要旨
建築物衛生法にもとづく特定建築物(延べ面積3,000㎡以上の事務所・店舗など)と、それを管理する登録営業所の数を、衛生行政報告例(令和6年度、厚生労働省【生活衛生】第3表-1・第4表)で数え、人口・経済センサスと突き合わせた。
特定建築物は 48,608 施設。管理技術者が選任されているのは 48,438(99.65%) で、選任されていないのは170施設である。立入検査は年 6,997 件(14.4%) で、7年に1回まわる計算になる。
登録営業所は 17,842。8業種の内訳は総数とぴったり一致する。 最多は貯水槽清掃業6,435(36.1%)、最少はダクト清掃業111(0.6%)で、58.0倍の差がある。
特定建築物1棟あたりでは、登録営業所1つが2.72棟を見る計算になる。経済センサスの建築物サービス業(922)は27,977事業所で、登録営業所はその 0.64倍 にとどまる。
登録2,987件に対して、廃止239件+有効期間満了2,723件。比は1.01倍で、ほぼ横ばいである。
人口10万人あたりの特定建築物は東京都60.3、石川県53.3、北海道51.2の順で、埼玉県20.3までの2.97倍の開きがある。人口の大きさとは、ほとんど関係が無い(r = +0.013)。
1. はじめに
I006(宿)・I008(クリーニング)・I009(公衆浴場)・I011(食品の届出)は、客に直接向き合う商売だった。
ビル管理は、そうではない。 相手は建物であり、その建物を持つ会社である。しかも建築物衛生法は、一定の大きさを超えた建物にだけ管理の義務を課している。
管理を義務づけられた建物はいくつあり、それを管理する登録営業所はいくつあるのか。
2. データ
| 特定建築物 | 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」【生活衛生】第3表-1 特定建築物施設数・管理技術者選任建築物数・立入検査等回数(令和6年度末現在。検査は年度中) |
| 登録営業所 | 同 第4表 建築物環境衛生に係る登録営業所数・登録・廃止・取消・有効期間満了件数(同) |
| 経済センサス | 「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類 922 建築物サービス業(令和3年6月1日、全国の行) |
| 人口・65歳以上 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日 |
47都道府県すべての行がそろい、合計は全国の欄と一致する(特定建築物 48,608、登録営業所 17,842)。8業種の内訳の合計も総数とぴったり一致する(差0)。
特定建築物は、興行場・百貨店・集会場・図書館・博物館・店舗・事務所・学校などに使われる建築物で、延べ面積3,000㎡以上(学校は8,000㎡以上)のものである。
衛生行政報告例には市区町村別が無い(都道府県・指定都市・中核市まで)。本稿は都道府県を単位とした。
3. 結果
3-1 特定建築物48,608と、管理技術者99.65%
| 施設 | ||
|---|---|---|
| 特定建築物 | 48,608 | |
| 管理技術者選任建築物 | 48,438 | 99.65% |
| 選任されていない | 170 | 0.35% |
選任率99.65%は、この一連で見たなかでもっとも高い遵守の数字である。
| 件数(年度中) | 特定建築物に対して | |
|---|---|---|
| 立入検査 | 6,997 | 14.4% |
| 報告徴収 | 21,355 | 43.9% |
立入検査は年に14.4%。 そのペースなら、1棟に1回まわるのに約7年かかる。
3-2 登録営業所17,842の内訳、3分の1は貯水槽清掃業

図1 建築物環境衛生に係る登録営業所(令和6年度末、8業種)。
青は貯水槽清掃業、灰色はそれ以外。
| 業種 | 登録営業所 | 割合 |
|---|---|---|
| 建築物飲料水貯水槽清掃業 | 6,435 | 36.1% |
| 建築物清掃業 | 3,904 | 21.9% |
| 建築物ねずみ・昆虫等防除業 | 2,688 | 15.1% |
| 建築物環境衛生総合管理業 | 2,168 | 12.2% |
| 建築物排水管清掃業 | 1,169 | 6.6% |
| 建築物空気環境測定業 | 872 | 4.9% |
| 建築物飲料水水質検査業 | 495 | 2.8% |
| 建築物空気調和用ダクト清掃業 | 111 | 0.6% |
| 総数 | 17,842 |
上と下で 58.0倍 の差がある。
ビル管理といえば清掃を思い浮かべるが、登録の数でいちばん多いのは貯水槽清掃業である。 ダクト清掃業は全国に111しかない。
1つの営業所が複数の業種で登録できるので、これは営業者の数ではない。
3-3 登録は、ほぼ横ばい
| 件数(年度中) | |
|---|---|
| 登録 | 2,987 |
| 登録廃止 | 239 |
| 有効期間満了 | 2,723 |
| 登録 ÷(廃止+満了) | 1.01倍 |
登録の有効期間は6年である。満了には、そのまま更新しなかったものが含まれる。
入る数と出る数がほぼ釣り合っている。 I006 の宿(2.74倍で増加)とも、I009 の公衆浴場(0.98倍で減少)とも違う。
3-4 1営業所あたり2.72棟
| 数 | |
|---|---|
| 特定建築物 | 48,608 |
| 登録営業所 | 17,842 |
| 1営業所あたり | 2.72棟 |
経済センサスと並べると、向きが変わる。
| 事業所 | ||
|---|---|---|
| 経済センサス 922 建築物サービス業 | 27,977 | |
| 登録営業所 ÷ 922 | 0.64倍 | |
| 922 の1事業所あたりの特定建築物 | 1.74棟 |
登録営業所のほうが少ない。 これは I006〜I011 とは逆である。
理由は、922 建築物サービス業には登録の要らない仕事も含まれるからと考えられる。建築物衛生法の登録は、特定建築物の仕事をするために要るものである。マンションや小さなビルの清掃は、登録が無くてもできる。
ここまで見てきた「施設のほうが多い」型とは逆に、ここでは「事業所のほうが多い」。 ただし本稿はその中身を確かめていない。
3-5 都道府県ごと
| 人口10万人あたりの特定建築物(全国39.3、中央値37.0) | 多い | 少ない |
|---|---|---|
| 東京60.3/石川53.3/北海道51.2 | 千葉27.0/奈良26.3/埼玉20.3 |
上と下で 2.97倍。
人口の大きさとは、ほとんど関係が無い(人口の常用対数との相関 r = +0.013)。 高齢化率とも関係が無い(r = +0.043)。
東京都が1位なのは分かるが、2位が石川県、3位が北海道である。逆に埼玉県・千葉県・奈良県が下位に並ぶ。大都市の周りの県ほど、大きな建物が少ない。
| 人口10万人あたりの登録営業所(全国14.4) | 多い | 少ない |
|---|---|---|
| 青森24.5/石川24.2/大分20.5 | 群馬10.2/兵庫9.8/埼玉9.7 |
| 1営業所あたりの特定建築物(全国2.72、中央値2.45) | 多い | 少ない |
|---|---|---|
| 東京3.88棟/長野3.47棟/兵庫3.39棟 | 徳島1.63棟/鹿児島1.58棟/宮崎1.58棟 |
上と下で 2.5倍。人口10万人あたりの特定建築物と登録営業所の相関は r = +0.425 で、中くらいである。
3-6 北海道と釧路総合振興局管内
北海道の特定建築物は 2,559。人口10万人あたり 51.2 で47都道府県中 3位。全国の39.3を大きく上回る。
登録営業所は 993(人口10万人あたり19.9、7位)。1営業所あたりは2.58棟で20位。うち貯水槽清掃業256、清掃業335である。
北海道は建物が多く、それを見る営業所も多い。
釧路管内は、衛生行政報告例に市区町村別が無いため、経済センサスの922(建築物サービス業)のみを示す。
| 市町村 | 人口 | 922 事業所 | 人口10万人あたり |
|---|---|---|---|
| 釧路市 | 151,566 | 48 | 31.7 |
| 釧路町 | 18,021 | 7 | 38.8 |
| 厚岸町 | 7,976 | 1 | 12.5 |
| 浜中町 | 5,172 | 0 | 0.0 |
| 標茶町 | 6,698 | 1 | 14.9 |
| 弟子屈町 | 6,327 | 1 | 15.8 |
| 鶴居村 | 2,368 | 0 | 0.0 |
| 白糠町 | 6,840 | 0 | 0.0 |
全国1,889市区町村の中央値は 13.8。釧路市31.7と釧路町38.8は中央値の2倍以上である。922が0の市区町村は全国で 407 ある。
4. 考察
4-1 大きさで線を引いた制度
建築物衛生法は、延べ面積3,000㎡という線で対象を切る。その線の上にある建物だけが特定建築物になり、管理技術者の選任と定期の測定が義務になる。
線の上では遵守率が 99.65% と高い。線を引いたところは守られている。
だが線の下には、何棟の建物があるのかがこの統計では分からない。制度が見ているのは、制度が線を引いたところだけである。
I007 の「無薬局町村140」は、行政が「無い」を直接数えた例だった。ここはその逆で、対象の外は数えられていない。
4-2 ビル管理の中身は、清掃ではなく水
登録営業所の36.1%は貯水槽清掃業である。清掃業(21.9%)より多い。
これは、登録が業種ごとに要るかどうかの差を映している可能性が高い。貯水槽清掃は専門の資格と設備が要り、外に出しやすい。一方、日常の清掃は登録が無くてもできる。
「ビル管理」という言葉でひとくくりにできない。 8業種で58.0倍の差があり、それぞれ別の商売である。
4-3 事業所のほうが多い、初めての例
I006 の簡易宿所(13.75倍)、I010 の火葬場、I011 の百貨店(29.6倍)は、いずれも施設のほうが多かった。
ここでは逆で、登録営業所17,842に対して経済センサスの922が27,977、0.64倍である。
登録が任意の仕事が、その差にあたる。 建築物衛生法の登録は、特定建築物の一部の業務をするために要るもので、それ以外の建物の清掃や管理には要らない。
「合わない」の4つ目の型である。 制度の対象が、産業分類より狭い。
4-4 大都市の周りに、大きな建物は無い
人口10万人あたりの特定建築物は、東京都60.3に対して埼玉県20.3で3倍近く違う。だが人口の大きさとの相関はほぼ0(r = +0.013)である。
上位は東京都・石川県・北海道、下位は埼玉県・奈良県・千葉県。 人口の多い県が上位に来るわけではない。
大きな建物は、事務所・店舗・ホテルとして使われる。そうした建物は、人が住む場所ではなく、人が働きに来る場所に建つ。 ただし本稿は昼間人口を見ていないので、これは説明であって検証ではない。
5. 限界
- 衛生行政報告例は令和6年度、経済センサスは令和3年6月1日、人口は2026年1月1日。時点が違う
- 特定建築物は延べ面積3,000㎡以上(学校は8,000㎡以上)の建築物で、建物の総数ではない
- 1つの営業所が複数の業種で登録できるので、登録営業所数は営業者の数ではない
- 登録は任意である。 登録が無くても、特定建築物以外の建物の清掃や管理はできる
- 経済センサスの922 建築物サービス業には、登録の要らない仕事も含む
- 有効期間満了には、更新したものと更新しなかったものの両方が含まれうる
- 衛生行政報告例には市区町村別が無い。釧路管内はセンサスの値のみ
- 売上・契約の数・建物の面積は見ていない
- 大きな建物が大都市の周りに少ない理由について、昼間人口を用いた検証はしていない
6. 再現の手順
- e-Stat から「令和6年度 衛生行政報告例」【生活衛生】第3表-1(特定建築物)と第4表(登録営業所)を取得する。指定都市・中核市の再掲行があるので、都道府県の行だけを使う
- 47県の合計が全国の欄と一致すること、8業種の合計が総数と一致することを確かめる(特定建築物 48,608/登録営業所 17,842)
- 第4表は業種ごとに13列ある。「登録営業所数(年度末現在)」の列は 1・14・27・40・53・66・79・92・105 である
- e-Stat から令和3年 経済センサスの産業小分類別 事業所数を取得し、全国の行の922を使う
- 住民基本台帳の人口・65歳以上人口を都道府県ごとに合計する
- 管理技術者の選任率、特定建築物1棟あたりの登録営業所、人口10万人あたりの数を出す
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_201)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
この論文の位置づけ
新しい理論を主張するものではない。建築物衛生法が対象とする建物の数と、その管理を登録した営業所の数を並べて読んだものである。登録営業所の内訳が8業種で58.0倍開くこと、経済センサスの事業所より登録営業所のほうが少ないこと、人口10万人あたりの特定建築物が人口の大きさと関係しないことを示した。制度の対象外にある建物の数は、この統計からは分からない。
参考文献・データの出典
- 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」【生活衛生】第3表-1・第4表
- 総務省統計局・経済産業省「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類別 事業所数(市区町村別)
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
- 山岸勇輝「宿の数は、統計によって13.7倍ちがう」(I006)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876047
- 山岸勇輝「薬局が1つも無い町村が140ある」(I007)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876130
- 山岸勇輝「「公衆浴場」23,668のうち、銭湯は2,730」(I009)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876425
- 山岸勇輝「届出を要する食品営業は865,122」(I011)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876599
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-21 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「特定建築物48,608を管理する登録営業所は17,842、その3分の1は貯水槽清掃業 [I012]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877101
(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)
© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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書誌
山岸勇輝(2026)「特定建築物48,608を管理する登録営業所は17,842」[I012]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22877101
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 特定建築物48,608を管理する登録営業所は17,842 [I012]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I012 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22877101
Yamagishi, Y. (2026). 17,842 Registered Businesses Maintain 48,608 Specified Buildings [I012]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I012; DOI: 10.5281/zenodo.22877101
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