要旨
衛生行政報告例(令和6年度)の第10表から、理容所と美容所の施設数・従業理容師数・従業美容師数・使用確認件数・閉鎖命令件数を数え、経済センサス(令和3年)の理容業・美容業と突き合わせた。
理容所は107,995施設、美容所は277,752施設。 従業理容師194,531人、従業美容師588,291人。
経済センサスと比べると、ずれ方が理容と美容で違う。
| 衛生行政報告例 | 経済センサス | 比 | |
|---|---|---|---|
| 理容 | 107,995 施設 | 87,048 事業所 | 1.241倍 |
| 美容 | 277,752 施設 | 162,431 事業所 | 1.710倍 |
美容のずれは、理容のずれの1.38倍である。
1施設あたりは理容1.80人、美容2.12人。 全産業の11.80人(X001)の6分の1以下で、日本でもっとも小さい商売のひとつである。
美容所は理容所の2.57倍あるが、これも地域で大きく違う。 東京都3.90倍に対して秋田県1.39倍、上と下で2.80倍。理容所のほうが多い都道府県は、1つも無い。
人口10万人あたりの理容所は、秋田県233.9に対して神奈川県48.0で4.87倍。 高齢化率との相関は r = +0.792。美容所は山梨県332.3に対して神奈川県142.4で2.33倍にとどまる。
全国385,747施設に対して、閉鎖命令は0件である。
1. はじめに
I006 からここまで、衛生行政報告例と経済センサスを突き合わせると、同じものを数えているはずの2つの統計がしばしば合わないことを見てきた。簡易宿所は13.75倍、百貨店は29.6倍、薬局は1.03倍だった。
理容所と美容所は、小規模事業者のもっとも代表的な形である。 X001 では、1事業所あたりの従業者数が理容業1.94人・美容業2.52人で、526分類のなかでも小さいほうだった。
理容所と美容所は、衛生行政報告例では何施設あるのか。経済センサスの事業所数と、どれだけ違うのか。
2. データ
| 施設・理容師・美容師・使用確認・閉鎖命令 | 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度 第10表(生活衛生)。令和6年度末現在(使用確認・閉鎖命令は年度中) |
| 事業所・従業者 | 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」令和3年 782 理容業/783 美容業 |
| 人口・高齢化率 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日 |
47都道府県すべての行がそろい、合計は全国の値とぴたり一致する(理容所107,995、美容所277,752、差0)。
第10表の注1により、理容所と美容所を重ねて開いている施設(381施設)は二重に数えていない。 これは理容所の0.353%、美容所の0.137%にすぎない。
3. 結果
3-1 理容所107,995、美容所277,752
| 施設数 | 免許を持つ従業者 | 1施設あたり | |
|---|---|---|---|
| 理容所 | 107,995 | 従業理容師 194,531人 | 1.80人 |
| 美容所 | 277,752 | 従業美容師 588,291人 | 2.12人 |
| 合わせて | 385,747 | 782,822人 |
全産業の1事業所あたりは11.80人である(X001)。 理容も美容も、その6分の1以下でやっている。
1施設あたりの人数も地域で違う。
| 多い | 少ない | 上と下 | 中央値 | |
|---|---|---|---|---|
| 理容師/施設 | 東京2.26/神奈川2.10/埼玉2.10 | 鹿児島1.37/愛媛1.34/沖縄1.21 | 1.87倍 | 1.72 |
| 美容師/施設 | 東京3.13/神奈川3.06/大阪2.33 | 鹿児島1.52/徳島1.40/愛媛1.37 | 2.28倍 | 1.79 |
都市部ほど1施設あたりが大きい。 ただし東京都の美容所でも3.13人である。
3-2 美容だけ、統計が1.7倍ずれる
| 衛生行政報告例(2024年度末) | 経済センサス(2021-06-01) | 比 | |
|---|---|---|---|
| 理容 | 107,995 施設 | 87,048 事業所 | 1.241倍 |
| 美容 | 277,752 施設 | 162,431 事業所 | 1.710倍 |
| 差 | 理容 +20,947/美容 +115,321 |
美容のずれ1.710倍は、理容のずれ1.241倍の1.38倍である。
人の数でも同じ向きに開く。
| 免許を持つ人 | 経済センサスの従業者 | 比 | |
|---|---|---|---|
| 理容 | 194,531 | 168,442 | 1.155倍 |
| 美容 | 588,291 | 408,707 | 1.439倍 |
施設のずれ(1.241/1.710倍)のほうが、人のずれ(1.155/1.439倍)より大きい。
3-3 人口10万人あたり
| 全国 | 多い | 少ない | 上と下 | 中央値 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 理容所 | 87.3 | 秋田233.9/山形210.8/岩手190.6 | 埼玉64.0/東京52.1/神奈川48.0 | 4.87倍 | 108.0 |
| 美容所 | 224.4 | 山梨332.3/秋田326.0/徳島316.2 | 千葉166.1/埼玉161.4/神奈川142.4 | 2.33倍 | 260.9 |
理容所のほうが、地域差がずっと大きい(4.87倍と2.33倍)。
| 相関(47都道府県) | r |
|---|---|
| 理容所(10万人あたり)× 高齢化率 | +0.792 |
| 美容所(10万人あたり)× 高齢化率 | +0.723 |
| 理容所(10万人あたり)× 人口(対数) | −0.627 |
| 美容所(10万人あたり)× 人口(対数) | −0.814 |
| 理容所(10万人あたり)× 美容所(10万人あたり) | +0.716 |
どちらも高齢化率が高い県ほど、人口あたりの店が多い。
3-4 美容所は理容所の2.57倍、ただし県による

図1 美容所の数 ÷ 理容所の数(47都道府県、衛生行政報告例 令和6年度)。
灰色は都道府県、橙は北海道、青の縦線は全国の2.57倍。
| 全国 | 277,752 ÷ 107,995 = 2.57倍 |
| (経済センサスでは) | 162,431 ÷ 87,048 = 1.87倍 |
| 大きい | 東京3.90/大阪3.51/京都3.23 |
| 小さい | 山形1.49/岩手1.42/秋田1.39 |
| 上と下 | 2.80倍、中央値2.53 |
理容所のほうが多い都道府県は、1つも無い。
| 相関 | r |
|---|---|
| 美容÷理容 × 高齢化率 | −0.668 |
| 美容÷理容 × 人口(対数) | +0.465 |
高齢な県ほど、理容所の割合が高い。
3-5 閉鎖命令は0件
| 理容所 | 美容所 | 比 | |
|---|---|---|---|
| 使用確認件数(年度中) | 1,305 | 12,433 | 9.5倍 |
| 施設あたりの確認率 | 1.208% | 4.476% | 3.7倍 |
| 閉鎖命令件数(年度中) | 0 | 0 |
全国385,747施設に対して、閉鎖命令は0件である。
使用確認率も地域で違う(美容所)。
| 高い | 低い | 上と下 |
|---|---|---|
| 東京6.38%/大阪5.83%/神奈川5.46% | 岩手2.59%/山梨2.42%/山形2.37% | 2.7倍 |
「使用確認」は新しく使ってよいか確かめた件数で、立入検査でも取り締まりでもない。 開業・移転が多い地域ほど多く出る。
3-6 北海道と釧路総合振興局管内
| 北海道 | |
|---|---|
| 理容所 | 5,687施設(理容師 9,404人、1施設あたり1.65人) |
| 美容所 | 11,199施設(美容師 21,066人、1施設あたり1.88人) |
| 人口10万人あたり | 理容113.8(20位/47)/美容224.1(38位/47) |
| 美容÷理容 | 1.97(39位/47。全国2.57) |
北海道は、理容所は真ん中だが、美容所は下から10番目である。 結果として、美容÷理容は1.97で全国の2.57よりずっと小さい。
釧路管内は、衛生行政報告例に市区町村別の表が無いため、経済センサスで見る。
| 市町村 | 理容業 | 従業者 | 美容業 | 従業者 |
|---|---|---|---|---|
| 釧路市 | 195 | 358 | 288 | 526 |
| 釧路郡釧路町 | 20 | 36 | 34 | 72 |
| 厚岸町 | 12 | 21 | 14 | 16 |
| 浜中町 | 8 | 11 | 8 | 12 |
| 標茶町 | 8 | 13 | 6 | 8 |
| 弟子屈町 | 10 | 14 | 15 | 18 |
| 鶴居村 | 1 | 1 | 2 | 2 |
| 白糠町 | 10 | 18 | 18 | 28 |
| 管内の合計 | 264 | 385 |
管内の美容÷理容は1.46倍で、全国の1.87倍より小さい。
標茶町だけ、理容業(8)のほうが美容業(6)より多い。 鶴居村は理容業1・美容業2で、従業者はそれぞれ1人・2人である。
理容業は全国1,889市区町村のうち1,862に、美容業は1,857にある(X001)。どちらも、ほとんどの市区町村にある商売である。
4. 考察
4-1 なぜ美容だけ1.7倍ずれるのか
I006 以来の突き合わせで見てきた「ずれ方の型」に当てはめると、美容の1.710倍は「事業所として捕捉されていない」型にあたる。
考えられるのは、自宅の一室での開業、席だけを借りる形(面貸し)、出張のみの営業である。これらは保健所に美容所として届け出る必要があるが、経済センサスが事業所として拾いにくい。
ただしこれは仮説であり、第10表からは確かめられない。 第10表には開業の形態を分ける欄が無い。
理容の1.241倍がそれより小さいことは、この仮説と向きは合う。理容は店舗を構える形が相対的に多いということになるが、これも確かめていない。
時点差(3年10か月)も効いている可能性がある。だが時点差はどちらにも同じだけかかるので、理容と美容でずれ方が違う理由にはならない。
4-2 日本でもっとも小さい商売のひとつ
1施設あたり理容1.80人、美容2.12人。全産業の11.80人に対して6分の1以下である。
この規模では、人を雇うという段階に入らない店が多い。 X002 で見たとおり最低賃金の地域差は1.198倍だが、そもそも雇っていなければ最低賃金は効かない。
一方で、地価の地域差は87.4倍である(X002)。1施設あたり2人の商売にとって、費用の中心は人件費ではなく、店を構える場所のほうに寄る。
もっとも東京都の美容所でも1施設あたり3.13人にとどまる。大きくしていく商売ではないということが、47都道府県すべてで一貫している。
4-3 高齢な県ほど、人口あたりの店が多い
理容所の10万人あたりと高齢化率の相関は +0.792 で強い。美容所も +0.723 である。
読み方は少なくとも2つある。
- 客の側:高齢な地域ほど、髪を切りに来る頻度や店の使い方が違う
- 店の側:高齢な地域ほど、古くからの店が閉じずに残っている
どちらかはこの数字では決まらない。 ただし、1施設あたりの人数が高齢な県ほど少ない(鹿児島1.37・愛媛1.34・沖縄1.21)ことは、2の向きとも合う。
R001 で見た「人口が少ない市区町村ほど人口あたりの事業所が多い」、X002 で見た「最低賃金が低い県ほど人口あたりの事業所が多い」(r = −0.537)と、同じ向きの話である。
4-4 美容÷理容が、その地域の何を映すか
全国2.57倍に対して、東京都3.90倍・秋田県1.39倍。上と下で2.80倍ある。
高齢化率との相関は −0.668 で、高齢な県ほど理容所の割合が高い。
ここで注意すべきは、美容÷理容が小さいことは「美容所が少ない」ことを意味しないという点である。秋田県は人口10万人あたりの美容所が326.0で全国2位に多い。理容所が233.9で全国1位にもっと多いから、比が小さくなる。
秋田県は、理容所も美容所も全国でいちばん多いほうの県である。
4-5 閉鎖命令0件が意味すること
385,747施設に対して閉鎖命令は0件だった。
これは「違反が無かった」ことを示すものではない。 閉鎖命令は行政処分のなかでもっとも重いもので、そこに至る前の指導・改善で終わる。I014 で見たとおり、医薬品の販売でも処分2,633件のうち取消・停止は6件(0.063%)、告発は0件だった。
理容・美容の衛生規制は、閉鎖命令という形では動いていない。 使用確認(理容1,305件・美容12,433件)が、実際に行政が施設に接する主な場面である。
4-6 釧路で店を開くということ
釧路管内は理容業264・美容業385で、比は1.46倍。全国の1.87倍より小さく、北海道の1.97倍(衛生行政報告例)よりも小さい。
標茶町は理容業8に対して美容業6で、管内で唯一、理容のほうが多い。 鶴居村は両方あわせて3事業所、従業者3人である。
一方で、理容業は1,889市区町村のうち1,862に、美容業は1,857にある。 これは X001 で見た「1事業所あたりが小さい商売ほど、多くの市区町村にある」(r = −0.417)の、もっともはっきりした例である。
人口がどれだけ減っても、髪を切る店はほぼ最後まで残る。 ただし R005 の計算では、釧路管内は8市町村すべてで2050年までに人口が3割以上減り、白糠町は0.39になる。残るかどうかと、何人でやれるかは別の問題である。
5. 限界
- 衛生行政報告例は令和6年度末、経済センサスは令和3年6月1日。時点が3年10か月ちがう
- 衛生行政報告例は施設を数え、経済センサスは事業所を数える。数える単位が違う
- 従業理容師・美容師数は免許を持つ人で、経済センサスの従業者には受付なども入る
- 衛生行政報告例に市区町村別の表は無い。釧路管内は経済センサスで見ている
- 理容所・美容所を重ねて開いている施設(381)は、二重に数えていない(第10表の注1)
- 「使用確認」は新しく使ってよいか確かめた件数で、立入検査でも取り締まりでもない
- 美容のずれが大きい理由(自宅開業・面貸し・出張)は仮説であり、この表では確かめられない
- 売上・利益は見ていない。施設の数と人の数だけである
- 相関は関係の強さの目安で、原因と結果の向きは示さない
6. 再現の手順
- e-Stat で衛生行政報告例 令和6年度の第10表(生活衛生、理容−美容所)を落とす(CP932)
- 全国の行と、北海道から沖縄県までの47行を取る(「指定都市(再掲)」より下は使わない)
- 経済センサス 令和3年 第9-1A表・第9-1B表から、産業小分類 782 理容業・783 美容業を取る
- 施設数 ÷ 事業所数、従業理容師数 ÷ 従業者数をそれぞれ出す
- 人口10万人あたりの理容所・美容所と、美容所 ÷ 理容所を都道府県ごとに出す
- 高齢化率・人口(対数)との相関を出す
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_206)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
この論文の位置づけ
新しい理論を主張するものではない。衛生行政報告例の第10表を数え、経済センサスの理容業・美容業と突き合わせただけである。理容の1.241倍に対して美容が1.710倍ずれること、1施設あたりが1.80人・2.12人であること、美容÷理容が東京3.90から秋田1.39まで開くこと、閉鎖命令が0件であることを示した。美容のずれが大きい理由については仮説を挙げたが、この表では確かめられない。相関は示したが、原因と結果の向きは示していない。
参考文献・データの出典
- 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度、第10表(生活衛生)
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」令和3年、第9-1A表・第9-1B表
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
- 山岸勇輝「宿の数は、統計によって13.7倍ちがう」(I006)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876047
- 山岸勇輝「薬をネットで売る店は11,910(12.8%)」(I014)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877337
- 山岸勇輝「その商売は、1事業所あたり何人か」(X001)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877856
- 山岸勇輝「賃金は1.20倍、物価は1.08倍、所得は1.85倍、地価は87.4倍」(X002)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877924
- 山岸勇輝「2050年、その町から何分類が消えるか」(R005)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877595
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-21 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「理容所107,995、美容所277,752、美容だけ、統計が1.7倍ずれる [I015]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22878037
(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)
© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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書誌
山岸勇輝(2026)「理容所107,995、美容所277,752」[I015]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22878037
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 理容所107,995、美容所277,752 [I015]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I015 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22878037
Yamagishi, Y. (2026). 107,995 Barbershops and 277,752 Beauty Salons: Only Beauty Is Off by 1.7-fold Between Statistics [I015]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I015; DOI: 10.5281/zenodo.22878037
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