【論文509】「到達不能」は体系に四つあり、そのうち二つは同じ人の同じ分野にある

要旨

絶対零度に届かないのは、そういう禁止があるからだと思われている。本稿が示すのは、それがエントロピー差の消え方から出る帰結であることである。消えない模型に取り替えると、$\mathbf{1}$ 段で届く。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、断熱消磁を繰り返すと、温度は一段ごとに $\mathbf{0.010000}$ 倍になる(第2節)。

第二に、比が六段とも同じで、$0.010000$ から動かない。等比だから、有限段では $0$ に届かない(第2節)。

第三に、要る段数は目標温度の対数に比例する。$10^{-3}$ に $1.50$ 段、$10^{-9}$ にその $3$ 倍の $\mathbf{4.50}$ 段(第2節)。

第四に、これが本稿の芯である。第三法則を破る模型では、$\mathbf{1}$ 段目で $0$ に届く(第3節)。

第五に、同じ「到達不能」という語が、体系ではすでに三つの別の意味で使われている(第4節)。

第六に、分離子は「禁止か、極限の速さか」である(第4節)。

キーワード:到達不能、熱力学第三法則、ネルンストの熱定理、絶対零度、語の多義。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。ネルンストの熱定理も、絶対零度の到達不能性も、両者の関係も標準的である。熱力学を基礎づけない。第三法則がどの公理から出るか、量子統計との関係は主題ではない。模型は実在の物質ではない。$S=(T/(T+b))^{\alpha}$ は、エントロピーが $T\to0$ でどう振る舞うかだけを持たせた模型である。実在の常磁性塩の値ではない。有限時間を扱わない。一段にかかる時間や、実験の限界は主題ではない。段数だけを数える。語の四つ目を主張しない。既刊の三つは実際に読んで確かめたが、他に無いことは示していない。既刊との関係:論文126 は積分因子の存在が温度を与えないと示し、カラテオドリの断熱的到達不能性を扱った。そこの「到達不能」と、本稿の「到達不能」は別根である。論文403 は温度の大小の順が熱さの順ではないと示した。どちらも、温度という語の下に別の量が隠れている場合である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。同じ四文字が、少なくとも四つの別根を持つ。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、一段ごとの比を $0.010000$ と測ったこと、段数が対数に比例することを $1.50$ と $4.50$ で確かめたこと、第三法則を破ると $1$ 段で届くことを示したこと、既刊の「到達不能」三件を読んで別根だと確かめたこと、分離子を禁止と極限の速さに置いたことである。

1. 記法と問い

設定:磁場 $b$ のもとでのエントロピーを $S(T,b)$ と書く。断熱消磁は二段でできている。等温のまま磁場を上げてエントロピーを下げ、次に断熱のまま磁場を抜く。後半は $S$ が一定なので、温度が下がる。模型として

$$S(T,b)=\left(\frac{T}{T+b}\right)^{\alpha}$$

を取る。これは $T\to0$ で $S\to0$ となり、どの $b$ でも同じ値に集まる。以下 $\alpha=3.0$、$b$ を $10.0$ と $0.1$ の間で往復させ、$T=1$ から始める。

観察 1.1 絶対零度に届かないのは、そういう禁止があるからだと思われている。第三法則が禁じている。壁がある、という像である。

観察 1.2 だが壁があるなら、近づくにつれて手応えが変わるはずである。一段の効きが落ちる。実際にはどうなるのかを測る。

問い:何段で、どこまで下がるのか。

2. 一段ごとに、同じ比で下がる

計算 2.1:断熱消磁を六段繰り返す。

段 温度 前段との比
$1$ $1.000000000\times10^{-2}$ $0.010000$
$2$ $1.000000000\times10^{-4}$ $0.010000$
$4$ $1.000000000\times10^{-8}$ $0.010000$
$6$ $\mathbf{1.000000000\times10^{-12}}$ $\mathbf{0.010000}$

観察 2.2 比が六段とも同じである。$0.010000$ から $0.010000$、近づいても手応えが変わらない。

観察 2.3 等比で下がるなら、有限段では $0$ に届かない。どの段でも正、壁に当たるのではなく、いつまでも半分ずつ進む形である。

観察 2.4 要る段数は目標の対数に比例する。$10^{-3}$ に $1.50$ 段、$10^{-9}$ に $4.50$ 段、ちょうど $3$ 倍で、桁を下げるごとに同じだけ要る。

観察 2.5 $10^{-18}$ にはその $2$ 倍の $9.00$ 段が要る。$9.00$ 対 $9.00$、独立に計算した値と一致し、対数の比例が保たれている。

観察 2.6 つまり「あと何段か」は、いつでも答えられる。有限、どの温度にも有限段で届く。届かないのは $0$ だけである。

3. 第三法則を破ると、一段で届く

計算 3.1:$T\to0$ でエントロピー差が残る模型に取り替える。

$$S_{\text{破}}(T,b)=\left(\frac{T}{T+b}\right)^{\alpha}+\frac{0.3}{1+b}$$

第二項が $b$ に依るので、$T=0$ でも二つの曲線が重ならない。

模型 六段後の温度
第三法則を満たす $1.000000\times10^{-12}$
第三法則を破る $\mathbf{0}$($\mathbf{1}$ 段目で)

観察 3.2 破る側は一段で $0$ に届く。$1$ 段目、六段かけても届かない側と、劇的に違う。

観察 3.3 違いは第二項だけである。$0.3/(1+b)$、$T$ を含まないので、$T\to0$ でも消えない。

観察 3.4 だから到達不能は、禁止ではなく帰結である。エントロピー差が $T\to0$ で消えること、ネルンストの熱定理がそれで、到達不能はそこから出る。

観察 3.5 二つは同じ第三法則の二つの言い方だと言われる。ネルンストの形と、到達不能の形、本稿の計算では、前者が後者を含んでいる。

4. 分離子

分離子:到達できないのが禁止によるのか、近づく速さによるのか。

観察 4.1 禁止なら、壁がある。近づくと手応えが変わる。だが比は $0.010000$ のまま変わらなかった。

観察 4.2 近づく速さなら、等比である。いつまでも同じ割合で近づく。実測がこちらである。

観察 4.3 そして体系では、同じ語がすでに三つの意味で使われている。論文12 では光速という速度の上限、論文82 ではポアンカレ回帰の閾値、論文126 ではカラテオドリの断熱的到達不能性、本稿の絶対零度を入れて四つ目である。

観察 4.4 四つは論文300 の基準で別根である。どれも「到達不能」、速度の上限、確率的な待ち時間、断熱過程の到達範囲、温度の下限。禁じている物が全部違う。

観察 4.5 とくに論文126 のものとは、同じ熱力学の中で隣り合っている。カラテオドリの到達不能性は、平衡状態の空間で「断熱では行けない点がある」。本稿のは「その空間の端に有限段では届かない」であり、前者は幾何、後者は極限である。

観察 4.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「到達不能だと言われている」という主張が問われたとき、どの到達不能かを書かないと、行き先が四つある。

観察 4.7 正直に言えば、模型は実在の物質ではない。$S=(T/(T+b))^{\alpha}$ は、$T\to0$ でエントロピーが揃うという性質だけを持たせた。実在の常磁性塩では比も段数も違う。示したのは、性質を外すと届いてしまうという向きであって、実験の数ではない。

5. 点呼と結び

  1. 一段ごとに $0.010000$ 倍(計算 2.1):六段とも同じ。
  2. 近づいても手応えが変わらない(観察 2.2):壁ではない。
  3. $10^{-9}$ に $4.50$ 段(観察 2.4):$10^{-3}$ の $3$ 倍。
  4. $10^{-18}$ に $9.00$ 段(観察 2.5):対数に比例。
  5. 破る模型は $1$ 段で $0$(計算 3.1):本稿の芯。
  6. 違いは $T$ を含まない項だけ(観察 3.3):$T\to0$ で消えない。
  7. 到達不能は帰結である(観察 3.4):ネルンストから出る。
  8. 同じ語が体系に三つある(観察 4.3):本稿で四つ目。
  9. 分離子は禁止か速さか(観察 4.4):論文300 の基準で別根。
  10. 模型は実在の物質ではない(観察 4.7):示したのは向き。

結び:絶対零度に届かないのは、そういう禁止があるからだと思われている。第三法則が禁じている、壁があるという像である。だが壁があるなら、近づくにつれて手応えが変わるはずで、一段の効きが落ちるはずである。一段ごとに、同じ比で下がる。断熱消磁を六段繰り返すと、温度は $10^{-2}$、$10^{-4}$、$10^{-8}$、$\mathbf{10^{-12}}$ と下がり、各段の比は六段とも $\mathbf{0.010000}$ である。近づいても手応えが変わらない。等比で下がるならどの段でも正で、壁に当たるのではなく、いつまでも同じ割合ずつ進む形である。要る段数は目標の対数に比例し、$10^{-3}$ に $1.50$ 段、$10^{-9}$ にちょうど $3$ 倍の $\mathbf{4.50}$ 段、$10^{-18}$ にその $2$ 倍の $9.00$ 段である。つまり「あと何段か」はいつでも答えられ、どの温度にも有限段で届く。届かないのは $0$ だけである。第三法則を破ると、一段で届く。$T\to0$ でエントロピー差が残る模型、すなわち $b$ に依る項 $0.3/(1+b)$ を足した模型に取り替えると、$\mathbf{1}$ 段目で $0$ に届く。六段かけても届かない側と、劇的に違う。違いはその第二項だけで、$T$ を含まないので $T\to0$ でも消えない。だから到達不能は禁止ではなく帰結である。エントロピー差が $T\to0$ で消えること、すなわちネルンストの熱定理から出る。二つは同じ第三法則の二つの言い方だと言われるが、本稿の計算では前者が後者を含んでいる。分けているものは一つ、到達できないのが禁止によるのか、近づく速さによるのか。禁止なら壁があり、近づくと手応えが変わるはずだが、比は $0.010000$ のまま変わらなかった。近づく速さなら等比で、いつまでも同じ割合で近づく。実測がこちらである。そして体系では、同じ語がすでに三つの意味で使われている。論文12 では光速という速度の上限、論文82 ではポアンカレ回帰の閾値、論文126 ではカラテオドリの断熱的到達不能性。本稿の絶対零度を入れて四つ目である。四つは論文300 の基準で別根であり、速度の上限、確率的な待ち時間、断熱過程の到達範囲、温度の下限と、禁じている物が全部違う。とくに論文126 のものとは同じ熱力学の中で隣り合っており、あちらは平衡状態の空間で「断熱では行けない点がある」という幾何、こちらは「その空間の端に有限段では届かない」という極限である。これは論文481 でいう分離子の一本で、「到達不能だと言われている」という主張が問われたとき、どの到達不能かを書かないと行き先が四つある。正直に言えば、模型は実在の物質ではない。$S=(T/(T+b))^{\alpha}$ は $T\to0$ でエントロピーが揃うという性質だけを持たせたもので、実在の常磁性塩では比も段数も違う。示したのは、その性質を外すと届いてしまうという向きであって、実験の数ではない。

参考文献

  1. Masanes, L., & Oppenheim, J. (2017). A General Derivation and Quantification of the Third Law of Thermodynamics. Nature Communications, 8, 14538.
  2. Nernst, W. (1906). Über die Berechnung chemischer Gleichgewichte aus thermischen Messungen. Nachrichten von der Gesellschaft der Wissenschaften zu Göttingen.
  3. Nernst, W. (1912). Thermodynamik und spezifische Wärme. Sitzungsberichte der Preussischen Akademie der Wissenschaften.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『境界エネルギーから体積エネルギーへ』[論文12]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21404703
  5. 山岸勇輝 (2026). 『練行足としての時間』[論文82]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21735260
  6. 山岸勇輝 (2026). 『積分因子の存在は、温度を与えない』[論文126]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22079437
  7. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  8. 山岸勇輝 (2026). 『温度の大小の順は、熱さの順ではない』[論文403]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699405
  9. 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「到達不能」は体系に四つあり、そのうち二つは同じ人の同じ分野にある」[論文509]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22861975

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「到達不能」は体系に四つあり、そのうち二つは同じ人の同じ分野にある [論文509]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/509 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22861975

Yamagishi, Y. (2026). “Unattainable” Has Four Senses in This Corpus, and Two of Them Sit in One Field [Paper 509]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/509; DOI: 10.5281/zenodo.22861975

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