要旨
本稿が問うのは、同じ病気の論文を PubMed で調べるとき、言葉の選び方で件数がどれだけ変わり、それが何で分かれるか、である。答えは、言い方の違いが大きく効くのは引用符で囲んだとき(PubMed が言葉を読み替えないとき)で、引用符なしでは二つの言い方の件数はほぼそろう、である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、膵臓がんを PubMed で調べると、引用符なしの pancreatic cancer は 167,715 件、引用符で囲むと 67,997 件で、2.47 倍違う。ふだんの言い方 pancreas cancer は、引用符なしで 148,792 件、引用符ありで 2,011 件(73.99 倍)、cancer of the pancreas は 148,792 件と 1,090 件(136.51 倍)である(第4節)。
第二に、これが本稿の芯である。7 つの臓器で、ふだんの言葉(stomach・kidney・liver・lung・breast・bowel・pancreas)と医学の言葉(gastric・renal・hepatic・pulmonary・mammary・colorectal・pancreatic)を比べると、引用符なしでは二つの件数の比が 0.786〜1.239 に収まる。引用符ありでは、腎臓を除く 6 臓器で多い方が 11.42〜209.19 倍になる。 どちらが多いかは臓器ごとに違い、医学の言葉が多いのは膵臓・胃・大腸、ふだんの言葉が多いのは肝臓・肺・乳房である。腎臓だけは二つとも少なく、比は 1.06 である(第5節)。
第三に、この違いは PubMed の「自動の対応づけ」(Automatic Term Mapping)で説明がつく。引用符なしの言葉は、読み替えの表を通して医学の索引語(MeSH)に結び付けられ、7 臓器のうち 6 臓器では二つの言い方が同じ索引語に読み替えられた。引用符や欄の指定はそれを止める。本稿は PubMed が返した読み替えの式をすべて保存して確かめた(第5・6節)。
第四に、読み替えは広げもし、外れもする。bowel cancer は腸の腫瘍全体(intestinal neoplasms)に、pancreatic adenocarcinoma は膵炎(pancreatitis)を含む式に読み替えられた。略語 PDAC は、膵臓ではない病気の補助概念に読み替えられた。tumor と tumour は同じ 157,215 件、一文字の打ち間違い pancratic cancer は 10 件だった(第6節)。
第五に、膵臓がんの記録を索引語と題名・要旨の句に分けると、二つの検索は逆向きの年を取りこぼす。題名・要旨に “pancreatic cancer” があるのに索引語が付いていない記録の割合は、1990〜2010 年の 0.125〜0.206 から、2021〜2024 年の 0.399〜0.411 に上がった。索引語の付いた記録のうち題名・要旨にこの句がある割合は、1975 年の 0.031 から 2024 年の 0.579 に上がった(18.5 倍)。索引語は最近の年を、句は古い年を取りこぼす(第7節)。
第六に、引用符なしの検索は索引語の検索を丸ごと含む(167,715 − 104,584 = 63,131 がちょうど一致する)。索引語の付いた記録 104,584 件のうち MEDLINE の記録は 104,583 件で、索引語は MEDLINE の索引で付く。題名・要旨に句があって索引語の無い 21,464 件のうち 0.649 は MEDLINE の外の記録である(第7節)。
本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。PubMed の自動の対応づけ、引用符による句の検索、MeSH の索引は、NLM の説明書に書かれた既知の仕組みである。本稿はそれを、病名の言い方ごとの件数と、PubMed が返した読み替えの式で測るだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 どの検索の仕方がよいかを勧めない。目的によって、広く拾う検索も、狭く絞る検索も正しい。本稿は、それぞれの検索が何を数えているかを示すだけである。論文の質や価値を論じない。件数は数であって、論文の良し悪しではない。個々の論文・著者・雑誌を名指さない。原因を述べない。ある言い方がなぜその臓器で慣習になったか、索引語の付かない記録がなぜ増えたかには立ち入らない。日本語の表記の揺れ(すい臓がん・膵臓がん・膵癌など)は数えていない。PubMed は英語の書誌を主に扱う。データについて:Courtesy of the U.S. National Library of Medicine。件数は 2026 年 9 月 25 日に取得した時点のもので、NLM の最新・最も正確なデータを反映していない。NLM は本稿を推奨していない。既刊との関係:M004 は、PubMed の伸びの半分あまりが MEDLINE の外の記録から来ていることを示した。本稿の第7節の「索引語の取りこぼし」はその隣にある。加えたのは、同じ臓器の二つの言い方を引用符の有無で並べ、差が効く場所を一つに絞ったこと、PubMed が返した読み替えの式を保存し、広げる例と外れる例を示したこと、索引語と句の取りこぼしが逆向きの年に出ることを、出版年ごとに測ったことである。
1. 記法と問い
PubMed で病名を調べるとき、同じ病気を何通りにも書ける。本稿では次の書き方を使う(PubMed User Guide の用語)。
- 引用符なし:
pancreatic cancerのように言葉をそのまま入れる。PubMed は言葉を読み替えの表(Subject Translation Table)に当て、医学の索引語(MeSH)や同義語・英米の綴り・単数複数を足して探す。これを自動の対応づけ(Automatic Term Mapping)という - 引用符あり:
"pancreatic cancer"のように句を引用符で囲む。自動の対応づけを通らず、その句そのものを探す - 欄の指定:
[tiab]は題名と要旨、[ti]は題名、[mh]は MeSH(下位の語を含む)、[mh:noexp]は下位の語を含まない MeSH、[majr]は主題として付いた MeSH - ふだんの言葉・医学の言葉:臓器の名前を名詞で言う形(stomach cancer)と、医学で使う形容詞の形(gastric cancer)
問い:同じ病気の論文の数は、言葉の選び方でどれだけ変わるか。それは何で分かれるか。
観察 1.1:「その病気の論文」は、①題名や要旨にその言葉が書かれた論文、②索引語が付いた論文、③PubMed が読み替えて拾った論文、のどれを指すかで数が変わる。一つの言い方が、別々の集合を指している。
2. 下見と設計
正直に書く:本稿の設計は、下見の問い合わせで件数を見たあとに決めた。予測を測る前に書いたとは言わない。論文の数は下見ではなく、あらためて取り直して保存したデータから計算した。
| 中身 | |
|---|---|
| 取得 | PubMed E-utilities の esearch で件数と読み替えの式を取る(376 回の問い合わせ・2026 年 9 月 25 日 22:42〜22:48) |
| A | 膵臓がんの言い方 23 通り(引用符なし・引用符あり・欄の指定・略語・打ち間違い) |
| B | 7 臓器 × 5 通り(ふだんの言葉・医学の言葉 × 引用符の有無、MeSH) |
| C | 出版年 1975〜2025 年 × 膵臓がんの 6 通り(MeSH、題名・要旨の句、引用符なし、MeSH だけ、句だけ、ふだんの句) |
| D | 膵臓がんの MeSH と題名・要旨の句の重なりと差、MEDLINE の絞り込み、句の代わりに書かれた言い方 |
3. データと、その確かめ
計算 3.1 取得した応答(検索の式・URL・件数・読み替えの式・警告・取得時刻)は、そのまま JSON に保存し、SHA-256 で固定した。検算は保存した JSON だけから計算し、PubMed には問い合わせない(件数は日々変わる)。
| 確かめたこと | 結果 |
|---|---|
| 検索の式の数 | A 23・B 35・C 306・D 12、すべて宣言どおり |
| 「引用符の句が句の索引に無い」(引用符が無視される)警告 | 0 件 |
| 警告の付いた問い合わせ | 1 件(”pancreas cancer”[tiab] AND 1977[dp]:件数 0) |
| MeSH = 重なり + MeSH だけ | 104,584 = 44,365 + 60,219(ちょうど) |
| 題名・要旨の句 = 重なり + 句だけ | 65,829 = 44,365 + 21,464(ちょうど) |
| 引用符なし − MeSH =「引用符なし NOT MeSH」 | 167,715 − 104,584 = 63,131(ちょうど) |
| 年ごとの重なりを二通りに出す(MeSH − MeSH だけ = 句 − 句だけ) | 51 年とも一致 |
観察 3.2:最初は「年ごとの件数の和は、全年の件数を超えない」と検査したが、これは落ちた。1975〜2025 年の和は MeSH で 105,561(全年 104,584・差 +977)、題名・要旨の句で 68,399(全年 65,829・差 +2,570)である。PubMed の出版日 [dp] は印刷と電子の両方の出版日を含む定義なので、二つの年に数えられる記録がありうる。何件が二度数えられたかは数えていない。そのため本稿では年ごとの件数を足し合わせず、年ごとの割合だけを使う。
4. 実測、同じ膵臓がんの、言い方ごとの件数
計算 4.1 膵臓がんの言い方ごとの件数(全年・抜粋)
| 検索の式 | 件数 | 引用符なしの pancreatic cancer に対して |
|---|---|---|
| pancreatic cancer | 167,715 | 1.0000 |
| pancreatic tumor | 157,215 | 0.9374 |
| pancreas cancer | 148,792 | 0.8872 |
| pancreatic carcinoma | 141,625 | 0.8444 |
| pancreatic neoplasms[mh] | 104,584 | 0.6236 |
| “pancreatic cancer” | 67,997 | 0.4054 |
| pancreatic cancer[tiab] | 65,829 | 0.3925 |
| pancreatic cancer[ti] | 40,048 | 0.2388 |
| “pancreatic ductal adenocarcinoma” | 21,074 | 0.1257 |
| “pancreatic adenocarcinoma” | 11,227 | 0.0669 |
| “pancreatic carcinoma” | 7,638 | 0.0455 |
| “pancreas cancer” | 2,011 | 0.0120 |
| “cancer of the pancreas” | 1,090 | 0.0065 |
| pancratic cancer(打ち間違い) | 10 | 0.000060 |
計算 4.2 同じ言い方の、引用符なし ÷ 引用符あり
| 言い方 | 引用符なし | 引用符あり | 比 |
|---|---|---|---|
| pancreatic cancer | 167,715 | 67,997 | 2.47 |
| pancreas cancer | 148,792 | 2,011 | 73.99 |
| cancer of the pancreas | 148,792 | 1,090 | 136.51 |
| pancreatic carcinoma | 141,625 | 7,638 | 18.54 |
| pancreatic adenocarcinoma | 63,863 | 11,227 | 5.69 |
| pancreatic ductal adenocarcinoma | 28,574 | 21,074 | 1.36 |
観察 4.3:六つの言い方すべてで、引用符なしの件数が引用符ありより多い。差は言い方によって 1.36 倍から 136.51 倍まで開く。論文でよく使われる言い方ほど差が小さく、あまり使われない言い方ほど差が大きい。
観察 4.4:MeSH の検索も一つではない。下位の語を含めると 104,584 件、含めないと 101,426 件、主題として付いたものだけなら 90,019 件である。題名と要旨なら 65,829 件、題名だけなら 40,048 件である。

図3:横軸は対数目盛。紺が引用符なし(読み替えあり)、金が引用符あり、灰が欄の指定。引用符なしの言い方はどれも十数万件にそろい、引用符ありは言い方によって千件台から数万件まで散らばる。
5. 芯、言い方の違いが効くのは、引用符を付けたとき
計算 5.1 7 臓器の、ふだんの言葉と医学の言葉(全年)
| 臓器 | ふだんの言葉 / 医学の言葉 | 引用符なし(ふだん・医学) | 比(ふだん ÷ 医学) | 引用符あり(ふだん・医学) | 多い方 ÷ 少ない方 | MeSH |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 膵臓 | pancreas cancer / pancreatic cancer | 148,792・167,715 | 0.887 | 2,011・67,997 | 33.81(医学) | 104,584 |
| 胃 | stomach cancer / gastric cancer | 151,255・192,337 | 0.786 | 8,677・99,070 | 11.42(医学) | 123,565 |
| 腎臓 | kidney cancer / renal cancer | 170,482・181,884 | 0.937 | 9,716・9,200 | 1.06(ふだん) | 92,914 |
| 肝臓 | liver cancer / hepatic cancer | 380,368・323,929 | 1.174 | 45,592・1,802 | 25.30(ふだん) | 217,562 |
| 肺 | lung cancer / pulmonary cancer | 510,523・442,595 | 1.153 | 261,281・1,249 | 209.19(ふだん) | 312,439 |
| 乳房 | breast cancer / mammary cancer | 592,266・478,134 | 1.239 | 422,912・3,604 | 117.35(ふだん) | 387,753 |
| 大腸 | bowel cancer / colorectal cancer | 347,712・352,618 | 0.986 | 3,039・172,432 | 56.74(医学) | 269,782 |
観察 5.2:引用符なしでは、二つの言い方の件数の比は 0.786(胃)から 1.239(乳房)に収まる。 引用符ありでは、腎臓を除く 6 臓器で多い方が 11.42 倍(胃)から 209.19 倍(肺)になる。引用符ありの差が引用符なしの差より大きいのは 6 臓器で、例外は腎臓だけである。
観察 5.3:どちらの言い方が多いかは、臓器ごとに違う。医学の言葉が多いのは膵臓・胃・大腸、ふだんの言葉が多いのは肝臓・肺・乳房である。つまり「医学の言葉で調べれば多く出る」とは言えない。引用符ありで多く出るのは、その臓器で論文に慣習的に書かれてきた言い方である。
観察 5.4:腎臓だけは、ふだんの言葉(9,716)も医学の言葉(9,200)も引用符ありでは少なく、比は 1.06 である。この二つとは別の言い方が慣習になっている可能性があるが、本稿では確かめていない。
観察 5.5:分けるものは、PubMed が言葉を読み替えるかどうか、である。 引用符なしの言葉は読み替えの表を通って MeSH に結び付く。7 臓器のうち 6 臓器では、ふだんの言葉も医学の言葉も同じ索引語に読み替えられた(pancreas と pancreatic はどちらも pancreatic neoplasms へ、stomach と gastric はどちらも stomach neoplasms へ)。引用符は読み替えを止めるので、言い方の慣習がそのまま件数に出る。
観察 5.6:大腸だけは、二つの言い方が別の索引語に読み替えられた(bowel cancer は腸の腫瘍全体 intestinal neoplasms へ、colorectal cancer は colorectal neoplasms へ)。引用符なしの比 0.986 は、別々の集合の件数がたまたま近くなった値であり、ほかの 6 臓器の比と同じ意味ではない。

図1:縦軸は対数目盛。塗りつぶしの灰(ふだんの言葉)と紺(医学の言葉)は引用符なしで、どの臓器でも高さがそろう。斜線(ふだんの言葉)と金(医学の言葉)は引用符ありで、臓器ごとに片方だけが大きく沈む。
6. 読み替えは、広げもし、外れもする
PubMed が返した読み替えの式を、そのまま読む。
計算 6.1 読み替えの式(抜粋)
| 入れた言葉 | 件数 | PubMed の読み替え(要所) |
|---|---|---|
| pancreatic cancer | 167,715 | “pancreatic neoplasms”[MeSH Terms] OR …… OR “pancreatic cancer”[All Fields] |
| bowel cancer | 347,712 | “intestinal neoplasms”[MeSH Terms] OR …(腸の腫瘍全体) |
| pancreatic adenocarcinoma | 63,863 | (“pancreas”[MeSH Terms] OR … OR “pancreatitis”[MeSH Terms] OR …) AND (“adenocarcinoma”[MeSH Terms] OR …) |
| PDAC | 17,048 | “anophthalmia with pulmonary hypoplasia”[Supplementary Concept] OR … OR “pdac”[All Fields] |
| pancreatic tumor・pancreatic tumour | 157,215・157,215 | “pancreatic tumour”[All Fields] OR “pancreatic neoplasms”[MeSH Terms] OR …(英米の綴りを両方含む) |
| pancratic cancer | 10 | “pancratic”[All Fields] AND (…”cancer”[All Fields] …) |
観察 6.2:読み替えは広げる。 bowel cancer は腸の腫瘍全体の索引語に結び付けられ、大腸だけでなく腸のほかの部位の腫瘍も含む検索になった。pancreatic adenocarcinoma は、pancreatic を膵臓だけでなく膵炎(pancreatitis)にも読み替えた。
観察 6.3:読み替えは外れる。 略語 PDAC は、膵臓ではない病気(無眼球と肺の低形成を伴う病気)の補助概念に読み替えられた。PubMed の説明書のとおり、読み替えの表には補助概念が入っており、略語が別の概念の見出しと一致すると、その概念にも結び付く。
観察 6.4:読み替えは綴りの違いを吸収するが、打ち間違いは吸収しない。 tumor と tumour は同じ 157,215 件になった。一文字の打ち間違い pancratic cancer は 10 件で、引用符なしの pancreatic cancer の 0.000060 である。
7. 二つの取りこぼしは、逆向きの年に出る
計算 7.1 膵臓がんの記録の重なり(全年)
| 件数 | 割合 | |
|---|---|---|
| MeSH(pancreatic neoplasms[mh]) | 104,584 | |
| そのうち題名・要旨に “pancreatic cancer” がある | 44,365 | 0.424 |
| そのうち無い | 60,219 | 0.576 |
| 題名・要旨の句(”pancreatic cancer”[tiab]) | 65,829 | |
| そのうち MeSH が付いていない | 21,464 | 0.326 |
| その中の MEDLINE の記録/MEDLINE の外 | 7,544/13,920 | 0.351/0.649 |
| MeSH の記録のうち MEDLINE の記録 | 104,583 | 0.99999 |
| 引用符なしの検索で、MeSH にも句にも当たらない記録 | 41,667 | 引用符なし全体の 0.248 |
観察 7.2:索引語の付いた記録の半分あまり(0.576)は、題名・要旨に “pancreatic cancer” という句を持たない。それらの記録の題名・要旨にある言い方を数えると、”pancreatic tumo*” 4,721、”pancreatic adenocarcinoma” 3,877、”pancreatic carcinoma” 3,445、”pancreatic neoplasm*” 2,239、複数形 “pancreatic cancers” 553 で、五つを重なりを引かずに足しても 14,835(0.246)にしかならない。残りの記録がどう書かれているかは数えていない。
計算 7.3 出版年ごとの二つの割合(抜粋)
| 出版年 | MeSH | 題名・要旨の句 | 句があるのに MeSH が無い | MeSH のうち句がある | 引用符なし ÷ MeSH |
|---|---|---|---|---|---|
| 1975 | 512 | 17 | 0.059 | 0.031 | 1.109 |
| 1990 | 982 | 257 | 0.125 | 0.229 | 1.218 |
| 2000 | 1,328 | 500 | 0.152 | 0.319 | 1.288 |
| 2008 | 2,402 | 1,332 | 0.194 | 0.447 | 1.333 |
| 2010 | 2,792 | 1,583 | 0.191 | 0.459 | 1.352 |
| 2015 | 4,027 | 2,833 | 0.274 | 0.511 | 1.531 |
| 2020 | 5,039 | 4,410 | 0.371 | 0.550 | 1.899 |
| 2021 | 5,100 | 4,830 | 0.411 | 0.558 | 2.028 |
| 2024 | 4,764 | 4,680 | 0.410 | 0.579 | 2.170 |
| 2025 | 4,691 | 5,198 | 0.447 | 0.613 | 2.449 |
観察 7.4:索引語は最近の年を取りこぼす。 題名・要旨に句があるのに MeSH が付いていない記録の割合は、1990〜2010 年のどの年も 0.125〜0.206 だったが、2021〜2024 年のどの年も 0.399〜0.411 である。2025 年は 0.447 で、索引がまだ途中の分を含みうる。MeSH の付いた記録はほぼすべて MEDLINE の記録なので、MEDLINE の外の記録(M004 で見た伸びの半分あまり)は索引語の検索には入らない。
観察 7.5:句は古い年を取りこぼす。 索引語の付いた記録のうち題名・要旨に “pancreatic cancer” がある割合は、1975〜1980 年のどの年も 0.101 以下で、2014〜2025 年のどの年も 0.511 以上である。1975 年の 0.031 から 2024 年の 0.579 まで 18.5 倍になった。言葉のほうが時代とともに変わっている。
観察 7.6:ふだんの句 “pancreas cancer”[tiab] は、1975〜2025 年の年ごとの件数を足して 1,933 件で、同じ年の “pancreatic cancer”[tiab] の 68,399 件の 0.0283 である(年ごとの和には二度数えられた記録が含まれうる)。
観察 7.7:引用符なしの検索の件数は、1975 年には MeSH の 1.109 倍だったが、2024 年には 2.170 倍である。引用符なしの検索は MeSH を丸ごと含み、そのうえ索引語の付いていない最近の記録と、言葉が別々に現れる記録も拾う。

図2:紺は「題名・要旨に句があるのに MeSH が無い」割合で、2010 年ごろから上がる。金の破線は「MeSH があるのに題名・要旨に句が無い」割合で、1975 年から下がり続ける。二本の線は逆向きに動く。
8. 限界
- 件数は取得した時点のもので、日々変わる。 本稿の数は 2026 年 9 月 25 日のもので、NLM の最新のデータを反映していない。
- PubMed だけである。 日本語の文献データベースや一般の検索エンジンには広げない。日本語の表記の揺れ(すい臓がん・膵臓がん・膵癌など)は数えていない。
- 件数だけを数えた。 見つかった論文が、調べた人の知りたいことに合っているかは測っていない。
- ふだんの言葉と医学の言葉の組は、本稿が選んだ 7 組である。 腎臓では二つの言い方がどちらも少なく、慣習になっている別の言い方を確かめていない。
- 年ごとの件数は、二つの年に数えられる記録を含みうる。 年ごとの和は使わず、割合だけを使った。
- 原因を述べない。 言い方の慣習がなぜ臓器ごとに違うか、索引語の付かない記録がなぜ増えたかは、この数え方の外にある。
- どの検索がよいかを勧めない。 広く拾うか、狭く絞るかは目的による。
結び
同じ臓器を二つの言い方で調べると、引用符なしなら件数の比は 0.786〜1.239 に収まり、引用符ありなら多い方が 11.42〜209.19 倍になった(7 臓器中 6 臓器)。医学の言葉が多い臓器(膵臓・胃・大腸)もあれば、ふだんの言葉が多い臓器(肝臓・肺・乳房)もある。膵臓がんでは、ふだんの言い方 pancreas cancer が、引用符なしの 148,792 件から、引用符ありの 2,011 件まで 73.99 倍沈む。
分けるものは一つ、PubMed が言葉を読み替えるか、読み替えないか、である。
読み替えは広げもし(bowel cancer が腸全体へ、pancreatic が膵炎へ)、外れもする(PDAC が別の病気へ)。そして索引語の検索と句の検索は、逆向きの年を取りこぼす。索引語は最近の年を、句は古い年を。同じ病気の「論文の数」は、どの集合を数えたかを言わずには言えない。
データと再現
| データ | PubMed(U.S. National Library of Medicine)の E-utilities(esearch)で取った件数と読み替えの式。2026 年 9 月 25 日 22:42〜22:48 に取得。Courtesy of the U.S. National Library of Medicine |
| 利用条件 | NLM Terms and Conditions(利用は無料・出典を明記・NLM の推奨を示唆しない・最新のデータでないことを明記) |
| 範囲 | 膵臓がんの言い方 23 通り、7 臓器 × 5 通り、出版年 1975〜2025 年、重なり 12 通り。件数だけ(個々の論文・著者・雑誌は数えていない) |
| 検算 | 検算/M005.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M005_output.txt から取っている |
| 生データ | data/pubmed_m005_20260925.json(検索の式・URL・件数・読み替えの式・警告・取得時刻)、取得の道具 data/fetch_pubmed.py、data/SOURCES.md(利用条件・SHA-256・検索の仕組みの原文)。検算は走らせるたびに SHA-256 を照合する |
| 図 | 図/M005_zu1・図/M005_zu2・図/M005_zu3(png・svg・英語版) |
参考文献
- U.S. National Library of Medicine. PubMed(E-utilities, esearch). Courtesy of the U.S. National Library of Medicine(2026年9月25日に取得). https://eutils.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/eutils/
- U.S. National Library of Medicine. PubMed User Guide(2026年9月25日に利用). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/help/
- 山岸勇輝 (2026). 「医学論文は約 15 年で倍になる」は、何を数えるかで答えが変わる [M004]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963542
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「病名の言い方の違いが効くのは、引用符を付けたときである」[M005]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22963601
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M005・DOI 10.5281/zenodo.22963601・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 病名の言い方の違いが効くのは、引用符を付けたときである [M005]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M005 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22963601
Yamagishi, Y. (2026). Which Name You Use for a Disease Matters Only When You Put It in Quotes [M005]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M005; DOI: 10.5281/zenodo.22963601
@misc{yamagishi2026yoiM005,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Which Name You Use for a Disease Matters Only When You Put It in Quotes},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M005},
doi = {10.5281/zenodo.22963601},
note = {Preprint}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
58c37341c2baa5f0480ea982bbf12fd3e1fa3021434795908830991388abcd68 yamagishi_M005_which_name_you_use_disease_matters_only_20260926_jp.pdfa0f671ee94560b95345895e223654d9d3e028e59d6119fb4dafd79d89fb204b9 yamagishi_M005_which_name_you_use_disease_matters_only_20260926_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。