要旨
絶対零度に届かないのは、そういう禁止があるからだと思われている。本稿が示すのは、それがエントロピー差の消え方から出る帰結であることである。消えない模型に取り替えると、$\mathbf{1}$ 段で届く。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、断熱消磁を繰り返すと、温度は一段ごとに $\mathbf{0.010000}$ 倍になる(第2節)。
第二に、比が六段とも同じで、$0.010000$ から動かない。等比だから、有限段では $0$ に届かない(第2節)。
第三に、要る段数は目標温度の対数に比例する。$10^{-3}$ に $1.50$ 段、$10^{-9}$ にその $3$ 倍の $\mathbf{4.50}$ 段(第2節)。
第四に、これが本稿の芯である。第三法則を破る模型では、$\mathbf{1}$ 段目で $0$ に届く(第3節)。
第五に、同じ「到達不能」という語が、体系ではすでに三つの別の意味で使われている(第4節)。
第六に、分離子は「禁止か、極限の速さか」である(第4節)。
キーワード:到達不能、熱力学第三法則、ネルンストの熱定理、絶対零度、語の多義。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ネルンストの熱定理も、絶対零度の到達不能性も、両者の関係も標準的である。熱力学を基礎づけない。第三法則がどの公理から出るか、量子統計との関係は主題ではない。模型は実在の物質ではない。$S=(T/(T+b))^{\alpha}$ は、エントロピーが $T\to0$ でどう振る舞うかだけを持たせた模型である。実在の常磁性塩の値ではない。有限時間を扱わない。一段にかかる時間や、実験の限界は主題ではない。段数だけを数える。語の四つ目を主張しない。既刊の三つは実際に読んで確かめたが、他に無いことは示していない。既刊との関係:論文126 は積分因子の存在が温度を与えないと示し、カラテオドリの断熱的到達不能性を扱った。そこの「到達不能」と、本稿の「到達不能」は別根である。論文403 は温度の大小の順が熱さの順ではないと示した。どちらも、温度という語の下に別の量が隠れている場合である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。同じ四文字が、少なくとも四つの別根を持つ。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、一段ごとの比を $0.010000$ と測ったこと、段数が対数に比例することを $1.50$ と $4.50$ で確かめたこと、第三法則を破ると $1$ 段で届くことを示したこと、既刊の「到達不能」三件を読んで別根だと確かめたこと、分離子を禁止と極限の速さに置いたことである。
1. 記法と問い
設定:磁場 $b$ のもとでのエントロピーを $S(T,b)$ と書く。断熱消磁は二段でできている。等温のまま磁場を上げてエントロピーを下げ、次に断熱のまま磁場を抜く。後半は $S$ が一定なので、温度が下がる。模型として
$$S(T,b)=\left(\frac{T}{T+b}\right)^{\alpha}$$
を取る。これは $T\to0$ で $S\to0$ となり、どの $b$ でも同じ値に集まる。以下 $\alpha=3.0$、$b$ を $10.0$ と $0.1$ の間で往復させ、$T=1$ から始める。
観察 1.1 絶対零度に届かないのは、そういう禁止があるからだと思われている。第三法則が禁じている。壁がある、という像である。
観察 1.2 だが壁があるなら、近づくにつれて手応えが変わるはずである。一段の効きが落ちる。実際にはどうなるのかを測る。
問い:何段で、どこまで下がるのか。
2. 一段ごとに、同じ比で下がる
計算 2.1:断熱消磁を六段繰り返す。
| 段 | 温度 | 前段との比 |
|---|---|---|
| $1$ | $1.000000000\times10^{-2}$ | $0.010000$ |
| $2$ | $1.000000000\times10^{-4}$ | $0.010000$ |
| $4$ | $1.000000000\times10^{-8}$ | $0.010000$ |
| $6$ | $\mathbf{1.000000000\times10^{-12}}$ | $\mathbf{0.010000}$ |
観察 2.2 比が六段とも同じである。$0.010000$ から $0.010000$、近づいても手応えが変わらない。
観察 2.3 等比で下がるなら、有限段では $0$ に届かない。どの段でも正、壁に当たるのではなく、いつまでも半分ずつ進む形である。
観察 2.4 要る段数は目標の対数に比例する。$10^{-3}$ に $1.50$ 段、$10^{-9}$ に $4.50$ 段、ちょうど $3$ 倍で、桁を下げるごとに同じだけ要る。
観察 2.5 $10^{-18}$ にはその $2$ 倍の $9.00$ 段が要る。$9.00$ 対 $9.00$、独立に計算した値と一致し、対数の比例が保たれている。
観察 2.6 つまり「あと何段か」は、いつでも答えられる。有限、どの温度にも有限段で届く。届かないのは $0$ だけである。
3. 第三法則を破ると、一段で届く
計算 3.1:$T\to0$ でエントロピー差が残る模型に取り替える。
$$S_{\text{破}}(T,b)=\left(\frac{T}{T+b}\right)^{\alpha}+\frac{0.3}{1+b}$$
第二項が $b$ に依るので、$T=0$ でも二つの曲線が重ならない。
| 模型 | 六段後の温度 |
|---|---|
| 第三法則を満たす | $1.000000\times10^{-12}$ |
| 第三法則を破る | $\mathbf{0}$($\mathbf{1}$ 段目で) |
観察 3.2 破る側は一段で $0$ に届く。$1$ 段目、六段かけても届かない側と、劇的に違う。
観察 3.3 違いは第二項だけである。$0.3/(1+b)$、$T$ を含まないので、$T\to0$ でも消えない。
観察 3.4 だから到達不能は、禁止ではなく帰結である。エントロピー差が $T\to0$ で消えること、ネルンストの熱定理がそれで、到達不能はそこから出る。
観察 3.5 二つは同じ第三法則の二つの言い方だと言われる。ネルンストの形と、到達不能の形、本稿の計算では、前者が後者を含んでいる。
4. 分離子
分離子:到達できないのが禁止によるのか、近づく速さによるのか。
観察 4.1 禁止なら、壁がある。近づくと手応えが変わる。だが比は $0.010000$ のまま変わらなかった。
観察 4.2 近づく速さなら、等比である。いつまでも同じ割合で近づく。実測がこちらである。
観察 4.3 そして体系では、同じ語がすでに三つの意味で使われている。論文12 では光速という速度の上限、論文82 ではポアンカレ回帰の閾値、論文126 ではカラテオドリの断熱的到達不能性、本稿の絶対零度を入れて四つ目である。
観察 4.4 四つは論文300 の基準で別根である。どれも「到達不能」、速度の上限、確率的な待ち時間、断熱過程の到達範囲、温度の下限。禁じている物が全部違う。
観察 4.5 とくに論文126 のものとは、同じ熱力学の中で隣り合っている。カラテオドリの到達不能性は、平衡状態の空間で「断熱では行けない点がある」。本稿のは「その空間の端に有限段では届かない」であり、前者は幾何、後者は極限である。
観察 4.6 これは論文481 でいう分離子の一本である。「到達不能だと言われている」という主張が問われたとき、どの到達不能かを書かないと、行き先が四つある。
観察 4.7 正直に言えば、模型は実在の物質ではない。$S=(T/(T+b))^{\alpha}$ は、$T\to0$ でエントロピーが揃うという性質だけを持たせた。実在の常磁性塩では比も段数も違う。示したのは、性質を外すと届いてしまうという向きであって、実験の数ではない。
5. 点呼と結び
- 一段ごとに $0.010000$ 倍(計算 2.1):六段とも同じ。
- 近づいても手応えが変わらない(観察 2.2):壁ではない。
- $10^{-9}$ に $4.50$ 段(観察 2.4):$10^{-3}$ の $3$ 倍。
- $10^{-18}$ に $9.00$ 段(観察 2.5):対数に比例。
- 破る模型は $1$ 段で $0$(計算 3.1):本稿の芯。
- 違いは $T$ を含まない項だけ(観察 3.3):$T\to0$ で消えない。
- 到達不能は帰結である(観察 3.4):ネルンストから出る。
- 同じ語が体系に三つある(観察 4.3):本稿で四つ目。
- 分離子は禁止か速さか(観察 4.4):論文300 の基準で別根。
- 模型は実在の物質ではない(観察 4.7):示したのは向き。
結び:絶対零度に届かないのは、そういう禁止があるからだと思われている。第三法則が禁じている、壁があるという像である。だが壁があるなら、近づくにつれて手応えが変わるはずで、一段の効きが落ちるはずである。一段ごとに、同じ比で下がる。断熱消磁を六段繰り返すと、温度は $10^{-2}$、$10^{-4}$、$10^{-8}$、$\mathbf{10^{-12}}$ と下がり、各段の比は六段とも $\mathbf{0.010000}$ である。近づいても手応えが変わらない。等比で下がるならどの段でも正で、壁に当たるのではなく、いつまでも同じ割合ずつ進む形である。要る段数は目標の対数に比例し、$10^{-3}$ に $1.50$ 段、$10^{-9}$ にちょうど $3$ 倍の $\mathbf{4.50}$ 段、$10^{-18}$ にその $2$ 倍の $9.00$ 段である。つまり「あと何段か」はいつでも答えられ、どの温度にも有限段で届く。届かないのは $0$ だけである。第三法則を破ると、一段で届く。$T\to0$ でエントロピー差が残る模型、すなわち $b$ に依る項 $0.3/(1+b)$ を足した模型に取り替えると、$\mathbf{1}$ 段目で $0$ に届く。六段かけても届かない側と、劇的に違う。違いはその第二項だけで、$T$ を含まないので $T\to0$ でも消えない。だから到達不能は禁止ではなく帰結である。エントロピー差が $T\to0$ で消えること、すなわちネルンストの熱定理から出る。二つは同じ第三法則の二つの言い方だと言われるが、本稿の計算では前者が後者を含んでいる。分けているものは一つ、到達できないのが禁止によるのか、近づく速さによるのか。禁止なら壁があり、近づくと手応えが変わるはずだが、比は $0.010000$ のまま変わらなかった。近づく速さなら等比で、いつまでも同じ割合で近づく。実測がこちらである。そして体系では、同じ語がすでに三つの意味で使われている。論文12 では光速という速度の上限、論文82 ではポアンカレ回帰の閾値、論文126 ではカラテオドリの断熱的到達不能性。本稿の絶対零度を入れて四つ目である。四つは論文300 の基準で別根であり、速度の上限、確率的な待ち時間、断熱過程の到達範囲、温度の下限と、禁じている物が全部違う。とくに論文126 のものとは同じ熱力学の中で隣り合っており、あちらは平衡状態の空間で「断熱では行けない点がある」という幾何、こちらは「その空間の端に有限段では届かない」という極限である。これは論文481 でいう分離子の一本で、「到達不能だと言われている」という主張が問われたとき、どの到達不能かを書かないと行き先が四つある。正直に言えば、模型は実在の物質ではない。$S=(T/(T+b))^{\alpha}$ は $T\to0$ でエントロピーが揃うという性質だけを持たせたもので、実在の常磁性塩では比も段数も違う。示したのは、その性質を外すと届いてしまうという向きであって、実験の数ではない。
参考文献
- Masanes, L., & Oppenheim, J. (2017). A General Derivation and Quantification of the Third Law of Thermodynamics. Nature Communications, 8, 14538.
- Nernst, W. (1906). Über die Berechnung chemischer Gleichgewichte aus thermischen Messungen. Nachrichten von der Gesellschaft der Wissenschaften zu Göttingen.
- Nernst, W. (1912). Thermodynamik und spezifische Wärme. Sitzungsberichte der Preussischen Akademie der Wissenschaften.
- 山岸勇輝 (2026). 『境界エネルギーから体積エネルギーへ』[論文12]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21404703
- 山岸勇輝 (2026). 『練行足としての時間』[論文82]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21735260
- 山岸勇輝 (2026). 『積分因子の存在は、温度を与えない』[論文126]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22079437
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『温度の大小の順は、熱さの順ではない』[論文403]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699405
- 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「到達不能」は体系に四つあり、そのうち二つは同じ人の同じ分野にある」[論文509]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22861975
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「到達不能」は体系に四つあり、そのうち二つは同じ人の同じ分野にある [論文509]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/509 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22861975
Yamagishi, Y. (2026). “Unattainable” Has Four Senses in This Corpus, and Two of Them Sit in One Field [Paper 509]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/509; DOI: 10.5281/zenodo.22861975
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