない。ボンフェローニ以外(ホルム・ベンヤミニ=ホッホバーグなど)の性能比較には立ち入らない。検出力を計算しない。具体的な検出力の値は、効果量と標本数を決めないと出ない。本稿は向きだけを言う。再現性危機を論じない。学術出版の制度的な問題は扱わない。既刊との関係:論文223 は「ランダムである」が検定を通ることと短く書けないことの二つを指すと示し、全部の検定を通る構造つきの列を出した。向きが逆である。223 は検定が構造を見落とす側、本稿は検定が無い構造を見つける側である。論文164 は「確率」が四つの住所を持つと示した。本稿の $0.641514$ はそのうち一つの住所(頻度)の中での話である。論文183 は同じ表が二つの正しい答を持つと示した。本稿は同じデータが、試行回数の申告によって別の結論になることを示す。論文255 は「精度」が二つあり、較正で消えるのは一方だけだと示した。本稿の偽陽性と偽陰性も、同じ操作では両方下がらない。論文250 は同じ問いを二つの物差しで測ると符号が逆になると示した。本稿は物差しの本数そのものが答を変える。加えたのは回数ごとの族あたり誤り率を計算したこと、$20$ 回で $0.641514$、$100$ 回で $0.994079$ と出したこと、ボンフェローニ後の全体誤り率を $0.048830$ と確かめたこと、分離子を「何回試したかはデータに書かれていない」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:有意水準 $\alpha=0.05$ の検定を考える。帰無仮説が本当に正しいとき、誤って棄却する確率が $0.05$、これが約束である。

観察 1.1 この約束は「一回について」書かれている。独立に $k$ 回試せば、どれも誤らない確率は $(1-\alpha)^k$、したがって少なくとも一回誤る確率は $1-(1-\alpha)^k$ である。

問い:では、何回か試したときも $5\%$ なのか。

観察 1.2 答はそうならないである。回数を増やすだけで、約束は崩れる。

2. 芯:$20$ 回で $0.641514$

検算 2.1:$\alpha=0.05$、独立な $k$ 回。

検定の回数 $k$ 少なくとも一回偽陽性 $1-(0.95)^k$
$1$ $0.050000$
$5$ $0.226219$
$10$ $0.401263$
$\mathbf{20}$ $\mathbf{0.641514}$
$50$ $0.923055$
$100$ $\mathbf{0.994079}$

観察 2.2 これが本稿の芯である。$20$ 回で $\mathbf{0.641514}$、三回に二回は、何も無いところから「有意」が出る。

観察 2.3 $100$ 回なら $0.994079$である。ほぼ確実に何かが出る。出たこと自体は、何の証拠にもならない。

観察 2.4 $k$ が小さいうちの伸びが速い。$1\to5$ で $4.5$ 倍、$5\to20$ で $2.8$ 倍、$20\to100$ で $1.5$ 倍、最初の数回でほとんど壊れる。

観察 2.5 正直に書くべき点、独立を仮定している。実際の検定は相関することが多く、相関があれば族あたり誤り率はこれより小さい。上の表は上限である。

3. 締めれば戻る

設定:ボンフェローニ補正は、一回あたりの水準を $\alpha/k$ に下げる。

検算 3.1:

$k$ 一回あたり $\alpha’=\alpha/k$ 全体の偽陽性 $1-(1-\alpha’)^k$
$20$ $0.002500$ $\mathbf{0.048830}$
$100$ $0.000500$ $\mathbf{0.048782}$

観察 3.2 どちらも $0.05$ を下回って戻っている。しかも $k$ が大きいほどわずかに保守的になる。$0.048830$ と $0.048782$。

観察 3.3 約束を守るために払ったのは、水準である。$0.05$ が $0.0025$ になった。$20$ 分の一に締めた。

4. 締めた分だけ、見つからなくなる

観察 4.1 水準を締めると、本当に在る効果も棄却しにくくなる。偽陽性(第一種の誤り)を下げると、偽陰性(第二種の誤り)が上がる。同じ標本のままでは、両方は下げられない。

検算 4.2:何が動くかを並べる。

操作 偽陽性 偽陰性 代価
水準を締める 下がる 上がる 見つからなくなる
標本を増やす 。 下がる 手間と費用
検定の回数を減らす 下がる 。 問える問いが減る

観察 4.3 ただで下げられるのは二行目だけである。そして二行目だけが金を要る。

観察 4.4 論文255 は「精度は二つあり、較正で消えるのは一方だけ」と書いた。ここでも同じ形である。一つの操作は一方しか動かさない。

5. 分離子:何回試したかは、データに書かれていない

観察 5.1 分離子、何回試したか。そしてそれは、出てきた数値のどこにも書かれていない。

検算 5.2:同じ $p=0.03$ という値が、文脈で意味を変える。

状況 補正後の閾値 $p=0.03$ は
検定を $1$ 回だけ行った $0.05$ 有意
検定を $20$ 回行った $0.0025$ 有意でない
検定を $100$ 回行った $0.0005$ 有意でない

観察 5.3 同じ $p$ 値が、三つの別の身分を持つ。データは同じ、計算も同じ、違うのは、報告されていない回数だけである。

観察 5.4 論文183 は「同じ表が二つの正しい答を持つ」と書いた。本稿は一段きつい。183 では二つの答が両方とも表の中にあったが、本稿の分岐はデータの外にある。

観察 5.5 論文223 との向きの違いを書いておく。

検定が 中身は
論文223 通してしまう 構造が在るのに見落とす
本稿 弾いてしまう 何も無いのに拾う

観察 5.6 二つは同じ道具の、二つの外れ方である。論文300 の基準を当てると、同じ「検定」という語の下に別根が二つある。片方は検出力の不足、他方は回数の申告漏れであり、直し方が違う。

観察 5.7 最後に一つ、$0.641514$ は、誰かが不正をした数ではない。全員が正直に、規則どおりに $\alpha=0.05$ で検定して、それでもこうなる。約束の単位を取り違えているだけである。

6. 点呼と結び

  1. $5$ 回で $0.226219$(検算2.1):すぐに崩れる。
  2. $20$ 回で $0.641514$(検算2.1):三回に二回は出る。
  3. $100$ 回で $0.994079$(検算2.1):ほぼ確実。
  4. 最初の数回で壊れる(観察2.4):$1\to5$ で $4.5$ 倍。
  5. 独立は仮定(観察2.5):表は上限である。
  6. 締めれば $0.048830$(検算3.1):$0.05$ に戻る。
  7. 水準は $20$ 分の一(観察3.3):$0.05\to0.0025$。
  8. 両方は下げられない(検算4.2):ただなのは標本増だけ。
  9. 同じ $p$ が三つの身分(検算5.2):回数が書かれていない。
  10. 223 と向きが逆(観察5.5):見落としと、拾いすぎ。

結び:「有意水準 $5\%$」は一回の検定についての約束であり、研究一本についての約束ではない。独立に $k$ 回試せば、少なくとも一回誤る確率は $1-(0.95)^k$ である。$5$ 回で $0.226219$、$10$ 回で $0.401263$、$20$ 回で $\mathbf{0.641514}$、$100$ 回で $\mathbf{0.994079}$。三回に二回は、何も無いところから「有意」が出る。そして$100$ 回ならほぼ確実に出るので、出たこと自体は何の証拠にもならない。締めれば戻る。一回あたりを $0.0025$($20$ 分の一)にすれば全体の偽陽性は $\mathbf{0.048830}$ で $0.05$ を下回る。だが締めた分だけ、本当に在る効果も見つからなくなる。偽陽性と偽陰性は、同じ標本のままでは両方下げられない。ただで下げられるのは標本を増やすことだけで、それだけが金を要る。分けるものは一つ、何回試したか。そしてそれは、出てきた数値のどこにも書かれていない。同じ $p=0.03$ が、$1$ 回なら有意、$20$ 回なら有意でない。データも計算も同じで、違うのは報告されていない回数だけである。論文223 とは向きが逆である。223 は構造が在るのに検定が通してしまう側、本稿は何も無いのに検定が拾ってしまう側。同じ道具の二つの外れ方であり、直し方が違う。最後に一つ、$0.641514$ は誰かが不正をした数ではない。全員が正直に規則どおり検定して、それでもこうなる。約束の単位を取り違えているだけである。

参考文献

  1. Bonferroni, C. E. (1936). Teoria statistica delle classi e calcolo delle probabilita. Pubblicazioni del R. Istituto Superiore di Scienze Economiche e Commerciali di Firenze, 8.
  2. Holm, S. (1979). A Simple Sequentially Rejective Multiple Test Procedure. Scandinavian Journal of Statistics, 6(2).
  3. Benjamini, Y. and Hochberg, Y. (1995). Controlling the False Discovery Rate. Journal of the Royal Statistical Society B, 57(1).
  4. Ioannidis, J. P. A. (2005). Why Most Published Research Findings Are False. PLoS Medicine, 2(8).
  5. Miller, R. G. (1981). Simultaneous Statistical Inference, 2nd edition. New York: Springer.
  6. 山岸勇輝 (2026). 「確率」は四つの住所を持つ [論文164]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092815
  7. 山岸勇輝 (2026). 同じ表が、二つの正しい答を持つ [論文183]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104230
  8. 山岸勇輝 (2026). 検定を全部通り、それでも点は十五枚の平面に乗っている [論文223]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22120728
  9. 山岸勇輝 (2026). 同じ問いを二つの物差しで測ると、符号が逆になった [論文250]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22160733
  10. 山岸勇輝 (2026). 「精度」は二つあり、較正で消えるのは一方だけ [論文255]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168883
  11. 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「有意水準は「一回あたり」の約束であって、研究あたりではない」[論文317]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22208819

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 有意水準は「一回あたり」の約束であって、研究あたりではない [論文317]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/317 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22208819

Yamagishi, Y. (2026). A Significance Level Is a Promise per Test, Not per Study [Paper 317]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/317; DOI: 10.5281/zenodo.22208819

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