要旨
「波の高さ $3$ m」と聞けば、$3$ m の波が来ると思う。本稿が示すのはその数が平均でも最大でもないことである。平均は $1.8776$ m しかなく、実際に来る最大は $\mathbf{5.8305}$ m である。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、レイリー分布を $4\times10^{6}$ 個抽出すると、平均は $0.886139$、上位三分の一の平均は $\mathbf{1.415837}$ になる(第2節)。
第二に、平均は有義波高の $\mathbf{0.6259}$ 倍しかない(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。$3$ 時間($1080$ 波)の最大は有義波高の $\mathbf{1.9435}$ 倍、ほぼ二倍である(第3節)。
第四に、独立な模擬実験が $1.9359$ で、閉じた式と $0.4$ パーセントで一致した(第3節)。
第五に、「三分の一」に統計的な必然は無い。訓練された観測者の目視と合うから選ばれた(第4節)。
第六に、分離子は「代表が平均か、上位の平均か、極値か」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。レイリー分布による波高分布、有義波高の定義、極値の期待値はすべて海洋工学で既知である。海洋を予報しない。波浪推算や気象は主題ではない。一つの分布の中の数だけを見る。狭帯域を仮定している。レイリー分布は狭帯域・線形波の近似である。砕波や浅水変形は主題ではない。構造を設計しない。防波堤や船体の設計荷重は与えない。代表値の意味だけを見る。異常波を扱わない。フリークウェーブがレイリー分布を外れるかどうかは主題ではない。周期を扱わない。波高だけを見る。周期の分布や波形は主題ではない。既刊との関係:論文379 は「二倍の温度」に三つの答があることを示した。ここでは一つの「波の高さ」に三つの答がある。論文364 は選択だけで平均が上がり幅が縮むことを示した。ここでは上位三分の一を取る操作そのものが主題である。論文386 は「溶けにくい」が二つを指すことを示した。ここでは「波の高さ」が三つを指す。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。平均と極値は、その基準で別根である。加えたのは、$4\times10^{6}$ 個の抽出で三つの代表値を数に出したこと、平均が有義波高の $0.6259$ 倍であることを示したこと、$3$ 時間の最大が $1.9435$ 倍になることを出したこと、模擬実験と閉じた式が $0.4$ パーセントで一致することを確かめたこと、分離子を「どの代表値か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:狭帯域の波では、波高 $H$ がレイリー分布に従う。
$$p(H)=\frac{2H}{H_{\text{rms}}^{2}}\exp\!\left(-\frac{H^{2}}{H_{\text{rms}}^{2}}\right)$$
有義波高 $H_{s}$ は「高いほうから三分の一の波の平均」と定義される。以下 $H_{\text{rms}}=1$ とする。
観察 1.1 定義に「三分の一」という数が入っている。分布の性質ではなく、選び方の規約、なぜ三分の一なのかは、分布からは出てこない。
観察 1.2 平均も最大も、同じ分布から出る。三つとも同じ海の話、それでも数はまったく違う。
観察 1.3 最大は「何波見たか」に依存する。平均と有義波高は依存しない。最大だけが、観測時間を含んでいる。
問い:「波の高さ」と言うとき、何を言っているのか。
2. 平均は、有義波高の $0.6259$ 倍しかない
計算 2.1:レイリー分布から $4\times10^{6}$ 個を抽出した(本稿で計算)。
| 量 | 値($H_{\text{rms}}=1$) | $H_{s}$ との比 |
|---|---|---|
| 平均 $H_{\text{mean}}$ | $0.886139$ | $\mathbf{0.625876}$ |
| 上位三分の一の平均 $\mathbf{H_{s}}$ | $\mathbf{1.415837}$ | $1.000000$ |
| 上位十分の一の平均 | $1.799701$ | $\mathbf{1.271121}$ |
観察 2.2 三つとも既知の値と一致した。通説の $0.886$・$1.416$・$1.800$、抽出による計算が、閉じた式と独立に同じ数を出した。
観察 2.3 平均は有義波高の $0.6259$ 倍である。$3$ m の海なら平均 $1.8776$ m、「$3$ m の波が来る」ではなく、「ほとんどの波は $1.9$ m 前後」である。
観察 2.4 上位十分の一でも $1.2711$ 倍にしかならない。$3$ m の海で $3.8134$ m、上のほうを見ても、まだ二倍には届かない。
観察 2.5 有義波高は、平均と上位十分の一のあいだにある。$0.6259$ と $1.2711$ の中間、どちらでもない位置に、意図的に置かれている。
3. $3$ 時間の最大は、ほぼ二倍になる
計算 3.1:波数に対する最大波高の期待値(本稿で計算)。
| 波数 | 最大/$H_{s}$ | 「$H_{s}=3$ m」なら |
|---|---|---|
| $100$ 波(約 $17$ 分) | $1.6105$ | $4.8315$ m |
| $\mathbf{1080}$ 波($3$ 時間・周期 $10$ 秒) | $\mathbf{1.9435}$ | $\mathbf{5.8305}$ m |
| $3000$ 波(約 $8$ 時間) | $2.0703$ | $6.2109$ m |
| 模擬実験($1080$ 波を $2000$ 回) | $\mathbf{1.9359}$ | $5.8077$ m |
観察 3.2 これが本稿の芯である。「有義波高 $3$ m」の海で、$3$ 時間のあいだに $5.8305$ m の波が一度来る。聞いた数の $1.9435$ 倍で、ほぼ二倍である。
観察 3.3 模擬実験が閉じた式と $0.4$ パーセントで一致した。$1.9359$ 対 $1.9435$、独立な二つの経路で同じ数が出た。
観察 3.4 最大は波数の対数でしか増えない。$100$ 波の $1.6105$ から $3000$ 波の $2.0703$ へ、波数が $30$ 倍でも、最大は $1.29$ 倍にしかならない。
観察 3.5 だから「もっと待てばもっと高い波」は、あまり効かない。増え方が $\sqrt{\ln N}$、待ち時間を倍にしても、最大はほとんど動かない。
観察 3.6 最大だけが観測時間を含んでいる。平均と有義波高は時間に依らない。同じ海が、見ている時間によって別の数を返す。
4. 「三分の一」は、人間の目から来ている
観察 4.1 分布の側に「三分の一」を選ぶ理由は無い。四分の一でも五分の一でも式は書ける。選んだのは分布ではない。
観察 4.2 選ばれた理由は、訓練された観測者の目視と合ったからである。船から「今日の波は何メートル」と答えた値、その値に一番近い統計量が、上位三分の一の平均だった。
観察 4.3 つまり定義に人間が入っている。目は小さい波を数え落とす。その偏りを、統計量の側で吸収した。
観察 4.4 論文379 と同じ形である。論文379 では目盛が比を決めた。ここでは目視の癖が代表値の定義を決めている。どちらも、測る側の約束が数を作っている。
観察 4.5 論文300 の基準で別根である。平均は分布の一次モーメント、有義波高は分布と規約の組、最大は分布と観測時間の組、三つとも「波の高さ」と呼ばれ、根が三つある。
5. 分離子:代表が平均か、上位の平均か、極値か
観察 5.1 分離子、全部を数えるか、上のほうだけを数えるか、一番上だけを見るか。
| 代表値 | 決めるもの | 観測時間に依るか | $H_{s}=3$ m なら |
|---|---|---|---|
| 平均 | 分布 | 依らない | $1.8776$ m |
| 有義波高 | 分布+規約 | 依らない | $3.0000$ m |
| 最大 | 分布+観測時間 | 依る | $5.8305$ m |
観察 5.2 三列目が判定になる。観測時間を倍にして数が動くか、動けば極値、動かなければ分布の量である。
観察 5.3 右端の三つが $3.1$ 倍の幅をもつ。$1.8776$ m から $5.8305$ m まで、同じ海である。
観察 5.4 どれを使うかで、設計が変わる。乗り心地なら平均、越波なら最大、代表値を一つに決めることが、問いを一つに決めることになる。
観察 5.5 正直に言えば、$5.8305$ m も $1.8776$ m も、レイリー分布を仮定した値である。砕波が起きれば上が切れ、浅水域では分布そのものが変わる。動かないのは、三つの代表値が同じ海から出ていて、三倍の幅をもつことである。
観察 5.6 最後に一つ、「有義」という語は、統計の言葉ではなく、人間の言葉である。significant は「目立つ」の意、目立つ波の高さであって、典型的な波の高さではない。
6. 点呼と結び
- 平均 $0.886139$・$H_{s}$ $1.415837$・上位十分の一 $1.799701$(計算 2.1):既知の値と一致。
- 平均は $H_{s}$ の $0.6259$ 倍(計算 2.1):$3$ m の海で $1.8776$ m。
- 上位十分の一でも $1.2711$ 倍(観察 2.4):まだ二倍に届かない。
- $3$ 時間の最大は $1.9435$ 倍(計算 3.1):$5.8305$ m。
- 模擬実験が $1.9359$(計算 3.1):$0.4$ パーセントで一致。
- 最大は $\sqrt{\ln N}$ でしか増えない(観察 3.5):$30$ 倍で $1.29$ 倍。
- 最大だけが観測時間を含む(観察 3.6):判定になる。
- 「三分の一」は目視から来た(観察 4.2):分布の側に理由が無い。
- 三つとも別根(観察 4.5):分布・規約・時間。
- 幅は $3.1$ 倍(観察 5.3):同じ海である。
結び:「波の高さ $3$ m」と聞けば、$3$ m の波が来ると思う。だがその数は、平均でも最大でもない。狭帯域の波高はレイリー分布に従い、有義波高は「高いほうから三分の一の平均」と定義される。$4\times10^{6}$ 個を抽出すると、平均 $0.886139$、上位三分の一の平均 $\mathbf{1.415837}$、上位十分の一の平均 $1.799701$($H_{\text{rms}}=1$)で、通説の $0.886$・$1.416$・$1.800$ と一致した。平均は有義波高の $\mathbf{0.6259}$ 倍しかない。$3$ m の海なら平均は $\mathbf{1.8776}$ m で、「$3$ m の波が来る」ではなく「ほとんどの波は $1.9$ m 前後」である。上位十分の一でも $1.2711$ 倍($3.8134$ m)にしかならず、有義波高は平均と上位十分の一のあいだ、どちらでもない位置に意図的に置かれている。ところが $3$ 時間の最大は、ほぼ二倍になる。$1080$ 波(周期 $10$ 秒)での最大は有義波高の $\mathbf{1.9435}$ 倍、「$H_{s}=3$ m」の海で $\mathbf{5.8305}$ m の波が一度来る。独立な模擬実験($1080$ 波を $2000$ 回)が $1.9359$ で、閉じた式と $0.4$ パーセントで一致した。ただし最大は $\sqrt{\ln N}$ でしか増えず、波数が $30$ 倍でも $1.29$ 倍にしかならないので、「もっと待てばもっと高い波」はあまり効かない。そして最大だけが観測時間を含んでおり、同じ海が、見ている時間によって別の数を返す。「三分の一」は人間の目から来ている。分布の側に三分の一を選ぶ理由は無く、四分の一でも五分の一でも式は書ける。選ばれたのは、船から「今日の波は何メートル」と答えた訓練された観測者の目視に、上位三分の一の平均が一番近かったからである。目は小さい波を数え落とし、その偏りを統計量の側で吸収した。定義に人間が入っている。論文379 で目盛が比を決めたのと同じ形で、測る側の約束が数を作っている。分けているものは一つ、全部を数えるか、上のほうだけを数えるか、一番上だけを見るか。判定は観測時間を倍にして数が動くかどうかで、動けば極値、動かなければ分布の量である。$H_{s}=3$ m の海で、三つの代表値は $1.8776$ m・$3.0000$ m・$5.8305$ m と $3.1$ 倍の幅をもつ。同じ海である。論文300 の基準で三つとも別根で、平均は分布が、有義波高は分布と規約の組が、最大は分布と観測時間の組が決める。正直に言えば、$5.8305$ m も $1.8776$ m もレイリー分布を仮定した値であり、砕波が起きれば上が切れ、浅水域では分布そのものが変わる。動かないのは、三つの代表値が同じ海から出ていて、三倍の幅をもつことである。最後に一つ、「有義」という語は、統計の言葉ではなく人間の言葉である。significant は「目立つ」の意で、目立つ波の高さであって、典型的な波の高さではない。
参考文献
- Longuet-Higgins, M. S. (1952). On the statistical distribution of the heights of sea waves. Journal of Marine Research.
- Sverdrup, H. U., Munk, W. H. (1947). Wind, Sea and Swell: Theory of Relations for Forecasting. Washington: U.S. Navy Hydrographic Office, Pub. No. 601.
- Goda, Y. (2010). Random Seas and Design of Maritime Structures (3rd ed.). Singapore: World Scientific.
- Holthuijsen, L. H. (2007). Waves in Oceanic and Coastal Waters. Cambridge: Cambridge University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『選択だけで平均は上がり、幅は縮む』[論文364]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697530
- 山岸勇輝 (2026). 『「二倍の温度」には三つの答があり、比が 2 になるのは一つだけである』[論文379]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22698802
- 山岸勇輝 (2026). 『溶解度は一つも動いていないのに、溶ける速さが 1000 倍になる』[論文386]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699119
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「有義波高は、平均でもなければ最大でもない」[論文391]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699212
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/391・DOI 10.5281/zenodo.22699212・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 有義波高は、平均でもなければ最大でもない [論文391]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/391 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699212
Yamagishi, Y. (2026). The Significant Wave Height Is Neither the Mean Nor the Maximum [Paper 391]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/391; DOI: 10.5281/zenodo.22699212
@misc{yamagishi2026yoi391,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The Significant Wave Height Is Neither the Mean Nor the Maximum},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/391},
doi = {10.5281/zenodo.22699212},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
5c2c07843daf35fea21d6ac5c9afd41f8eec9d466ea7988089f2d72d40a5f5b9 yamagishi_yoi391_v1_jp.pdfa3cacd420776b79ef76f19f7e7b48df4b0729ce95cca5b25aface2c183b92f84 yamagishi_yoi391_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。