【論文343】穴の大きさは、応力集中の式に入っていない

要旨

板に穴を開けると、その縁で応力が高くなる。本稿が問うのは、どれだけ高くなるかを決めているのは何かである。答は、穴の大きさではなく、尖りだけである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、楕円孔の応力集中係数は $K_t=1+2a/b$ で、大きさが入っていない(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。面積が $\mathbf{10000}$ 倍ちがう二つの穴が、同じ $K_t=21.0$ を持つ(第2節)。

第三に、円孔では $K_t=3.0$ で、これは穴の大きさに一切依らない(第2節)。

第四に、$a/b$ を $100$ 倍にすると $K_t$ は $67$ 倍になる。$3.0$ から $\mathbf{201.0}$ へ(第2節)。

第五に、同じ楕円を $90$ 度回すと、$K_t$ は $21.0$ から $1.2$ に落ちる(第4節)。

第六に、分離子は「面積か、尖りか」である(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。インギリスの楕円孔解、応力集中係数 $K_t=1+2a/b$、曲率半径による表現 $K_t=1+2\sqrt{a/\rho}$ はいずれも標準的である。弾性論を作らない。解の導出、複素応力関数、境界条件の扱いには立ち入らない。式は与えられたものとして使う。破壊力学を作らない。応力拡大係数 $K_I$ やき裂進展則には入らない。触れるにとどめる。塑性を扱わない。実際の材料は降伏するので、$K_t$ が $201$ でも応力が $201$ 倍にはならない。弾性の範囲だけを見る。有限幅を扱わない。無限平板の解を使う。板幅に対して穴が大きい場合は別の補正が要る。疲労を扱わない。繰り返し荷重下の切欠き係数には立ち入らない。既刊との関係:論文325 は虹の角度に水滴の大きさが入っていないと示した。本稿はまったく同じ型で、応力集中に穴の大きさが入っていない。どちらも「相手の大きさが式に入る道が無い」。論文326 は二乗三乗の「法則」が恒等式だと示した。そこでも寸法の効き方が幾何から決まっていた。論文344 は強度が体積の関数であって材料の定数ではないと示す。そこでは大きさが効き、本稿では効かない。同じ「材料の破壊」の中で、大きさが効く量と効かない量が並んでいる。論文342 は同じ二材料が向きだけで $16.93$ 倍ちがうと示した。そこでも本稿でも、向きが答を変えている。加えたのは二つの表現($a/b$ と曲率半径)が厳密に一致することを確かめたこと、面積が $10^4$ 倍ちがう二つで $K_t$ が同じになることを明示したこと、同じ楕円を $90$ 度回したときの落差を出したこと、分離子を「面積か尖りか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:無限に広い平板を一様に引っ張り、その中に長半径 $a$、短半径 $b$ の楕円孔を、$a$ が引張方向に垂直になるように開ける。孔の縁の最大応力は

$$\sigma_{\max}=\sigma_0\Bigl(1+\frac{2a}{b}\Bigr),\qquad K_t=1+\frac{2a}{b}$$

である(インギリス、$1913$ 年)。

観察 1.1 右辺に $a$ と $b$ は比としてしか現れない。$a$ と $b$ を同じ倍率で大きくしても $K_t$ は変わらない。つまり穴の大きさが、式に入っていない。

観察 1.2 素朴には、大きい穴のほうが危ないと思う。断面積が減るから弱くなるのは確かだが、それは平均応力の話であって、集中の話ではない。二つは別の量である。

観察 1.3 本稿の測り方を先に固定する。無限平板、線形弾性、一軸引張とする。有限幅の補正も塑性も入れない。

問い:$K_t$ を決めているのは、穴の何か。

2. 面積が $10000$ 倍ちがう二つが、同じ $K_t$ を持つ

検算 2.1:$a/b$ ごとに $K_t$ を出し、曲率半径による表現とも突き合わせる(本稿で計算)。

$a/b$ $K_t=1+2a/b$ 曲率半径 $\rho=b^2/a$($a=1$) $1+2\sqrt{a/\rho}$
$1$(円孔) $\mathbf{3.0}$ $1.000000$ $3.0000$
$2$ $5.0$ $0.250000$ $5.0000$
$5$ $11.0$ $0.040000$ $11.0000$
$10$ $21.0$ $0.010000$ $21.0000$
$100$ $\mathbf{201.0}$ $0.000100$ $201.0000$

観察 2.2 自己検査を二つ置く。(a)円孔で $K_t=3.0$ となり、これは古典的な既知値である。(b)二つの表現が全行で厳密に一致する(最大ずれ $0$)、独立に知られた一件と、独立な二つの式の突合せで、道具を試してから読む。

検算 2.3:$a/b$ を同じにしたまま、穴の大きさだけを変える(本稿で計算)。

$a$ $b$ 孔の面積 $\pi ab$ $K_t$
$1$ $0.1$ $0.314159$ $\mathbf{21.0}$
$100$ $10$ $3141.592654$ $\mathbf{21.0}$
比 $\mathbf{10000}$ 倍 $\mathbf{1.0000}$ 倍

観察 2.4 これが本稿の芯である。面積が $10000$ 倍ちがう二つの穴が、同じ $21.0$ を持つ、$0.3$ mm$^2$ の傷と $3000$ mm$^2$ の孔が、縁では同じ倍率で応力を上げる。

観察 2.5 円孔の $3.0$ は、直径に一切依らない。髪の毛ほどの丸穴も、拳が入る丸穴も、縁の応力は $3$ 倍である。「小さいから大丈夫」は、集中については成り立たない。

観察 2.6 $a/b$ を $100$ 倍にすると $K_t$ は $67$ 倍になる。$3.0$ から $201.0$ へ、同じ面積のまま形だけを細長くすれば、応力は $67$ 倍になる。

3. 尖りは、曲率半径として測っても同じことである

観察 3.1 楕円の長軸の端での曲率半径は $\rho=b^2/a$ である。これを使うと $K_t=1+2\sqrt{a/\rho}$ と書ける。第2節の表で、二つの表現は全行で一致した。

観察 3.2 だが $\sqrt{a/\rho}$ には $a$ が残っている。形の上では大きさが入っているように見える。ところが $\rho=b^2/a$ を代入すれば $a$ は消える。二つの表現は、同じ一つの量を二通りに書いただけである。

観察 3.3 この書き換えには、実務上の意味がある。$\rho$ は測れるが、$a$ と $b$ が定義できない形(切欠き、溶接止端、隅肉)でも $\rho$ は測れる。だから設計では曲率半径のほうが使われる。

観察 3.4 $b\to0$ の極限で $K_t\to\infty$ である。尖りを無限にすればよいので、き裂は弾性論の中では無限の応力を持つ、ここで $K_t$ という量そのものが使えなくなり、破壊力学は別の量(応力拡大係数)に乗り換える。

観察 3.5 そしてそこで初めて、大きさが入ってくる。応力拡大係数は $K_I=\sigma\sqrt{\pi a}$ で、$a$ が単独で現れる。$K_t$ には入らなかった大きさが、$K_I$ には入る。どちらを使うかで、大きさが効くかどうかが変わる。

観察 3.6 正直に書くべき点、実際の材料では $K_t=201$ が $201$ 倍の応力にならない。降伏点に達すれば塑性変形が起きて先端が丸まる。$K_t$ は弾性解であり、上限を与えるが実測値ではない。

4. 同じ楕円を $90$ 度回すと、$21.0$ が $1.2$ になる

検算 4.1:同じ楕円孔を、引張方向に対して $90$ 度回す(本稿で計算)。

向き $a/b$ $K_t$
長軸が引張に垂直 $10$ $\mathbf{21.0}$
長軸が引張に平行 $0.1$ $\mathbf{1.2}$
比 $\mathbf{17.5}$ 倍

観察 4.2 同じ穴、同じ面積、同じ材料で、向きだけで $17.5$ 倍ちがう。$1.2$ は、集中がほとんど無いということである。細長い穴は、引張方向に寝かせれば無害に近い。

観察 4.3 だから穴の向きは、設計の変数である。同じ軽量化を、危険な向きでも安全な向きでも実現できる。航空機の窓が角丸になっているのは、この $a/b$ を小さく保つためである。

観察 4.4 論文342 との対をなす。342 は同じ二材料が向きだけで $16.932376$ 倍ちがうと書いた。本稿では同じ穴が向きだけで $17.5$ 倍ちがう。偶然にも近い数だが、片方は剛性の境界の比、もう片方は応力集中の比で、根は別である。

観察 4.5 論文325 と同じ型である。325 は虹の角度に水滴の大きさが入らないと書いた。ここでは応力集中に穴の大きさが入らない。どちらも、相似な図形が同じ答を返す。

5. 分離子:面積か、尖りか

観察 5.1 分離子、危険を測っている量が、断面の欠損(面積)か、縁の曲率(尖り)か。

効く量 大きさは入るか 例
平均応力の上昇 欠損面積 入る 大きな丸穴
応力集中 $K_t$ $a/b$(尖り) 入らない 小さな鋭い傷

観察 5.2 二つは、別の向きに危険を並べる。面積で言えば大きな丸穴が危なく、集中で言えば小さな鋭い傷が危ない。どちらが致命的かは、材料が脆いか延性かで決まる。

観察 5.3 分離子は動かせる。鋭い傷の先端に丸穴を開ければ $a/b$ が下がり、$K_t$ が落ちる。面積を増やして安全にする、という一見矛盾した処置が成り立つ。ストップホールと呼ばれる実際の手法である。

観察 5.4 これが本稿の実務的な核である。穴を開けて安全になるのは、危険を測っている量が面積ではないからである。分離子を取り違えていると、この処置は理解できない。

観察 5.5 正直に書くべき点、ストップホールが常に有効なわけではない。疲労では応力の繰り返しが効き、静的な $K_t$ だけでは決まらない。本稿が言うのは $K_t$ が下がることであって、寿命が延びることではない。

観察 5.6 最後に一つ、この式が言っているのは、危険が「どれだけ材料が失われたか」で測れないということである。失われた面積が同じでも、失われ方の形で $67$ 倍ちがう。量ではなく、輪郭が決めている。

6. 点呼と結び

  1. $K_t=1+2a/b$ に大きさが入らない(観察1.1):$a$ と $b$ は比としてしか現れない。
  2. 円孔で $K_t=3.0$(検算2.1):古典的な既知値。
  3. 二つの表現が全行で厳密に一致(観察2.2):最大ずれ $0$。
  4. 面積 $10000$ 倍で $K_t$ が同じ $21.0$(検算2.3):本稿の芯。
  5. 円孔の $3.0$ は直径に依らない(観察2.5):「小さいから大丈夫」は成り立たない。
  6. $a/b$ を $100$ 倍で $K_t$ が $67$ 倍(観察2.6):$3.0$ から $201.0$。
  7. $b\to0$ で $K_t\to\infty$(観察3.4):そこで $K_t$ が使えなくなる。
  8. $K_I=\sigma\sqrt{\pi a}$ には $a$ が入る(観察3.5):どちらを使うかで変わる。
  9. $90$ 度回すと $21.0$ が $1.2$(検算4.1):$17.5$ 倍。
  10. ストップホールは面積を増やして安全にする(観察5.3):分離子が面積でないから。

結び:板の楕円孔の縁では応力が $K_t=1+2a/b$ 倍になり、右辺に $a$ と $b$ は比としてしか現れない。つまり穴の大きさが、式に入っていない。面積が $\mathbf{10000}$ 倍ちがう二つの楕円孔が、同じ $K_t=\mathbf{21.0}$ を持つ、$0.314159$ の傷と $3141.592654$ の孔が、縁では同じ倍率で応力を上げる。円孔の $3.0$ も直径に一切依らず、髪の毛ほどの丸穴も拳が入る丸穴も縁の応力は $3$ 倍である。「小さいから大丈夫」は、集中については成り立たない。入っているのは尖りだけである。$a/b$ を $100$ 倍にすれば $K_t$ は $3.0$ から $\mathbf{201.0}$ へ $67$ 倍になる。曲率半径で書き直しても同じで、$K_t=1+2\sqrt{a/\rho}$ は全行で $1+2a/b$ と一致した。$\sqrt{a/\rho}$ には $a$ が残っているように見えるが、$\rho=b^2/a$ を代入すれば消える。二通りに書いた同じ一つの量である。そして $b\to0$ の極限で $K_t\to\infty$ になる。き裂は弾性論の中で無限の応力を持ち、そこで $K_t$ という量そのものが使えなくなる。破壊力学が乗り換える先の応力拡大係数 $K_I=\sigma\sqrt{\pi a}$ には、$a$ が単独で現れる。$K_t$ には入らなかった大きさが、$K_I$ には入る。どちらを使うかで、大きさが効くかどうかが変わる。同じ楕円を $90$ 度回すと $21.0$ が $1.2$ になる。同じ穴、同じ面積、同じ材料で $17.5$ 倍である。細長い穴は引張方向に寝かせれば無害に近く、航空機の窓が角丸なのは $a/b$ を小さく保つためである。分けるものは一つ、危険を測っている量が、断面の欠損(面積)か、縁の曲率(尖り)か。面積で言えば大きな丸穴が危なく、集中で言えば小さな鋭い傷が危ない。そして分離子は動かせる。鋭い傷の先端に丸穴を開ければ $a/b$ が下がり $K_t$ が落ちる。面積を増やして安全にするという一見矛盾した処置(ストップホール)が成り立つのは、危険を測っている量が面積ではないからである。正直に書いておく。実際の材料は降伏するので $K_t=201$ が $201$ 倍の応力にはならない。$K_t$ は弾性解であって上限を与えるにすぎない。ストップホールも常に有効ではなく、疲労では応力の繰り返しが効くので、本稿が言うのは $K_t$ が下がることであって寿命が延びることではない。最後に一つ、この式が言っているのは、危険が「どれだけ材料が失われたか」では測れないということである。失われた面積が同じでも、失われ方の形で $67$ 倍ちがう。量ではなく、輪郭が決めている。

参考文献

  1. Inglis, C. E. (1913). Stresses in a Plate Due to the Presence of Cracks and Sharp Corners. Transactions of the Institution of Naval Architects, 55.
  2. Griffith, A. A. (1921). The Phenomena of Rupture and Flow in Solids. Philosophical Transactions of the Royal Society A, 221.
  3. Irwin, G. R. (1957). Analysis of Stresses and Strains near the End of a Crack Traversing a Plate. Journal of Applied Mechanics, 24.
  4. Peterson, R. E. (1974). Stress Concentration Factors. New York: Wiley.
  5. Timoshenko, S. P., Goodier, J. N. (1970). Theory of Elasticity, 3rd edition. New York: McGraw-Hill.
  6. 山岸勇輝 (2026). 虹の角度に、水滴の大きさは入っていない [論文325]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209848
  7. 山岸勇輝 (2026). 二乗三乗の「法則」は、法則ではなく恒等式である [論文326]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209992
  8. 山岸勇輝 (2026). 同じ二材料を同じ割合で混ぜて、剛性が 16.93 倍ひらく [論文342]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682160
  9. 山岸勇輝 (2026). 強度は材料の定数ではなく、体積の関数である [論文344]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682232

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「穴の大きさは、応力集中の式に入っていない」[論文343]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22682218

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 穴の大きさは、応力集中の式に入っていない [論文343]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/343 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22682218

Yamagishi, Y. (2026). The Size of the Hole Is Not in the Stress Concentration [Paper 343]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/343; DOI: 10.5281/zenodo.22682218

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