要旨
太陰太陽暦は、月の満ち欠けで月を数えながら季節に合わせるために、ときどき閏月を入れる。本稿は、$19$ 年に $235$ か月を置くメトン周期が年と月の比の連分数からどう出るかを確かめ、そのうえで日を整数にそろえると外れがどう変わるかを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、$235/19$ は年と月の比の近似分数である。回帰年 $365.24219$ 日を朔望月 $29.530589$ 日で割ると $12.368266342$ で、連分数の近似分数は $12/1$・$25/2$・$37/3$・$99/8$・$136/11$・$235/19$・$4131/334$ と続いた。分母 $19$ 以下の総当たりでも $235/19$ が最良だった(第2節)。
第二に、$235$ か月と $19$ 年は $0.086805$ 日しか違わない。八年周期の $99/8$ では $1.5908$ 日違い、メトン周期のずれが $1$ 日に積もるのは $218.881$ 年だった。閏月は $19$ 年に $7$ 回である(第2節)。
第三に、日まで合わせると外れは大きくなる。$235$ か月に最も近い整数の日 $6940$ 日との差は $\mathbf{0.311585}$ 日で、年と月の外れの $\mathbf{3.589482}$ 倍だった。$19$ 年に最も近い整数の日との差は $0.398390$ 日である(第3節)。
第四に、カリポス周期は、日を合わせ直す周期である。$76$ 年・$940$ か月を $6940$ 日の $4$ 倍から $1$ 日引いた $27759$ 日に置くと、月との差は $\mathbf{0.246340}$ 日、年との差は $0.593560$ 日になった(第3節)。
第五に、分離子は、合わせる時計が二つか三つかである。年と月の二つなら連分数の近似分数が最良の周期を選ぶ。日を三つ目の時計として加えると、分母が整数の日という別の条件を満たさねばならず、近似分数はその面倒を見ない(第4節)。
キーワード:メトン周期、朔望月、回帰年、連分数、近似分数、太陰太陽暦。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。連分数の近似分数が最良近似を与えること、メトン周期、カリポス周期、八年周期は、いずれも標準的である。アンティキティラの機構を解読しない。歯車の歯数や目盛りの読み方の説には立ち入らない。機構が暦の周期を刻んだことは、名前を挙げるにとどめる。歴史を裁かない。どの暦がいつ使われたか、誰が周期を見つけたかは扱わない。長さは平均の代表値である。回帰年 $365.24219$ 日、朔望月 $29.530589$ 日を使い、潮汐による変化や一か月ごとの揺らぎは入れない。既刊との関係:論文319 の射程注記は、太陰暦・太陰太陽暦などの他の暦を扱わないと書いた。本稿はその太陰太陽暦の席に座る(先客なし)。論文539 は、ホイヘンスの惑星儀の歯数が土星と地球の周期の比の連分数の近似分数であることを示した。ここでは同じ道具を年と月の比に当て、時計が三つになると近似分数だけでは決まらないことを数える。論文812 は、近似のしやすさを決めるのが部分商が有界か非有界かであることを示した。ここでは年と月の比の部分商に $17$ が現れ、その直前の近似分数 $235/19$ がとくによく合うことを見る。論文406 は、同じ面が見えることが月の自転の証拠であることを示した。ここでは月の満ち欠けの周期である朔望月だけを使う。加えたのは、年と月の比の連分数と近似分数を並べたこと、分母 $19$ 以下で $235/19$ が最良であることを総当たりで確かめたこと、整数の日に合わせた外れが年と月の外れの $3.589482$ 倍であることを出したこと、カリポス周期の日の合わせ直しを数えたこと、分離子を「合わせる時計が二つか三つか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:回帰年を $Y$、朔望月を $M$ とし、その比 $r=Y/M$ を連分数に開く。近似分数 $h/k$ は「$k$ 年に $h$ か月」を表し、そのずれは $hM-kY$ 日である。
$$r=\frac{Y}{M}=12+\cfrac{1}{2+\cfrac{1}{1+\cfrac{1}{2+\cdots}}},\qquad \Delta=hM-kY$$
検算では $Y=365.24219$ 日・$M=29.530589$ 日を使い、分母 $19$ 以下の分数を総当たりで比べ、整数の日との差も出した。
問い:$19$ 年に $235$ か月はどこから来て、日までそろえると外れはどう変わるか。
2. 年と月
計算 2.1:$r=12.368266342$ の部分商は $[12; 2,1,2,1,1,17,3,14]$ だった。近似分数ごとの年と月のずれ。
| 近似分数(月/年) | 年(日) | 月(日) | ずれ(日) |
|---|---|---|---|
| $12/1$ | $365.2422$ | $354.3671$ | $-10.8751$ |
| $25/2$ | $730.4844$ | $738.2647$ | $+7.7803$ |
| $37/3$ | $1095.7266$ | $1092.6318$ | $-3.0948$ |
| $99/8$ | $2921.9375$ | $2923.5283$ | $+1.5908$ |
| $136/11$ | $4017.6641$ | $4016.1601$ | $-1.5040$ |
| $235/19$ | $6939.6016$ | $6939.6884$ | $+0.0868$ |
| $4131/334$ | $121990.8915$ | $121990.8632$ | $-0.0283$ |
| $12628/1021$ | $372912.2760$ | $372912.2779$ | $+0.0019$ |
分母 $19$ 以下で $|h-kr|$ が最小の分数は $235/19$($0.002939$ か月)だった。メトン周期のずれは $+0.086805$ 日で、$1$ 日に積もるのは $218.881$ 年である。閏月は $235-12\times19=7$ 回。
観察 2.2 $235/19$ は、年と月の比の近似分数である。部分商に $17$ が現れる直前で打ち切った分数なので、分母のわりによく合う。分母とずれの積 $k|h-kr|$ は $235/19$ で $0.055850$ と、ほかの近似分数($0.314397$〜$0.560227$)より一桁小さく、$1/17=0.058824$ に近かった。年と月の二つの時計だけなら、連分数が最良の周期を選んでいる。
3. 日を加える
計算 3.1:整数の日との差。
| 比べるもの | 差(日) |
|---|---|
| $235$ か月と $19$ 年 | $+0.086805$ |
| $6940$ 日と $235$ か月 | $+0.311585$ |
| $19$ 年に最も近い整数の日との差 | $+0.398390$ |
整数の日に合わせた外れは、年と月の外れの $\mathbf{3.589482}$ 倍だった。
計算 3.2:カリポス周期($76$ 年・$940$ か月・$27759$ 日)。$940$ か月は $27758.753660$ 日、$76$ 年は $27758.406440$ 日で、$27759$ 日との差は月で $\mathbf{0.246340}$ 日、年で $0.593560$ 日だった。
観察 3.3 日まで合わせると、外れは年と月だけのときより大きくなる。年と月は $0.086805$ 日で合うが、その周期の長さは整数の日から $0.311585$ 日離れている。メトン周期を $4$ 回重ねた $27760$ 日から $1$ 日引くカリポス周期は、その日の外れを月に対して $0.246340$ 日まで戻す。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、合わせる時計が二つか三つかである。年と月の二つなら、比の連分数の近似分数が分母ごとに最良の周期を選び、$19$ 年では $235/19$ だった。日を三つ目の時計として加えると、周期の長さが整数の日になるという別の条件がつき、近似分数はその条件を見ていない。そのため外れは $3.589482$ 倍になった。
観察 4.2 言わないこと。アンティキティラの機構の歯数、暦の歴史、回帰年と朔望月の長さの変化は扱わない。示したのは、メトン周期が年と月の近似分数であり、日を加えると外れが別に生じることである。
5. 点呼と結び
- $r=12.368266342$(計算 2.1):年÷月。
- $235/19$ は近似分数・分母 $19$ 以下で最良(計算 2.1):連分数が選ぶ。
- 年と月のずれ $0.086805$ 日(計算 2.1):$218.881$ 年で $1$ 日。
- 整数の日との差 $\mathbf{0.311585}$ 日(計算 3.1):$\mathbf{3.589482}$ 倍。
- カリポス周期で $\mathbf{0.246340}$ 日(計算 3.2):日の合わせ直し。
- 時計が二つか三つか(観察 4.1):分離子・論文319 の射程注記・論文539・812・406。
結び:メトン周期は年と月の連分数が選んだ $19$ 年で、整数の日まで合わせると外れは三倍半を超える。年と月の比 $12.368266342$ の近似分数に $235/19$ があり、分母 $19$ 以下では最良で、ずれは $0.086805$ 日だった。ところが $6940$ 日との差は $0.311585$ 日で、年と月の外れの $3.589482$ 倍だった。カリポス周期は $1$ 日を引いて、月に対する外れを $0.246340$ 日に戻す。年と月の二つなら近似分数が周期を選ぶが、日を加えると整数の日という別の条件がつく。分離子は、合わせる時計が二つか三つかである。既刊との位置:論文319 が扱わなかった太陰太陽暦を、論文539 の歯数と同じ連分数で開き、論文812 の部分商の大きさを年と月の比の中に見た。正直に言えば、機構を解読したわけではない。三つの時計を同時に合わせる難しさを、一つの数に置いた、そこまでである。
参考文献
- Freeth, T., et al. (2006). Decoding the ancient Greek astronomical calculator known as the Antikythera Mechanism. Nature.
- Neugebauer, O. (1975). A History of Ancient Mathematical Astronomy. Springer.
- 山岸勇輝 (2026). 『暦は、近似を三段重ねたものである』[論文319]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/319 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22208933
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ面が見えていることが、月が自転している証拠である』[論文406]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/406 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699455
- 山岸勇輝 (2026). 『歯数を決めたのは天文ではなく、連分数である』[論文539]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/539 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014129
- 山岸勇輝 (2026). 『近似のしやすさを決めているのは、部分商が有界か非有界かである』[論文812]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/812 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23015472
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「メトン周期は年と月の連分数が選んだ 19 年で、整数の日まで合わせると外れは三倍半を超える」[論文916]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/916
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). メトン周期は年と月の連分数が選んだ 19 年で、整数の日まで合わせると外れは三倍半を超える [論文916]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/916
Yamagishi, Y. (2026). The Metonic Cycle Is a Convergent of Year over Month, and Fitting Whole Days Too Makes the Miss Over Three and a Half Times Larger [Paper 916]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/916
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