要旨
検査の精度が高ければ、陽性は信じてよいと思われている。本稿が示すのは、同じ検査の的中率が有病率で $\mathbf{0.09}$ から $\mathbf{0.99}$ まで動くことである。そして直すべきは感度ではなく、特異度である。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、有病率 $0.5$ では的中率が $\mathbf{0.990000000000}$ で、感度・特異度と一致する(第2節)。
第二に、有病率 $0.001$ では $\mathbf{0.090164}$ まで落ちる(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。的中率が $0.5$ になる有病率は $\mathbf{0.010000000}$ で、閉じた式 $(1-\mathrm{sp})/((1-\mathrm{sp})+\mathrm{se})$ と一致する(第3節)。
第四に、特異度を $0.999$ にすると $\mathbf{0.497738}$ へ、$\mathbf{5.4750}$ 倍になる(第3節)。
第五に、感度を $0.999$ にしても $\mathbf{0.090909}$ にしかならない(第3節)。
第六に、分離子は「検査の性能か、検査と有病率の組か」である(第4節)。
キーワード:ベイズの定理、陽性的中率、感度、特異度、有病率。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ベイズの定理、感度・特異度、陽性的中率はすべて既知である。医学的な助言をしない。どの検査を受けるべきか、結果をどう解釈するかは主題ではない。臨床の判断は専門の指示に従うこと。特定の検査を論じない。感度・特異度 $0.99$ は説明のための値であり、実在の検査の性能ではない。検査の連鎖を扱わない。二段階検査、確認検査、独立性の仮定は主題ではない。費用と害を扱わない。偽陽性がもたらす追加検査や不安の重みは主題ではない。既刊との関係:論文469 は同じ $1$ 割増の効きが起点で $9$ 倍違うことを示した。そこでも、操作の効果が状態で決まった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「検査の精度」と「陽性の信頼性」は、その基準で別根である。論文460 は暑さの限界が二つの量の組で決まることを示した。そこでも、一つの数だけでは順序が決まらなかった。加えたのは、四つの有病率で的中率を出したこと、的中率が $0.5$ になる有病率を二分法と閉じた式の両方で $0.010000000$ と出したこと、特異度と感度の効きを $0.497738$ 対 $0.090909$ と並べたこと、比を $5.4750$ 倍と出したこと、分離子を「検査の性能か、検査と有病率の組か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:有病率 $p$、感度 $\mathrm{se}$、特異度 $\mathrm{sp}$ の検査を考える。陽性と出たときに本当に病気である確率(陽性的中率)は、ベイズの定理から
$$\mathrm{PPV}=\frac{p\,\mathrm{se}}{p\,\mathrm{se}+(1-p)(1-\mathrm{sp})}$$
である。以下 $\mathrm{se}=\mathrm{sp}=0.99$ を基準とする。
観察 1.1 検査の精度が高ければ、陽性は信じてよいと思われている。$99$ パーセント当たる検査、$99$ パーセント正しいはずだ、と読める。
観察 1.2 だが式には有病率 $p$ が入っている。検査だけでは的中率が決まらない。誰に対して使うかが、答えの半分を握っている。
問い:どれだけ動くのか。
2. 有病率で 0.09 から 0.99 まで動く
計算 2.1:四つの有病率で、陽性的中率を出す。
| 有病率 | 陽性的中率 |
|---|---|
| $0.5000$ | $\mathbf{0.990000}$ |
| $0.1000$ | $0.916667$ |
| $0.0100$ | $0.500000$ |
| $0.0010$ | $\mathbf{0.090164}$ |
観察 2.2 有病率 $0.5$ では、的中率がちょうど $\mathbf{0.990000000000}$ である。感度・特異度と一致する。この一点だけを見ると、「精度 $=$ 的中率」に見える。
観察 2.3 有病率 $0.001$ では $\mathbf{0.090164}$ である。陽性のうち約 $9$ 割が外れ、同じ検査、同じ精度で。
観察 2.4 幅は $0.09$ から $0.99$、$11$ 倍である。検査を一つも変えずに、「精度 $99$ パーセント」という表示は、この幅を含んでいない。
観察 2.5 理由は、健康な人のほうが圧倒的に多いからである。有病率 $0.001$ なら、$1000$ 人に $1$ 人が病気で $999$ 人が健康、$1$ パーセントの偽陽性でも、$999$ 人のうち約 $10$ 人が陽性になる。
3. 直すべきは感度ではなく、特異度である
計算 3.1:的中率が $0.5$ になる有病率を、二分法と閉じた式の両方で求める。
$\mathbf{0.010000000}$ である(閉じた式 $(1-\mathrm{sp})/((1-\mathrm{sp})+\mathrm{se})$ と相対差 $10^{-9}$ 未満で一致)。
観察 3.2 有病率 $1$ パーセントが、五分五分の分かれ目である。それより低ければ、陽性は「たぶん外れ」、多くの検診が扱う病気は、この線より下にある。
計算 3.3:有病率 $0.001$ のまま、感度と特異度をそれぞれ $0.999$ に上げる。
| 条件 | 陽性的中率 |
|---|---|
| $\mathrm{se}=0.99$、$\mathrm{sp}=0.99$ | $0.090164$ |
| $\mathrm{se}=0.999$、$\mathrm{sp}=0.99$ | $\mathbf{0.090909}$ |
| $\mathrm{se}=0.99$、$\mathrm{sp}=0.999$ | $\mathbf{0.497738}$ |
観察 3.4 感度を上げても $0.090164$ から $0.090909$ にしかならない。$0.8$ パーセントの改善、見つけ損ないを減らしても、的中率はほとんど動かない。
観察 3.5 特異度を上げると $\mathbf{0.497738}$ へ跳ねる。$\mathbf{5.4750}$ 倍、同じ「$0.99$ を $0.999$ にする」という操作なのに、効きがまるで違う。
観察 3.6 偽陽性の数が、健康な人の数に比例するからである。健康な人が $999$ 倍多いのだから、そちらの誤りが $999$ 倍効く。分母の大きいほうを削るのが正しい。
観察 3.7 だから「見落としを減らす」という改善は、まれな病気では的中率を上げない。向きが違う。減らすべきは、健康な人を誤って拾う側である。
4. 分離子
分離子:検査の性能か、検査と有病率の組か。
観察 4.1 検査の性能なら、一つの数で表せる。感度・特異度は検査だけで決まる。カタログに載る量である。
観察 4.2 組なら、誰に使うかで変わる。$0.09$ から $0.99$ まで、同じ検査が、集団を変えるだけで別物になる。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「検査の当たりやすさ」と呼ばれる。一方は検査の量、一方は検査と集団の組の量である。
観察 4.4 論文460 と同じ形である。そこでは暑さが気温と湿度の組で決まり、一つの数だけでは順序が決まらなかった。ここでは的中率が検査と有病率の組で決まる。
観察 4.5 論文469 とも重なる。そこでは同じ $1$ 割増の効きが起点で $9$ 倍違った。ここでは同じ「$0.99$ を $0.999$ に」が $5.47$ 倍違う。どちらも、操作の効果が状態で決まる。
観察 4.6 だから検査の性能を語るときは、対象集団を併記する。「精度 $99$ パーセント」だけでは、陽性をどう読めばよいか決まらない。同じ数が、$0.09$ とも $0.99$ とも対応する。
観察 4.7 正直に言えば、ここで扱ったのは一回の検査だけである。実際には二段階の確認検査が使われ、そこで的中率が大きく上がる。本稿はその設計を論じないが、なぜ確認検査が要るのかは、この計算が説明している。
5. 点呼と結び
- 有病率 $0.5$ で $0.990000000000$(観察 2.2):精度と一致。
- 有病率 $0.001$ で $0.090164$(計算 2.1):$9$ 割が外れ。
- 幅は $11$ 倍(観察 2.4):検査は同じ。
- 健康な人が $999$ 倍多い(観察 2.5):偽陽性が積み上がる。
- 分かれ目は有病率 $0.010000000$(計算 3.1):本稿の芯。
- 閉じた式と一致(計算 3.1):二分法と突合せ。
- 感度を上げても $0.090909$(計算 3.3):$0.8$ % の改善。
- 特異度を上げると $0.497738$(計算 3.3):$5.4750$ 倍。
- 分離子は検査か、検査と集団の組か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
- 確認検査が要る理由(観察 4.7):この計算が説明する。
結び:検査の精度が高ければ陽性は信じてよいと思われている。$99$ パーセント当たる検査なら $99$ パーセント正しいはずだ、と読める。だが式には有病率が入っており、検査だけでは的中率が決まらない。誰に対して使うかが、答えの半分を握っている。同じ検査の的中率が、$11$ 倍動く。有病率 $0.5$ では的中率がちょうど $\mathbf{0.990000000000}$ で感度・特異度と一致し、この一点だけを見ると「精度=的中率」に見える。ところが有病率 $0.001$ では $\mathbf{0.090164}$、陽性のうち約 $9$ 割が外れる。同じ検査、同じ精度でである。理由は健康な人のほうが圧倒的に多いからで、有病率 $0.001$ なら $1000$ 人に $1$ 人が病気で $999$ 人が健康。$1$ パーセントの偽陽性でも、$999$ 人のうち約 $10$ 人が陽性になる。そして直すべきは、感度ではなく特異度である。的中率が $0.5$ になる有病率は $\mathbf{0.010000000}$ で、閉じた式 $(1-\mathrm{sp})/((1-\mathrm{sp})+\mathrm{se})$ と相対差 $10^{-9}$ 未満で一致する。有病率 $1$ パーセントが五分五分の分かれ目で、多くの検診が扱う病気はこの線より下にある。有病率 $0.001$ のまま感度を $0.999$ に上げても、的中率は $0.090164$ から $\mathbf{0.090909}$ へ $0.8$ パーセント動くだけである。ところが特異度を $0.999$ にすると $\mathbf{0.497738}$ へ、$\mathbf{5.4750}$ 倍に跳ねる。同じ「$0.99$ を $0.999$ にする」という操作なのに、効きがまるで違う。偽陽性の数が健康な人の数に比例するからで、健康な人が $999$ 倍多いのだからそちらの誤りが $999$ 倍効く。分母の大きいほうを削るのが正しい。だから「見落としを減らす」という改善は、まれな病気では的中率を上げない。減らすべきは、健康な人を誤って拾う側である。分けているものは一つ、検査の性能か、検査と有病率の組か。検査の性能なら一つの数で表せて、感度・特異度は検査だけで決まるカタログの量である。組なら誰に使うかで変わり、$0.09$ から $0.99$ まで動く。同じ検査が、集団を変えるだけで別物になる。論文300 の基準で別根であり、一方は検査の量、一方は検査と集団の組の量である。論文460 と同じ形で、そこでは暑さが気温と湿度の組で決まり、一つの数だけでは順序が決まらなかった。論文469 とも重なり、そこでは同じ $1$ 割増の効きが起点で $9$ 倍違った。ここでは同じ「$0.99$ を $0.999$ に」が $5.47$ 倍違う。だから検査の性能を語るときは対象集団を併記する。「精度 $99$ パーセント」だけでは、同じ数が $0.09$ とも $0.99$ とも対応してしまう。正直に言えば、ここで扱ったのは一回の検査だけである。実際には二段階の確認検査が使われ、そこで的中率が大きく上がる。本稿はその設計を論じないが、なぜ確認検査が要るのかは、この計算が説明している。
参考文献
- Bayes, T. (1763). An Essay towards Solving a Problem in the Doctrine of Chances. Philosophical Transactions of the Royal Society.
- Yerushalmy, J. (1947). Statistical Problems in Assessing Methods of Medical Diagnosis. Public Health Reports.
- Gigerenzer, G., & Hoffrage, U. (1995). How to Improve Bayesian Reasoning Without Instruction. Psychological Review.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『暑さの限界は気温ではなく、湿度と組んで決まる』[論文460]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733136
- 山岸勇輝 (2026). 『混みぐあいを一割上げたときの待ち時間は、いまどこにいるかで決まる』[論文469]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733401
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「精度九十九パーセントの検査でも、陽性の九割は外れることがある」[論文470]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733434
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 精度九十九パーセントの検査でも、陽性の九割は外れることがある [論文470]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/470 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733434
Yamagishi, Y. (2026). A Test That Is Ninety-Nine Per Cent Accurate Can Be Wrong Nine Times in Ten [Paper 470]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/470; DOI: 10.5281/zenodo.22733434
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