要旨
面積が広いほどよく擦れる、と思われている。本稿が示すのは、見かけの面積を $100$ 倍にしても摩擦力が動かないことである。本当に触れている面積が、見かけの面積に依らないからである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、これが本稿の芯である。見かけの面積を $100$ mm$^2$ から $10000$ mm$^2$ へ $100$ 倍にしても、摩擦力は $\mathbf{30.0000}$ N のまま動かない(第3節)。
第二に、本当に触れているのは $\mathbf{0.1000}$ mm$^2$ で、見かけの $0.1$ パーセント以下である(第2節)。
第三に、摩擦係数はせん断強さを硬さで割った値と一致し、$\mathbf{0.300000}$ である(第2節)。
第四に、見かけを $100$ 倍にすると、触れている割合はちょうど $1/100$ になる(第3節)。
第五に、荷重を倍にすると摩擦力はちょうど $\mathbf{2.000000}$ 倍になる。面積では動かず、荷重では動く(第3節)。
第六に、分離子は「見かけの面積か、荷重か」である(第4節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。アモントンの法則、真実接触面積、塑性接触の模型はすべて既知である。摩擦の機構を尽くさない。凝着、掘り起こし、分子間力の寄与を分けることは主題ではない。本稿は最も単純な塑性接触の模型だけを使う。材料の値を主張しない。硬さ $10^{9}$ Pa、せん断強さ $3\times10^{8}$ Pa は説明のための代表値であり、特定の材料の値ではない。弾性接触を扱わない。面圧が低い場合の弾性接触では、真実接触面積が荷重にほぼ比例するという別の議論が要る。潤滑を扱わない。油膜があれば話は変わる。乾いた接触だけを扱う。例外を否定しない。柔らかい材料や、面積に依存する摩擦が知られている場合もある。本稿はそれを否定しない。既刊との関係:論文429 は同じ高さを往復して温度が戻らないことを示した。そこでは見た目に同じ操作が同じ結果を返さなかった。ここでは見た目に違う設定が同じ結果を返す。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「見かけの面積」と「真実の接触面積」は、その基準で別根である。論文419 は同じ材料でも向きで強度が変わることを示した。そこでは図面に無い量が効いた。ここでは図面に書いてある量が効かない。論文424 は割ると分母の動きが分子の出来事になることを示した。ここでも、割合という量が二つの独立な量の商である。加えたのは、三つの見かけの面積で摩擦力が一定であることを数に出したこと、真実接触面積を $0.1000$ mm$^2$ と出したこと、摩擦係数がせん断強さ/硬さと一致することを逆算で確かめたこと、触れている割合が見かけに逆比例することを示したこと、荷重では動くことを境目の反対側に置いたこと、分離子を「面積か荷重か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:硬さ $H$ の材料に荷重 $W$ が掛かると、接触点は降伏して広がり、支えられるだけの面積になる。
$$A_{\mathrm{real}}=\frac{W}{H}$$
その面をせん断強さ $s$ で切るのに要る力が摩擦力である。
$$F=s\,A_{\mathrm{real}}=\frac{s}{H}\,W
\qquad\Longrightarrow\qquad
\mu=\frac{F}{W}=\frac{s}{H}$$
以下 $W=100$ N、$H=10^{9}$ Pa、$s=3\times10^{8}$ Pa とする。
観察 1.1 面積が広いほどよく擦れる、と思われている。触れている所が多いほど抵抗が大きい。自然な考え方である。
観察 1.2 だが実験では、面積を変えても摩擦力が変わらない。同じ物体を、面を替えて置いても同じである。これは古くから知られている。
問い:なぜ変わらないのか。
2. 本当に触れているのは 0.1000 mm$^2$ である
計算 2.1:荷重と硬さから真実接触面積を出す。
$A_{\mathrm{real}}=100/10^{9}=10^{-7}$ m$^2$ $=\mathbf{0.1000}$ mm$^2$ である。
観察 2.2 一辺 $0.3$ mm ほどの正方形にすぎない。どれだけ大きな物体でも、この面積しか触れていない。表面は必ず凹凸を持つので、山の頂上だけが当たる。
計算 2.3:摩擦力と摩擦係数を出す。
$F=3\times10^{8}\times10^{-7}=\mathbf{30.0000}$ N、$\mu=\mathbf{0.300000}$ である。
観察 2.4 $\mu$ は $s/H$ と一致する。$3\times10^{8}/10^{9}=0.300000$、逆算しても同じ値になる。
観察 2.5 この式に面積が入っていない。$\mu$ は材料の二つの強さの比だけで決まる。形も大きさも消えている。
3. 見かけを 100 倍にしても、摩擦力は動かない
計算 3.1:同じ荷重のまま、見かけの面積だけを変える。
| 見かけ [mm$^2$] | 真実 [mm$^2$] | 触れている割合 | 摩擦力 [N] |
|---|---|---|---|
| $100$ | $0.1000$ | $0.001000$ | $\mathbf{30.0000}$ |
| $1000$ | $0.1000$ | $0.000100$ | $\mathbf{30.0000}$ |
| $10000$ | $0.1000$ | $0.000010$ | $\mathbf{30.0000}$ |
観察 3.2 摩擦力は三つとも $\mathbf{30.0000}$ N である。見かけを $100$ 倍にしても動かない。真実接触面積が $W/H$ で決まり、見かけに依らないからである。
観察 3.3 代わりに、触れている割合が $1/100$ になる。$0.001000$ から $0.000010$ へ、広げた分だけ薄く広がるのではなく、触れる場所が増えないまま隙間が増える。
観察 3.4 最大でも $0.1$ パーセントしか触れていない。見かけの千分の一、「面で接している」という像そのものが誤りである。
計算 3.5:荷重だけを倍にする。
摩擦力はちょうど $\mathbf{2.000000}$ 倍になる。
観察 3.6 面積では動かず、荷重では動く。同じ「押しつけ」でも、どちらを動かすかで結果が違う。これが分離子である。
4. 分離子
分離子:見かけの面積か、荷重か。
観察 4.1 見かけの面積を動かしても、真実接触面積は動かない。$W/H$ に面積が入っていない。だから摩擦力も動かない。
観察 4.2 荷重を動かすと、真実接触面積が比例して動く。接触点が降伏して広がる。だから摩擦力も比例する。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「接触面積」と呼ばれる。一方は形が決める量、一方は力が決める量である。
観察 4.4 だから摩擦係数が材料の性質のように見える。$\mu=s/H$ は二つの強さの比で、形も大きさも消えている。消えたのではなく、割り算で打ち消し合っている。
観察 4.5 押しつける力を分散させても、摩擦は減らない。広い面で受けても、真実接触面積は同じである。面圧を下げたければ荷重を下げるしかない。
観察 4.6 正直に言えば、本稿は最も単純な塑性接触の模型を使っている。弾性接触や潤滑がある場合は別の議論が要る。面積に依存する摩擦が知られている場合もあり、本稿はそれを否定しない。
観察 4.7 最後に一つ、$0.1$ パーセントという割合は、荷重と硬さだけで決まる。磨いても、平らにしても、この割合は変わらない。変わるのは、触れている点の数と一点あたりの大きさの内訳だけである。
5. 点呼と結び
- 真実接触面積は $0.1000$ mm$^2$(計算 2.1):$W/H$。
- 摩擦力は $30.0000$ N(計算 2.3):$sA$。
- 摩擦係数は $0.300000$(観察 2.4):$s/H$ と一致。
- $\mu$ に面積が入っていない(観察 2.5):形も大きさも消える。
- 見かけ $100$ 倍でも $30.0000$ N(計算 3.1):本稿の芯。
- 触れている割合は $1/100$ に(観察 3.3):逆比例。
- 最大でも $0.1$ % しか触れない(観察 3.4):千分の一。
- 荷重を倍にすると $2.000000$ 倍(計算 3.5):境目の反対側。
- 面積では動かず荷重では動く(観察 3.6):分離子。
- 分離子は面積か荷重か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
結び:面積が広いほどよく擦れる、と思われている。触れている所が多いほど抵抗が大きい、という自然な考え方である。だが実験では、面を替えて置いても摩擦力は変わらない。理由は、本当に触れている面積が見かけに依らないことである。硬さ $10^{9}$ Pa の材料に荷重 $100$ N が掛かると、接触点は降伏して $A=W/H=\mathbf{0.1000}$ mm$^2$ になる。一辺 $0.3$ mm ほどの正方形にすぎない。その面をせん断強さで切る力が摩擦力で、$\mathbf{30.0000}$ N、摩擦係数は $\mathbf{0.300000}$ である。この $\mu$ は $s/H$ と一致し、式に面積が入っていない。形も大きさも消えている。だから見かけを $100$ 倍にしても、摩擦力は動かない。見かけ $100$・$1000$・$10000$ mm$^2$ のいずれでも摩擦力は $\mathbf{30.0000}$ N のままである。代わりに触れている割合が $0.001000$ から $0.000010$ へ、ちょうど $1/100$ になる。広げた分だけ薄く広がるのではなく、触れる場所が増えないまま隙間が増える。最大でも見かけの $\mathbf{0.1}$ パーセント、千分の一しか触れていないので、「面で接している」という像そのものが誤りである。分けているものは一つ、見かけの面積か、荷重か。見かけを動かしても $W/H$ に面積は入っていないので真実接触面積は動かず、荷重を動かせば接触点が降伏して比例して広がる。実際、荷重を倍にすると摩擦力はちょうど $\mathbf{2.000000}$ 倍になる。論文300 の基準で別根であり、どちらも「接触面積」と呼ばれるが、一方は形が決める量、一方は力が決める量である。だから押しつける力を分散させても摩擦は減らない。広い面で受けても真実接触面積は同じで、面圧を下げたければ荷重を下げるしかない。正直に言えば、本稿は最も単純な塑性接触の模型を使っており、弾性接触や潤滑がある場合は別の議論が要る。面積に依存する摩擦が知られている場合もあり、本稿はそれを否定しない。最後に一つ、$0.1$ パーセントという割合は荷重と硬さだけで決まる。磨いても平らにしてもこの割合は変わらず、変わるのは触れている点の数と一点あたりの大きさの内訳だけである。
参考文献
- Amontons, G. (1699). De la résistance causée dans les machines. Mémoires de l’Académie Royale des Sciences.
- Bowden, F. P., & Tabor, D. (1950). The Friction and Lubrication of Solids. Oxford: Clarendon Press.
- Greenwood, J. A., & Williamson, J. B. P. (1966). Contact of Nominally Flat Surfaces. Proceedings of the Royal Society A.
- Persson, B. N. J. (2000). Sliding Friction: Physical Principles and Applications (2nd ed.). Berlin: Springer.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ材料・同じ形でも、置いた向きで強度が変わる』[論文419]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699940
- 山岸勇輝 (2026). 『割ると、分母の動きが分子の出来事になる』[論文424]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700141
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ空気が同じ高さを越えて、出てきたときに暖かい』[論文429]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700352
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「接触面を 100 倍広げても、摩擦力は変わらない」[論文430]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22700470
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 接触面を 100 倍広げても、摩擦力は変わらない [論文430]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/430 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22700470
Yamagishi, Y. (2026). Widen the Contact a Hundredfold and the Friction Does Not Change [Paper 430]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/430; DOI: 10.5281/zenodo.22700470
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