【論文335】往復すると、冪が変わる

要旨

電波を出して、遠くに届かせる。本稿が問うのは、距離の冪が何によって決まっているのかである。答は、片道か往復かであって、周波数でも空間の性質でもないである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、距離を二倍にするのに、通信は $4$ 倍、レーダーは $\mathbf{16}$ 倍の電力が要る(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。冪が二から四に変わるのは、同じ拡散が二度起きるからである(第3節)。

第三に、だから電力では伸びない。電力を二倍にしても距離は $\mathbf{18.9207}$ パーセントしか伸びない(第2節)。

第四に、伸ばす道は電力ではなく開口である。開口面積を四倍にすれば距離は二倍になる(第4節)。

第五に、同じ冪が、隠れる側にも効く。反射断面積を $100$ 分の $1$ にしても、探知距離は $0.316228$ 倍にしかならない(第4節)。

第六に、分離子は「片道か、往復か」である(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。フリスの伝達公式、レーダー方程式、開口とアンテナ利得の関係はいずれも標準的である。電波伝搬を作らない。大気による減衰、地表反射、回折、屈折には立ち入らない。自由空間だけを見る。雑音を扱わない。受信機の雑音指数や積分利得、検出確率の統計には入らない。触れるにとどめる。反射断面積の物理を扱わない。形状や材質から断面積を計算する話には入らない。断面積は与えられた数として扱う。兵器を設計しない。本稿は冪の由来だけを見る。双基地を扱わない。送信と受信を離した配置には立ち入らない。既刊との関係:論文322 は同じ一つのセンサ誤差が位置に三つの別々の冪で届くと示した。そこでは一つの原因が三つの冪に分かれ、本稿では二つの現象が同じ拡散の一回と二回に分かれる。どちらも「冪の数を数える」型である。論文326 は二乗三乗の法則が法則ではなく恒等式だと示した。本稿の $1/r^2$ も同じで、球面の面積が $4\pi r^2$ だという幾何から出ている。電波の性質ではない。論文321 は大気の厚さを決める長さが残るかどうかも決めていると示した。一つの量が二つを決める型であり、ここでは一つの拡散が二回効く。論文300 は同根か別根かは判定できると示した。通信とレーダーは、その基準で同根である。違うのは回数だけである。加えたのは必要電力と到達距離を両方向に表で出したこと、開口を増やす道と電力を増やす道を同じ表で比べたこと、反射断面積を下げたときの探知距離を数で出したこと、分離子を「片道か往復か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:送信機から距離 $r$ の相手に電波を届ける。二つの場合を並べる。

場合 電力の届き方 例
片道 $P_r\propto 1/r^2$ 通信・放送・衛星の下り
往復 $P_r\propto 1/r^4$ レーダー・ソナー・LiDAR

観察 1.1 $1/r^2$ は電波の性質ではない。半径 $r$ の球面の面積が $4\pi r^2$ だから、同じ電力が $r^2$ に比例する面積に薄まる。これは幾何であり、論文326 が二乗三乗の法則について書いたのと同じ立場にある。

観察 1.2 往復では、同じ薄まりが二度起きる。行きに $1/r^2$ で薄まり、標的で散乱され、帰りにもう一度 $1/r^2$ で薄まる。$1/r^2\times1/r^2=1/r^4$ である。

観察 1.3 本稿の測り方を先に固定する。自由空間、等方的な散乱、大気の減衰なしとする。実際の系はこれより悪くなるので、本稿の数は上限側の見積もりである。

問い:冪が二から四に変わると、何がどれだけ変わるのか。

2. 距離を二倍にするのに、$16$ 倍の電力が要る

検算 2.1:距離を $k$ 倍にするために必要な電力(本稿で計算)。

距離の倍率 $k$ 通信 $k^2$ レーダー $k^4$
$2$ $4$ $\mathbf{16}$
$3$ $9$ $81$
$10$ $100$ $\mathbf{10000}$
$100$ $10000$ $\mathbf{100000000}$

観察 2.2 十倍遠くを見るのに一万倍の電力が要る。通信なら百倍で済むところである。$100$ 倍の差は、電力の桁を二つ増やすことに相当する。

検算 2.3:同じことを逆から見る。電力を $k$ 倍にしたとき、距離は何倍になるか(本稿で計算)。

電力の倍率 $k$ 通信 $k^{1/2}$ レーダー $k^{1/4}$
$2$ $1.414214$($41.4214$ パーセント増) $\mathbf{1.189207}$($\mathbf{18.9207}$ パーセント増)
$4$ $2.000000$ $1.414214$
$10$ $3.162278$ $1.778279$
$16$ $4.000000$ $\mathbf{2.000000}$

観察 2.4 電力を二倍にしても、レーダーは $18.9207$ パーセントしか伸びない。電力を二倍にするのは、装置にとっては大事である。冷却も電源も倍近くになって、届くのは二割弱である。

観察 2.5 同じ電力二倍で、通信は $41.4214$ パーセント伸びる。ちょうど倍の伸びである。同じ投資が、片道と往復で二倍以上ちがう見返りになる。

観察 2.6 $k^{1/4}$ は、増やしてもすぐ効かなくなる。電力を $10$ 倍にしても $1.778279$ 倍で、二倍にすら届かない。電力で距離を買う道は、四乗根の壁に当たる。

3. 芯:冪を決めているのは、同じ拡散が何回起きるかである

観察 3.1 これが本稿の芯である。$1/r^2$ と $1/r^4$ の間に、新しい物理は一つも入っていない。同じ球面拡散が、一回か二回かである。

観察 3.2 だから冪は $2$ と $4$ の二つしか出てこない。片道半分、というものが無いからである。$1/r^3$ になる自由空間の系は、この数え方の中には無い。

観察 3.3 論文300 の基準に当てる。

基準 結果
恒等式を保つ対応があるか ある。往復は片道を二度重ねたもの
同じ量が現れるか 現れる。どちらも球面の $4\pi r^2$
変数を動かして関係が保たれるか 保たれる。$r$ をどう動かしても冪は $2$ と $4$

観察 3.4 三行とも同根を指している。通信とレーダーは別の技術に見えるが、式の上では、同じものを一回やるか二回やるかである。

観察 3.5 論文322 との位置関係。322 は一つのセンサ誤差が位置に三つの別々の冪で届くと書いた。そこでは一つの原因が三つに分かれ、ここでは一つの機構が回数で分かれる。どちらも、冪の値そのものではなく、冪がいくつ立つかを数えている。

観察 3.6 正直に書くべき点、実際の系には $1/r^4$ 以外の冪も現れる。地表付近の伝搬では地面反射との干渉で $1/r^4$(片道)になることがあり、大気の吸収が効けば指数的に落ちる。本稿が言うのは「自由空間で幾何だけを数えたら $2$ と $4$ になる」であって、「観測される冪は必ず $2$ か $4$ である」ではない。

4. 伸ばす道は、電力ではなく開口である

設定:アンテナの利得 $G$ は、開口面積 $A$ に比例する。レーダーでは送信と受信の両方に効くので、到達距離は $(G_tG_r)^{1/4}$ に比例する。

検算 4.1:開口を $k$ 倍にしたときの到達距離(本稿で計算)。

開口面積の倍率 到達距離の倍率 同じ距離を電力で買うなら
$2$ $1.414214$ 電力 $4$ 倍
$4$ $\mathbf{2.000000}$ 電力 $\mathbf{16}$ 倍
$16$ $4.000000$ 電力 $256$ 倍

観察 4.2 開口は平方根で効き、電力は四乗根で効く。開口が送受で二度効くからである。面積を四倍(直径を二倍)にすれば距離は二倍で、同じことを電力でやるには $16$ 倍が要る。

観察 4.3 だからレーダーは大きい。遠くを見たい装置が、送信管ではなく皿を大きくする理由がこれである。電力は四乗根、開口は平方根。同じ「二倍」を買う値段が違う。

検算 4.4:同じ冪は、隠れる側にも効く。反射断面積を小さくしたときの探知距離(本稿で計算)。

反射断面積の倍率 探知距離の倍率 減少
$1/2$ $0.840896$ $15.91$ パーセント
$1/10$ $0.562341$ $43.77$ パーセント
$1/100$ $\mathbf{0.316228}$ $\mathbf{68.38}$ パーセント
$1/1000$ $0.177828$ $82.22$ パーセント

観察 4.5 断面積を $100$ 分の $1$ にしても、探知距離は $3$ 分の $1$ にしかならない。$0.316228$ 倍である。四乗根が、隠す側の努力も同じだけ薄める。

観察 4.6 通信ならこうならない。片道の $1/r^2$ なら、$100$ 分の $1$ は $0.100000$ 倍、すなわち $10$ 分の $1$ になる。同じ「$100$ 分の $1$」が、冪が違うだけで $3$ 分の $1$ と $10$ 分の $1$ に分かれる。

観察 4.7 この非対称は、両側に同じ形で効いている。見る側は電力を $16$ 倍にしてやっと距離が二倍になり、隠れる側は断面積を $16$ 分の $1$ にしてやっと距離が半分になる。どちらの努力も、四乗根で割り引かれる。

5. 分離子:片道か、往復か

観察 5.1 分離子、電波が球面に薄まる過程を、一度通ったか、二度通ったか。

冪 電力二倍で伸びる距離 距離二倍に要る電力
片道(通信) $1/r^2$ $41.4214$ パーセント $4$ 倍
往復(レーダー) $1/r^4$ $18.9207$ パーセント $16$ 倍

観察 5.2 分離子は、装置の側にも周波数の側にもない。同じ送信機、同じアンテナ、同じ周波数でも、相手が電波を返してくるか、相手の受信機が受け取るかで、冪が変わる。

観察 5.3 分離子は動かせる。標的の側に応答機を置けば、その瞬間に往復が片道二本になり、$1/r^4$ が $1/r^2$ に戻る。航空機のトランスポンダが遠距離で効くのはこのためであり、$1$ 次レーダーと $2$ 次レーダーは冪が違う。

観察 5.4 同じ分離子が、音でも光でも効く。ソナーも LiDAR も往復するので $1/r^4$ である。冪を決めているのは波の種類ではなく、往復するという事実だけである。

観察 5.5 正直に書くべき点、標的が点でない場合は $1/r^4$ にならない。気象レーダーのように、覆う体積が $r^2$ で増える相手を見るときは、実効的に $1/r^2$ に近づく。冪は標的の広がり方にも依る。本稿が扱ったのは点標的である。

観察 5.6 最後に一つ、「レーダーは遠くを見る装置だ」という言い方は、冪を隠している。同じ電力で通信が届く距離の平方根までしか、レーダーは見えない。遠くを見る装置なのではなく、遠くを見るのが二乗ぶん難しい装置である。

6. 点呼と結び

  1. 距離二倍に電力 $16$ 倍(検算2.1):通信は $4$ 倍。
  2. 十倍遠くに一万倍(観察2.2):通信は百倍。
  3. 電力二倍で $18.9207$ パーセント(検算2.3):二割弱しか伸びない。
  4. 通信なら同じ電力二倍で $41.4214$ パーセント(観察2.5):二倍以上の見返り。
  5. $1/r^2$ は幾何であって電波の性質ではない(観察1.1):球面の面積。
  6. 冪は $2$ と $4$ しか出ない(観察3.2):片道半分が無いから。
  7. 開口四倍で距離二倍(検算4.1):電力なら $16$ 倍。
  8. 断面積 $100$ 分の $1$ で距離 $0.316228$ 倍(検算4.4):$3$ 分の $1$ にしかならない。
  9. 通信なら同じ $100$ 分の $1$ で $0.100000$ 倍(観察4.6):冪の違いだけ。
  10. 応答機を置くと $1/r^2$ に戻る(観察5.3):分離子は動かせる。

結び:電波が球面に薄まるとき $1/r^2$ になるのは電波の性質ではなく、半径 $r$ の球面の面積が $4\pi r^2$ だという幾何である。論文326 が二乗三乗の法則について書いたのと同じ立場にある。そして往復すれば同じ薄まりが二度起きて $1/r^4$ になる。$1/r^2$ と $1/r^4$ の間に、新しい物理は一つも入っていない。代償は距離の冪で数えられる。距離を二倍にするのに通信は $4$ 倍、レーダーは $\mathbf{16}$ 倍の電力が要り、十倍遠くを見るには一万倍が要る。逆から見れば、電力を二倍にしてもレーダーは $\mathbf{18.9207}$ パーセントしか伸びない。同じ電力二倍で通信は $41.4214$ パーセント伸びるので、同じ投資が二倍以上ちがう見返りになる。電力を $10$ 倍にしても $1.778279$ 倍で、二倍にすら届かない。だから伸ばす道は電力ではなく開口である。開口は送受で二度効くので平方根、電力は四乗根で効く。面積を四倍(直径を二倍)にすれば距離は二倍で、同じことを電力でやるには $16$ 倍が要る。遠くを見たい装置が送信管ではなく皿を大きくする理由がこれである。そして同じ冪は、隠れる側にも同じだけ効く。反射断面積を $\mathbf{100}$ 分の $\mathbf{1}$ にしても、探知距離は $\mathbf{0.316228}$ 倍、すなわち $3$ 分の $1$ にしかならない。片道の $1/r^2$ なら同じ $100$ 分の $1$ が $0.100000$ 倍、すなわち $10$ 分の $1$ になる。見る側も隠れる側も、努力が四乗根で割り引かれる。分けるものは一つ、球面に薄まる過程を、一度通ったか、二度通ったか。分離子は装置の側にも周波数の側にもない。同じ送信機、同じアンテナ、同じ周波数でも、相手が返すか受け取るかで冪が変わる。そして分離子は動かせる。標的に応答機を置けば往復が片道二本になり、$1/r^4$ が $1/r^2$ に戻る。ソナーも LiDAR も往復するので $1/r^4$ であり、冪を決めているのは波の種類ではない。正直に書いておく。本稿が扱ったのは自由空間の点標的である。気象レーダーのように覆う体積が $r^2$ で増える相手なら実効的に $1/r^2$ に近づくし、地表付近の伝搬や大気の吸収があれば別の落ち方をする。数えたのは幾何だけである。最後に一つ、「レーダーは遠くを見る装置だ」という言い方は、冪を隠している。同じ電力で通信が届く距離の平方根までしか、レーダーは見えない。遠くを見る装置なのではなく、遠くを見るのが二乗ぶん難しい装置である。

参考文献

  1. Friis, H. T. (1946). A Note on a Simple Transmission Formula. Proceedings of the IRE, 34(5).
  2. Watson-Watt, R. A. (1945). Radar in War and in Peace. Nature, 156.
  3. Skolnik, M. I. (2008). Radar Handbook, 3rd edition. New York: McGraw-Hill.
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  6. 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 大気の厚さを決める長さが、大気が残るかどうかも決めている [論文321]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209154
  8. 山岸勇輝 (2026). 同じ一つのセンサ誤差が、位置には三つの別々の冪で届く [論文322]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209240
  9. 山岸勇輝 (2026). 二乗三乗の「法則」は、法則ではなく恒等式である [論文326]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209992

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「往復すると、冪が変わる」[論文335]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22681851

YOI 335第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 往復すると、冪が変わる [論文335]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/335 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22681851

Yamagishi, Y. (2026). The Round Trip Changes the Exponent [Paper 335]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/335; DOI: 10.5281/zenodo.22681851

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