【M012】「平均寿命」は、亡くなる年齢の真ん中でも、いちばん多い年齢でもない

要旨

本稿が問うのは、「平均寿命」という一つの言葉で、亡くなる年齢のどこを指しているか、である。答えは、平均、である。生命表の亡くなる年齢の分布には、平均・真ん中(寿命中位数)・いちばん多い年齢(最頻値)の三つの代表がある。三つは分布の左の長い裾(若い年齢の死亡)の効き方が違うので、この順に並び、年代とともに近づいてきた。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、令和 6 年簡易生命表では、男性の平均寿命は 81.09 歳、寿命中位数は 83.89 歳、亡くなる人がいちばん多い年齢は 88 歳である。女性は 87.13 歳・90.04 歳・92 歳である。どちらも 平均 < 中位数 < 最頻値 の順に並ぶ(第4節)。

第二に、寿命中位数は、生存数が出生 10 万人の半分を下回る年齢の前後を直線でつなぐと、公表値と 0.01 年以内で再現できる(男性 83.89・女性 90.04)。最頻値の山は平らで、男性は 86〜89 歳の 4 歳ぶん、女性は 91〜93 歳の 3 歳ぶんが、頂の 97 % 以上の高さにある(第4節)。

第三に、これが本稿の芯である。若い年齢の死亡を除くと、三つの動き方が違う。 65 歳まで生きた人に限ると、男性の平均は 3.38 年上がるのに、中位数は 1.38 年、最頻値は 0 年しか動かない。女性は 2.25 年・0.59 年・0 年である。50 歳まで生きた人でも、平均は中位数の 2 倍より大きく動く(第5節)。

第四に、1947 年から 2024 年まで、平均寿命は男性で 31.03 年、女性で 33.17 年延び、寿命中位数の延び(24.61 年・25.59 年)より大きかった。中位数と平均の差は、男性で 9.22 年から 2.79 年へ、女性で 10.49 年から 2.91 年へ縮んだ。 差は 1990 年以降、男性 2.79〜3.21 年・女性 2.80〜2.91 年の幅にとどまっている(第6節)。

第五に、分けているのは若い年齢の死亡をどれだけ数に効かせるかである。平均はすべての死亡の年齢を足すので若い死亡に強く引かれ、中位数は半分の人がどちら側にいるかだけを見るので少しだけ動き、最頻値はいちばん多い所だけを見るので動かない。

第六に、「平均寿命 81 歳」は、半分の人がその年齢まで生きるという意味でも、多くの人がその年齢で亡くなるという意味でもない。 生命表の上では、男性の半分は 83.89 歳まで、女性の半分は 90.04 歳まで生きる。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。平均寿命と寿命中位数は生命表の関数として定義され、公表されている。本稿は、それに最頻値を加えて並べ、若い年齢の死亡に対する三つの効き方の違いを測るだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 一人の見通しではない。どの数も令和 6 年(または各年)の死亡状況が一定と仮定した期間の数である(M003)。どの代表が正しいかを言わない。三つは別の問いに答える。最頻値の年次推移は扱わない。過去の年の生命表の死亡数を取っていない。データについて:e-Stat の生命表は政府標準利用規約(第2.0版)、厚生労働省ホームページの図表データは公共データ利用規約(第1.0版)に従って使い、本稿の再現・最頻値・差は加工して作成した。出典:厚生労働省「令和 6 年簡易生命表」「令和 6 年簡易生命表の概況」。加えたのは、最頻値を加えた三つの代表を並べ、平均 < 中位数 < 最頻値の順を男女で示したこと、若い死亡を除いたときに三つが動く量が違う(平均 > 中位数 > 最頻値 = 0)ことを測ったこと、1947 年からの差の縮み方を表4 で並べたことである。

1. 記法と問い

  • 平均寿命:0 歳の平均余命。生命表の上で亡くなる年齢の平均。
  • 寿命中位数:生命表の上で、出生者のうちちょうど半数が生存すると期待される年数(公表の定義)。亡くなる年齢の真ん中。
  • 最頻値:本稿では、生命表の 1 歳以上の各歳の死亡数が最も大きい年齢。亡くなる人がいちばん多い年齢。

問い:「平均寿命」は、亡くなる年齢の分布のどこを指しているか。ほかの代表とどれだけ違い、なぜ違うか。

観察 1.1:生命表の亡くなる年齢の分布は、高い年齢に山があり、左(若い年齢)に長い裾を引く。平均はすべての年齢を足し合わせるので、この裾に引かれる。

2. 下見と設計

正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。

中身
三つの代表 令和 6 年簡易生命表(男・女)から、平均(公表の平均寿命)・中位数(生存数から再現)・最頻値(死亡数から)
若い死亡の効き方 ある年齢(1・50・65 歳)まで生きた人に限って三つを作り直し、動いた量を比べる
年次 厚生労働省の概況の表4(寿命中位数と平均寿命の年次推移・1947〜2024 年)

3. データと、その確かめ

計算 3.1 取得したファイルを SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。

確かめたこと 結果
表4 の行 1947 年から 2024 年までの 20 行
表4 の「差」の列 中位数 − 平均 と、最大 0.010 年の丸めの幅で一致
概況の本文と表4 令和 6 年の寿命中位数(男 83.89・女 90.04)が一致
寿命中位数の再現 公表値との差 男 −0.003 年・女 −0.005 年

4. 令和 6 年の三つの数

計算 4.1 令和 6 年簡易生命表の三つの代表

平均(平均寿命) 中位数(寿命中位数) 最頻値 中位数 − 平均 最頻値 − 中位数
男性 81.09 歳 83.89 歳 88 歳 2.80 年 4.11 年
女性 87.13 歳 90.04 歳 92 歳 2.91 年 1.96 年

観察 4.2:男女とも、平均 < 中位数 < 最頻値の順に並ぶ。 平均と最頻値は、男性で 6.91 年、女性で 4.87 年離れている。

観察 4.3:最頻値の山は平らである。男性は 86〜89 歳、女性は 91〜93 歳の各歳が、頂の死亡数の 97 % 以上の高さにある(男性の 87 歳 4079・88 歳 4094・89 歳 4042/出生 10 万)。最頻値は「その年齢に鋭く集まる」という意味ではなく、「山の頂がそのあたりにある」という意味で読む。

図1 生命表の亡くなる年齢の分布と三つの「平均寿命」

図1:令和 6 年簡易生命表の各歳の死亡数(出生 10 万あたり)。実線が平均、破線が中位数、点線が最頻値。山の左に長い裾がある。

5. 芯、若い年齢の死亡は、三つを別々に動かす

計算 5.1 ある年齢まで生きた人に限って作り直した三つと、動いた量(年)

性 限る年齢 平均 中位数 最頻値 その年齢までに亡くなる割合
男性 1 歳 81.24(+0.15) 83.91(+0.03) 88(+0) 0.0018
男性 50 歳 82.57(+1.48) 84.30(+0.42) 88(+0) 0.0306
男性 65 歳 84.47(+3.38) 85.27(+1.38) 88(+0) 0.1036
女性 1 歳 87.28(+0.15) 90.05(+0.02) 92(+0) 0.0018
女性 50 歳 88.24(+1.11) 90.24(+0.21) 92(+0) 0.0199
女性 65 歳 89.38(+2.25) 90.63(+0.59) 92(+0) 0.0564

観察 5.2:若い年齢の死亡を除くと、平均がいちばん大きく動き、中位数はその半分より少なく動き、最頻値は動かない。 65 歳まで生きた人に限ると、男性の平均は 3.38 年、中位数は 1.38 年上がり、最頻値は 88 歳のままである。

観察 5.3:平均はすべての死亡の年齢を足すので、若い死亡の一人ひとりが「どれだけ若いか」まで効く。中位数は、若い死亡が真ん中より左にあることだけが効く。最頻値は山の頂の位置だけで決まるので、頂より左の死亡がいくら変わっても動かない。

6. 1947 年から 2024 年まで

計算 6.1 表4 の最初と最後の年

性 1947 年:中位数・平均・差 2024 年:中位数・平均・差 延び:平均・中位数
男性 59.28・50.06・9.22 83.89・81.09・2.79 +31.03・+24.61
女性 64.45・53.96・10.49 90.04・87.13・2.91 +33.17・+25.59

観察 6.2:平均寿命の延びは、寿命中位数の延びより大きかった(平均の延び ÷ 中位数の延び 男性 1.261・女性 1.296)。若い年齢の死亡が減ったことは、平均を大きく押し上げ、中位数を少し押し上げる。第5節と同じ向きである。

観察 6.3:差は男性で 1980 年、女性で 1975 年に初めて 3.5 年を下回り、1990 年以降は男性 2.79〜3.21 年・女性 2.80〜2.91 年の幅にとどまっている。若い死亡が少なくなってからは、平均と中位数はほぼ一定の差で並んで動いている。

図2 平均寿命と寿命中位数の年次推移(1947〜2024 年)

図2:実線が平均寿命、破線が寿命中位数(紺が男性、朱が女性)。二本の線の隙間は、最初の十数年で大きく縮み、その後はほぼ一定になる。

7. 限界

  1. 期間の数である。 各年の死亡状況が一定と仮定した生命表の数で、ある世代が実際に生きた年数ではない(M003)。
  2. 最頻値は 1 歳ごとの死亡数の最大で、山は平らである。 0 歳の中の区分は使っていない。
  3. 最頻値の年次推移は扱っていない。
  4. 表4 の令和 2 年以前は完全生命表、昭和 45 年以前は沖縄県を除く値である(表の注)。
  5. 一人の見通しではない。

結び

令和 6 年の生命表で、男性の平均寿命は 81.09 歳、寿命中位数は 83.89 歳、亡くなる人がいちばん多い年齢は 88 歳だった(女性は 87.13・90.04・92 歳)。65 歳まで生きた人に限ると、男性の平均は 3.38 年上がり、中位数は 1.38 年、最頻値は動かなかった。1947 年から、平均の延びは中位数の延びより大きく、二つの差は 9.22 年から 2.79 年(男性)へ縮んだ。

分けるものは一つ、若い年齢の死亡を、どれだけ数に効かせるか、である。

「平均寿命」を聞いたら、それが亡くなる年齢の平均で、半分の人が生きる年齢(寿命中位数)はそれより 3 年ほど上にあることを、一緒に思い出す。

データと再現

データ 厚生労働省「令和 6 年簡易生命表」第1表・第2表(e-Stat から取得)、「令和 6 年簡易生命表の概況」図表データ 表4・「2 寿命中位数等生命表上の生存状況」(厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/index.html )(2026 年 9 月 25〜26 日に利用)
利用条件 e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)、厚生労働省ホームページのコンテンツは公共データ利用規約(第1.0版)に準拠(どちらも出典を記せば加工可)。本稿の寿命中位数の再現・最頻値・限った場合の三つは、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない
範囲 日本・男女別・令和 6 年(年次は 1947〜2024 年)
検算 検算/M012.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M012_output.txt から取っている
生データ data/ に取得したファイル 4 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・概況の本文の写し)
図 図/M012_zu1・図/M012_zu2(png・svg・英語版)

参考文献

  • 厚生労働省. 令和6年簡易生命表 第1表・第2表. e-Stat(2026年9月25日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 厚生労働省. 令和6年簡易生命表の概況 図表データ 表4 寿命中位数と平均寿命の年次推移(2026年9月26日に利用). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/xls/life24-13.xlsx
  • 山岸勇輝 (2026). 平均余命は、誰かが実際に生きる年数ではない [M003]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963485

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「平均寿命」は、亡くなる年齢の真ん中でも、いちばん多い年齢でもない」[M012]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22966555

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「平均寿命」は、亡くなる年齢の真ん中でも、いちばん多い年齢でもない [M012]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M012 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22966555

Yamagishi, Y. (2026). “Life Expectancy” Is Neither the Middle Age at Death nor the Most Common One [M012]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M012; DOI: 10.5281/zenodo.22966555

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