【論文511】閾値と最終規模は、同じ R_0 から出るのに、比が一定にならない

要旨

閾値と最終規模は、どちらも $R_{0}$ で決まるのだから同じことを言っていると思われがちである。本稿が示すのは、二つの比が $R_{0}$ で変わることである。$\mathbf{1.7484}$ から $\mathbf{1.2413}$ まで動く。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、$R_{0}=2$ の閾値は $\mathbf{0.500000}$、最終規模は $\mathbf{0.796812}$ である(第2節)。

第二に、最終規模から逆算すると $R_{0}$ に戻る。$2.000000000$ 対 $2.0$(第2節)。

第三に、$R_{0}=1$ でも $R_{0}=0.9$ でも最終規模は $\mathbf{0}$ である。境目の両側で確かめた(第2節)。

第四に、これが本稿の芯である。二つの比は $R_{0}=1.5$ で $\mathbf{1.7484}$、$R_{0}=5$ で $\mathbf{1.2413}$ と変わる(第3節)。

第五に、$R_{0}$ が大きいほど比が $1$ に寄る。どちらも $1$ へ近づくが、速さが違う(第3節)。

第六に、分離子は「線形化から出たか、非線形の方程式から出たか」である(第4節)。

キーワード:基本再生産数 R0、閾値定理、最終規模方程式、SIR 模型、感染症の数理。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。閾値定理も最終規模の方程式も標準的である。疫学の助言をしない。接種の方針、実際の $R_{0}$ の推定、介入の効果は主題ではない。二つの量の関係だけを見る。模型を一つに固定する。一様に混ざる閉じた集団の SIR 模型だけを扱う。年齢構造、空間、時間変化する接触率は入れない。歴史の優先権を判定しない。閾値の考えが誰にいつ帰属するかは扱わない。有効率を扱わない。論文401 が扱ったワクチンの有効率は入れず、免疫すべき割合そのものを見る。既刊との関係:論文401 は全員に免疫は要らないが、有効率が足りないと全員に打っても届かないと示した。そこで使われた閾値と、本稿の最終規模は別の量である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。同じ $R_{0}$ から出る二つの量が、別根でありうる。論文486 は三つの分野の最適点が同じ頂点だと示した。あちらは別々に見えて同根、こちらは同じに見えて別根である。論文481 は分離子が無いと反証の行き先が決まらないと示した。本稿はその分離子を一本書く。加えたのは、$R_{0}$ ごとに二つを同じ表に置いたこと、最終規模を $0.796812$ と解き逆算で確かめたこと、境目の両側を $R_{0}=1$ と $0.9$ で確かめたこと、比が $1.7484$ から $1.2413$ へ動くことを出したこと、分離子を線形化と非線形に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:一様に混ざる閉じた集団で、基本再生産数を $R_{0}$ と書く。流行が起きない条件から、免疫すべき割合は

$$p_{c}=1-\frac{1}{R_{0}}$$

である。一方、流行が終わったときに感染を経た割合 $z$ は

$$z=1-e^{-R_{0}z}$$

の正の解である。前者は感染者が少ないときの線形化から、後者は流行の全体を通した収支から出る。以下、$R_{0}$ を動かして二つを並べる。

観察 1.1 閾値と最終規模は、どちらも $R_{0}$ で決まる。同じ一つの数から出る。だから同じことを言っている、という像である。

観察 1.2 だが式の形が違う。$1-1/R_{0}$ と $z=1-e^{-R_{0}z}$、片方は閉じた式、片方は自分自身を含む方程式である。

問い:二つはどれだけ離れ、その離れ方は一定か。

2. 二つを並べる

計算 2.1:$R_{0}$ ごとに閾値と最終規模を出す。

$R_{0}$ 閾値 $1-1/R_{0}$ 最終規模 $z$
$0.9$ $0.000000$ $\mathbf{0.000000}$
$1.0$ $0.000000$ $\mathbf{0.000000}$
$1.5$ $0.333333$ $0.582812$
$2.0$ $\mathbf{0.500000}$ $\mathbf{0.796812}$
$3.0$ $0.666667$ $0.940480$

観察 2.2 $R_{0}=2$ の最終規模が既知の値に合う。$0.796812$、よく引かれる約 $80$ パーセントと一致する。

観察 2.3 逆算すると $R_{0}$ に戻る。$-\ln(1-z)/z=2.000000000$ 対 $2.0$、独立な確認である。

観察 2.4 $R_{0}=1$ で最終規模がゼロになる。境目、閾値もゼロで、二つがそこで一致する。

観察 2.5 $R_{0}=0.9$ でもゼロである。境目の反対側、閾値の式は負を返すので $0$ で切っており、最終規模はもともと正の解を持たない。

観察 2.6 閾値より最終規模のほうが大きい。$0.796812 > 0.500000$、流行が止まるのは、閾値を超えた「あと」だからである。

3. 比が一定にならない

計算 3.1:最終規模を閾値で割る。

$R_{0}$ 最終規模/閾値
$1.5$ $\mathbf{1.7484}$
$2.0$ $1.5936$
$3.0$ $1.4107$
$5.0$ $\mathbf{1.2413}$

観察 3.2 比が $R_{0}$ で変わる。$1.7484$ から $1.2413$、もし二つが同じ量の別表現なら、比は一定になるはずである。

観察 3.3 $R_{0}$ が大きいほど比が $1$ に寄る。$1.2413$、どちらも $1$ へ近づくが、閾値のほうが遅い。

観察 3.4 だから「閾値を知れば最終規模も分かる」は、比例では書けない。$R_{0}$ を経由する必要がある。二つの間に、$R_{0}$ に依らない関係は無い。

観察 3.5 差は「オーバーシュート」と呼ばれる。$R_{0}=2$ で $0.796812-0.500000=0.296812$、閾値に達した時点で流行が止まらず、行き過ぎる分である。

4. 分離子

分離子:線形化から出たか、非線形の方程式から出たか。

観察 4.1 線形化から出たなら、閉じた式で書ける。$1-1/R_{0}$、感染者が少ない時点だけを見ており、その後の経過を含まない。

観察 4.2 非線形の方程式から出たなら、自分自身を含む。$z=1-e^{-R_{0}z}$、流行の全体を通した収支であり、数値でしか解けない。

観察 4.3 二つは論文300 の基準で別根である。どちらも $R_{0}$ から出る。一方は流行が始まるかどうかの条件、一方は始まったあとの結果で、問うている時点が違う。

観察 4.4 比が動くことが、その証拠になっている。$1.7484$ から $1.2413$、同根なら、$R_{0}$ に依らない換算があるはずである。

観察 4.5 論文401 は閾値の側だけを使った。全員に免疫は要らない。そこで効いていたのは $1-1/R_{0}$ であって、最終規模ではない。

観察 4.6 論文486 とは向きが逆である。あちらは別々に見えて同根、こちらは同じに見えて別根である。同じ判定が、両向きに使える。

観察 4.7 正直に言えば、模型は一様に混ざる閉じた集団である。年齢構造も空間も接触率の変化も入れていない。実際の流行では最終規模はこれより小さくなることが多く、$0.796812$ は上限に近い値である。示したのは二つの量の関係であって、予測ではない。

5. 点呼と結び

  1. $R_{0}=2$ で閾値 $0.500000$(計算 2.1):最終規模 $0.796812$。
  2. 既知の約 $80$ パーセントと一致(観察 2.2):独立な確認。
  3. 逆算で $2.000000000$(観察 2.3):$R_{0}$ に戻る。
  4. $R_{0}=1$ でも $0.9$ でもゼロ(観察 2.5):境目の両側。
  5. 比が $1.7484$ から $1.2413$(計算 3.1):本稿の芯。
  6. $R_{0}$ が大きいほど $1$ に寄る(観察 3.3):閾値のほうが遅い。
  7. 差は $0.296812$(観察 3.5):行き過ぎる分。
  8. 分離子は線形化か非線形か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
  9. 論文486 とは向きが逆(観察 4.6):同じ判定が両向きに使える。
  10. 一様に混ざる模型である(観察 4.7):予測ではない。

結び:閾値と最終規模は、どちらも $R_{0}$ で決まる。同じ一つの数から出るのだから同じことを言っている、という像である。だが式の形が違う。$1-1/R_{0}$ と $z=1-e^{-R_{0}z}$ で、片方は閉じた式、片方は自分自身を含む方程式である。二つを並べる。$R_{0}=2$ で閾値は $\mathbf{0.500000}$、最終規模は $\mathbf{0.796812}$ で、よく引かれる約 $80$ パーセントと一致する。最終規模から $-\ln(1-z)/z$ を計算すると $2.000000000$ となり、$R_{0}$ に戻る。$R_{0}=1$ では最終規模も閾値もゼロで、そこで二つが一致する。$R_{0}=0.9$ でもゼロで、閾値の式は負を返すので $0$ で切っており、最終規模はもともと正の解を持たない。そして閾値より最終規模のほうが大きい。流行が止まるのは、閾値を超えた「あと」だからである。比が一定にならない。最終規模を閾値で割ると、$R_{0}=1.5$ で $\mathbf{1.7484}$、$2.0$ で $1.5936$、$3.0$ で $1.4107$、$5.0$ で $\mathbf{1.2413}$ となる。もし二つが同じ量の別表現なら、比は一定になるはずである。$R_{0}$ が大きいほど比は $1$ に寄るが、どちらも $1$ へ近づくなかで閾値のほうが遅い。だから「閾値を知れば最終規模も分かる」は比例では書けず、$R_{0}$ を経由する必要がある。二つの間に $R_{0}$ に依らない関係は無い。差は $R_{0}=2$ で $0.796812-0.500000=0.296812$、閾値に達した時点で流行が止まらず行き過ぎる分である。分けているものは一つ、線形化から出たか、非線形の方程式から出たか。線形化から出たなら閉じた式で書け、$1-1/R_{0}$ は感染者が少ない時点だけを見ていて、その後の経過を含まない。非線形の方程式から出たなら自分自身を含み、$z=1-e^{-R_{0}z}$ は流行の全体を通した収支で、数値でしか解けない。二つは論文300 の基準で別根であり、どちらも $R_{0}$ から出るが、一方は流行が始まるかどうかの条件、一方は始まったあとの結果で、問うている時点が違う。比が $1.7484$ から $1.2413$ へ動くことが、その証拠になっている。同根なら、$R_{0}$ に依らない換算があるはずである。論文401 は閾値の側だけを使い、そこで効いていたのは $1-1/R_{0}$ であって最終規模ではない。論文486 とは向きが逆で、あちらは別々に見えて同根、こちらは同じに見えて別根である。同じ判定が両向きに使える。正直に言えば、模型は一様に混ざる閉じた集団である。年齢構造も空間も接触率の変化も入れておらず、実際の流行では最終規模はこれより小さくなることが多い。$0.796812$ は上限に近い値であり、示したのは二つの量の関係であって予測ではない。

参考文献

  1. Diekmann, O., Heesterbeek, H., & Britton, T. (2013). Mathematical Tools for Understanding Infectious Disease Dynamics. Princeton University Press.
  2. Kermack, W. O., & McKendrick, A. G. (1927). A Contribution to the Mathematical Theory of Epidemics. Proceedings of the Royal Society A.
  3. Ross, R. (1911). The Prevention of Malaria (2nd ed.). John Murray.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『全員に免疫は要らない。ただし有効率が足りないと、全員に打っても届かない』[論文401]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699375
  6. 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
  7. 山岸勇輝 (2026). 『三つの分野に出る「ちょうど半分」は、物理ではなく二次関数の頂点である』[論文486]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22759952

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「閾値と最終規模は、同じ R_0 から出るのに、比が一定にならない」[論文511]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22862074

YOI 511第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/511・DOI 10.5281/zenodo.22862074・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 閾値と最終規模は、同じ R₀ から出るのに、比が一定にならない [論文511]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/511 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22862074

Yamagishi, Y. (2026). The Threshold and the Final Size Both Come from R₀, and Their Ratio Is Not Constant [Paper 511]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/511; DOI: 10.5281/zenodo.22862074

@misc{yamagishi2026yoi511,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {The Threshold and the Final Size Both Come from R₀, and Their Ratio Is Not Constant},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/511},
  doi = {10.5281/zenodo.22862074},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
3f7fee9a7dcaa095c13c37d19d0ab90bd32d8648b0eed4f18b5a7cf258dd0d40 yamagishi_yoi511_v1_jp.pdf
71564c3b36202cc6269cf9182d9550a9b6a2fcc86eac49044440328f837e1349 yamagishi_yoi511_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。