要旨
二次的な記録は、元の記録と突き合わせられる。本稿が示すのは、その突き合わせが「時刻のずれ」と「そもそも在らない値」を分けられることである。分けるのは、ずらして走査したときの形である。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、一致率は母集団によって $55$〜$65\%$ と $1$〜$8\%$ に分かれ、$\mathbf{6.9}$ 倍以上違う(第2節)。
第二に、価格差の中央値は $0.000$〜$0.05$ と $3.5$〜$18.05$ で、$\mathbf{70}$ 倍以上違う(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。時刻をずらして走査すると、一方は $0$ で棘が立ち(隣の $\mathbf{3.73}$ 倍)、他方はどこへずらしても平らである(第3節)。
第四に、平らな側の最大値 $0.09$ は、棘の立つ側の隣の値 $0.15$ にも届かない(第3節)。
第五に、判別子は倍率ではなく高さである。倍率で比べると平らな側のほうが大きく出てしまう(第3節)。
第六に、分離子は「時刻が違うのか、値が無いのか」である(第4節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。記録の突合せ、時刻同期の検証、相互相関による遅延推定はすべて既知である。誰も、何も、名指さない。個人、組織、製品、事例は主題ではなく、一切登場しない。扱うのは「二次的な記録を元の記録に照合する」という手続きだけである。意図を論じない。一致しないことの原因が何かは、この手続きからは決まらない。記録の丸め、単位の違い、別系統の値、転記の誤りなど、いくつもの説明がありうる。本稿は「一致するか」だけを測る。元の記録の正しさを保証しない。元の側に欠けや誤りがあれば、一致率は下がる。片方を真とする根拠を本稿は持たない。判定の閾値を決めない。どの一致率なら合格かは、用途が決める。特定の分野を論じない。数は時系列の照合から採ったが、対象は主題ではない。既刊との関係:論文426 は先読みが期間を分けても消えず、時刻をずらして初めて見えることを示した。同じ「時刻をずらす」という操作が、ここでは別のものを分ける。論文420 は偏りの無い欠測でも符号が動くことを示した。そこでは記録の欠けが効いた。ここでは記録の食い違いを測る。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「時刻がずれている」と「その値がどこにも無い」は、その基準で別根である。論文421 は先行して見えるものが先行していないことを示した。そこでもラグ走査の形が答を出した。加えたのは、二つの母集団の一致率と価格差を並べたこと、ずらし走査で棘と平らを分けたこと、判別子が倍率ではなく高さであることを示したこと、作り物で本物の記録と作った記録を同じ手続きにかけたこと、分離子を「時刻か、値の不在か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:元の記録は、時刻ごとの値の列 $\{x_t\}$ である。 二次的な記録は、時刻と値の対 $(\tau_i, p_i)$ の集まりである。 許容差 $\varepsilon$ とずらし量 $s$ に対し、一致率を次で定める。
$$H(s)=\frac{1}{n}\#\bigl\{i:\ |x_{\tau_i+s}-p_i|\le\varepsilon\bigr\}$$
観察 1.1 二次的な記録は、たいてい元の記録と照合されない。整合していることが前提にされる。照合には元の記録が要り、それを持っていないことが多いからである。
観察 1.2 元の記録があれば、照合は一行で書ける。時刻を引いて、値を比べるだけである。規約を一つも仮定せずにできる。
問い:一致しなかったとき、それは時刻がずれているのか、値が無いのか。
2. 一致率も価格差も、桁で分かれる
計算 2.1:二つの母集団を、同じ許容差で照合する。
| 母集団 | 件数 | 一致率 | 値の差の中央値 |
|---|---|---|---|
| 甲 | $2087$ | $0.55$〜$0.65$ | $0.000$〜$0.05$ |
| 乙 | $3403$ | $0.01$〜$0.08$ | $3.5$〜$18.05$ |
観察 2.2 一致率は $\mathbf{6.9}$ 倍以上違う。$0.55$ 対 $0.08$、最も甲に不利な組で比べても、この差がある。
観察 2.3 値の差は $\mathbf{70}$ 倍以上違う。$3.5$ 対 $0.05$、一致するかどうかの問題ではなく、桁の問題である。
観察 2.4 甲では差の下端がちょうど $\mathbf{0.000}$ である。完全に一致する組が実在する。照合の仕組みが働いていることの、直接の証拠である。
観察 2.5 甲の一致率も $100\%$ ではない。$55$〜$65$ パーセント、元の記録にも欠けがあるので、一致しない組が残るのは当然である。だから低い一致率だけでは何も言えない。
3. ずらして走査すると、形が分かれる
計算 3.1:時刻を前後にずらしながら、一致率を測る。
| 母集団 | ずらさないとき | 隣の時刻 |
|---|---|---|
| 甲 | $0.56$〜$0.63$ | $0.05$〜$0.15$ |
| 乙 | $0.01$〜$0.09$(どこでも) | 同じ |
甲では棘が立ち、その高さは隣の $\mathbf{3.73}$ 倍である。乙はどこへずらしても平らである。
観察 3.2 棘が立つことは、時刻が正しいことの証明である。ずらすと下がる。ずれていたなら、別の位置に棘が立つはずである。
観察 3.3 平らであることは、時刻では説明が付かないことを意味する。どこへずらしても上がらない。時刻を直せば一致する、という説明が閉じる。
観察 3.4 判別子は倍率ではなく高さである。乙の凹凸を最大と最小の比で測ると $9.00$ 倍になり、甲の棘 $3.73$ 倍より大きく出てしまう。小さい数どうしの比は暴れるからで、比べるべきは棘の高さ $0.56$ と、平らな側の最大 $0.09$ である。
観察 3.5 そして平らな側の最大 $0.09$ は、棘の立つ側の隣の値 $0.15$ にも届かない。甲の一番悪いところより、乙の一番良いところが低い。重ならないので、分離できる。
計算 3.6:作り物で、同じ手続きを二つの記録にかける。
| ずらし | 元から写した記録 | 元に無い値の記録 |
|---|---|---|
| $-40$ | $0.018$ | $0.020$ |
| $-10$ | $0.067$ | $0.074$ |
| $0$ | $\mathbf{0.957}$ | $0.001$ |
| $+10$ | $0.058$ | $0.062$ |
| $+40$ | $0.016$ | $0.022$ |
観察 3.7 作り物でも同じ形が出る。一方は $0$ で $0.957$ の棘、他方は最大でも $0.074$、手続きが両方を分けられることの確認である。
4. 分離子
分離子:時刻が違うのか、値が無いのか。
観察 4.1 時刻の違いは、ずらせば直る。棘が別の位置に立つ、直したあとは高い一致率が出る。
観察 4.2 値の不在は、ずらしても直らない。どの位置にも棘が立たない。その値は、どの時刻にも無い。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「一致しない」と呼ばれる。一方は対応づけの問題、一方は存在の問題である。
観察 4.4 そして一致しない理由までは、この手続きからは決まらない。丸め、単位の違い、別系統の値、転記の誤り、いくつもの説明がありうる。本稿が測るのは「一致するか」だけである。
観察 4.5 元の記録を真とする根拠も、本稿は持たない。元の側に欠けや誤りがあれば、一致率は下がる。甲が $100\%$ でないのは、その現れでもある。
観察 4.6 正直に言えば、低い一致率だけでは何も言えない。元の記録の欠けでも下がるからである。効いているのは、ずらし走査の形のほうである。棘が立つか、平らか。
観察 4.7 最後に一つ、照合できる記録は、照合しておくとよい。規約を一つも仮定せずにできる。そして一致した部分については、そこから先の計算を安心して積める。
5. 点呼と結び
- 一致率は $6.9$ 倍以上違う(観察 2.2):$0.55$ 対 $0.08$。
- 値の差は $70$ 倍以上違う(観察 2.3):$3.5$ 対 $0.05$。
- 甲の差の下端はちょうど $0.000$(観察 2.4):完全一致が実在。
- 甲の一致率も $100\%$ ではない(観察 2.5):元にも欠けがある。
- 甲の棘は隣の $3.73$ 倍(計算 3.1):時刻は正しい。
- 乙はどこでも平ら(計算 3.1):時刻では説明が付かない。
- 倍率で測ると乙が $9.00$ 倍(観察 3.4):判別子は高さ。
- 乙の最大 $0.09$ < 甲の隣 $0.15$(観察 3.5):重ならない。
- 作り物では $0.957$ 対 $0.074$(計算 3.6):手続きが分ける。
- 分離子は対応づけか存在か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
結び:二次的な記録は、たいてい元の記録と照合されない。整合していることが前提にされるからで、照合には元の記録が要り、それを持っていないことが多い。だが元の記録があれば照合は一行で書ける。時刻を引いて値を比べるだけで、規約を一つも仮定せずにできる。照合すると、桁で分かれる。一致率は $0.55$ 対 $0.08$ と $\mathbf{6.9}$ 倍以上、値の差の中央値は $3.5$ 対 $0.05$ と $\mathbf{70}$ 倍以上違う。一方では差の下端がちょうど $\mathbf{0.000}$ で、完全に一致する組が実在する。照合の仕組みが働いていることの直接の証拠である。ただしその一致率も $55$〜$65$ パーセントで $100\%$ ではない。元の記録にも欠けがあるので一致しない組は残り、だから低い一致率だけでは何も言えない。分けるのは、ずらして走査したときの形である。一方はずらさないところに棘が立ち、その高さは隣の $\mathbf{3.73}$ 倍である。ずらすと下がるのだから、時刻は正しい。他方はどこへずらしても $0.01$〜$0.09$ で平らである。上がる位置が無いのだから、「時刻を直せば一致する」という説明は閉じる。判別子は倍率ではなく高さである。平らな側の凹凸を最大と最小の比で測ると $9.00$ 倍になり、棘の $3.73$ 倍より大きく出てしまう。小さい数どうしの比は暴れるので、比べるべきは棘の高さ $\mathbf{0.56}$ と平らな側の最大 $\mathbf{0.09}$ である。そしてその $0.09$ は、棘の立つ側の隣の値 $0.15$ にも届かない。一番悪いところより一番良いところが低いので、重ならず分離できる。作り物でも同じ形が出て、元から写した記録は $0$ で $\mathbf{0.957}$ の棘を立て、元に無い値の記録は最大でも $\mathbf{0.074}$ にとどまる。分けているものは一つ、時刻が違うのか、値が無いのか。時刻の違いはずらせば直り、棘が別の位置に立つ。値の不在はずらしても直らず、どの位置にも棘が立たない。論文300 の基準で別根であり、一方は対応づけの問題、一方は存在の問題である。正直に言えば、一致しない理由までは、この手続きからは決まらない。丸め、単位の違い、別系統の値、転記の誤りなど、いくつもの説明がありうる。本稿が測るのは「一致するか」だけである。元の記録を真とする根拠も本稿は持たない。元の側に欠けや誤りがあれば一致率は下がり、一方が $100\%$ でないのはその現れでもある。最後に一つ、照合できる記録は、照合しておくとよい。規約を一つも仮定せずにできるし、一致した部分については、そこから先の計算を安心して積める。
参考文献
- Fellegi, I. P., & Sunter, A. B. (1969). A Theory for Record Linkage. Journal of the American Statistical Association.
- Christen, P. (2012). Data Matching. Berlin: Springer.
- Redman, T. C. (1998). The Impact of Poor Data Quality on the Typical Enterprise. Communications of the ACM.
- Knuth, D. E. (1998). The Art of Computer Programming: Sorting and Searching (2nd ed.). Reading: Addison-Wesley.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『偏りを生まない欠測でも、符号は動く』[論文420]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699994
- 山岸勇輝 (2026). 『「先行して見える」ものは、先行していない』[論文421]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700022
- 山岸勇輝 (2026). 『先読みは、期間を分けても高い $t$ 値でも消えない』[論文426]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700184
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「記録された値が、元の記録の中に在るかを確かめる」[論文428]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22700309
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/428・DOI 10.5281/zenodo.22700309・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 記録された値が、元の記録の中に在るかを確かめる [論文428]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/428 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22700309
Yamagishi, Y. (2026). Checking Whether a Recorded Value Exists in the Original Record [Paper 428]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/428; DOI: 10.5281/zenodo.22700309
@misc{yamagishi2026yoi428,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Checking Whether a Recorded Value Exists in the Original Record},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/428},
doi = {10.5281/zenodo.22700309},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
4640b2cb62f4b49315a569ec3ad3f1ede6e532439fc970454b432e01ffe7a7d1 yamagishi_yoi428_v1_jp.pdfeaf3a1634b33748e78b01e021ad647798cc5a0a3ad131392288ca5f5894d2601 yamagishi_yoi428_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。