要旨
本稿が問うのは、「平均在院日数」が何を数えているか、である。答えは、入院して退院していく人の流れの平均、である。それは、ある日に病棟にいる人たちが入院してからどれだけ経っているかの平均ではない。二つは同じ入院を別の向きから数えた数で、長く入院する人ほど、ある日の断面に多く写る。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、病院報告の平均在院日数(2023 年・全病床 26.3 日)は、在院患者延数を「新入院患者数と退院患者数の平均」で割った値で、表にある 15 の年次すべてで式から 0.048 日以内に再現できる。患者調査の退院患者平均在院日数は 28.4 日、ある日の入院患者の数を 1 日あたりの退院数で割ると 25.4 日で、どれも流れの平均である(第4節)。
第二に、9 月に退院した人の在院期間は、真ん中が 7 日で、51.8 % が 7 日以下だった。平均 28.4 日は真ん中の 4.06 倍である。1 年以上入院していた人は、退院した人の 0.66 % だった(第5節)。
第三に、これが本稿の芯である。10 月のある日に入院していた 1175.3 千人では、入院してからの期間の真ん中は 1〜2 か月で、1 年以上の人が 23.4 %、5 年以上が 9.6 %、10 年以上が 5.1 % いた。 1 年以上の割合は、退院した人の 35.6 倍である。入院してからの期間の平均は、少なくとも 395.6 日になる(第6節)。
第四に、この違いは、退院した人の分布だけから予言できる。入れ替わりが釣り合っていれば、入院して a 日目の人の数は「1 日あたりの退院数 × 在院期間が a 日より長い割合」になる。9 月の退院の分布からこうして作った予言は、10 月の断面の 11 区分(5 年未満)で実際の 0.77〜1.14 倍に入った。6 か月以上の区分では、実際はどれも予言より少ない(第7節)。
第五に、分けているのは流れで数えるか、ある日の断面で数えるかである。ある日に病棟を見渡すと、長く入院している人ほど、その日に居合わせる見込みが大きい。バスを待つ人が長い間隔に落ちやすいのと同じ形である(数理物理の論文308)。
第六に、「平均在院日数 26 日」は、入院した人が典型的に何日で帰るかも、ある日の病棟がどんな人たちかも、そのままは表さない。 退院した人の半分は 1 週間で帰り、ある日の病棟では 4 人に 1 人近くが 1 年以上入院している。
本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。平均在院日数の式は病院報告が定めるもので、流れと断面の違い(長さに比例して標本に入ること)は確率論で既知のことである。本稿は公表された表を並べ、二つの数え方の差の大きさと、その差が退院の分布から予言できることを示すだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 一人の見通しではない。どの数も全国の集計で、ある人がどれだけ入院するかを示すものではない。病院・施設・地域・病床の種類を比べない。全国の総数だけを使う。長く入院する人がいる理由(病気・事情)には立ち入らない。予言の外れの理由は確かめていない。 データについて:e-Stat の表は政府標準利用規約(第2.0版)に従って加工した。出典:厚生労働省「患者調査」「病院報告」。加えたのは、同じ年の同じ国の入院を、退院の流れとある日の断面の二通りで並べ、真ん中が 7 日と 1〜2 か月、1 年以上の割合が 35.6 倍違うことを示したこと、退院の分布だけから断面を予言し、実際と 0.77〜1.14 倍で合うことを示したこと、病院報告の平均在院日数が流れの平均であることを、全年次で式から再現して示したことである。
1. 記法と問い
- 平均在院日数(病院報告):在院患者延数 ÷ {(新入院患者数 + 退院患者数)÷ 2}。1 年間の延べの入院日数を、1 年間に入って出た人の数で割ったもの。
- 退院患者平均在院日数(患者調査):ある月(9 月)に退院した人の在院期間の平均。
- 在院期間の分布(患者調査・第104表):9 月に退院した人を、在院期間で 32 区分に分けた数。
- 入院期間の分布(患者調査・第53表):10 月の調査日に入院していた人を、その日までの入院期間で 13 区分に分けた数。
問い:「平均在院日数」は、誰の、どの向きの平均か。ある日に病棟にいる人たちから見ると、数はどう変わるか。
観察 1.1:退院した人は、入院の始まりから終わりまでを持っている。ある日に入院している人は、始まりからその日までしか持っていない。そして、ある日に病棟にいる見込みは、入院が長いほど大きい。二つの分布は、同じ入院を別の向きから数えている。
2. 下見と設計
正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。
| 中身 | |
|---|---|
| 流れ(年) | 病院報告の年次推移:在院患者延数・新入院患者数・退院患者数・平均在院日数(総数) |
| 流れ(月) | 患者調査 2023 年:9 月に退院した人の在院期間(32 区分)と、その平均 |
| 断面 | 患者調査 2023 年:10 月の調査日に入院していた人の入院期間(13 区分) |
| 予言 | 退院の分布から、入れ替わりが釣り合っているときの断面を作る。区分の中は日ごとに一様、1 か月 = 30 日、1 年 = 365 日と置く |
3. データと、その確かめ
計算 3.1 取得したファイルを SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。
| 確かめたこと | 結果 |
|---|---|
| 第53表:13 区分と不詳の和と総数、再計算した構成割合と表の構成割合 | 和は総数 1175.3 千人に一致、構成割合の差は最大 0.045 点(丸めの幅) |
| 第104表:32 区分と不詳の和と総数 | 1388.0 と 1388.2 千人(0.1 千人に丸めた数の和の幅) |
| 第104表:区分が日の順に切れ目なく並ぶか | 並ぶ(0 日から 5 年以上まで) |
| 病院報告:平均在院日数を式から再現できるか | 15 の年次すべてで差は最大 0.048 日 |
4. 平均在院日数は、流れの平均である
計算 4.1 病院報告の平均在院日数の再現(総数)
| 在院患者延数 | 新入院患者数 | 退院患者数 | 式の値 | 表の値 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 令和 5 年(2023) | 410,133,669 | 15,585,034 | 15,570,198 | 26.33 日 | 26.3 日 |
| 令和 6 年(2024) | 414,749,912 | 16,180,867 | 16,161,099 | 25.65 日 | 25.6 日 |
観察 4.2:病院報告の平均在院日数は、1 年間の延べの入院日数を、その年に入って出た人の数で割った値である。表の 15 の年次すべてで、式から 0.048 日以内に再現できる。これは「1 年間に入院していた人が、平均して何日いたか」ではなく、入って出ていく流れ一人あたりの日数である。
観察 4.3:患者調査でも、流れの平均は同じ大きさになる。9 月に退院した人の平均在院日数は 28.4 日、10 月のある日に入院していた人の数(1175.3 千人)を 9 月の 1 日あたりの退院数で割ると 25.4 日である。三つの流れの平均(26.3・28.4・25.4 日)は、月も数え方も違うが、同じ桁に並ぶ。
5. 退院した人の真ん中は、7 日である
計算 5.1 9 月に退院した人の在院期間(第104表・在院期間の分かる 1387.3 千人)
| 値 | |
|---|---|
| 真ん中の人が入る区分 | 7 日 |
| 7 日以下の割合 | 51.8 % |
| 1 年以上の割合 | 0.66 %(9.1 千人) |
| 5 年以上の割合 | 0.14 %(2.0 千人) |
| 退院患者平均在院日数(第128表) | 28.4 日(真ん中の 4.06 倍) |
観察 5.2:退院した人の半分は、1 週間以内に帰っている。 平均 28.4 日は、少数の長い入院に引き上げられた値で、真ん中の 4.06 倍である。
6. 芯、ある日に入院している人の、入院してからの期間
計算 6.1 10 月の調査日に入院していた人(第53表・総数 1175.3 千人)
| 入院してからの期間 | 千人 | 割合 | 累積 |
|---|---|---|---|
| 0〜7 日 | 288.0 | 0.245 | 0.245 |
| 8〜14 日 | 107.8 | 0.092 | 0.337 |
| 15〜30 日 | 155.3 | 0.132 | 0.469 |
| 1〜2 か月 | 136.5 | 0.116 | 0.585 |
| 2〜3 か月 | 65.9 | 0.056 | 0.641 |
| 3〜6 か月 | 76.6 | 0.065 | 0.706 |
| 6 か月〜1 年 | 67.4 | 0.057 | 0.764 |
| 1 年〜1 年 6 か月 | 39.2 | 0.033 | 0.797 |
| 1 年 6 か月〜2 年 | 29.4 | 0.025 | 0.822 |
| 2〜3 年 | 41.3 | 0.035 | 0.857 |
| 3〜5 年 | 51.5 | 0.044 | 0.901 |
| 5〜10 年 | 53.7 | 0.046 | 0.947 |
| 10 年以上 | 59.7 | 0.051 | 0.997 |
観察 6.2:ある日に入院している人の真ん中は、入院して 1〜2 か月の区分にいる。 30 日以下の人は 46.9 % で、半分に届かない。
観察 6.3:1 年以上入院している人は 274.8 千人(23.4 %)、5 年以上は 113.4 千人(9.6 %)、10 年以上は 59.7 千人(5.1 %)である。 1 年以上の割合は、退院した人(0.66 %)の 35.6 倍である。
観察 6.4:各区分を下端の日数で数えても(10 年以上を 10 年と数えても)、入院してからの期間の平均は 395.6 日になる。ある日の病棟の平均は、少なくとも 1 年を超える。 流れの平均 26.3〜28.4 日とは、桁が違う。

図1:灰が 9 月に退院した人の在院期間、紺が 10 月のある日に入院していた人の入院してからの期間(どちらも区分ごとの割合)。退院した人は 7 日以下に半分が集まり、ある日の入院患者は長い区分に広がる。退院した人を第53表の区分に並べ直すときは、区分の中を日ごとに一様と置いた。
7. 退院した人の分布から、ある日の断面を予言する
計算 7.1 入れ替わりが釣り合っているとき、入院して a 日目の人の数 = 1 日あたりの退院数(1388.2 ÷ 30 千人)× 在院期間が a 日より長い割合。a 日目に数えるかの約束は二通り(「>」:在院期間 T の人を 0〜T−1 日目で数える/「≧」:0〜T 日目で数える)。
| 入院してからの期間 | 実際(千人) | 予言「>」 | 予言「≧」 | 実際 ÷ 予言(>・≧) |
|---|---|---|---|---|
| 0〜7 日 | 288.0 | 253.1 | 277.0 | 1.14・1.04 |
| 8〜14 日 | 107.8 | 119.5 | 127.6 | 0.90・0.84 |
| 15〜30 日 | 155.3 | 158.2 | 165.1 | 0.98・0.94 |
| 1〜2 か月 | 136.5 | 146.1 | 150.3 | 0.93・0.91 |
| 2〜3 か月 | 65.9 | 69.6 | 71.2 | 0.95・0.93 |
| 3〜6 か月 | 76.6 | 83.5 | 84.5 | 0.92・0.91 |
| 6 か月〜1 年 | 67.4 | 80.7 | 81.0 | 0.84・0.83 |
| 1 年〜1 年 6 か月 | 39.2 | 47.9 | 48.0 | 0.82・0.82 |
| 1 年 6 か月〜2 年 | 29.4 | 36.3 | 36.3 | 0.81・0.81 |
| 2〜3 年 | 41.3 | 53.5 | 53.6 | 0.77・0.77 |
| 3〜5 年 | 51.5 | 65.7 | 65.8 | 0.78・0.78 |
観察 7.2:退院した人の分布だけから作った予言は、ある日の断面の 11 区分(5 年未満)で、実際の 0.77〜1.14 倍に入る。 退院した人の半分が 1 週間で帰るのに、ある日の断面では長い区分に人が広がる。その形は、長さの重みを付けるだけで出てくる。
観察 7.3:6 か月以上の 5 区分では、実際はどれも予言より少ない(予言「>」に対して 0.77〜0.84 倍)。9 月の退院と 10 月の断面は別の月で、入れ替わりがちょうど釣り合っているとは限らない。本稿は外れの理由を確かめていない。5 年以上の区分は、退院の表で上が開いているので予言できない。

図2:棒が 10 月のある日に入院していた人の実際の数、丸と菱形が 9 月の退院の分布からの予言(約束「>」と「≧」)。
観察 7.4:この形は、数理物理の論文308 が「あなたが乗るバスの間隔は、平均の 2 倍である」として示したものと同じである。バスを待つ人は長い間隔に落ちやすく、ある日の病棟を見る人は長い入院に出会いやすい。分けているのは、誰を標本にしたか(流れか、ある日の断面か)である。
8. 限界
- 退院は 9 月、断面は 10 月の数である。 同じ人たちを追ってはいない。
- 予言は、入れ替わりが釣り合っていることを仮定している。 6 か月以上の区分で外れる理由は確かめていない。
- 区分の中は日ごとに一様と置き、1 か月 = 30 日・1 年 = 365 日とした。 区切りの置き方で予言は少し動く。
- 5 年以上は予言していない。 退院の表の区分の上が開いているため。
- 入院してからの期間の平均は下限だけを示した。 10 年以上の区分の上が開いているため。
- 全国の総数だけを使った。 病院・施設・病床の種類・病気ごとの違いは扱っていない。長く入院する人がいる理由にも立ち入らない。
- 一人の見通しではない。
結び
病院報告の平均在院日数 26.3 日は、在院患者延数を入って出ていく人の数で割った流れの平均で、15 の年次すべてで式から再現できた。9 月に退院した人の真ん中は 7 日で、半分が 1 週間以内に帰っていた。ところが 10 月のある日に入院していた人では、真ん中が入院して 1〜2 か月で、1 年以上の人が 23.4 %(退院した人の 35.6 倍)、10 年以上の人が 5.1 % いた。その違いは、退院した人の分布に長さの重みを付けるだけで、0.77〜1.14 倍の幅で予言できた。
分けるものは一つ、入院を、退院していく流れで数えるか、ある日の病棟の断面で数えるか、である。
「平均在院日数」を聞いたら、それが入って出ていく人たちの平均で、ある日の病棟には長く入院している人が多く写ることを、一緒に思い出す。
データと再現
| データ | 厚生労働省「患者調査」令和 5 年 全国編 第53表・第104表・第128表、「病院報告」令和 6 年 全国編(年次推移)第2表・第3表・第4表・第8表。すべて e-Stat から取得(CSV・2026 年 9 月 25 日に利用) |
| 利用条件 | e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠(CC BY 4.0 互換)。本稿の予言と割合は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない |
| 範囲 | 日本・全国の総数。患者調査は病院と一般診療所(歯科診療所は含まない)の 2023 年、病院報告は病院の年次推移 |
| 検算 | 検算/M009.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M009_output.txt から取っている |
| 生データ | data/ に取得したそのままのファイル 7 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・表の注の写し・区分を日に直す置き方)。検算は走らせるたびに SHA-256 を照合する |
| 図 | 図/M009_zu1・図/M009_zu2(png・svg・英語版) |
参考文献
- 厚生労働省. 令和5年患者調査 全国編 第53表・第104表・第128表. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 厚生労働省. 令和6年病院報告 全国編(年次推移)第2表・第3表・第4表・第8表. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 山岸勇輝 (2026). あなたが乗るバスの間隔は、平均の 2 倍である [論文308]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172305
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「平均在院日数」は、退院していく人たちの平均である」[M009]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22965052
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M009・DOI 10.5281/zenodo.22965052・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「平均在院日数」は、退院していく人たちの平均である [M009]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M009 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22965052
Yamagishi, Y. (2026). “Average Length of Stay” Is the Average of the People Who Are Discharged [M009]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M009; DOI: 10.5281/zenodo.22965052
@misc{yamagishi2026yoiM009,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {"Average Length of Stay" Is the Average of the People Who Are Discharged},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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