要旨
音は空気の圧力の揺れであり、同時に空気が前後に揃って動くことでもある。本稿は、音圧の基準 $20$ μPa(実効値)の音で空気が揃って動く幅と速さを、周波数と音圧を動かして数え、原子の大きさと、分子のばらばらの動き(熱)と比べる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、千ヘルツでは、空気が揃って動く幅は水素原子の半径より小さい。$20$ ℃の空気(特性インピーダンス $413.2128$ Pa·s/m)で、$20$ μPa・$1$ kHz の変位の実効値は $7.7033\times10^{-12}$ m で、水素原子の半径(ボーア半径)の $\mathbf{0.145571}$ 倍だった(第2節)。
第二に、それは分子が一回ぶつかるまでに進む道のりの一万分の一の桁である。代表値から出した平均自由行程は $6.5673\times10^{-8}$ m で、変位はその $1.1730\times10^{-4}$ 倍だった。揃って動く速さは $4.8401\times10^{-8}$ m/s で、分子の平均の速さ $462.8687$ m/s の $1.0457\times10^{-10}$ 倍である(第2節)。
第三に、同じ音圧なら、低い音ほど大きく動く。変位は周波数に反比例し、$20$ Hz では $3.8516\times10^{-10}$ m(ボーア半径の $7.278559$ 倍)、$20$ kHz では $3.8516\times10^{-13}$ m だった。速さを積分して出した変位は、式と比 $1.000000000$ で一致した(第3節)。
第四に、音圧を百万倍にしても、動く幅は原子の大きさの百万倍にとどまる。$120$ dB($20$ Pa)の $1$ kHz の変位は $7.7033\times10^{-6}$ m で、強さは $10^{12}$ 倍、変位は $10^{6}$ 倍だった(第3節)。
第五に、分離子は、たくさんの分子の揃った動きを見るか、分子一つの動きを見るかである。分子一つは毎秒数百メートルでばらばらに飛び、平均自由行程ごとに向きを変える。聞こえる音はその平均がわずかに揃って偏った動きで、揃った動きの幅は分子一つの道のりよりずっと小さい(第4節)。
キーワード:音圧、粒子速度、空気の変位、平均自由行程、ボーア半径、特性インピーダンス。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。平面音波の音圧と粒子速度と変位の関係、空気の特性インピーダンス、気体分子運動論の平均自由行程と平均の速さは、いずれも標準的である。聴覚を論じない。耳がどう感じるか、聞こえる最小の音圧が周波数でどう変わるかは扱わない。$20$ μPa は基準の値で、それをすべての周波数に当てて数える。鼓膜を計算しない。数えるのは自由空間を進む平面波の空気の変位で、耳の中の変位ではない。値は代表値である。空気の密度 $1.204$ kg/m³・音速 $343.2$ m/s・温度 $293.15$ K・分子の有効直径 $3.7\times10^{-10}$ m を使う。雑音と閾値を結びつけない。分子の熱の動きが聞こえる最小の音を決めるとは言わない。揃った動きとばらばらの動きの大きさを並べるだけである。既刊との関係:論文276 は、デシベルが比であって量ではないことを示した。ここでは、その比の基準 $20$ μPa が空気をどれだけ動かすかを、長さと速さの量に戻して数える。論文456 は、うるささを半分にするのに距離を倍にしても足りないことを示した。ここでは距離ではなく周波数と音圧を動かし、空気が動く幅を数える。加えたのは、基準の音圧で空気が動く幅を原子の半径と比べたこと、その幅と速さを平均自由行程と分子の平均の速さと比べたこと、変位が周波数に反比例することを速さの積分でも確かめたこと、$120$ dB の変位を並べたこと、分離子を「揃った動きか、分子一つの動きか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:平面音波の音圧の実効値を $p$、空気の密度を $\rho$、音速を $c$、周波数を $f$ とすると、空気が揃って動く速さ $u$ と変位 $\xi$ の実効値は次のとおりである。
$$u=\frac{p}{\rho c},\qquad \xi=\frac{u}{2\pi f}=\frac{p}{\rho c\,2\pi f}$$
分子のばらばらの動きは、気体分子運動論の平均自由行程 $\ell=k_BT/(\sqrt2 \pi d^2 P)$ と平均の速さ $\bar v=\sqrt{8k_BT/\pi m}$ で表す。検算では、変位を式からだけでなく、正弦の速さを半周期積分しても出した。
問い:聞こえる最小の音で、空気はどれだけ揃って動くのか。それは分子一つの動きと比べてどれほどか。
2. 基準の音圧での動き
計算 2.1:代表値(密度 $1.204$ kg/m³・音速 $343.2$ m/s・$293.15$ K・分子の有効直径 $3.7\times10^{-10}$ m・ボーア半径 $5.29177\times10^{-11}$ m)で、次のようになった。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 特性インピーダンス $\rho c$ | $413.2128$ Pa·s/m |
| $20$ μPa の強さ | $9.6802\times10^{-13}$ W/m²(基準 $10^{-12}$ の $0.968024$ 倍) |
| 揃って動く速さ | $4.8401\times10^{-8}$ m/s |
| $1$ kHz の変位(実効値) | $7.7033\times10^{-12}$ m(片振幅 $1.0894\times10^{-11}$ m) |
| 平均自由行程 | $6.5673\times10^{-8}$ m |
| 分子の平均の速さ | $462.8687$ m/s |
$1$ kHz の変位はボーア半径の $\mathbf{0.145571}$ 倍、平均自由行程の $1.1730\times10^{-4}$ 倍で、揃って動く速さは分子の平均の速さの $1.0457\times10^{-10}$ 倍だった。
観察 2.2 千ヘルツで聞こえる最小の音のとき、空気が揃って動く幅は水素原子の半径より小さい。その幅は分子が一回ぶつかるまでに進む道のりの一万分の一の桁で、速さは分子の速さの百億分の一の桁である。分子一つの動きの中に、音の動きは見えない。
3. 周波数と音圧を動かす
計算 3.1:$20$ μPa のまま周波数を動かす。
| 周波数 | 変位の実効値(m) | ボーア半径との比 | 平均自由行程との比 |
|---|---|---|---|
| $20$ Hz | $3.8516\times10^{-10}$ | $7.278559$ | $5.8649\times10^{-3}$ |
| $100$ Hz | $7.7033\times10^{-11}$ | $1.455712$ | $1.1730\times10^{-3}$ |
| $1$ kHz | $7.7033\times10^{-12}$ | $0.145571$ | $1.1730\times10^{-4}$ |
| $4$ kHz | $1.9258\times10^{-12}$ | $0.036393$ | $2.9324\times10^{-5}$ |
| $20$ kHz | $3.8516\times10^{-13}$ | $0.007279$ | $5.8649\times10^{-6}$ |
正弦の速さを半周期積分して出した変位は、$20$ Hz・$1$ kHz・$20$ kHz で式と比 $1.000000000$ で一致した。
計算 3.2:$1$ kHz のまま音圧を動かす。
| 音圧レベル | 音圧(Pa) | 変位(m) |
|---|---|---|
| $0$ dB | $2.0000\times10^{-5}$ | $7.7033\times10^{-12}$ |
| $60$ dB | $2.0000\times10^{-2}$ | $7.7033\times10^{-9}$ |
| $120$ dB | $2.0000\times10^{1}$ | $7.7033\times10^{-6}$ |
$120$ dB で強さの比は $10^{12}$、変位の比は $10^{6}$ で、強さの比の平方根が変位の比に一致した。
観察 3.3 同じ音圧なら、低い音ほど大きく動く。変位は周波数に反比例するので、$20$ μPa を $20$ Hz に当てると幅はボーア半径の $7.278559$ 倍になる。それでも平均自由行程の $5.8649\times10^{-3}$ 倍で、$120$ dB でも $1$ kHz の幅は $7.7033\times10^{-6}$ m にとどまる。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、たくさんの分子の揃った動きを見るか、分子一つの動きを見るかである。分子一つは平均 $462.8687$ m/s でばらばらに飛び、$6.5673\times10^{-8}$ m ごとに向きを変える。音はその平均が揃ってわずかに偏った動きで、聞こえる最小の音ではその偏りの幅が原子の半径より小さく、速さは分子の速さの $1.0457\times10^{-10}$ 倍である。
観察 4.2 言わないこと。耳の感じ方、聞こえる最小の音圧の周波数による違い、鼓膜の動き、熱雑音が閾値を決めるかどうかは扱わない。示したのは、基準の音圧で空気が揃って動く幅と速さが、原子と分子の動きに比べてどれほど小さいかである。
5. 点呼と結び
- $u=p/\rho c$・$\xi=u/2\pi f$(第1節):揃った動き。
- $1$ kHz で $7.7033\times10^{-12}$ m・ボーア半径の $\mathbf{0.145571}$ 倍(計算 2.1):原子の半径より小さい。
- 平均自由行程の $1.1730\times10^{-4}$ 倍(計算 2.1):一万分の一の桁。
- 速さは分子の $1.0457\times10^{-10}$ 倍(計算 2.1):わずかな偏り。
- $20$ Hz でボーア半径の $7.278559$ 倍(計算 3.1):周波数に反比例。
- $120$ dB で $7.7033\times10^{-6}$ m(計算 3.2):強さ $10^{12}$・変位 $10^{6}$。
- 揃った動きか、分子一つか(観察 4.1):分離子・論文276・456。
結び:千ヘルツで聞こえる最小の音のとき、空気が揃って動く幅は水素原子の半径より小さい。$20$ μPa・$1$ kHz の変位は $7.7033\times10^{-12}$ m でボーア半径の $0.145571$ 倍、平均自由行程の $1.1730\times10^{-4}$ 倍だった。揃って動く速さは分子の平均の速さの $1.0457\times10^{-10}$ 倍で、変位は周波数に反比例し、$120$ dB でも $1$ kHz で $7.7033\times10^{-6}$ m にとどまった。音は、ばらばらに飛ぶ分子の平均がわずかに揃って偏った動きである。分離子は、たくさんの分子の揃った動きを見るか、分子一つの動きを見るかである。既刊との位置:論文276 が比として扱ったデシベルの基準を長さと速さの量に戻し、論文456 が距離で動かした音を周波数と音圧で動かした。正直に言えば、耳の仕組みは言わない。基準の音で空気がどれだけ動くか、そこまでである。
参考文献
- Kinsler, L. E., Frey, A. R., Coppens, A. B., & Sanders, J. V. (2000). Fundamentals of Acoustics. Wiley.
- 山岸勇輝 (2026). 『デシベルは比であって、量ではない』[論文276]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/276 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22170073
- 山岸勇輝 (2026). 『うるささを半分にするのに、距離を倍にしても足りない』[論文456]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/456 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733038
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「千ヘルツで聞こえる最小の音のとき、空気が揃って動く幅は水素原子の半径より小さい」[論文920]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/920
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/920・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 千ヘルツで聞こえる最小の音のとき、空気が揃って動く幅は水素原子の半径より小さい [論文920]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/920
Yamagishi, Y. (2026). At the Faintest Audible Sound at One Kilohertz, the Air Moves Together by Less Than the Radius of a Hydrogen Atom [Paper 920]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/920
@misc{yamagishi2026yoi920,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {At the Faintest Audible Sound at One Kilohertz, the Air Moves Together by Less Than the Radius of a Hydrogen Atom},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/920},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
f95a3209ef64b89e5e0f6883f47344c876dc33cadb005c80fe07b982084c7292 yamagishi_yoi920_v1_jp.pdf16838838b2785d3cdaa51eca8bc4442a97378b85d44cf3f561a9140ae205ef61 yamagishi_yoi920_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。