要旨
反発係数は材料の表に載っている。本稿が問うのはそれが定数かどうかである。答えは定数ではなく、しかもその速度依存の経験則は自分の適用限界を自分で指し示す。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、$e$ は衝突速度のおよそ $-1/4$ 乗で減る(第2節)。
第二に、速度を $100$ 倍にすると $e$ は $\mathbf{0.31622777}$ 倍になる(第2節)。
第三に、同じ球でも落下高さ 1 m で $0.6204$、100 m で $0.3489$ である(第3節)。
第四に、これが本稿の芯である。この経験則を低速へ延ばすと $\mathbf{0.6561}$ m/s 以下で $e>1$ を予言する(第4節)。
第五に、$e>1$ はエネルギー保存に反するから、これは模型自身が示す適用下限である(第4節)。
第六に、分離子は指数であって、$0$ にすれば速度依存も破れも同時に消える(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。反発係数の速度依存・ハーツ接触・塑性変形はすべて既知である。接触力学を作らない。ハーツ理論の導出や粘弾性の構成則には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。実測をしない。特定の材料の $e$ を測らない。数値は明示した経験則の上でのものである。指数を導かない。$-1/4$ という指数を第一原理から導出しない。経験則として置き、その帰結だけを追う。空気抵抗を扱わない。落下高さから速度を出すときは真空を仮定する。回転を扱わない。斜め衝突・接線方向の反発は主題ではない。既刊との関係:論文352 は転移温度が測定の速さで動くことを示した。そこでも「定数の顔をした量」が条件つきだった。ここでは条件が衝突速度である。論文354 は長さが曲線を測る量でなくなることを示した。そこでも物差しの側に問題があった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。$e$ と、たとえば密度のような真の材料定数は、その基準で別根である。論文353 は条件を落とすと主張が偽になることを示した。ここでは条件を落とすと $e>1$ という物理的に不可能な予言が出る。加えたのは、速度依存を九点で数に出したこと、落下高さ二桁で $e$ が $0.5623$ 倍になることを示したこと、経験則が $e=1$ を予言する速度 $0.6561$ m/s を解いて境目の両側を確かめたこと、指数を $0$ にする対照で式が効いていることを確かめたこと、分離子を指数に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:反発係数の速度依存を、経験則として次の形に置く。
$$e(v)=e_0\left(\frac{v}{v_0}\right)^{-1/4},\qquad e_0=0.90,\quad v_0=1.0\ \mathrm{m/s}$$
観察 1.1 $e$ は材料の表に定数として載っている。鋼球は $0.9$、テニスボールは $0.7$、といった具合である。密度や弾性率と同じ書式で並んでいる。
観察 1.2 だが $e$ は測定条件を含んでいる。どの高さから落として測ったかで値が変わる。密度は落とす高さで変わらない。
観察 1.3 本稿は頭打ちを入れない。$e$ を $1$ で切る処理をあえてしない。模型がどこで破れるかを見るためである。
問い:$e$ は材料の定数か。
2. 速度依存を数に出す
計算 2.1:衝突速度に対する $e$(本稿で計算)。
| 衝突速度 [m/s] | $e$ | 高さの比 $e^2$ | 物理的に可能か |
|---|---|---|---|
| $0.1000$ | $1.6005$ | $2.561445$ | 不可(模型の破れ) |
| $0.5000$ | $1.0703$ | $1.145513$ | 不可(模型の破れ) |
| $\mathbf{0.6561}$ | $\mathbf{1.0000}$ | $1.000000$ | 境目 |
| $1.0000$ | $0.9000$ | $0.810000$ | 可 |
| $2.0000$ | $0.7568$ | $0.572756$ | 可 |
| $5.0000$ | $0.6019$ | $0.362243$ | 可 |
| $10.0000$ | $0.5061$ | $0.256144$ | 可 |
| $50.0000$ | $0.3385$ | $0.114551$ | 可 |
| $100.0000$ | $0.2846$ | $0.081000$ | 可 |
観察 2.2 速度を上げると $e$ が下がる。$1$ m/s で $0.9000$、$10$ m/s で $0.5061$、向きが一定である。
観察 2.3 速度を $100$ 倍にすると $e$ は $\mathbf{0.31622777}$ 倍になる。$-1/4$ 乗だから $100^{-1/4}=10^{-1/2}$、三割ほどに落ちる。
観察 2.4 $e^2$ で見ると差はさらに大きい。跳ね返る高さの比は $e^2$ である。$1$ m/s で $0.810000$、$100$ m/s で $0.081000$。ちょうど十分の一になる。
観察 2.5 なぜ減るのか。速い衝突ほど塑性変形と内部摩擦に食われる割合が増える。完全に弾性的な衝突は、遅い極限でしか近似的に成り立たない。
3. 同じ球が、二つの高さで二つの値をもつ
計算 3.1:落下高さから衝突速度を出し、$e$ を比べる(本稿で計算・真空を仮定)。
| 落下高さ [m] | 衝突速度 [m/s] | $e$ |
|---|---|---|
| $1$ | $4.4287$ | $\mathbf{0.6204}$ |
| $100$ | $44.2869$ | $\mathbf{0.3489}$ |
観察 3.2 同じ球の $e$ が $0.6204$ と $0.3489$ である。比は $0.5623$、材料は一つも変わっていないのに、値は $44$ パーセント近く落ちる。
観察 3.3 だから表に載せるには条件が要る。「この球の $e$ は $0.62$」と書くだけでは、どちらの測定か分からない。論文352 で $T_g$ に測定条件が要ったのと同じ形である。
観察 3.4 密度にはこの必要がない。どの高さから落としても密度は変わらない。条件を省略できるかどうかが、二つの量の性格を分けている。
4. 経験則は、自分が破れる速度を指す
計算 4.1:経験則が $e=1$ を予言する速度を解く(本稿で計算)。
| 量 | 値 |
|---|---|
| $e=1$ となる速度 $v_{\text{break}}=v_0e_0^{4}$ | $\mathbf{0.656100}$ m/s |
| $0.99 v_{\text{break}}$ での $e$ | $1.002516$ |
| $1.01 v_{\text{break}}$ での $e$ | $0.997516$ |
| $v=0.1$ m/s での $e$ | $\mathbf{1.600451}$ |
観察 4.2 これが本稿の芯である。$0.6561$ m/s より遅い衝突では、この経験則は $e>1$ を予言する。$v=0.1$ m/s では $1.600451$ であり、跳ね返る高さは落とした高さの $2.561445$ 倍になる。
観察 4.3 これはエネルギー保存に反する。衝突でエネルギーが増えることはない。だから $e>1$ は「まだ測っていない領域」ではなく、模型が誤っている領域である。
観察 4.4 境目の両側で符号が変わる。$0.99$ 倍で $1.002516$、$1.01$ 倍で $0.997516$、$1$ をまたいでいる。境目は鋭い。
観察 4.5 ここに使い道がある。経験則の適用下限を、外から与えるのではなく式そのものから読み取れる。「どこまで外挿してよいか」に、模型自身が答えている。
観察 4.6 正直に言えば、実際の低速衝突で $e$ が $1$ に近づくこと自体は正しい。遅い衝突ほど弾性的になるからである。誤っているのは $1$ を超える部分だけであって、向きは合っている。$0.6561$ m/s は「そこから先は別の式が要る」という印である。
5. 分離子:指数
観察 5.1 分離子、速度の指数が $0$ か、$0$ でないか。
| 指数 | 速度依存 | 材料定数と呼べるか | 破れる速度 |
|---|---|---|---|
| $\mathbf{0}$ | 無い($e=0.9000$ 一定) | 呼べる | 無い |
| $\mathbf{-1/4}$ | 有る | 呼べない | $\mathbf{0.6561}$ m/s |
観察 5.2 指数を $0$ にすると、二つのことが同時に消える。速度依存が消え、同時に $e>1$ の破れも消える。この二つは同じ一つの指数から出ている。
観察 5.3 これが対照実験である。指数 $0$ では $v=50$ でも $v=0.1$ でも $e=0.9000$ のまま、速度依存が式から来ていることの確認になる。
観察 5.4 分離子は動かせる。指数を $-1/8$ に緩めれば破れる速度は下がり、$-1/2$ に強めれば上がる。適用範囲の広さと速度依存の強さは、一つの数の裏表である。
観察 5.5 正直に言えば、$0.6561$ m/s も $0.3489$ も、$e_0=0.90$・指数 $-1/4$ と明示した経験則の上での値である。別の材料なら別の数が出る。動かないのは、速度依存をもつ冪則は必ずどこかで $e=1$ を横切る、という構造だけである。
観察 5.6 最後に一つ、経験則を外挿したときに物理的に不可能な値が出たら、それは失敗ではなく情報である。$e>1$ は、この式がどこまで有効かを教えている。不可能な予言が出る点を探すことは、適用範囲を測る一つの方法である。
6. 点呼と結び
- $e$ は $-1/4$ 乗で減る(第1節):経験則として置く。
- $1$ m/s で $0.9000$、$10$ m/s で $0.5061$(計算 2.1):向きが一定。
- 速度 $100$ 倍で $0.31622777$ 倍(観察 2.3):$100^{-1/4}=10^{-1/2}$。
- $e^2$ は $0.810000$ から $0.081000$ へ(観察 2.4):ちょうど十分の一。
- 落下 1 m で $0.6204$、100 m で $0.3489$(計算 3.1):比 $0.5623$。
- $e=1$ となる速度は $0.656100$ m/s(計算 4.1):模型の適用下限。
- $v=0.1$ m/s で $e=1.600451$(計算 4.1):高さの $2.561445$ 倍。
- 境目の両側で $1.002516$ と $0.997516$(観察 4.4):$1$ をまたぐ。
- 指数 $0$ なら $e=0.9000$ 一定(観察 5.3):対照実験。
- 向きは合っている(観察 4.6):誤っているのは $1$ を超える部分だけ。
結び:反発係数は材料の表に定数として載っている。鋼球は $0.9$、テニスボールは $0.7$、と密度や弾性率と同じ書式で並んでいる。だが $e$ は測定条件を含んでいる。速度依存を $e(v)=e_0(v/v_0)^{-1/4}$ と置くと、$1$ m/s で $0.9000$、$10$ m/s で $0.5061$ と一定の向きで減り、速度を $100$ 倍にすると $e$ は $\mathbf{0.31622777}$ 倍になる。跳ね返る高さの比 $e^2$ で見ればもっと大きく、$0.810000$ から $0.081000$ へちょうど十分の一になる。同じ球が、二つの高さで二つの値をもつ、真空を仮定して落下高さから速度を出すと、1 m では $e=\mathbf{0.6204}$、100 m では $e=\mathbf{0.3489}$(比 $0.5623$)。材料は一つも変わっていないのに、値は $44$ パーセント近く落ちる。密度はどの高さから落としても変わらない。条件を省略できるかどうかが、二つの量の性格を分けている。そしてこの経験則は、自分が破れる速度を自分で指す。頭打ちを入れずに低速へ延ばすと、$\mathbf{0.656100}$ m/s より遅い衝突で $e>1$ を予言する。$v=0.1$ m/s では $e=1.600451$ となり、跳ね返る高さは落とした高さの $2.561445$ 倍になる。衝突でエネルギーが増えることはないから、これは「まだ測っていない領域」ではなく模型が誤っている領域である。境目の両側で $1.002516$ と $0.997516$ となり、$1$ をまたぐ。ただし向きは合っている。遅い衝突ほど弾性的になるのは正しく、誤っているのは $1$ を超える部分だけである。$0.6561$ m/s は「そこから先は別の式が要る」という印である。分けているものは一つ、速度の指数が $0$ か、$0$ でないか。指数を $0$ にすると二つのことが同時に消える。速度依存が消え、$e>1$ の破れも消える。この二つは同じ一つの指数から出ている。指数を $-1/8$ に緩めれば破れる速度は下がり、$-1/2$ に強めれば上がる。適用範囲の広さと速度依存の強さは、一つの数の裏表である。正直に言えば、$0.6561$ m/s も $0.3489$ も $e_0=0.90$・指数 $-1/4$ の上での値であり、別の材料なら別の数が出る。動かないのは、速度依存をもつ冪則は必ずどこかで $e=1$ を横切るという構造だけである。最後に一つ、経験則を外挿したときに物理的に不可能な値が出たら、それは失敗ではなく情報である。$e>1$ は、この式がどこまで有効かを教えている。不可能な予言が出る点を探すことは、適用範囲を測る一つの方法である。
参考文献
- Goldsmith, W. (1960). Impact: The Theory and Physical Behaviour of Colliding Solids. London: Edward Arnold.
- Johnson, K. L. (1985). Contact Mechanics. Cambridge: Cambridge University Press.
- Tabor, D. (1948). A simple theory of static and dynamic hardness. Proceedings of the Royal Society A.
- Stronge, W. J. (2000). Impact Mechanics. Cambridge: Cambridge University Press.
- Cross, R. (1999). The bounce of a ball. American Journal of Physics.
- 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『ガラス転移温度は、測る速さで動く』[論文352]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22695723
- 山岸勇輝 (2026). 『雑音を足すと検出が良くなる場合がある。ただし「多いほどよい」ではない』[論文353]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22696835
- 山岸勇輝 (2026). 『長さは、曲線を測る量ではなくなることがある』[論文354]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22696977
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「反発係数は材料の定数ではない」[論文355]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22697011
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 反発係数は材料の定数ではない:そして経験則は、自分が破れる速度を自分で指す [論文355]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/355 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22697011
Yamagishi, Y. (2026). The Coefficient of Restitution Is Not a Material Constant — And the Empirical Law Points at Its Own Breaking Speed [Paper 355]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/355; DOI: 10.5281/zenodo.22697011
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