【M005】病名の言い方の違いが効くのは、引用符を付けたときである

要旨

本稿が問うのは、同じ病気の論文を PubMed で調べるとき、言葉の選び方で件数がどれだけ変わり、それが何で分かれるか、である。答えは、言い方の違いが大きく効くのは引用符で囲んだとき(PubMed が言葉を読み替えないとき)で、引用符なしでは二つの言い方の件数はほぼそろう、である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、膵臓がんを PubMed で調べると、引用符なしの pancreatic cancer は 167,715 件、引用符で囲むと 67,997 件で、2.47 倍違う。ふだんの言い方 pancreas cancer は、引用符なしで 148,792 件、引用符ありで 2,011 件(73.99 倍)、cancer of the pancreas は 148,792 件と 1,090 件(136.51 倍)である(第4節)。

第二に、これが本稿の芯である。7 つの臓器で、ふだんの言葉(stomach・kidney・liver・lung・breast・bowel・pancreas)と医学の言葉(gastric・renal・hepatic・pulmonary・mammary・colorectal・pancreatic)を比べると、引用符なしでは二つの件数の比が 0.786〜1.239 に収まる。引用符ありでは、腎臓を除く 6 臓器で多い方が 11.42〜209.19 倍になる。 どちらが多いかは臓器ごとに違い、医学の言葉が多いのは膵臓・胃・大腸、ふだんの言葉が多いのは肝臓・肺・乳房である。腎臓だけは二つとも少なく、比は 1.06 である(第5節)。

第三に、この違いは PubMed の「自動の対応づけ」(Automatic Term Mapping)で説明がつく。引用符なしの言葉は、読み替えの表を通して医学の索引語(MeSH)に結び付けられ、7 臓器のうち 6 臓器では二つの言い方が同じ索引語に読み替えられた。引用符や欄の指定はそれを止める。本稿は PubMed が返した読み替えの式をすべて保存して確かめた(第5・6節)。

第四に、読み替えは広げもし、外れもする。bowel cancer は腸の腫瘍全体(intestinal neoplasms)に、pancreatic adenocarcinoma は膵炎(pancreatitis)を含む式に読み替えられた。略語 PDAC は、膵臓ではない病気の補助概念に読み替えられた。tumor と tumour は同じ 157,215 件、一文字の打ち間違い pancratic cancer は 10 件だった(第6節)。

第五に、膵臓がんの記録を索引語と題名・要旨の句に分けると、二つの検索は逆向きの年を取りこぼす。題名・要旨に “pancreatic cancer” があるのに索引語が付いていない記録の割合は、1990〜2010 年の 0.125〜0.206 から、2021〜2024 年の 0.399〜0.411 に上がった。索引語の付いた記録のうち題名・要旨にこの句がある割合は、1975 年の 0.031 から 2024 年の 0.579 に上がった(18.5 倍)。索引語は最近の年を、句は古い年を取りこぼす(第7節)。

第六に、引用符なしの検索は索引語の検索を丸ごと含む(167,715 − 104,584 = 63,131 がちょうど一致する)。索引語の付いた記録 104,584 件のうち MEDLINE の記録は 104,583 件で、索引語は MEDLINE の索引で付く。題名・要旨に句があって索引語の無い 21,464 件のうち 0.649 は MEDLINE の外の記録である(第7節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。PubMed の自動の対応づけ、引用符による句の検索、MeSH の索引は、NLM の説明書に書かれた既知の仕組みである。本稿はそれを、病名の言い方ごとの件数と、PubMed が返した読み替えの式で測るだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 どの検索の仕方がよいかを勧めない。目的によって、広く拾う検索も、狭く絞る検索も正しい。本稿は、それぞれの検索が何を数えているかを示すだけである。論文の質や価値を論じない。件数は数であって、論文の良し悪しではない。個々の論文・著者・雑誌を名指さない。原因を述べない。ある言い方がなぜその臓器で慣習になったか、索引語の付かない記録がなぜ増えたかには立ち入らない。日本語の表記の揺れ(すい臓がん・膵臓がん・膵癌など)は数えていない。PubMed は英語の書誌を主に扱う。データについて:Courtesy of the U.S. National Library of Medicine。件数は 2026 年 9 月 25 日に取得した時点のもので、NLM の最新・最も正確なデータを反映していない。NLM は本稿を推奨していない。既刊との関係:M004 は、PubMed の伸びの半分あまりが MEDLINE の外の記録から来ていることを示した。本稿の第7節の「索引語の取りこぼし」はその隣にある。加えたのは、同じ臓器の二つの言い方を引用符の有無で並べ、差が効く場所を一つに絞ったこと、PubMed が返した読み替えの式を保存し、広げる例と外れる例を示したこと、索引語と句の取りこぼしが逆向きの年に出ることを、出版年ごとに測ったことである。

1. 記法と問い

PubMed で病名を調べるとき、同じ病気を何通りにも書ける。本稿では次の書き方を使う(PubMed User Guide の用語)。

  • 引用符なし:pancreatic cancer のように言葉をそのまま入れる。PubMed は言葉を読み替えの表(Subject Translation Table)に当て、医学の索引語(MeSH)や同義語・英米の綴り・単数複数を足して探す。これを自動の対応づけ(Automatic Term Mapping)という
  • 引用符あり:"pancreatic cancer" のように句を引用符で囲む。自動の対応づけを通らず、その句そのものを探す
  • 欄の指定:[tiab] は題名と要旨、[ti] は題名、[mh] は MeSH(下位の語を含む)、[mh:noexp] は下位の語を含まない MeSH、[majr] は主題として付いた MeSH
  • ふだんの言葉・医学の言葉:臓器の名前を名詞で言う形(stomach cancer)と、医学で使う形容詞の形(gastric cancer)

問い:同じ病気の論文の数は、言葉の選び方でどれだけ変わるか。それは何で分かれるか。

観察 1.1:「その病気の論文」は、①題名や要旨にその言葉が書かれた論文、②索引語が付いた論文、③PubMed が読み替えて拾った論文、のどれを指すかで数が変わる。一つの言い方が、別々の集合を指している。

2. 下見と設計

正直に書く:本稿の設計は、下見の問い合わせで件数を見たあとに決めた。予測を測る前に書いたとは言わない。論文の数は下見ではなく、あらためて取り直して保存したデータから計算した。

中身
取得 PubMed E-utilities の esearch で件数と読み替えの式を取る(376 回の問い合わせ・2026 年 9 月 25 日 22:42〜22:48)
A 膵臓がんの言い方 23 通り(引用符なし・引用符あり・欄の指定・略語・打ち間違い)
B 7 臓器 × 5 通り(ふだんの言葉・医学の言葉 × 引用符の有無、MeSH)
C 出版年 1975〜2025 年 × 膵臓がんの 6 通り(MeSH、題名・要旨の句、引用符なし、MeSH だけ、句だけ、ふだんの句)
D 膵臓がんの MeSH と題名・要旨の句の重なりと差、MEDLINE の絞り込み、句の代わりに書かれた言い方

3. データと、その確かめ

計算 3.1 取得した応答(検索の式・URL・件数・読み替えの式・警告・取得時刻)は、そのまま JSON に保存し、SHA-256 で固定した。検算は保存した JSON だけから計算し、PubMed には問い合わせない(件数は日々変わる)。

確かめたこと 結果
検索の式の数 A 23・B 35・C 306・D 12、すべて宣言どおり
「引用符の句が句の索引に無い」(引用符が無視される)警告 0 件
警告の付いた問い合わせ 1 件(”pancreas cancer”[tiab] AND 1977[dp]:件数 0)
MeSH = 重なり + MeSH だけ 104,584 = 44,365 + 60,219(ちょうど)
題名・要旨の句 = 重なり + 句だけ 65,829 = 44,365 + 21,464(ちょうど)
引用符なし − MeSH =「引用符なし NOT MeSH」 167,715 − 104,584 = 63,131(ちょうど)
年ごとの重なりを二通りに出す(MeSH − MeSH だけ = 句 − 句だけ) 51 年とも一致

観察 3.2:最初は「年ごとの件数の和は、全年の件数を超えない」と検査したが、これは落ちた。1975〜2025 年の和は MeSH で 105,561(全年 104,584・差 +977)、題名・要旨の句で 68,399(全年 65,829・差 +2,570)である。PubMed の出版日 [dp] は印刷と電子の両方の出版日を含む定義なので、二つの年に数えられる記録がありうる。何件が二度数えられたかは数えていない。そのため本稿では年ごとの件数を足し合わせず、年ごとの割合だけを使う。

4. 実測、同じ膵臓がんの、言い方ごとの件数

計算 4.1 膵臓がんの言い方ごとの件数(全年・抜粋)

検索の式 件数 引用符なしの pancreatic cancer に対して
pancreatic cancer 167,715 1.0000
pancreatic tumor 157,215 0.9374
pancreas cancer 148,792 0.8872
pancreatic carcinoma 141,625 0.8444
pancreatic neoplasms[mh] 104,584 0.6236
“pancreatic cancer” 67,997 0.4054
pancreatic cancer[tiab] 65,829 0.3925
pancreatic cancer[ti] 40,048 0.2388
“pancreatic ductal adenocarcinoma” 21,074 0.1257
“pancreatic adenocarcinoma” 11,227 0.0669
“pancreatic carcinoma” 7,638 0.0455
“pancreas cancer” 2,011 0.0120
“cancer of the pancreas” 1,090 0.0065
pancratic cancer(打ち間違い) 10 0.000060

計算 4.2 同じ言い方の、引用符なし ÷ 引用符あり

言い方 引用符なし 引用符あり 比
pancreatic cancer 167,715 67,997 2.47
pancreas cancer 148,792 2,011 73.99
cancer of the pancreas 148,792 1,090 136.51
pancreatic carcinoma 141,625 7,638 18.54
pancreatic adenocarcinoma 63,863 11,227 5.69
pancreatic ductal adenocarcinoma 28,574 21,074 1.36

観察 4.3:六つの言い方すべてで、引用符なしの件数が引用符ありより多い。差は言い方によって 1.36 倍から 136.51 倍まで開く。論文でよく使われる言い方ほど差が小さく、あまり使われない言い方ほど差が大きい。

観察 4.4:MeSH の検索も一つではない。下位の語を含めると 104,584 件、含めないと 101,426 件、主題として付いたものだけなら 90,019 件である。題名と要旨なら 65,829 件、題名だけなら 40,048 件である。

図3 膵臓がんの言い方ごとの件数

図3:横軸は対数目盛。紺が引用符なし(読み替えあり)、金が引用符あり、灰が欄の指定。引用符なしの言い方はどれも十数万件にそろい、引用符ありは言い方によって千件台から数万件まで散らばる。

5. 芯、言い方の違いが効くのは、引用符を付けたとき

計算 5.1 7 臓器の、ふだんの言葉と医学の言葉(全年)

臓器 ふだんの言葉 / 医学の言葉 引用符なし(ふだん・医学) 比(ふだん ÷ 医学) 引用符あり(ふだん・医学) 多い方 ÷ 少ない方 MeSH
膵臓 pancreas cancer / pancreatic cancer 148,792・167,715 0.887 2,011・67,997 33.81(医学) 104,584
胃 stomach cancer / gastric cancer 151,255・192,337 0.786 8,677・99,070 11.42(医学) 123,565
腎臓 kidney cancer / renal cancer 170,482・181,884 0.937 9,716・9,200 1.06(ふだん) 92,914
肝臓 liver cancer / hepatic cancer 380,368・323,929 1.174 45,592・1,802 25.30(ふだん) 217,562
肺 lung cancer / pulmonary cancer 510,523・442,595 1.153 261,281・1,249 209.19(ふだん) 312,439
乳房 breast cancer / mammary cancer 592,266・478,134 1.239 422,912・3,604 117.35(ふだん) 387,753
大腸 bowel cancer / colorectal cancer 347,712・352,618 0.986 3,039・172,432 56.74(医学) 269,782

観察 5.2:引用符なしでは、二つの言い方の件数の比は 0.786(胃)から 1.239(乳房)に収まる。 引用符ありでは、腎臓を除く 6 臓器で多い方が 11.42 倍(胃)から 209.19 倍(肺)になる。引用符ありの差が引用符なしの差より大きいのは 6 臓器で、例外は腎臓だけである。

観察 5.3:どちらの言い方が多いかは、臓器ごとに違う。医学の言葉が多いのは膵臓・胃・大腸、ふだんの言葉が多いのは肝臓・肺・乳房である。つまり「医学の言葉で調べれば多く出る」とは言えない。引用符ありで多く出るのは、その臓器で論文に慣習的に書かれてきた言い方である。

観察 5.4:腎臓だけは、ふだんの言葉(9,716)も医学の言葉(9,200)も引用符ありでは少なく、比は 1.06 である。この二つとは別の言い方が慣習になっている可能性があるが、本稿では確かめていない。

観察 5.5:分けるものは、PubMed が言葉を読み替えるかどうか、である。 引用符なしの言葉は読み替えの表を通って MeSH に結び付く。7 臓器のうち 6 臓器では、ふだんの言葉も医学の言葉も同じ索引語に読み替えられた(pancreas と pancreatic はどちらも pancreatic neoplasms へ、stomach と gastric はどちらも stomach neoplasms へ)。引用符は読み替えを止めるので、言い方の慣習がそのまま件数に出る。

観察 5.6:大腸だけは、二つの言い方が別の索引語に読み替えられた(bowel cancer は腸の腫瘍全体 intestinal neoplasms へ、colorectal cancer は colorectal neoplasms へ)。引用符なしの比 0.986 は、別々の集合の件数がたまたま近くなった値であり、ほかの 6 臓器の比と同じ意味ではない。

図1 同じ臓器の二つの言い方

図1:縦軸は対数目盛。塗りつぶしの灰(ふだんの言葉)と紺(医学の言葉)は引用符なしで、どの臓器でも高さがそろう。斜線(ふだんの言葉)と金(医学の言葉)は引用符ありで、臓器ごとに片方だけが大きく沈む。

6. 読み替えは、広げもし、外れもする

PubMed が返した読み替えの式を、そのまま読む。

計算 6.1 読み替えの式(抜粋)

入れた言葉 件数 PubMed の読み替え(要所)
pancreatic cancer 167,715 “pancreatic neoplasms”[MeSH Terms] OR …… OR “pancreatic cancer”[All Fields]
bowel cancer 347,712 “intestinal neoplasms”[MeSH Terms] OR …(腸の腫瘍全体)
pancreatic adenocarcinoma 63,863 (“pancreas”[MeSH Terms] OR … OR “pancreatitis”[MeSH Terms] OR …) AND (“adenocarcinoma”[MeSH Terms] OR …)
PDAC 17,048 “anophthalmia with pulmonary hypoplasia”[Supplementary Concept] OR … OR “pdac”[All Fields]
pancreatic tumor・pancreatic tumour 157,215・157,215 “pancreatic tumour”[All Fields] OR “pancreatic neoplasms”[MeSH Terms] OR …(英米の綴りを両方含む)
pancratic cancer 10 “pancratic”[All Fields] AND (…”cancer”[All Fields] …)

観察 6.2:読み替えは広げる。 bowel cancer は腸の腫瘍全体の索引語に結び付けられ、大腸だけでなく腸のほかの部位の腫瘍も含む検索になった。pancreatic adenocarcinoma は、pancreatic を膵臓だけでなく膵炎(pancreatitis)にも読み替えた。

観察 6.3:読み替えは外れる。 略語 PDAC は、膵臓ではない病気(無眼球と肺の低形成を伴う病気)の補助概念に読み替えられた。PubMed の説明書のとおり、読み替えの表には補助概念が入っており、略語が別の概念の見出しと一致すると、その概念にも結び付く。

観察 6.4:読み替えは綴りの違いを吸収するが、打ち間違いは吸収しない。 tumor と tumour は同じ 157,215 件になった。一文字の打ち間違い pancratic cancer は 10 件で、引用符なしの pancreatic cancer の 0.000060 である。

7. 二つの取りこぼしは、逆向きの年に出る

計算 7.1 膵臓がんの記録の重なり(全年)

件数 割合
MeSH(pancreatic neoplasms[mh]) 104,584
そのうち題名・要旨に “pancreatic cancer” がある 44,365 0.424
そのうち無い 60,219 0.576
題名・要旨の句(”pancreatic cancer”[tiab]) 65,829
そのうち MeSH が付いていない 21,464 0.326
その中の MEDLINE の記録/MEDLINE の外 7,544/13,920 0.351/0.649
MeSH の記録のうち MEDLINE の記録 104,583 0.99999
引用符なしの検索で、MeSH にも句にも当たらない記録 41,667 引用符なし全体の 0.248

観察 7.2:索引語の付いた記録の半分あまり(0.576)は、題名・要旨に “pancreatic cancer” という句を持たない。それらの記録の題名・要旨にある言い方を数えると、”pancreatic tumo*” 4,721、”pancreatic adenocarcinoma” 3,877、”pancreatic carcinoma” 3,445、”pancreatic neoplasm*” 2,239、複数形 “pancreatic cancers” 553 で、五つを重なりを引かずに足しても 14,835(0.246)にしかならない。残りの記録がどう書かれているかは数えていない。

計算 7.3 出版年ごとの二つの割合(抜粋)

出版年 MeSH 題名・要旨の句 句があるのに MeSH が無い MeSH のうち句がある 引用符なし ÷ MeSH
1975 512 17 0.059 0.031 1.109
1990 982 257 0.125 0.229 1.218
2000 1,328 500 0.152 0.319 1.288
2008 2,402 1,332 0.194 0.447 1.333
2010 2,792 1,583 0.191 0.459 1.352
2015 4,027 2,833 0.274 0.511 1.531
2020 5,039 4,410 0.371 0.550 1.899
2021 5,100 4,830 0.411 0.558 2.028
2024 4,764 4,680 0.410 0.579 2.170
2025 4,691 5,198 0.447 0.613 2.449

観察 7.4:索引語は最近の年を取りこぼす。 題名・要旨に句があるのに MeSH が付いていない記録の割合は、1990〜2010 年のどの年も 0.125〜0.206 だったが、2021〜2024 年のどの年も 0.399〜0.411 である。2025 年は 0.447 で、索引がまだ途中の分を含みうる。MeSH の付いた記録はほぼすべて MEDLINE の記録なので、MEDLINE の外の記録(M004 で見た伸びの半分あまり)は索引語の検索には入らない。

観察 7.5:句は古い年を取りこぼす。 索引語の付いた記録のうち題名・要旨に “pancreatic cancer” がある割合は、1975〜1980 年のどの年も 0.101 以下で、2014〜2025 年のどの年も 0.511 以上である。1975 年の 0.031 から 2024 年の 0.579 まで 18.5 倍になった。言葉のほうが時代とともに変わっている。

観察 7.6:ふだんの句 “pancreas cancer”[tiab] は、1975〜2025 年の年ごとの件数を足して 1,933 件で、同じ年の “pancreatic cancer”[tiab] の 68,399 件の 0.0283 である(年ごとの和には二度数えられた記録が含まれうる)。

観察 7.7:引用符なしの検索の件数は、1975 年には MeSH の 1.109 倍だったが、2024 年には 2.170 倍である。引用符なしの検索は MeSH を丸ごと含み、そのうえ索引語の付いていない最近の記録と、言葉が別々に現れる記録も拾う。

図2 膵臓がんの記録:二つの取りこぼし

図2:紺は「題名・要旨に句があるのに MeSH が無い」割合で、2010 年ごろから上がる。金の破線は「MeSH があるのに題名・要旨に句が無い」割合で、1975 年から下がり続ける。二本の線は逆向きに動く。

8. 限界

  1. 件数は取得した時点のもので、日々変わる。 本稿の数は 2026 年 9 月 25 日のもので、NLM の最新のデータを反映していない。
  2. PubMed だけである。 日本語の文献データベースや一般の検索エンジンには広げない。日本語の表記の揺れ(すい臓がん・膵臓がん・膵癌など)は数えていない。
  3. 件数だけを数えた。 見つかった論文が、調べた人の知りたいことに合っているかは測っていない。
  4. ふだんの言葉と医学の言葉の組は、本稿が選んだ 7 組である。 腎臓では二つの言い方がどちらも少なく、慣習になっている別の言い方を確かめていない。
  5. 年ごとの件数は、二つの年に数えられる記録を含みうる。 年ごとの和は使わず、割合だけを使った。
  6. 原因を述べない。 言い方の慣習がなぜ臓器ごとに違うか、索引語の付かない記録がなぜ増えたかは、この数え方の外にある。
  7. どの検索がよいかを勧めない。 広く拾うか、狭く絞るかは目的による。

結び

同じ臓器を二つの言い方で調べると、引用符なしなら件数の比は 0.786〜1.239 に収まり、引用符ありなら多い方が 11.42〜209.19 倍になった(7 臓器中 6 臓器)。医学の言葉が多い臓器(膵臓・胃・大腸)もあれば、ふだんの言葉が多い臓器(肝臓・肺・乳房)もある。膵臓がんでは、ふだんの言い方 pancreas cancer が、引用符なしの 148,792 件から、引用符ありの 2,011 件まで 73.99 倍沈む。

分けるものは一つ、PubMed が言葉を読み替えるか、読み替えないか、である。

読み替えは広げもし(bowel cancer が腸全体へ、pancreatic が膵炎へ)、外れもする(PDAC が別の病気へ)。そして索引語の検索と句の検索は、逆向きの年を取りこぼす。索引語は最近の年を、句は古い年を。同じ病気の「論文の数」は、どの集合を数えたかを言わずには言えない。

データと再現

データ PubMed(U.S. National Library of Medicine)の E-utilities(esearch)で取った件数と読み替えの式。2026 年 9 月 25 日 22:42〜22:48 に取得。Courtesy of the U.S. National Library of Medicine
利用条件 NLM Terms and Conditions(利用は無料・出典を明記・NLM の推奨を示唆しない・最新のデータでないことを明記)
範囲 膵臓がんの言い方 23 通り、7 臓器 × 5 通り、出版年 1975〜2025 年、重なり 12 通り。件数だけ(個々の論文・著者・雑誌は数えていない)
検算 検算/M005.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M005_output.txt から取っている
生データ data/pubmed_m005_20260925.json(検索の式・URL・件数・読み替えの式・警告・取得時刻)、取得の道具 data/fetch_pubmed.py、data/SOURCES.md(利用条件・SHA-256・検索の仕組みの原文)。検算は走らせるたびに SHA-256 を照合する
図 図/M005_zu1・図/M005_zu2・図/M005_zu3(png・svg・英語版)

参考文献

  • U.S. National Library of Medicine. PubMed(E-utilities, esearch). Courtesy of the U.S. National Library of Medicine(2026年9月25日に取得). https://eutils.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/eutils/
  • U.S. National Library of Medicine. PubMed User Guide(2026年9月25日に利用). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/help/
  • 山岸勇輝 (2026). 「医学論文は約 15 年で倍になる」は、何を数えるかで答えが変わる [M004]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963542

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「病名の言い方の違いが効くのは、引用符を付けたときである」[M005]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22963601

YOI M005医療統計ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M005・DOI 10.5281/zenodo.22963601・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 病名の言い方の違いが効くのは、引用符を付けたときである [M005]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M005 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22963601

Yamagishi, Y. (2026). Which Name You Use for a Disease Matters Only When You Put It in Quotes [M005]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M005; DOI: 10.5281/zenodo.22963601

@misc{yamagishi2026yoiM005,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {Which Name You Use for a Disease Matters Only When You Put It in Quotes},
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  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M005},
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  note = {Preprint}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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a0f671ee94560b95345895e223654d9d3e028e59d6119fb4dafd79d89fb204b9 yamagishi_M005_which_name_you_use_disease_matters_only_20260926_en.pdf

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