【M011】「がんが無かったら」延びる寿命は、亡くなる確率だけでは決まらない

要旨

本稿が問うのは、「がんが無かったら寿命は何年延びるか」が、がんで亡くなる人の多さとどう結びつくか、である。答えは、多さだけでは決まらず、その死因で何歳で亡くなるかが効く、である。令和 6 年簡易生命表の参考表は、死因ごとに「一生のうちにその死因で亡くなる確率」と「その死因を除いたときの平均余命の延び」を載せている。二つは別の物差しで、並べると順番が入れ替わる。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、男性ではがんで亡くなる確率が 25.59 %、がんを除いたときの平均寿命の延びは 3.11 年(平均寿命 81.09 年の 3.84 %)である。女性では 19.06 % と 2.68 年(87.13 年の 3.08 %)である。その年の死亡の中でがんが占める割合は、男性 27.06 %・女性 20.66 % で、確率とは少し違う(第4節)。

第二に、女性の老衰は、亡くなる確率が 20.75 % とがん(19.06 %)より大きいのに、除いたときの延びは 1.19 年で、がんの 2.68 年の半分に届かない。 男性の自殺は確率 1.69 % で、延びは 0.56 年ある(第4節)。

第三に、確率は死因どうしで足せるが、延びは足せない。 がん・心疾患・脳血管疾患の三つの確率の和は、表の合計と一致する(男性 45.41 %・女性 40.29 %)。一方、延びの三つの和は男性 5.12 年・女性 4.35 年で、三つを同時に除いたときの延び(5.90 年・4.86 年)より 0.78 年・0.51 年小さい(第5節)。

第四に、これが本稿の芯である。確率 1 % あたりの延びは、その死因で亡くなった人の年齢の平均が低いほど大きい。 7 つの死因 × 男女の 14 組で、亡くなった年齢の平均と「延び ÷ 確率」の相関は −0.971 である。自殺(亡くなった年齢の平均 53.7 歳・52.8 歳)は 1 % あたり 0.331 年・0.410 年、老衰(89.7 歳・93.2 歳)は 0.050 年・0.057 年である(第6節)。

第五に、この延びは、人口動態統計の死因別・年齢階級別の死亡数と生命表から再現できる。死因は互いに独立で、5 歳階級の中ではその死因の割合が一定と置く本稿の近似で、7 死因 × 男女の延びを表と最大 0.006 年の差で、三つの死因の合計を 0.014 年の差で再現した(第7節)。

第六に、「その死因で亡くなる人の多さ」と「その死因が無かったら延びる年数」は、別のことを数えている。 前者は何人が、後者は何年を失っているかである。除かれた死因で亡くなるはずだった人も、別の死因でいずれ亡くなる。延びが小さく見えるのは、そのためである。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。死因別死亡確率と特定死因を除去した場合の平均余命の延びは生命表の参考表として公表されており、作成方法も公表されている。本稿はそれを並べ、確率と延びの違いと、その違いを亡くなる年齢がどれだけ説明するかを測るだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 一人の見通しではない。どの数も令和 6 年の死亡状況が一定不変と仮定した期間の数で(M003)、ある人の寿命を示すものではない。「除いたら」は計算上の仮定である。死因が互いに独立で、除いた死因の人がほかの死因では同じ率で亡くなると置いた数で、治療や予防の効果を示すものではない。どの死因が重いかを言わない。物差しが二つあることを示すだけである。データについて:e-Stat の表は政府標準利用規約(第2.0版)に従って加工した。延びの表は令和 7 年 9 月 12 日の訂正後のもの(訂正は女性の結核の行だけ)。出典:厚生労働省「簡易生命表」「人口動態統計」。加えたのは、確率と延びを 7 死因 × 男女で並べ、女性の老衰とがんで順番が入れ替わることを示したこと、確率は足せて延びは足せないことを表の合計で示したこと、確率 1 % あたりの延びが亡くなった年齢の平均と −0.971 の相関を持つことを示したこと、延びを死因別の死亡数から 0.006 年以内で再現したことである。

1. 記法と問い

  • 死因別死亡確率:令和 6 年の死亡状況が一定不変と仮定した場合、ある年齢の人が将来その死因で亡くなる確率(本稿では 0 歳の値)。
  • 特定死因を除去した場合の平均余命の延び:その死因が無くなったと仮定したときの平均余命の延び。作成方法は「死因は互いに独立」と置く(本稿では 0 歳の値=平均寿命の延び)。
  • 死亡の中の割合:令和 6 年に亡くなった人のうち、その死因の人の割合(人口動態統計)。

問い:「がんが無かったら寿命は何年延びるか」は、がんで亡くなる人の多さから分かるか。

観察 1.1:死亡確率は「何人がその死因で亡くなるか」を、延びは「その死因のために平均して何年を失っているか」を数える。ある死因を除いても、その死因で亡くなるはずだった人はいずれ別の死因で亡くなる。延びは、その「いずれ」までの年数の平均である。

2. 下見と設計

正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。

中身
確率と延び 令和 6 年簡易生命表の参考表(死因別死亡確率・特定死因を除去した場合の平均余命の延び)の 0 歳の値
割合 人口動態統計 令和 6 年 下巻 第2表の死因別死亡数
死因 がん(悪性新生物)・心疾患(高血圧性を除く)・脳血管疾患・肺炎・不慮の事故・自殺・老衰の 7 つと、表の「三つの死因の合計」
再現 生命表の各歳の死亡確率から、同じ 5 歳階級のその死因の割合の分だけ死力を除く

3. データと、その確かめ

計算 3.1 取得したファイルを SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。

確かめたこと 結果
参考表の年齢の列 0〜105 歳の 5 歳おき(22 列)
延びの表が訂正後か 女性の結核の 0 歳が 0.00 で、肺炎の行(0.29)と同じでない=訂正後
下巻 第2表:使う行の年齢階級と不詳の和 総数と 7 死因の男女とも、総数に一致
平均寿命(生命表) 男性 81.09 年・女性 87.13 年

4. 三つの数を並べる

計算 4.1 7 つの死因の、死亡の中の割合(令和 6 年)・死亡確率(0 歳)・延び(0 歳)

性 死因 死亡の中の割合 死亡確率 延び 延び ÷ 平均寿命
男性 がん 27.06 % 25.59 % 3.11 年 3.84 %
男性 心疾患 13.59 % 13.70 % 1.37 年 1.69 %
男性 脳血管疾患 6.24 % 6.12 % 0.64 年 0.79 %
男性 肺炎 5.68 % 5.89 % 0.42 年 0.52 %
男性 不慮の事故 3.17 % 3.18 % 0.39 年 0.48 %
男性 自殺 1.63 % 1.69 % 0.56 年 0.69 %
男性 老衰 7.17 % 8.39 % 0.42 年 0.52 %
女性 がん 20.66 % 19.06 % 2.68 年 3.08 %
女性 心疾患 14.63 % 14.77 % 1.12 年 1.29 %
女性 脳血管疾患 6.57 % 6.46 % 0.55 年 0.63 %
女性 肺炎 4.28 % 4.35 % 0.29 年 0.33 %
女性 不慮の事故 2.51 % 2.45 % 0.26 年 0.30 %
女性 自殺 0.80 % 0.83 % 0.34 年 0.39 %
女性 老衰 18.85 % 20.75 % 1.19 年 1.37 %

観察 4.2:がんを除いたときの平均寿命の延びは、男性 3.11 年・女性 2.68 年で、平均寿命の 3.84 %・3.08 % である。がんで亡くなる確率(25.59 %・19.06 %)の大きさに比べると、延びは小さく見える。

観察 4.3:女性の老衰は、確率では 20.75 % とがん(19.06 %)より大きいのに、延びは 1.19 年で、がんの 2.68 年の半分に届かない。 男性の自殺は確率 1.69 % で老衰(8.39 %)より小さいのに、延びは 0.56 年で老衰(0.42 年)より大きい。確率の順と延びの順は一致しない。

観察 4.4:その年の死亡の中の割合と、生命表の死亡確率は近いが同じではない(女性の老衰は 18.85 % と 20.75 %)。前者はその年の人口の年齢構成のもとでの割合、後者は生命表の集団(期間の数)での確率である(M003)。

図1 一生のうちにその死因で亡くなる確率と、除いたときの延び

図1:横が死亡確率、縦が延び(どちらも 0 歳・令和 6 年)。紺が男性、朱が女性。同じ確率でも、点の高さは死因によって違う。

5. 確率は足せるが、延びは足せない

計算 5.1 がん・心疾患・脳血管疾患の三つ

死亡確率:三つの和 死亡確率:表の合計 延び:三つの和 延び:表の合計(同時に除く)
男性 45.41 % 45.41 % 5.12 年 5.90 年(1.152 倍)
女性 40.29 % 40.29 % 4.35 年 4.86 年(1.117 倍)

観察 5.2:死亡確率は、三つを足すと表の合計にちょうどなる。延びは、三つの和より同時に除いたときのほうが男性で 0.78 年、女性で 0.51 年大きい。 一つずつ除くと、救われた人を残りの二つが奪う。三つを同時に除くと、それが起きない。延びは死因どうしで足し合わせられない量である。

6. 芯、亡くなる年齢が、延びの大きさを決める

計算 6.1 その死因で亡くなった人の年齢の平均(人口動態統計・5 歳階級の真ん中で数え、100 歳以上は 102.5 歳)と、確率 1 % あたりの延び

死因 男性:亡くなった年齢の平均 男性:延び ÷ 確率 女性:亡くなった年齢の平均 女性:延び ÷ 確率
自殺 53.7 歳 0.331 年 52.8 歳 0.410 年
不慮の事故 77.8 歳 0.123 年 83.9 歳 0.106 年
がん 78.1 歳 0.122 年 79.5 歳 0.141 年
脳血管疾患 79.3 歳 0.105 年 86.1 歳 0.085 年
心疾患 80.6 歳 0.100 年 88.2 歳 0.076 年
肺炎 84.7 歳 0.071 年 89.1 歳 0.067 年
老衰 89.7 歳 0.050 年 93.2 歳 0.057 年

観察 6.2:14 組で、亡くなった年齢の平均と「延び ÷ 確率」の相関は −0.971 である。 若くして亡くなる死因ほど、1 % あたりの延びが大きい。自殺は 1 % あたり 0.331 年・0.410 年、老衰は 0.050 年・0.057 年で、男性で 6.62 倍、女性で 7.14 倍違う。

観察 6.3:がんは、女性で老衰より 13.7 歳若く亡くなっている(79.5 歳と 93.2 歳)。だから確率が老衰より小さくても、延びは老衰の 2.25 倍になる。延びは、何人が亡くなるかに、何歳で亡くなるかを掛けたような量として読める。

図2 その死因で亡くなった年齢の平均と、確率 1 % あたりの延び

図2:横が亡くなった年齢の平均、縦が確率 1 % あたりの延び。右へ行くほど(高い年齢で亡くなる死因ほど)低い。

7. 延びを、死因別の死亡数から再現する

計算 7.1 本稿の近似:生命表の各歳の死亡確率 q に、同じ 5 歳階級の「その死因の死亡数 ÷ 総死亡数」f を当て、その死因を除いた死亡確率を 1 − (1 − q)^(1 − f) とする。各歳の定常人口は台形で近似し、除く前も同じ近似で作って差をとる。

死因 男性:再現 男性:表 女性:再現 女性:表
がん 3.113 年 3.11 年 2.678 年 2.68 年
心疾患 1.371 年 1.37 年 1.121 年 1.12 年
脳血管疾患 0.639 年 0.64 年 0.553 年 0.55 年
肺炎 0.417 年 0.42 年 0.287 年 0.29 年
不慮の事故 0.392 年 0.39 年 0.262 年 0.26 年
自殺 0.558 年 0.56 年 0.337 年 0.34 年
老衰 0.422 年 0.42 年 1.184 年 1.19 年
三つの死因 5.914 年 5.90 年 4.856 年 4.86 年

観察 7.2:7 死因 × 男女の再現と表の差は最大 0.006 年、三つの死因の合計は 0.014 年である。延びは、各年齢で「その死因の分だけ死ぬ力を除く」という一つの考え方で、公表値まで届く。

8. 限界

  1. 期間の数である。 令和 6 年の死亡状況が一定不変と仮定している(M003)。
  2. 「除いたら」は計算上の仮定である。 死因が互いに独立と置いており、治療や予防の効果を示すものではない。
  3. 亡くなった年齢の平均は、その年の死亡数から 5 歳階級の真ん中で数えた。 人口の年齢構成の影響を受ける記述の数である。
  4. 再現は本稿の近似である。 公表の作成方法の細部(階級の中の割合の扱いなど)の写しではない。
  5. 死亡数が 10 未満の升目も再現の計算には使った(本文には出していない)。
  6. 0 歳の値だけを扱った。 ほかの年齢からの延びは扱っていない。

結び

令和 6 年の生命表では、男性ががんで亡くなる確率は 25.59 %、がんを除いたときの平均寿命の延びは 3.11 年だった。女性の老衰は確率 20.75 % とがんより大きいが、延びは 1.19 年でがんの半分に届かなかった。確率は三つの死因で足し合わせられたが、延びは同時に除くと三つの和より 0.78 年・0.51 年大きかった。確率 1 % あたりの延びは、その死因で亡くなった年齢の平均と −0.971 の相関を持った。

分けるものは一つ、その死因で、何歳で亡くなるか、である。

「がんが無かったら寿命は何年延びるか」と聞いたら、それが何人が亡くなるかではなく、何年を失っているかの数で、亡くなる年齢によって大きさが変わることを、一緒に思い出す。

データと再現

データ 厚生労働省「令和 6 年簡易生命表」第1表・第2表と参考表(死因別死亡確率・特定死因を除去した場合の平均余命の延び・令和 7 年 9 月 12 日訂正後)、同 概要・作成方法、正誤情報。「人口動態統計」令和 6 年(確定数)下巻 第2表。すべて e-Stat から取得(2026 年 9 月 25 日に利用)
利用条件 e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠(CC BY 4.0 互換)。本稿の再現・比・亡くなった年齢の平均は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない
範囲 日本・男女別・令和 6 年・7 つの死因と三つの死因の合計・0 歳
検算 検算/M011.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M011_output.txt から取っている
生データ data/ に取得したファイル 7 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・正誤情報と作成方法の要点・再現の置き方)
図 図/M011_zu1・図/M011_zu2(png・svg・英語版)

参考文献

  • 厚生労働省. 令和6年簡易生命表 第1表・第2表、参考 死因別死亡確率・特定死因を除去した場合の平均余命の延び. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)下巻 第2表. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 山岸勇輝 (2026). 平均余命は、誰かが実際に生きる年数ではない [M003]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963485

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「がんが無かったら」延びる寿命は、亡くなる確率だけでは決まらない」[M011]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22966052

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「がんが無かったら」延びる寿命は、亡くなる確率だけでは決まらない [M011]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M011 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22966052

Yamagishi, Y. (2026). Years Gained “Without Cancer” Are Not Set by the Probability of Dying of It Alone [M011]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M011; DOI: 10.5281/zenodo.22966052

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