【論文351】ブランコの立ち漕ぎと座り漕ぎは、二つの機構である

要旨

ブランコを漕ぐ方法は二つある。本稿が問うのはその二つが同じ機構かどうかである。答えは同じではない。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、長さ 3 m のブランコの固有振動数は $0.287753$ Hz(周期 $3.4752$ 秒)である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。立ち漕ぎは $0.575506$ Hz、すなわち固有振動数の二倍で漕ぐ(第3節)。

第三に、座り漕ぎは $0.287753$ Hz、すなわち一倍で漕ぐ(第3節)。

第四に、前者はパラメトリック励振(振り子の長さを変える)、後者は強制振動(外から力を加える)である(第3節)。

第五に、重心を $0.30$ m 上下させると一周期あたり $1.171214$ 倍、十周期で $4.8569$ 倍になる(第4節)。

第六に、分離子は「何を変えるか」、長さか、それとも力か(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。単振り子・パラメトリック励振・マシュー方程式はすべて既知である。力学を作らない。マシュー方程式の安定領域(アーノルドの舌)の厳密な理論には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。実験をしない。実際の人体の重心移動の測定は行わない。数値は明示した模型の上でのものである。大振幅を扱わない。$\sin\theta\approx\theta$ の近似の外は主題ではない。減衰を主題にしない。空気抵抗と軸受の摩擦は数値に入れていない。利得は減衰を差し引く前の値である。人体を扱わない。筋肉の出力や関節の可動域は主題ではない。既刊との関係:論文313 は本体系が「同期」を四つの意味で使っていたことを示した。そこでも二倍と一倍の区別が効いていた。ここでは同じ「漕ぐ」が二つに割れる。論文350 はむだ時間が位相だけを食うことを示した。そこでも周波数と位相の関係が判定した。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。その基準で、立ち漕ぎと座り漕ぎは別根である。論文182 は「次元の呪い」が一つの呪いではないことを示した。一語が複数を指す形が同じである。加えたのは、固有振動数を数で出したこと、二つの漕ぎ方の駆動周波数の比が厳密に 2 対 1 であることを示したこと、重心移動の大きさに対する利得を四点で出したこと、分離子を「長さか力か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:長さ $L=3.0$ m の単振り子を考える。

$$f_0=\frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{g}{L}} ,\qquad g=9.80665\ \mathrm{m/s^2}$$

観察 1.1 ブランコを漕ぐ方法は二つ知られている。立って膝を伸縮させる方法と、座って上体を前後に倒す方法である。どちらも「漕ぐ」と呼ばれる。

観察 1.2 立ち漕ぎは振り子の長さを変えている。膝を曲げれば重心が下がり、伸ばせば上がる。変えているのは系のパラメータそのものである。

観察 1.3 座り漕ぎは外から力のモーメントを加えている。上体を倒すことで支点まわりのトルクを作る。長さは変わらない。

問い:この二つは同じ機構か。

2. 固有振動数

計算 2.1:長さ 3 m の振り子の固有振動数(本稿で計算)。

量 値
長さ $L$ $3.0$ m
固有振動数 $f_0$ $\mathbf{0.287753}$ Hz
固有周期 $T_0$ $\mathbf{3.4752}$ 秒

観察 2.2 $3.4752$ 秒は実感に合う。公園のブランコが一往復するのに要する時間である。模型が現実から離れていないことの確認になる。

観察 2.3 長さを $0.3$ m 縮めると $0.303318$ Hz になる。$0.287753$ から上がる。短い振り子は速く振れる。この事実が次節の機構を作る。

3. 二倍と一倍

計算 3.1:二つの漕ぎ方の駆動周波数(本稿で計算)。

漕ぎ方 何を変えるか 駆動の周波数 型
立ち漕ぎ 重心の高さ $\mathbf{0.575506}$ Hz $=2f_0$ パラメトリック励振
座り漕ぎ 体の傾き $\mathbf{0.287753}$ Hz $=1f_0$ 強制振動

観察 3.2 これが本稿の芯である。比は厳密に 2 対 1 である。$0.575506/0.287753=2.000000$。近似ではなく、機構から出る整数比である。

観察 3.3 なぜ二倍なのか。立ち漕ぎでは、振り子が最下点を通る「たび」に膝を伸ばす。一往復に最下点は二回あるから、伸縮は一周期に二回入る。

観察 3.4 なぜ一倍なのか。座り漕ぎでは、進む向きに合わせて上体を倒す。向きは一往復に一度しか同じにならないから、一周期に一回である。

観察 3.5 この差は共振の条件を変える。強制振動は駆動周波数が固有振動数に一致したときに大きくなる。パラメトリック励振は二倍のときに大きくなる。共振点そのものが違う。

観察 3.6 論文300 の基準で別根である。数値の一致がないだけでなく、方程式の形が違う。強制振動は非斉次項をもち、パラメトリック励振は係数が時間に依存する。同じ「漕ぐ」が二つの別物を指している。

4. 重心移動と利得

計算 4.1:立ち漕ぎで重心を $dL$ 上下させたときの一周期あたりの振幅利得(本稿で計算)。

$dL$ [m] $dL/L$ 一周期の振幅比 十周期後
$0.05$ $0.0167$ $\mathbf{1.025531}$ $1.2867$
$0.10$ $0.0333$ $1.052168$ $1.6628$
$0.20$ $0.0667$ $1.109034$ $2.8148$
$0.30$ $0.1000$ $\mathbf{1.171214}$ $\mathbf{4.8569}$

観察 4.2 一周期あたりは小さく、積むと大きい。$dL=0.30$ m で一周期 $1.171214$ 倍は「ほんの少し」に見えるが、十周期で $4.8569$ 倍になる。指数的に増えるからである。

観察 4.3 十周期は $34.752$ 秒である。半分ほどの時間で振幅が数倍になる。子どもがブランコを漕ぎ始めてから高くなるまでの体感に合う。

観察 4.4 重心を動かさなければ利得は $1.000000$ である。$dL=0$ で厳密に 1、パラメータを変えないかぎり、パラメトリック励振は何も起こさない。

観察 4.5 正直に言えば、この利得は減衰を差し引いていない。実際には空気抵抗と軸受の摩擦が引く。利得が減衰を上回るかどうかが、漕げるかどうかを決める。$dL$ に下限があるのはそのためである。

5. 分離子:長さを変えるか、力を加えるか

観察 5.1 分離子、系のパラメータを変えるのか、それとも外から力を加えるのか。

何を変える 共振する周波数 振幅ゼロから始まるか
パラメトリック励振 パラメータ $\mathbf{2f_0}$ 始まらない
強制振動 外力 $\mathbf{f_0}$ 始まる

観察 5.2 右端の列が実用上いちばん効く。完全に静止したブランコの上で立ち漕ぎをしても、原理的には動き出さない。パラメトリック励振は既にある振幅を増やす機構であって、ゼロには掛かるものが無いからである。

観察 5.3 座り漕ぎならゼロから始められる。外力は振幅に比例しないから、静止していても効く。だから最初のひと漕ぎは座って始めるのが理にかなっている。

観察 5.4 分離子は動かせる。立ち漕ぎでも、重心を左右にずらせば外力の成分が入る。実際の人間はおそらく両方を混ぜている。純粋な二型は模型の側の区別である。

観察 5.5 正直に言えば、$0.287753$ Hz も $1.171214$ も、長さ 3 m と明示した模型の上での値である。別のブランコなら別の数が出る。動かないのは、駆動周波数の比が 2 対 1 であることと、共振点が違うことだけである。

観察 5.6 最後に一つ、同じ道具を同じ目的で使っていても、機構が同じとはかぎらない。ブランコに乗って高くなるという一つの目的が、二つの物理で達成されている。目的の一致は機構の一致ではない。

6. 点呼と結び

  1. $f_0=0.287753$ Hz(周期 $3.4752$ 秒)(計算 2.1):長さ 3 m。
  2. 立ち漕ぎは $0.575506$ Hz(計算 3.1):固有の二倍。
  3. 座り漕ぎは $0.287753$ Hz(計算 3.1):固有の一倍。
  4. 比は厳密に 2 対 1(観察 3.2):近似ではない。
  5. 最下点は一往復に二回(観察 3.3):二倍の由来。
  6. $dL=0.30$ m で一周期 $1.171214$ 倍(計算 4.1):十周期で $4.8569$ 倍。
  7. $dL=0$ で利得 $1.000000$(観察 4.4):パラメータを変えなければ何も起きない。
  8. 長さを $0.3$ m 縮めると $0.303318$ Hz(観察 2.3):短い振り子は速い。
  9. パラメトリック励振はゼロから始まらない(観察 5.2):強制振動は始まる。
  10. 論文300 の基準で別根(観察 3.6):方程式の形が違う。

結び:ブランコを漕ぐ方法は二つ知られている。立って膝を伸縮させる方法と、座って上体を前後に倒す方法である。どちらも「漕ぐ」と呼ばれる。だがこの二つは、同じ機構ではない。長さ $3.0$ m のブランコの固有振動数は $\mathbf{0.287753}$ Hz(周期 $\mathbf{3.4752}$ 秒)である。立ち漕ぎはこの二倍の $\mathbf{0.575506}$ Hz で漕ぎ、座り漕ぎは一倍の $\mathbf{0.287753}$ Hz で漕ぐ。比は厳密に 2 対 1 であって、近似ではなく機構から出る整数比である。二倍になる理由は数えれば出る。立ち漕ぎでは振り子が最下点を通るたびに膝を伸ばすが、一往復に最下点は二回あるから、伸縮は一周期に二回入る。座り漕ぎでは進む向きに合わせて上体を倒し、向きは一往復に一度しか同じにならないから、一周期に一回である。前者はパラメトリック励振、後者は強制振動である。強制振動は駆動が固有振動数に一致したときに大きくなり、パラメトリック励振は二倍のときに大きくなる。共振点そのものが違う。論文300 の基準でこの二つは別根であって、強制振動は非斉次項をもち、パラメトリック励振は係数が時間に依存する。利得は積むと大きい。重心を $0.30$ m 上下させると一周期 $\mathbf{1.171214}$ 倍で、これは「ほんの少し」に見えるが、十周期($34.752$ 秒)で $\mathbf{4.8569}$ 倍になる。重心を動かさなければ利得は厳密に $1.000000$ であって、パラメータを変えないかぎり何も起こらない。分けているものは一つ、系のパラメータを変えるのか、それとも外から力を加えるのか。そしてこの差はいちばん実用的なところに出る。完全に静止したブランコの上で立ち漕ぎをしても、原理的には動き出さない。パラメトリック励振は既にある振幅を増やす機構であって、ゼロには掛かるものが無いからである。外力は振幅に比例しないから、最初のひと漕ぎは座って始めるのが理にかなっている。正直に言えば、この利得は減衰を差し引いておらず、実際には利得が減衰を上回るかどうかが漕げるかどうかを決める。$0.287753$ Hz も $1.171214$ も長さ 3 m の模型の上での値であって、動かないのは駆動周波数の比が 2 対 1 であることと共振点が違うことだけである。最後に一つ、同じ道具を同じ目的で使っていても、機構が同じとはかぎらない。ブランコに乗って高くなるという一つの目的が、二つの物理で達成されている。目的の一致は、機構の一致ではない。

参考文献

  1. Case, W. B. (1996). The pumping of a swing from the standing position. American Journal of Physics, 64(3).
  2. Curry, S. M. (1976). How children swing. American Journal of Physics, 44(10).
  3. Landau, L. D., Lifshitz, E. M. (1976). Mechanics (3rd ed.). Oxford: Pergamon Press.
  4. McLachlan, N. W. (1947). Theory and Application of Mathieu Functions. Oxford: Clarendon Press.
  5. Arnold, V. I. (1989). Mathematical Methods of Classical Mechanics (2nd ed.). New York: Springer.
  6. 山岸勇輝 (2026). 『「次元の呪い」は一つの呪いではない』[論文182]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22104170
  7. 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  8. 山岸勇輝 (2026). 『本体系は「同期」を四つの意味で使ってきた。閾値をもつのは第五の意味だけである』[論文313]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22174953
  9. 山岸勇輝 (2026). 『むだ時間は、振幅に触れずに安定余裕だけを食う』[論文350]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22695565

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「ブランコの立ち漕ぎと座り漕ぎは、二つの機構である」[論文351]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22695649

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). ブランコの立ち漕ぎと座り漕ぎは、二つの機構である [論文351]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/351 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22695649

Yamagishi, Y. (2026). Standing and Sitting on a Swing Are Two Mechanisms [Paper 351]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/351; DOI: 10.5281/zenodo.22695649

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