要旨
表面張力が大きいほど液は持ち上がる、と思われている。本稿が示すのは、持ち上げているのは表面張力そのものではなく、その差であることである。だから純水は表面張力が最も大きいのに、脚を作らない。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、純水は $0.072800$、$12$ パーセントのワインは $\mathbf{0.039445}$ N/m である(第2節)。
第二に、蒸発で $10$ パーセントに減ると $0.042828$ へ上がる(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。差 $\mathbf{0.003383}$ N/m が、膜厚 $20$ μm の液を $\mathbf{17.25}$ mm 持ち上げる(第3節)。
第四に、高さは膜厚に反比例し、$100$ μm では $\mathbf{3.45}$ mm に下がる(第3節)。
第五に、純水では蒸発しても組成が変わらないので差がゼロになり、脚はできない(第3節)。
第六に、分離子は「量が効くか、差が効くか」である(第4節)。
キーワード:マランゴニ効果、表面張力、ワインの涙、薄膜。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。マランゴニ効果、表面張力の濃度依存性、薄膜の力の釣り合いはすべて既知である。ワインを評価しない。品質、産地、アルコール度数と味の関係は主題ではない。内挿式は模型である。エタノール水溶液の表面張力を指数型で内挿した。両端は実測値に合わせてあるが、中間の形は実測ではない。蒸発速度を扱わない。どれくらいの速さで組成が変わるかは主題ではない。差が生じたあとの釣り合いだけを見る。膜厚を実測しない。$20$ μm は代表値であり、実際のグラスでは場所によって変わる。周期的な流れを扱わない。脚が滴になって落ちる過程は主題ではない。既刊との関係:論文451 は断熱しているのが雪ではなく空気であることを示した。そこでも、名前のついたものと働いているものが違った。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「表面張力」と「表面張力の差」は、その基準で別根である。論文448 は光子 $1$ 個の大きさが効くことを示した。そこでも、合計ではない量が効いていた。加えたのは、二つの組成で表面張力を出したこと、差を $0.003383$ N/m と出したこと、持ち上がる高さを $17.25$ mm と出したこと、膜厚に反比例することを二つの値で確かめたこと、純水を境目として置いたこと、分離子を「量か差か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:エタノール体積分率 $x$ の水溶液の表面張力を、両端を実測値に合わせた指数型で内挿する。
$$\sigma(x)=\sigma_{w}+(\sigma_{e}-\sigma_{w})\,\frac{1-e^{-9x}}{1-e^{-9}}$$
ここで $\sigma_{w}=0.0728$、$\sigma_{e}=0.0223$ N/m である。厚さ $\delta$ の液膜が、表面張力の差 $\Delta\sigma$ によって持ち上げられる高さは、力の釣り合いから
$$h=\frac{\Delta\sigma}{\rho\,g\,\delta}$$
で与えられる。
観察 1.1 表面張力が大きいほど液は持ち上がる、と思われている。毛管上昇の式がそう見える。$\sigma$ が分子にあるから。
観察 1.2 だがワインの脚は、表面張力が最も小さい液で起きる。純水では起きない。向きが逆である。
問い:何が持ち上げているのか。
2. 蒸発が 0.003383 N/m の差を作る
計算 2.1:三つの組成で表面張力を出す。
| エタノール体積分率 | 表面張力 [N/m] |
|---|---|
| $0.00$(純水) | $0.072800$ |
| $0.10$ | $0.042828$ |
| $0.12$(ワイン) | $\mathbf{0.039445}$ |
観察 2.2 $12$ パーセントで、すでに純水の $54.18$ パーセントまで落ちている。わずかなエタノールで大きく下がる。表面に集まる性質があるからである。
観察 2.3 そして蒸発でエタノールが減ると、表面張力は上がる。$0.12$ から $0.10$ へ減ると、$0.039445$ から $0.042828$ へ、差は $\mathbf{0.003383}$ N/m である。
観察 2.4 この差は、純水の表面張力の $4.65$ パーセントしかない。絶対値としては小さい。だが効いているのはこの小さいほうである。
3. 0.003383 N/m が 17.25 mm 持ち上げる
計算 3.1:二つの膜厚で、持ち上がる高さを出す。
| 膜厚 | 高さ |
|---|---|
| $20$ μm | $\mathbf{17.2465}$ mm |
| $100$ μm | $3.4493$ mm |
観察 3.2 $17.25$ mm はグラスで目に見える高さである。$2$ センチ近く。脚が見えるのは、この大きさだからである。
観察 3.3 高さは膜厚に反比例する。$20$ μm と $100$ μm で $5$ 倍、薄い膜ほど高く上がる。厚い膜は自分の重さで負ける。
観察 3.4 純水では差がゼロになる。蒸発しても組成が変わらないから、表面張力は $0.072800$ と最も大きいのに、脚はできない。
観察 3.5 これが境目である。混合物か、単一成分か、片方が選択的に蒸発するかどうかで、現象が出るか出ないかが決まる。
観察 3.6 だから「表面張力が大きいと脚ができる」は、二重に誤っている。向きが逆であり、しかも効いているのは量ではなく差である。同じ語で二つの量を指している。
4. 分離子
分離子:量が効くか、差が効くか。
観察 4.1 量が効くなら、大きいほど強い。毛管上昇はこの型である。純水が最も高く上がる。
観察 4.2 差が効くなら、一様な液では何も起きない。マランゴニ流はこの型である。どれだけ大きくても、揃っていれば動かない。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「表面張力の効果」と呼ばれる。一方は場の量、一方は場の勾配である。
観察 4.4 論文451 と同じ形である。そこでは断熱しているのが雪ではなく空気だった。ここでは持ち上げているのが表面張力ではなくその差である。どちらも、名前のついたものと働いているものが違う。
観察 4.5 論文448 とも重なる。そこでは合計ではなく $1$ 個の大きさが効いた。ここでは値ではなく値の変化が効く。どちらも、素朴に足し合わせた量が答えを持っていない。
観察 4.6 だから脚の強さは、アルコール度数そのものではなく、蒸発による組成変化の大きさを見る。度数が高くても、蒸発しにくい環境なら差は小さい。湿度と温度が効く理由がここにある。
観察 4.7 正直に言えば、内挿式は模型である。両端は実測値に合わせてあるが、中間の形は指数型と置いただけ、$0.003383$ という値は模型に依るが、差がゼロなら脚が出ないという結論は依らない。
5. 点呼と結び
- 純水は $0.072800$ N/m(計算 2.1):最も大きい。
- ワインは $0.039445$(計算 2.1):$54.18$ パーセント。
- $10$ パーセントで $0.042828$(計算 2.1):蒸発で上がる。
- 差は $0.003383$ N/m(観察 2.3):これが効く。
- $17.2465$ mm 持ち上がる(計算 3.1):本稿の芯。
- $100$ μm では $3.4493$ mm(計算 3.1):膜厚に反比例。
- 純水では差がゼロ(観察 3.4):脚ができない。
- 境目は混合物か単一成分か(観察 3.5):選択的な蒸発。
- 分離子は量か差か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
- 湿度と温度が効く(観察 4.6):組成変化の大きさ。
結び:表面張力が大きいほど液は持ち上がる、と思われている。毛管上昇の式で $\sigma$ が分子にあるから、そう見える。だがワインの脚は、表面張力が最も小さい液で起き、純水では起きない。向きが逆である。効いているのは、小さいほうの数である。純水は $0.072800$ N/m、$12$ パーセントのワインは $\mathbf{0.039445}$ で、わずかなエタノールで純水の $54.18$ パーセントまで落ちる。エタノールが表面に集まる性質を持つからである。そして蒸発でエタノールが $0.12$ から $0.10$ へ減ると表面張力は $0.042828$ へ上がり、差は $\mathbf{0.003383}$ N/m になる。この差は純水の表面張力の $4.65$ パーセントしかなく、絶対値としては小さい。だが効いているのはこの小さいほうである。その小さな差が、目に見える高さを作る。膜厚 $20$ μm なら $\mathbf{17.2465}$ mm、$2$ センチ近く持ち上がる。脚が見えるのは、この大きさだからである。高さは膜厚に反比例し、$100$ μm では $3.4493$ mm に下がる。薄い膜ほど高く上がり、厚い膜は自分の重さで負ける。そして純水では蒸発しても組成が変わらないので差がゼロになり、表面張力は $0.072800$ と最も大きいのに脚はできない。これが境目である。混合物か単一成分か、片方が選択的に蒸発するかどうかで、現象が出るか出ないかが決まる。だから「表面張力が大きいと脚ができる」は二重に誤っている。向きが逆であり、しかも効いているのは量ではなく差である。分けているものは一つ、量が効くか、差が効くか。量が効くなら大きいほど強く、毛管上昇はこの型で、純水が最も高く上がる。差が効くなら一様な液では何も起きず、マランゴニ流はこの型で、どれだけ大きくても揃っていれば動かない。論文300 の基準で別根であり、一方は場の量、一方は場の勾配である。論文451 と同じ形で、そこでは断熱しているのが雪ではなく空気だった。どちらも、名前のついたものと働いているものが違う。論文448 とも重なり、そこでは合計ではなく $1$ 個の大きさが効いた。どちらも、素朴に足し合わせた量が答えを持っていない。だから脚の強さはアルコール度数そのものではなく、蒸発による組成変化の大きさを見る。度数が高くても蒸発しにくい環境なら差は小さく、湿度と温度が効く理由がここにある。正直に言えば、内挿式は模型である。両端は実測値に合わせてあるが中間の形は指数型と置いただけで、$0.003383$ という値は模型に依る。だが差がゼロなら脚が出ないという結論は、模型に依らない。
参考文献
- Thomson, J. (1855). On Certain Curious Motions Observable at the Surfaces of Wine and Other Alcoholic Liquors. Philosophical Magazine.
- Marangoni, C. (1871). Ueber die Ausbreitung der Tropfen einer Flüssigkeit auf der Oberfläche einer anderen. Annalen der Physik.
- Fournier, J. B., & Cazabat, A. M. (1992). Tears of Wine. Europhysics Letters.
- Vazquez, G., Alvarez, E., & Navaza, J. M. (1995). Surface Tension of Alcohol + Water from 20 to 50 Degrees C. Journal of Chemical & Engineering Data.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『赤い光をいくら当てても、青い光が切る結合は切れない』[論文448]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732565
- 山岸勇輝 (2026). 『断熱しているのは雪ではなく、雪が抱えている空気である』[論文451]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732772
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「液を持ち上げているのは表面張力ではなく、表面張力の差である」[論文452]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22732842
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 液を持ち上げているのは表面張力ではなく、表面張力の差である [論文452]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/452 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22732842
Yamagishi, Y. (2026). What Lifts the Liquid Is Not Surface Tension but Its Difference [Paper 452]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/452; DOI: 10.5281/zenodo.22732842
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