要旨
炭素繊維とエポキシを半分ずつ混ぜる。本稿が問うのは、その複合材の剛性はいくつかである。答は、一つに決まらず、$\mathbf{16.932376}$ 倍の幅があるである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、$v_f=0.5$ で、並列は $116.7500$ GPa、直列は $6.8951$ GPa である(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。上限と下限の比には閉じた式があり、$v_f$ と $1-v_f$ で厳密に対称である(第3節)。
第三に、比は $v_f^2+(1-v_f)^2+v_f(1-v_f)(E_f/E_m+E_m/E_f)$ である(第3節)。
第四に、$v_f=0.5$ で最大となり、値は $\frac{1}{2}+\frac{1}{4}(E_f/E_m+E_m/E_f)=\mathbf{16.932376}$ である(第3節)。
第五に、二材料は $E_f/E_m+E_m/E_f$ という一つの対称な組合せでしか入らない。どちらを繊維と呼ぶかは、比を動かさない(第4節)。
第六に、分離子は「ひずみが共通か、応力が共通か」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ボイト(並列・等ひずみ)とロイス(直列・等応力)の平均、複合則、ハシン=シュトリクマン境界はいずれも標準的である。材料力学を作らない。繊維と母材の界面、剥離、残留応力には立ち入らない。触れるにとどめる。強度を扱わない。本稿が扱うのは剛性(ヤング率)だけで、破壊強度や疲労は主題にしない。強度は論文344 の射程である。境界の最適性を主張しない。ボイトとロイスは緩い境界であり、等方な二相材ではハシン=シュトリクマン境界のほうが狭い。本稿は緩いほうの二つを扱う。積層板を設計しない。古典積層理論や織り方には入らない。異方性の一般論を扱わない。一方向材の縦と横だけを見る。既刊との関係:論文326 は二乗三乗の「法則」が法則ではなく恒等式だと示した。本稿の比も、実験で測るものではなく代数から出る恒等式である。同じ動作を材料の側で行う。論文330 は条件数の二乗が恒等式だと示した。そこでも「たいていこうなる」と思われていたものが定義から出ていた。論文344 は強度が体積の関数であって材料の定数ではないと示す。本稿は剛性の側で「一つの数に決まらない」を言い、344 は強度の側で言う。対をなす。論文300 は同根か別根かは判定できると示した。並列と直列は、判定に掛ければ別根である。加えたのは比の閉じた式を導いて対称性と最大値を代数で示したこと、二材料が一つの対称な組合せでしか入らないことを指摘したこと、$E_f=E_m$ で比が全 $v_f$ で $1$ になることを反例として確かめたこと、分離子を「何が共通か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:ヤング率 $E_f$ の繊維とヤング率 $E_m$ の母材を、体積分率 $v_f$ で混ぜる。混ぜ方には二つの極端がある。
| 何が共通か | 複合材の $E$ | |
|---|---|---|
| ボイト(並列) | ひずみ | $E=v_fE_f+(1-v_f)E_m$ |
| ロイス(直列) | 応力 | $1/E=v_f/E_f+(1-v_f)/E_m$ |
観察 1.1 並列とは、繊維の向きに引くことである。繊維と母材が同じだけ伸びる。直列とは、繊維に垂直に引くことである。同じ応力が両方を通る。
観察 1.2 混ぜたものは同じである。同じ二材料、同じ体積分率、変わっているのは、力をかける向きだけである。
観察 1.3 本稿の測り方を先に固定する。炭素繊維 $E_f=230$ GPa、エポキシ $E_m=3.5$ GPa とする。比は $E_f/E_m=65.714286$ である。
問い:向きだけで、どれだけひらくのか。
2. $v_f=0.5$ で、$116.7500$ と $6.8951$ になる
検算 2.1:体積分率ごとに二つを計算する(本稿で計算)。
| $v_f$ | ボイト(並列)[GPa] | ロイス(直列)[GPa] | 上限/下限 |
|---|---|---|---|
| $0.00$ | $3.5000$ | $3.5000$ | $\mathbf{1.0000}$ |
| $0.20$ | $48.8000$ | $4.3584$ | $11.1967$ |
| $0.40$ | $94.1000$ | $5.7747$ | $\mathbf{16.2951}$ |
| $\mathbf{0.50}$ | $\mathbf{116.7500}$ | $\mathbf{6.8951}$ | $\mathbf{16.9324}$ |
| $0.60$ | $139.4000$ | $8.5547$ | $\mathbf{16.2951}$ |
| $0.70$ | $162.0500$ | $11.2666$ | $14.3832$ |
| $1.00$ | $230.0000$ | $230.0000$ | $\mathbf{1.0000}$ |
観察 2.2 自己検査、$v_f=0$ で両者が $3.5000$、$v_f=1$ で両者が $230.0000$ になる。混ぜていない極では、混ぜ方に意味が無いのだから一致しなければならない。一致した。
観察 2.3 $v_f=0.5$ で $116.7500$ 対 $6.8951$。同じ材料を同じ割合で混ぜて、$16.9324$ 倍ひらいている。「この複合材のヤング率は何 GPa か」という問いに、一つの答が無い。
観察 2.4 $v_f=0.4$ と $v_f=0.6$ の比が、小数第四位まで同じである。どちらも $16.2951$ である。偶然には見えない。
観察 2.5 そして両端では比が $1$ に戻る。$v_f=0$ でも $v_f=1$ でも $1.0000$、比は真ん中で最大になる山形をしている。
3. 芯:比には閉じた式があり、対称である
設定:比を、記号のまま書いてみる。
観察 3.1 $a=E_f$、$b=E_m$、$u=v_f$ と置くと、比は
$$R(u)=\bigl(ua+(1-u)b\bigr)\Bigl(\frac{u}{a}+\frac{1-u}{b}\Bigr)
=u^2+(1-u)^2+u(1-u)\Bigl(\frac{a}{b}+\frac{b}{a}\Bigr)$$
である。展開して整理しただけで、近似は入っていない。
観察 3.2 これが本稿の芯である。右辺の三項はすべて $u$ と $1-u$ の入れ替えで不変である。$u^2+(1-u)^2$ も $u(1-u)$ も対称だからである。つまり $R(u)=R(1-u)$ が厳密に成り立つ。
観察 3.3 だから $v_f=0.4$ と $0.6$ が一致したのは偶然ではない。第2節の表で小数第四位まで同じに見えたものは、小数第八位まで同じである。$16.29508075$ 対 $16.29508075$。恒等式だからである。
検算 3.4:閉じた式と直接計算を突き合わせる(本稿で計算)。
| $u$ | 直接計算 | 閉じた式 |
|---|---|---|
| $0.10$ | $6.73565528$ | $6.73565528$ |
| $0.30$ | $14.38319565$ | $14.38319565$ |
| $0.40$ | $16.29508075$ | $16.29508075$ |
| $\mathbf{0.50}$ | $\mathbf{16.93237578}$ | $\mathbf{16.93237578}$ |
| $0.60$ | $16.29508075$ | $16.29508075$ |
| $0.90$ | $6.73565528$ | $6.73565528$ |
観察 3.5 $u$ を $0$ から $1$ まで $0.01$ 刻みで動かして、最大ずれは $7.11\times10^{-15}$ である。倍精度の丸めの範囲である。恒等式が成り立っている。
観察 3.6 対称な二次関数だから、最大は真ん中にある。$u=1/2$ を代入して
$$R_{\max}=\frac{1}{2}+\frac{1}{4}\Bigl(\frac{a}{b}+\frac{b}{a}\Bigr)=\mathbf{16.932376}$$
である。第2節で表から読んだ $16.9324$ が、代数から出た。
観察 3.7 これは論文326 と同じ動作である。326 は二乗三乗の「法則」が幾何の恒等式だと書いた。本稿の $16.932376$ も、材料を測って得た数ではなく、二つの平均の定義から出る数である。実験で確かめる対象ではない。
4. 二材料は、一つの対称な組合せでしか入らない
観察 4.1 閉じた式の中で、二材料は $a/b+b/a$ という形でしか現れない。$a$ と $b$ を入れ替えても、この組合せは変わらない。どちらを「繊維」と呼び、どちらを「母材」と呼ぶかは、比を一切動かさない。
検算 4.2:別の二材料でも閉じた式が当たるか(本稿で計算)。
| 二材料 | $a/b$ | $R_{\max}$(閉じた式) | $u=0.5$ の直接計算 |
|---|---|---|---|
| 炭素繊維/エポキシ | $65.714286$ | $16.932376$ | $16.932376$ |
| $200/70$ GPa | $2.857143$ | $1.301786$ | $1.301786$ |
| $1000/1$ GPa | $1000.000000$ | $250.500250$ | $250.500250$ |
観察 4.3 比が近い二材料では、幅がほとんど無い。$200$ と $70$ GPa なら $1.301786$ 倍で、$30$ パーセントしかひらかない。向きが効くのは、二材料の剛性が桁で違うときだけである。
観察 4.4 $E_f=E_m$ なら、比は全 $v_f$ で $1$ になる。$a/b+b/a=2$ を代入すると $R(u)=u^2+(1-u)^2+2u(1-u)=(u+(1-u))^2=1$、同じ材料を混ぜても向きは効かない。当たり前だが、式がそれを言っている。
観察 4.5 $a/b$ が大きいとき、$R_{\max}\approx a/(4b)$ である。$b/a$ が消えるからで、$1000/1$ なら $250.500250$、これは $1000/4=250$ にほぼ等しい。幅は剛性比の四分の一で決まる。
観察 4.6 正直に書くべき点、ボイトとロイスは緩い境界である。等方な二相材料なら、ハシン=シュトリクマン境界のほうが狭い。本稿の $16.932376$ 倍は「向きで実現できる幅」ではなく、「二つの単純な平均がひらく幅」である。一方向材の縦横の実測は、この幅の中に収まるが両端には届かない。
5. 分離子:ひずみが共通か、応力が共通か
観察 5.1 分離子、二相の間で共通になっているのが、ひずみか、応力か。
| 共通なもの | 力の向き | $v_f=0.5$ の $E$ [GPa] | |
|---|---|---|---|
| ボイト | ひずみ | 繊維に平行 | $116.7500$ |
| ロイス | 応力 | 繊維に垂直 | $6.8951$ |
観察 5.2 分離子は、材料の側にはない。同じ板、同じ組成、同じ体積分率である。差を作っているのは、どちらの向きに引くかだけである。
観察 5.3 だから「この材料のヤング率」は問いとして不完全である。向きを言わなければ答が $16.932376$ 倍ぶれる。等方な材料では省略できた語が、ここでは省略できない。
観察 5.4 分離子は動かせる。繊維を織る、あるいは向きを変えて積層すれば、二つの極の間の任意の点を選べる。設計とは、この $16.932376$ 倍の幅のどこに座るかを決めることである。
観察 5.5 論文344 との対をなす。344 は強度が体積の関数であって材料の定数ではないと言う。本稿は剛性が向きの関数であって材料の定数ではないと言う。「材料の定数」と思われているものが、二度とも定数でなかった。
観察 5.6 最後に一つ、$116.7500$ という上限は、繊維だけの $230$ の半分ほどである。半分混ぜたのだから当然に見えるが、下限の $6.8951$ は母材だけの $3.5$ の二倍にも満たない。直列に並べると、繊維がほとんど働かない。同じ量の炭素繊維が、向き次第でほぼ無駄になる。
6. 点呼と結び
- $v_f=0.5$ で $116.7500$ 対 $6.8951$(検算2.1):$16.9324$ 倍。
- $v_f=0$ と $1$ で両者が一致(観察2.2):混ぜていない極では混ぜ方に意味が無い。
- $v_f=0.4$ と $0.6$ が一致(観察2.4):偶然ではない。
- 比は $u^2+(1-u)^2+u(1-u)(a/b+b/a)$(観察3.1):近似は入っていない。
- $R(u)=R(1-u)$ が厳密(観察3.2):三項とも対称。
- $16.29508075$ 対 $16.29508075$(観察3.3):小数第八位まで同じ。
- 最大は $\frac{1}{2}+\frac{1}{4}(a/b+b/a)=16.932376$(観察3.6):代数から出た。
- 二材料は $a/b+b/a$ でしか入らない(観察4.1):どちらを繊維と呼ぶかは効かない。
- $E_f=E_m$ なら全 $v_f$ で $1$(観察4.4):式がそれを言う。
- 下限は母材の二倍にも満たない(観察5.6):繊維がほぼ無駄になる。
結び:炭素繊維とエポキシを半分ずつ混ぜて「ヤング率はいくつか」と問うと、答が一つに決まらない。繊維に平行なら $\mathbf{116.7500}$ GPa、垂直なら $\mathbf{6.8951}$ GPa で、$16.9324$ 倍ひらく。同じ板、同じ組成、同じ体積分率であり、変わっているのは引く向きだけである。そしてこの比には閉じた式がある。$a=E_f$、$b=E_m$、$u=v_f$ と置くと $R(u)=u^2+(1-u)^2+u(1-u)(a/b+b/a)$ であり、展開して整理しただけで近似は入っていない。右辺の三項はすべて $u\leftrightarrow 1-u$ で不変なので、$R(u)=R(1-u)$ が厳密に成り立つ。だから $v_f=0.4$ と $0.6$ が一致したのは偶然ではなく、小数第八位まで $16.29508075$ で同じである。対称な二次関数だから、最大は真ん中にある。$u=1/2$ で $R_{\max}=\frac{1}{2}+\frac{1}{4}(a/b+b/a)=\mathbf{16.932376}$。表から読んだ $16.9324$ が、代数から出た。論文326 が二乗三乗の法則について書いたのと同じで、これは材料を測って得た数ではなく、二つの平均の定義から出る数である。そして二材料は、$a/b+b/a$ という一つの対称な組合せでしか式に入らない。$a$ と $b$ を入れ替えてもこの組合せは変わらないので、どちらを「繊維」と呼びどちらを「母材」と呼ぶかは、比を一切動かさない。$E_f=E_m$ なら $R(u)=(u+(1-u))^2=1$ となり、同じ材料を混ぜれば向きは効かない。$a/b$ が大きいときは $R_{\max}\approx a/(4b)$ で、幅は剛性比の四分の一で決まる。分けるものは一つ、二相の間で共通になっているのが、ひずみか、応力か。分離子は材料の側にはない。だから「この材料のヤング率」は、向きを言わなければ問いとして不完全である。等方な材料では省略できた語が、ここでは省略できない。正直に書いておく。ボイトとロイスは緩い境界であり、等方な二相材料ならハシン=シュトリクマン境界のほうが狭い。$16.932376$ 倍は「向きで実現できる幅」ではなく「二つの単純な平均がひらく幅」であって、実測はこの中に収まるが両端には届かない。最後に一つ、上限の $116.7500$ は繊維だけの $230$ の半分ほどで、半分混ぜたのだから当然に見える。ところが下限の $6.8951$ は、母材だけの $3.5$ の二倍にも満たない。直列に並べると繊維がほとんど働かない。同じ量の炭素繊維が、向き次第でほぼ無駄になる。
参考文献
- Voigt, W. (1889). Ueber die Beziehung zwischen den beiden Elasticitätsconstanten isotroper Körper. Annalen der Physik, 274(12).
- Reuss, A. (1929). Berechnung der Fließgrenze von Mischkristallen auf Grund der Plastizitätsbedingung für Einkristalle. Zeitschrift für Angewandte Mathematik und Mechanik, 9(1).
- Hill, R. (1952). The Elastic Behaviour of a Crystalline Aggregate. Proceedings of the Physical Society A, 65(5).
- Hashin, Z., Shtrikman, S. (1963). A Variational Approach to the Theory of the Elastic Behaviour of Multiphase Materials. Journal of the Mechanics and Physics of Solids, 11(2).
- Hull, D., Clyne, T. W. (1996). An Introduction to Composite Materials, 2nd edition. Cambridge: Cambridge University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる [論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 二乗三乗の「法則」は、法則ではなく恒等式である [論文326]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209992
- 山岸勇輝 (2026). 条件数が二乗になるのは、近似ではなく恒等式である [論文330]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22681423
- 山岸勇輝 (2026). 強度は材料の定数ではなく、体積の関数である [論文344]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682232
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ二材料を同じ割合で混ぜて、剛性が 16.93 倍ひらく」[論文342]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22682160
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ二材料を同じ割合で混ぜて、剛性が 16.93 倍ひらく [論文342]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/342 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22682160
Yamagishi, Y. (2026). Mix the Same Two Materials in the Same Proportion and the Stiffness Differs by 16.93 [Paper 342]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/342; DOI: 10.5281/zenodo.22682160
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