要旨
鉄筋が錆びると細くなって弱る、と思われている。本稿が示すのは、壊しているのは細くなることではなく、太ることである。$\mathbf{0.001000}$ mm の侵食で、かぶりがひび割れる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、侵食 $0.1$ mm で失われる鉄は $\mathbf{4.995132}$ mm$^2$(単位長さあたり)である(第2節)。
第二に、体積比 $4$ ならそれが $\mathbf{19.980529}$ mm$^2$ の錆になり、$\mathbf{14.985397}$ mm$^2$ 増える(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。かぶり $30$ mm をひび割れさせる侵食は $\mathbf{0.001000}$ mm しかない(第3節)。
第四に、体積比を $1$ にすると、膨張がちょうど $\mathbf{0.000000000000}$ mm になる(第2節)。
第五に、体積比 $2.0$ なら $0.003001$ mm、$6.4$ なら $\mathbf{0.000556}$ mm と、要る侵食が逆に動く(第3節)。
第六に、分離子は「断面が減ることか、体積が増えることか」である(第4節)。
キーワード:鉄筋の腐食、錆の体積膨張、コンクリートのひび割れ、かぶり、ピリング・ベドワース比。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。鉄の腐食生成物の体積膨張、かぶりコンクリートのひび割れはすべて既知である。構造を評価しない。耐力、余寿命、補修の要否は主題ではない。実際の判断は専門の調査による。腐食速度を扱わない。何年で $0.001$ mm 進むかは主題ではない。中性化、塩害、電気化学は扱わない。力学を単純化する。膨張をかぶり厚で割った量をひずみと置いた。実際は三次元の応力場で、円周方向の引張が効く。数値は代表値である。体積比 $2$ から $6.4$、引張破壊ひずみ $100$ マイクロひずみは代表値であり、実測ではない。既刊との関係:論文475 は入れた分子の九割が界面に来ていないことを示した。そこでも、目的の違いで同じ操作の評価が変わった。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「断面の減少」と「体積の膨張」は、その基準で別根である。論文454 は荷重が $3$ 乗で増えても必要幅が $1$ 乗で済むことを示した。そこでも、幾何が答えを決めていた。加えたのは、四つの腐食生成物の体積比を並べたこと、失われた鉄と錆の体積を出したこと、半径方向の膨張を $0.292768$ mm と出したこと、体積比 $1$ で膨張が厳密にゼロになることを確かめたこと、ひび割れに要る侵食を二分法で $0.001000$ mm と出して逆算したこと、分離子を「断面か体積か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:半径 $r$ の鉄筋が厚さ $\delta$ だけ侵食されるとき、単位長さあたり失われる鉄の断面積は
$$V_{\mathrm{lost}}=\pi\bigl(r^{2}-(r-\delta)^{2}\bigr)$$
である。腐食生成物の体積比を $\kappa$ とすると、錆の体積は $\kappa V_{\mathrm{lost}}$ になる。錆が外側に積もるとして、外半径 $R$ は
$$\pi\bigl(R^{2}-(r-\delta)^{2}\bigr)=\kappa V_{\mathrm{lost}}$$
から決まり、半径方向の膨張は $R-r$ である。以下 $r=8$ mm、かぶり $30$ mm、コンクリートの引張破壊ひずみ $100$ マイクロひずみとする。
観察 1.1 鉄筋が錆びると細くなって弱る、と思われている。断面が減れば耐力が減る。自然な理屈である。
観察 1.2 だが錆は消えてなくならない。同じ場所に、もっと大きな体積で残る。周りを押しのける。
問い:どちらが先に効くのか。
2. 錆は 4 倍に太る
計算 2.1:四つの腐食生成物について、鉄に対する体積比を並べる。
| 生成物 | 体積比 |
|---|---|
| $\mathrm{Fe}_{3}\mathrm{O}_{4}$ | $2.0000$ |
| $\mathrm{Fe}_{2}\mathrm{O}_{3}$ | $2.2000$ |
| $\mathrm{Fe(OH)}_{3}$ | $\mathbf{4.0000}$ |
| 含水の水酸化物 | $\mathbf{6.4000}$ |
観察 2.2 どれも $1$ より大きい。$2.0$ から $6.4$ まで、鉄は錆びると必ず太る。
計算 2.3:半径 $8$ mm の鉄筋が $0.1$ mm 侵食されたときの体積を出す(体積比 $4$)。
| 量 | 値 [mm$^2$] |
|---|---|
| 失われた鉄 | $\mathbf{4.995132}$ |
| 生じた錆 | $\mathbf{19.980529}$ |
| 増加分 | $\mathbf{14.985397}$ |
観察 2.4 増加分は、失われた鉄の $3$ 倍である。$\kappa-1=3$、閉じた式と厳密に一致する。
計算 2.5:その体積増加を、半径方向の膨張に直す。
$\mathbf{0.292768}$ mm である。
観察 2.6 侵食した $0.1$ mm より大きい。$2.93$ 倍、細くなるどころか、外側は太っている。
観察 2.7 体積比を $1$ にすると、膨張がちょうど $\mathbf{0.000000000000}$ mm になる。錆が鉄と同じ体積なら、外半径は変わらない。境目であり、式が正しく置かれていることの確認でもある。
3. ひび割れに要る侵食は 0.001000 mm
計算 3.1:膨張をかぶり厚で割った量が $100$ マイクロひずみに達する侵食を、二分法で求める。
$\mathbf{0.001000}$ mm である(逆算してひずみが $1.000000\times10^{-4}$ に戻る)。
観察 3.2 $1$ マイクロメートルである。目に見えない。断面の減少としては $0.025$ パーセントにすぎない。
観察 3.3 その時点で、耐力はほとんど減っていない。$0.025$ パーセントの断面欠損、だがコンクリートは割れている。
計算 3.4:体積比を変えて、ひび割れに要る侵食を出す。
| 体積比 | ひび割れに要る侵食 [mm] |
|---|---|
| $2.0$ | $\mathbf{0.003001}$ |
| $4.0$ | $0.001000$ |
| $6.4$ | $\mathbf{0.000556}$ |
観察 3.5 体積比が大きいほど、要る侵食が少ない。$2.0$ と $6.4$ で $5.40$ 倍、どの生成物ができるかが、寿命を決めている。
観察 3.6 そしてひび割れると、水と酸素が入りやすくなる。腐食が速まり、さらに膨らむ、正の帰還がかかる。
観察 3.7 だから点検で見るべきは、鉄筋の細さではなくコンクリートのひびである。細さは最後まで測れない。ひびは、はるかに早く出る。
4. 分離子
分離子:断面が減ることか、体積が増えることか。
観察 4.1 断面が減ることなら、失われた量に比例して弱る。$0.025$ パーセントなら $0.025$ パーセント、ゆっくり進む。
観察 4.2 体積が増えることなら、押しのける先が壊れる。かぶりの厚さが上限を決める。はるかに早く来る。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「鉄筋の腐食による劣化」と呼ばれる。一方は鉄の量、一方は鉄とかぶりの組の量である。
観察 4.4 論文454 と同じ場所にいる。そこでは荷重と抵抗の両側を見なければ答えが出なかった。ここでは失われた側と増えた側の両方を見なければならない。どちらも、片側だけでは誤る。
観察 4.5 論文475 とも重なる。そこでは同じ操作が、目的によって有効にも無駄にもなった。ここでは同じ腐食が、耐力の話としては軽微で、かぶりの話としては致命的である。
観察 4.6 そしてかぶりを厚くすると、要る侵食が増える。ひずみが膨張をかぶり厚で割った量だから、かぶりは、腐食を防ぐだけでなく、膨張を受け止める余地でもある。
観察 4.7 正直に言えば、力学を単純化した。膨張をかぶり厚で割った量をひずみと置いたが、実際は三次元の応力場で、円周方向の引張が効く。$0.001000$ mm という値はこの近似に依るが、体積比が $1$ を超えるかぎり膨張が起きるという結論は、幾何だけから出ており、近似に依らない。
5. 点呼と結び
- 体積比は $2.0$ から $6.4$(計算 2.1):どれも $1$ より大きい。
- 失われた鉄は $4.995132$ mm$^2$(計算 2.3):侵食 $0.1$ mm で。
- 錆は $19.980529$ mm$^2$(計算 2.3):増加は $14.985397$。
- 増加は失われた鉄の $3$ 倍(観察 2.4):$\kappa-1$ と厳密に一致。
- 半径方向に $0.292768$ mm(計算 2.5):侵食の $2.93$ 倍。
- 体積比 $1$ で厳密にゼロ(観察 2.7):境目の確認。
- ひび割れに $0.001000$ mm(計算 3.1):本稿の芯。
- 断面欠損は $0.025$ %(観察 3.2):耐力はほぼ無傷。
- 体積比で $5.40$ 倍動く(観察 3.5):生成物が寿命を決める。
- 分離子は断面か体積か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
結び:鉄筋が錆びると細くなって弱る、と思われている。断面が減れば耐力が減る、という自然な理屈である。だが錆は消えてなくならない。同じ場所にもっと大きな体積で残り、周りを押しのける。錆は太る。腐食生成物の体積比は $2.0$ から $6.4$ まであり、どれも $1$ より大きい。鉄は錆びると必ず太る。半径 $8$ mm の鉄筋が $0.1$ mm 侵食されると、失われた鉄 $\mathbf{4.995132}$ mm$^2$ が体積比 $4$ で $\mathbf{19.980529}$ mm$^2$ の錆になり、$\mathbf{14.985397}$ mm$^2$ 増える。増加分は失われた鉄の $3$ 倍で、閉じた式 $\kappa-1$ と厳密に一致する。半径方向の膨張は $\mathbf{0.292768}$ mm、侵食した $0.1$ mm の $2.93$ 倍である。細くなるどころか、外側は太っている。体積比を $1$ にすると膨張はちょうど $\mathbf{0.000000000000}$ mm になる。錆が鉄と同じ体積なら外半径は変わらない。境目であり、式の確認でもある。そしてひび割れは、驚くほど早く来る。かぶり $30$ mm をひび割れさせる侵食は $\mathbf{0.001000}$ mm、すなわち $1$ マイクロメートルしかない。逆算してひずみが $1.000000\times10^{-4}$ に戻ることも確かめた。断面の減少としては $0.025$ パーセントにすぎず、その時点で耐力はほとんど減っていない。だがコンクリートは割れている。体積比を変えると、要る侵食は $2.0$ で $\mathbf{0.003001}$ mm、$6.4$ で $\mathbf{0.000556}$ mm と $5.40$ 倍動く。どの生成物ができるかが、寿命を決めている。そしてひび割れると水と酸素が入りやすくなり、腐食が速まってさらに膨らむ。正の帰還がかかる。だから点検で見るべきは鉄筋の細さではなくコンクリートのひびである。細さは最後まで測れず、ひびははるかに早く出る。分けているものは一つ、断面が減ることか、体積が増えることか。断面が減ることなら失われた量に比例して弱り、$0.025$ パーセントなら $0.025$ パーセントで、ゆっくり進む。体積が増えることなら押しのける先が壊れ、かぶりの厚さが上限を決めて、はるかに早く来る。論文300 の基準で別根であり、一方は鉄の量、一方は鉄とかぶりの組の量である。論文454 と同じ場所にいて、そこでは荷重と抵抗の両側を見なければ答えが出なかった。どちらも、片側だけでは誤る。論文475 とも重なり、そこでは同じ操作が目的によって有効にも無駄にもなった。ここでは同じ腐食が、耐力の話としては軽微で、かぶりの話としては致命的である。そしてかぶりを厚くすると要る侵食が増える。ひずみが膨張をかぶり厚で割った量だからで、かぶりは腐食を防ぐだけでなく、膨張を受け止める余地でもある。正直に言えば、力学を単純化した。膨張をかぶり厚で割った量をひずみと置いたが、実際は三次元の応力場で円周方向の引張が効く。$0.001000$ mm という値はこの近似に依るが、体積比が $1$ を超えるかぎり膨張が起きるという結論は幾何だけから出ており、近似に依らない。
参考文献
- Pilling, N. B., & Bedworth, R. E. (1923). The Oxidation of Metals at High Temperatures. Journal of the Institute of Metals.
- Tuutti, K. (1982). Corrosion of Steel in Concrete. Swedish Cement and Concrete Research Institute.
- Broomfield, J. P. (2007). Corrosion of Steel in Concrete (2nd ed.). Taylor & Francis.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『水圧は二乗で増えるのに、堤体の幅は比例でよい』[論文454]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22732989
- 山岸勇輝 (2026). 『入れた分子の九割が、界面には来ていない』[論文475]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733613
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「壊しているのは失われた鉄ではなく、置き換わって太った錆である」[論文476]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733641
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 壊しているのは失われた鉄ではなく、置き換わって太った錆である [論文476]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/476 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733641
Yamagishi, Y. (2026). What Breaks It Is Not the Iron Lost but the Rust That Takes Its Place [Paper 476]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/476; DOI: 10.5281/zenodo.22733641
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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