【論文413】柱を一本足すと、閉じた式が消える

要旨

ハノイの塔は、柱が三本なら $2^{n}-1$ 手で終わる。柱を一本足すと、手数は劇的に減る。本稿が示すのは、減るのに式が書けなくなることである。易しくなることと、閉じた式があることは別の話である。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、三本柱の $n=64$ は $18{,}446{,}744{,}073{,}709{,}551{,}615$ 手であり、これは $2^{64}-1$ にちょうど一致する(第2節)。

第二に、一秒に一手なら $\mathbf{5.8454\times10^{11}}$ 年、宇宙の年齢の $\mathbf{42.3581}$ 倍かかる(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。柱を一本足すと $n=64$ が $\mathbf{18{,}433}$ 手になる。$\mathbf{1.0007\times10^{15}}$ 倍の短縮だが、その $18{,}433$ を $n$ の式で書く方法が三本柱と同じ形では出てこない(第3節)。

第四に、短縮の効きは $n$ で大きく変わる。$n=5$ で $2.38$ 倍、$n=20$ で $3628.29$ 倍、$n=30$ で $1{,}047{,}553$ 倍である(第3節)。

第五に、三本柱の $2^{n}-1$ は漸化式 $T(n)=2T(n-1)+1$ と $n=2$ から $29$ まで完全に一致する(第2節)。

第六に、分離子は「一手で何が決まるか」である。三本では次の一手が一意で、四本では分割点を選ばなければならない(第4節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。三本柱の $2^{n}-1$、フレーム=スチュワートの漸化式はどちらも既知である($1883$ 年、$1941$ 年)。最小性を論じない。四本柱の値が最小手数と一致するかどうかは、本稿の主題ではなく、本稿は何も決着させない。本稿が扱うのは「閉じた式が書けるか」だけである。五本以上を扱わない。三本と四本の対比だけを見る。アルゴリズムを設計しない。実装や探索法は主題ではない。計算量の理論を展開しない。$P$ と $NP$ の話ではない。伝説を史実として扱わない。ブラフマーの塔の逸話は $1883$ 年のリュカによる創作であり、宇宙の年齢との比較は分かりやすさのためである。既刊との関係:論文411 は何も保たない変換にも保存量があることを示した。そこでは形が壊れても量が残った。ここでは量が減っても式が残らない。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「解くのが易しい」と「式が書ける」は、その基準で別根である。論文412 は「一番近い」が距離を決めるまで決まらないことを示した。ここでは「最小手数」が柱の本数を決めるまで形を持たない。加えたのは、五つの $n$ で三本と四本を並べて数に出したこと、$n=64$ の $1.0007\times10^{15}$ 倍という短縮率を出したこと、$2^{n}-1$ を漸化式と $28$ 個の $n$ で突き合わせたこと、宇宙の年齢との比を $42.3581$ 倍と出したこと、分離子を「次の一手が一意か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:$n$ 枚の円盤を、大きい円盤を小さい円盤の上に置かないという規則のもとで移す。 柱が三本のとき、最小手数は次の漸化式で決まる。

$$T_3(n)=2\,T_3(n-1)+1,\qquad T_3(1)=1$$

柱が四本のときは、上の $k$ 枚をいったん退避してから残りを三本柱で移す。

$$T_4(n)=\min_{1\le k<n}\bigl(2\,T_4(k)+2^{\,n-k}-1\bigr)$$

観察 1.1 三本の式は閉じている。$T_3(n)=2^{n}-1$、$n$ を入れれば答が出る。

観察 1.2 四本の式には $\min$ が入っている。どこで分けるかを探さなければならない。$n$ を入れただけでは答が出ない。

問い:柱を足すと問題は易しくなる。それなのに式はなぜ難しくなるのか。

2. 三本柱:閉じた式がある

計算 2.1:$T_3(64)=2^{64}-1$ を厳密に計算する。

$T_3(64)=18{,}446{,}744{,}073{,}709{,}551{,}615$ である。

観察 2.2 漸化式と閉じた式が一致することを確かめる。$T(n)=2T(n-1)+1$ を回した値と $2^{n}-1$ が、$n=2$ から $29$ まで全部一致する。閉じた式が正しいことの確認である。

計算 2.3:一秒に一手なら何年かかるか。

$\mathbf{5.8454\times10^{11}}$ 年である。宇宙の年齢 $1.38\times10^{10}$ 年の $\mathbf{42.3581}$ 倍にあたる。

観察 2.4 この数の大きさは、閉じた式のおかげで一瞬で出る。$2^{64}-1$ を計算するだけである。手順を辿る必要はない。

3. 四本柱:数は減り、式は消える

計算 3.1:同じ $n$ で三本と四本を並べる。

円盤 $n$ 三本柱 $2^{n}-1$ 四本柱 比
$5$ $31$ $13$ $2.38$
$10$ $1{,}023$ $49$ $20.88$
$20$ $1{,}048{,}575$ $289$ $3{,}628.29$
$30$ $1{,}073{,}741{,}823$ $1{,}025$ $1{,}047{,}553.00$
$64$ $18{,}446{,}744{,}073{,}709{,}551{,}615$ $18{,}433$ $1.0007\times10^{15}$

観察 3.2 短縮は劇的である。$n=64$ で $\mathbf{1.0007\times10^{15}}$ 倍、宇宙の年齢の $42$ 倍かかっていたものが、一秒一手でも五時間ほどになる。

観察 3.3 短縮の効きは $n$ で大きく変わる。$n=5$ ではまだ $2.38$ 倍しかない。$n=20$ で $3{,}628.29$ 倍、$n=30$ で $1{,}047{,}553$ 倍になる。差が指数的に開くからである。

観察 3.4 ところが $18{,}433$ という数は、$n$ の式から直接は出てこない。$\min$ をとる $k$ を、$n$ ごとに探さなければならない。三本柱の $2^{n}-1$ のように、$n$ を代入して終わりにはならない。

観察 3.5 つまり「易しくなる」と「式で書ける」が逆を向いた。手数は $10^{15}$ 分の一になった。そのぶん、答を得る手続きは長くなった。

4. 分離子

分離子:次の一手が一意に決まるか、選ばなければならないか。

観察 4.1 三本では選択肢が無い。上の $n-1$ 枚を空いている柱へ移す以外に道がない。道が一本なので、漸化式が一本の式になる。

観察 4.2 四本では退避する枚数 $k$ を選べる。$1\le k<n$ のどれでもよい。選べるから最短になり、選べるから式にならない。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。「解くのが易しい」は手数で測る。「式で書ける」は手続きの形で測る。同じ問題の違う軸である。

観察 4.4 自由度が増えると最適化が現れる、というのは他でも起きる。道が一本なら計算は要らない。道が増えた瞬間に「どれが最良か」という別の問題が生まれる。

観察 4.5 正直に言えば、本稿は「四本柱に閉じた式が存在しない」とは言っていない。言っているのは、三本柱で通る初等的な議論が四本柱ではそのまま通らず、上の式には $\min$ が残る、ということだけである。最小性の証明も、閉じた式の非存在も、本稿は扱わない。

観察 4.6 最後に一つ、$2^{64}-1$ という数は将棋盤の米粒と同じ形である。どちらも「一手ごとに倍」から出る。柱を足すという操作は、その「倍」を分割して二乗根の側へ押しやる。

5. 点呼と結び

  1. $T_3(64)=18{,}446{,}744{,}073{,}709{,}551{,}615$(計算 2.1):$2^{64}-1$。
  2. 漸化式と閉じた式が $n=2$〜$29$ で一致(観察 2.2):閉じた式の確認。
  3. 一秒一手で $5.8454\times10^{11}$ 年(計算 2.3):現実的でない。
  4. 宇宙の年齢の $42.3581$ 倍(計算 2.3):比で見ても大きい。
  5. $n=64$ の四本柱は $18{,}433$ 手(計算 3.1):五時間ほど。
  6. 短縮は $1.0007\times10^{15}$ 倍(観察 3.2):劇的である。
  7. $n=5$ では $2.38$ 倍(計算 3.1):小さい $n$ では効かない。
  8. $n=30$ では $1{,}047{,}553$ 倍(計算 3.1):指数的に開く。
  9. 四本の式には $\min$ が残る(観察 3.4):代入で終わらない。
  10. 分離子は一意か選択か(観察 4.2):選べるから式にならない。

結び:ハノイの塔は柱が三本なら閉じた式で終わる。$T_3(n)=2^{n}-1$ であり、$n=64$ なら $\mathbf{18{,}446{,}744{,}073{,}709{,}551{,}615}$ 手になる。漸化式 $T(n)=2T(n-1)+1$ を回した値と $n=2$ から $29$ まで完全に一致するので、閉じた式であることは確かである。一秒に一手なら $\mathbf{5.8454\times10^{11}}$ 年、宇宙の年齢の $\mathbf{42.3581}$ 倍かかるが、その大きさは手順を辿らずに一瞬で分かる。閉じた式とはそういうものである。柱を一本足すと、手数は劇的に減る。$n=64$ が $\mathbf{18{,}433}$ 手、$\mathbf{1.0007\times10^{15}}$ 倍の短縮になり、一秒一手でも五時間ほどで終わる。効き方は $n$ で大きく変わり、$n=5$ ではまだ $2.38$ 倍、$n=20$ で $3{,}628.29$ 倍、$n=30$ で $1{,}047{,}553$ 倍と、差は指数的に開く。ところが、その $18{,}433$ を $n$ の式で書こうとすると手が止まる。四本柱の漸化式には $\min_{1\le k<n}$ が入っており、どこで分けるかを $n$ ごとに探さなければならない。三本柱のように $n$ を代入して終わりにはならない。つまり「易しくなる」と「式で書ける」が逆を向いた。手数は $10^{15}$ 分の一になり、そのぶん答を得る手続きは長くなった。分けているものは一つ、次の一手が一意に決まるか、選ばなければならないか。三本では上の $n-1$ 枚を空いた柱へ移す以外に道がなく、道が一本だから漸化式も一本の式になる。四本では退避する枚数 $k$ を $1\le k<n$ から選べる。選べるから最短になり、選べるから式にならない。論文300 の基準で別根であり、「解くのが易しい」は手数で測り、「式で書ける」は手続きの形で測る。正直に言えば、本稿は「四本柱に閉じた式が存在しない」とは言っていない。言っているのは、三本柱で通る初等的な議論が四本柱ではそのまま通らず、式に $\min$ が残るということだけである。最小性の証明も、閉じた式の非存在も、本稿は扱わない。最後に一つ、$2^{64}-1$ は将棋盤の米粒と同じ形の数であり、どちらも「一手ごとに倍」から出る。柱を足すという操作は、その「倍」を分割して押し下げる。

参考文献

  1. Lucas, É. (1883). La Tour d’Hanoï, véritable casse-tête annamite. Paris: Jeu rapporté du Tonkin.
  2. Frame, J. S. (1941). Solution to Advanced Problem 3918. American Mathematical Monthly.
  3. Stewart, B. M. (1941). Solution to Advanced Problem 3918. American Mathematical Monthly.
  4. Hinz, A. M., Klavžar, S., Milutinović, U., & Petr, C. (2013). The Tower of Hanoi、Myths and Maths. Basel: Birkhäuser.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『何も保たない変換にも、保たれる量がある』[論文411]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699656
  7. 山岸勇輝 (2026). 『「一番近い」は、距離を決めるまで決まらない』[論文412]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699661

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「柱を一本足すと、閉じた式が消える」[論文413]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699750

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 柱を一本足すと、閉じた式が消える [論文413]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/413 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699750

Yamagishi, Y. (2026). Adding One Peg Destroys the Closed Form [Paper 413]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/413; DOI: 10.5281/zenodo.22699750

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