要旨
ルジャンドル記号 $(d\mid p)$ の定義は「$d$ を $p$ で割った余りが平方数か」を問う。ところが相互法則の答は、$p$ を別の数で割った余りだけで決まる。本稿はその「別の数」を全数探索で測り、それが判別式であることを確かめ、二つの補充則の $4$ と $8$ が同根であることを示す。新しい数学定理は主張しない。ガウス以来の標準的内容である。
第一に、法則そのものを定義から検算した。$300$ 未満の奇素数の全対 $1830$ 組で $(p\mid q)(q\mid p)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}$ は破れゼロ、二つの補充則も破れゼロである(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。$20000$ 未満の素数について、$(d\mid p)$ が $p \bmod m$ だけで決まるような最小の $m$ を全数探索で測った。十六個の $d$ すべてで、最小の $m$ はちょうど $|\mathrm{disc}(d)|$ に一致した(第3節)。
第三に、分離子は $d \bmod 4$ である。$4|d|$ は常に周期だが、最小とは限らない。$d\equiv 1 \pmod 4$ のとき真の法はその四分の一である($d=5$ で $20$ ではなく $5$、$d=13$ で $52$ ではなく $13$)。法は都合で選ばれた数ではなく、強制された数である(第4節)。
第四に、第一補充則の $4$ と第二補充則の $8$ は、二つの理由ではなく一つである。どちらも $|\mathrm{disc}|$ であり、$d=-1$ で $4$、$d=2$ で $8$、$d=-2$ で $8$ になる(測定値)。本体系は根を分けることが多いが、ここでは分かれて見えていた二つを束ねる(第5節)。
第五に、それでも法則は根を与えない。相互法則は $p=10^9+7$ で $5$ 手で可否を答えるが、平方根そのものは $30$ 手を要し、しかもトネリ=シャンクスは非剰余を一つ見つけるところから始まる。個数は定理が言い、一つを名指すのは探索である(第6節)。
射程(何を示さないか)
本稿の射程:新しい数学定理は主張しない。平方剰余の相互法則、判別式が導手であること、ディリクレ指標としての定式化は、いずれも標準的である。また本稿は法則を証明しない。示すのは測定であって証明ではない。加えたのは最小の周期を全数探索で測り、判別式と一致することを確かめたこと、$4|d|$ が四倍過剰になる場合を分離子つきで示したこと、二つの補充則の $4$ と $8$ を同根と確認したことである。同根の確認は本体系では稀で、論文31・論文142 に次いで三度目にあたる。
1. 記法と位置づけ
奇素数 $p$ と $p$ で割れない整数 $d$ に対し、ルジャンドル記号 $(d\mid p)$ を、$d$ が $p$ を法として平方剰余なら $+1$、そうでなければ $-1$ と定める。平方因子を持たない $d$ の判別式を、$d\equiv 1\pmod 4$ のとき $\mathrm{disc}(d)=d$、それ以外のとき $\mathrm{disc}(d)=4d$ と書く。本稿の記号はすべてオイラーの規準 $(d\mid p)\equiv d^{(p-1)/2} \pmod p$ で計算した。相互法則を一度も使わずに、である。
位置づけ:論文86 は量が「決まっている」ことの四つの根を点呼し、論文147 は$4\pi$ が次元ではなく周期であると書いた。本稿の法もまた周期であり、そして選ばれていない。
2. 法則そのものを、定義から検算する
検算 2.1:$300$ 未満のすべての奇素数の対について、記号をオイラーの規準で計算し、法則の両辺を比べた。
| 主張 | 調べた個数 | 破れ |
|---|---|---|
| $(p\mid q)(q\mid p)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}$ | $1830$ 対 | $\mathbf{0}$ |
| $(-1\mid p)=(-1)^{(p-1)/2}$ | $61$ 個 | $\mathbf{0}$ |
| $(2\mid p)=(-1)^{(p^2-1)/8}$ | $61$ 個 | $\mathbf{0}$ |
(証明終)
観察 2.2 ここで、定義が何を見ているかに注意したい。$(d\mid p)$ の定義は「$d$ を $p$ で割った余り」を見る。$p$ を何かで割る、という操作は定義のどこにも現れない。ところが上の右辺は、$p$ を $4$ で割った余りと $q$ を $4$ で割った余りだけで書かれている。
3. 芯:最小の周期を測る
検算 3.1:平方因子を持たない各 $d$ について、$20000$ 未満の素数 $p$($2$ と $d$ を割るものを除く)の記号をすべて計算し、$(d\mid p)$ が $p \bmod m$ だけで決まるような最小の $m$ を、$m=1$ から順に全数探索した。
| $d$ | $d \bmod 4$ | 最小の $m$ | $|\mathrm{disc}(d)|$ | $4|d|$ |
|---|---|---|---|---|
| $-1$ | $3$ | $4$ | $4$ | $4$ |
| $2$ | $2$ | $8$ | $8$ | $8$ |
| $-2$ | $2$ | $8$ | $8$ | $8$ |
| $3$ | $3$ | $12$ | $12$ | $12$ |
| $-3$ | $1$ | $\mathbf{3}$ | $3$ | $12$ |
| $5$ | $1$ | $\mathbf{5}$ | $5$ | $20$ |
| $-5$ | $3$ | $20$ | $20$ | $20$ |
| $6$ | $2$ | $24$ | $24$ | $24$ |
| $7$ | $3$ | $28$ | $28$ | $28$ |
| $13$ | $1$ | $\mathbf{13}$ | $13$ | $52$ |
| $17$ | $1$ | $\mathbf{17}$ | $17$ | $68$ |
| $-7$ | $1$ | $\mathbf{7}$ | $7$ | $28$ |
| $-11$ | $1$ | $\mathbf{11}$ | $11$ | $44$ |
| $21$ | $1$ | $\mathbf{21}$ | $21$ | $84$ |
| $29$ | $1$ | $\mathbf{29}$ | $29$ | $116$ |
| $-19$ | $1$ | $\mathbf{19}$ | $19$ | $76$ |
十六個すべてで、最小の $m$ は $|\mathrm{disc}(d)|$ にちょうど一致した。(証明終)
観察 3.2 定義は $d$ を $p$ で割り、定理は $p$ を判別式で割る。定義のどこにも、答が $p$ について周期的であるべき理由は書かれていない。相互法則とは、この周期性の主張である。どちらの側で割るかが入れ替わること、それが「相互」という語の指しているものである。
観察 3.3 周期があること自体が、法則の中身である。周期の値は、その次に来る問いにすぎない。
4. 分離子は $d \bmod 4$ である
検算 4.1:上の表から、$4|d|$ と最小の $m$ の比を取る。
| $d \bmod 4$ | 例 | $4|d| \div$ 最小の $m$ |
|---|---|---|
| $1$ | $-3,\,5,\,13,\,17,\,-7,\,-11,\,21,\,29,\,-19$ | $\mathbf{4}$ |
| $2$ または $3$ | $-1,\,2,\,-2,\,3,\,-5,\,6,\,7$ | $1$ |
(証明終)
観察 4.2 $4|d|$ は常に周期である。だが最小とは限らない。$d\equiv 1\pmod 4$ のときだけ、真の法はその四分の一に落ちる。動かすと動くものは $d \bmod 4$ であって、$d$ の大きさでも符号でもない。
観察 4.3 したがって法は「都合よく選ばれた数」ではない。$4$ を掛けるかどうかを決めているのは $d \bmod 4$ であり、そこに選択の余地はない。論文95 の言葉でいえば、これは規約ではなく事実の側にある。
5. $4$ と $8$ は、二つの理由ではなく一つである
観察 5.1 第一補充則は $p \bmod 4$ についての主張であり、第二補充則は $p \bmod 8$ についての主張である。二つの違う数が、二つの違う理由で現れているように見える。
検算 5.2:測定値を並べる。
| $d$ | 最小の $m$(測定) | $|\mathrm{disc}(d)|$ | 対応する補充則 |
|---|---|---|---|
| $-1$ | $\mathbf{4}$ | $4$ | 第一 |
| $2$ | $\mathbf{8}$ | $8$ | 第二 |
| $-2$ | $\mathbf{8}$ | $8$ | 二つの積 |
さらに $20000$ 未満のすべての奇素数で $(2\mid p)$ を $p\bmod 8$ ごとに集めると、$p\equiv 1,7$ では常に $+1$、$p\equiv 3,5$ では常に $-1$ であり、一つの類の中で値が割れた例は一つもなかった。(証明終)
観察 5.3 $4$ と $8$ は同根である。どちらも $|\mathrm{disc}|$ であり、違うのは $d$ の値だけである。二つの補充則は二つの定理ではなく、一つの主張を $d=-1$ と $d=2$ で読んだものである。
観察 5.4 本体系は「一語・別根」を言うことが多い。ここではその逆をしている。別々に見えていた二つの数に、一つの住所を与えた。論文31 が立体角の $\pi$ とガウス積分の $\pi$ を同根と確かめ、論文142 がウンルーとホーキングの $2\pi$ を同根と確かめたのに続いて、これが三度目である。
6. それでも、法則は根を与えない
検算 6.1:相互法則によるヤコビ記号の計算(べき乗を一度も使わない)と、トネリ=シャンクスによる平方根の構成を、同じ素数で並べる。
| $p$ | $p \bmod 8$ | 可否の判定 | 平方根の構成 |
|---|---|---|---|
| $1000003$ | $3$ | $4$ 手 | $20$ 手 |
| $10000019$ | $3$ | $7$ 手 | $24$ 手 |
| $100000007$ | $7$ | $6$ 手 | $27$ 手 |
| $1000000007$ | $7$ | $\mathbf{5}$ 手 | $\mathbf{30}$ 手 |
いずれも $x^2\equiv a \pmod p$ を満たすことを確かめた。(証明終)
観察 6.2 隔たりは手数だけではない。トネリ=シャンクスは、まず非剰余を一つ見つけるところから始まる。そして $2,3,5,\dots$ と順に試す以外の方法を持たない。
検算 6.3:$1$ から $199$ までに非剰余がいくつあるかを数える。
| $p$ | $1..199$ の非剰余の個数 | 最小の非剰余 |
|---|---|---|
| $1000003$ | $105$ | $2$ |
| $10000019$ | $99$ | $2$ |
| $100000007$ | $97$ | $\mathbf{5}$ |
(証明終)
観察 6.4 個数は定理が言う。非零の $p-1$ 類のうちちょうど半数が非剰余である。だが定理はそのうちの一つも名指さない。数えるのは定理であり、一つ産むのは探索である。最小の非剰余を決定的に多項式時間で出す方法は知られていない。
観察 6.5 論文163 が「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」を分けたのと同じ形である。相互法則は「在るか」に答え、「どれか」には答えない。論文25 が「解けない」を三つに分けたときと同じく、ここでも許した道具が分離子になっている。
7. 点呼
観察 7.1
| 文 | 何で割るか | 動かすと動くもの | 住所 |
|---|---|---|---|
| $(d\mid p)$ の定義 | $d$ を $p$ で | $d$ | $p$ ごとに計算 |
| 相互法則 | $p$ を $|\mathrm{disc}(d)|$ で | $d \bmod 4$ | 周期=判別式 |
| 第一補充則 | $p$ を $4$ で | $d=-1$ | $|\mathrm{disc}(-1)|=4$ |
| 第二補充則 | $p$ を $8$ で | $d=2$ | $|\mathrm{disc}(2)|=8$ |
| 平方根の構成 | 、 | 許した道具 | 探索であって定理ではない |
観察 7.2 定義と定理は違うものを見ている。補充則の $4$ と $8$ は一つの根であり、法は選ばれていない。そして可否を知ることと、根を持つことは、最後まで別のままである。
8. 結論
- 法則と二つの補充則を定義から検算した(検算2.1):$1830$ 対、破れ $0$。
- 最小の周期は判別式である(検算3.1):十六個の $d$ すべてで $m=|\mathrm{disc}(d)|$。
- 分離子は $d \bmod 4$(検算4.1):$d\equiv 1$ のとき $4|d|$ は四倍過剰。
- 補充則の $4$ と $8$ は同根(検算5.2):どちらも $|\mathrm{disc}|$。
- 法則は根を与えない(検算6.1・6.3):$5$ 手対 $30$ 手、そして非剰余は探索でしか出てこない。
結び:定義は $d$ を $p$ で割る。定理は $p$ を判別式で割る。割る向きが入れ替わることに驚けるかどうかが、この法則を読めたかどうかの分かれ目であり、$4$ と $8$ という二つの数が実は一つだったことは、その驚きのささやかな配当である。
参考文献
- Gauss, C. F. (1801). Disquisitiones Arithmeticae. Leipzig: Gerhard Fleischer.
- Legendre, A.-M. (1798). Essai sur la théorie des nombres. Paris: Duprat.
- Dirichlet, P. G. L. (1837). Beweis des Satzes, dass jede unbegrenzte arithmetische Progression, deren erstes Glied und Differenz ganze Zahlen ohne gemeinschaftlichen Factor sind, unendlich viele Primzahlen enthält. Abhandlungen der Königlich Preussischen Akademie der Wissenschaften.
- Tonelli, A. (1891). Bemerkung über die Auflösung quadratischer Congruenzen. Göttinger Nachrichten.
- Shanks, D. (1973). Five number-theoretic algorithms. Proceedings of the Second Manitoba Conference on Numerical Mathematics.
- Ireland, K., & Rosen, M. (1990). A Classical Introduction to Modern Number Theory (2nd ed.). New York: Springer.
- 山岸勇輝 (2026). 等号にも別根がある [論文16] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21600471
- 山岸勇輝 (2026). 「解けない」は三つの別根を持つ [論文25]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22090297
- 山岸勇輝 (2026). 次元を持たない $\pi$ [論文31]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22090430
- 山岸勇輝 (2026). 必然性の四つの根 [論文86]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21744839
- 山岸勇輝 (2026). 規約と事実を分ける [論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
- 山岸勇輝 (2026). 動かすと、$2\pi$ だけが残る [論文142]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082281
- 山岸勇輝 (2026). 同じ $H^2$ でも、係数が違えば量子化しない [論文147]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22083144
- 山岸勇輝 (2026). 同じ指標表を持ちながら、同型でない [論文152]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22084202
- 山岸勇輝 (2026). 「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」は、別の文である [論文163]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092677
- 山岸勇輝 (2026). 「等価原理」は三つある [論文165]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092957
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「定義は d を p で割り、定理は p を判別式で割る」[論文166]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22093052
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 定義は d を p で割り、定理は p を判別式で割る [論文166]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/166 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22093052
Yamagishi, Y. (2026). The Definition Divides d by p; the Theorem Divides p by the Discriminant [Paper 166]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/166; DOI: 10.5281/zenodo.22093052
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