【論文933】流れのある槽で増え続けられる境は最大の増え方ではなく流れ込む餌で決まり、産出は境の手前で最大になる

要旨

餌を溶かした液を一定の速さで流し込み、同じ速さで流し出す槽では、菌は増える速さが流れに負けると洗い流される。本稿は、モノーの式に従う菌を流れのある槽に置き、洗い出しの境、定常の菌体の濃さ、単位時間の産出が最大になる流れを式で出し、時間積分で確かめる。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、洗い出しの境は、最大の比増殖速度ではない。最大の比増殖速度 $0.40$ /h・半飽和定数 $0.5$ g/L・収率 $0.5$ の菌に $10.0$ g/L の餌を流し込むと、境の希釈率は流れ込む餌の濃さでの比増殖速度 $\mathbf{0.380952}$ /h だった(第2節)。

第二に、境の手前で菌体は急に減り、境を越えると洗い流される。定常の菌体は希釈率 $0.05$ /h で $4.964286$ g/L、$0.3$ /h で $4.250000$、$0.37$ /h で $1.916667$、$0.38$ /h で $0.250000$ で、境を越えた $0.385$・$0.39$ /h では $0$ だった(第2節)。

第三に、単位時間の産出は、境の八割余りの流れで最大になる。希釈率と菌体の積は $\mathbf{0.312713}$ /h(境の $0.820871$ 倍)で最大 $1.283485$ g/L/h になり、格子の探索とも一致した(第3節)。

第四に、境に近いほど、落ち着くまでの時間が延びる。定常の $1$ パーセント以内に入るまで、希釈率 $0.3$ /h で $65.6$ 時間、$0.37$ /h で $597.4$ 時間、$0.38$ /h で $\mathbf{6060.8}$ 時間かかった。一回目に $600$ 時間で打ち切ったときは、境の近くで定常と合わなかった(第4節)。

第五に、分離子は、最大の比増殖速度と比べるか、流れ込む餌の濃さでの比増殖速度と比べるかである。菌がいちばん速く増えられる速さと比べると、境を $0.40$ /h と読み違える。流れ込む餌では最大まで速く増えられないので、境はそれより低い $0.380952$ /h になる(第5節)。

キーワード:連続培養、ケモスタット、洗い出し、希釈率、モノーの式、産出の最大。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。モノーの式、連続培養の定常と洗い出しの境、産出を最大にする希釈率の式は、いずれも既知である。生態を論じない。赤潮、湖や湾の水の入れ替わり、実際の藻や菌の種類は扱わない。流れのある槽の模型だけを数える。値は代表値である。最大の比増殖速度 $0.40$ /h・半飽和定数 $0.5$ g/L・収率 $0.5$ は論文680 の代表値で、流れ込む餌 $10.0$ g/L は置いた値である。死滅や付着を入れない。菌の死滅、壁への付着、複数の種の競争は入れない。落ち着くまでの時間の式を主張しない。境との差の逆数は目安として並べるだけである。既刊との関係:論文680 の射程注記は、連続培養に立ち入らず、ケモスタットの理論、希釈率と洗い出しは扱わず、回分の一回だけを見ると書いた。本稿はその連続培養の席に座る(先客なし)。論文680 の本文は、回分で基質が尽きるまでの最後の一倍加に半分が入ることを示した。ここでは基質を流し続け、尽きる代わりに流れと増え方がつり合う点を数える。加えたのは、洗い出しの境が流れ込む餌の濃さでの比増殖速度であることを出したこと、定常の菌体を九つの流れで式と積分の両方で出したこと、産出が最大になる流れを式と格子で一致させたこと、境に近いほど落ち着くまでの時間が延びることを数えたこと、分離子を「最大の比増殖速度と比べるか、流れ込む餌での比増殖速度と比べるか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:容積を $1$ とした槽に、濃さ $S_0$ の餌を希釈率 $D$ で流し込み、同じ速さで流し出す。餌の濃さ $S$、菌体 $X$ はモノーの式で次のように動く。

$$\frac{dS}{dt}=D(S_0-S)-\frac{\mu(S)X}{Y},\qquad \frac{dX}{dt}=(\mu(S)-D)X,\qquad \mu(S)=\frac{\mu_{\max}S}{K_s+S}$$

定常では $S^*=K_sD/(\mu_{\max}-D)$、$X^*=Y(S_0-S^*)$ で、$D\ge\mu(S_0)$ なら菌は洗い流される。産出 $DX^*$ が最大になる希釈率は $D_{\text{opt}}=\mu_{\max}\bigl(1-\sqrt{K_s/(K_s+S_0)}\bigr)$ である。検算では $\mu_{\max}=0.40$ /h・$K_s=0.5$ g/L・$Y=0.5$・$S_0=10.0$ g/L とし、菌体 $0.05$ g/L から $20000$ 時間ルンゲ=クッタで積んだ。

問い:流れのある槽で菌が増え続けられる境は何で決まり、産出はどの流れで最大になるか。

2. 洗い出しの境と定常

計算 2.1:境の希釈率は $\mu(S_0)=\mathbf{0.380952}$ /h だった。九つの流れの定常。

希釈率 $D$(/h) 定常の餌(g/L) 定常の菌体(g/L) 積分した菌体 産出 $DX^*$
$0.050000$ $0.071429$ $4.964286$ $4.964286$ $0.248214$
$0.100000$ $0.166667$ $4.916667$ $4.916667$ $0.491667$
$0.200000$ $0.500000$ $4.750000$ $4.750000$ $0.950000$
$0.300000$ $1.500000$ $4.250000$ $4.250000$ $1.275000$
$0.312713$ $1.791288$ $4.104356$ $4.104356$ $1.283485$
$0.370000$ $6.166667$ $1.916667$ $1.916667$ $0.709167$
$0.380000$ $9.500000$ $0.250000$ $0.250000$ $0.095000$
$0.385000$ $10.000000$ $0$ $0.000000$ $0$
$0.390000$ $10.000000$ $0$ $0.000000$ $0$

境より遅い七つの流れで積分した菌体は定常の式と $10^{-6}$ 以内、境より速い二つの流れでは $10^{-6}$ 未満だった。

観察 2.2 洗い出しの境は、最大の比増殖速度ではなく、流れ込む餌の濃さでの比増殖速度である。菌が増えるには流れ出す速さを増える速さで上回らねばならず、いちばん餌の濃いところでも増える速さは $\mu(S_0)$ までしか上がらない。境の手前 $0.38$ /h の菌体は $0.3$ /h の $0.058824$ 倍まで落ちていた。

3. 産出の最大

計算 3.1:産出 $DX^*$ が最大になる希釈率は式で $0.312713$ /h(境の $\mathbf{0.820871}$ 倍)、産出は $1.283485$ g/L/h で、格子の探索では $D=0.3127$ /h で同じ産出だった。

観察 3.2 単位時間の産出は、境の八割余りの流れで最大になる。流れを速くすると一時間に流し出す液は増えるが、境に近づくと菌体の濃さが急に落ちる。二つの兼ね合いで、産出の山は境のだいぶ手前に来る。

4. 落ち着くまでの時間

計算 4.1:定常の菌体の $1$ パーセント以内(洗い流される流れでは $10^{-3}$ g/L 以下)に入り続けるようになった時刻。

希釈率 $D$(/h) 入った時刻(h) 境との差の逆数(h)
$0.05$ $14.6$ −
$0.3$ $65.6$ −
$0.37$ $597.4$ $91.3$
$0.38$ $6060.8$ $1050.0$
$0.385$ $956.0$ $247.1$
$0.39$ $430.3$ $110.5$

一回目に $600$ 時間で打ち切ったときは、$0.38$ /h で菌体が $0.077116$ と定常の $0.25$ に合わず、積分を延ばして一致させた。

観察 4.2 境に近いほど、落ち着くまでの時間が延びる。境の両側で、境に近い流れほど定常に入るまでが長く、$0.38$ /h では $6060.8$ 時間かかった。短い時間で見ると、境の近くの槽はまだ落ち着いておらず、増え続けるか洗い流されるかを読み違えうる。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、最大の比増殖速度と比べるか、流れ込む餌の濃さでの比増殖速度と比べるかである。最大の比増殖速度 $0.40$ /h と比べれば、それより遅い流れなら増え続けられるように見える。流れ込む餌の濃さでは増える速さは $0.380952$ /h までしか上がらず、$0.385$ /h や $0.39$ /h の流れでは洗い流された。産出の山はさらに手前の $0.312713$ /h にある。

観察 5.2 言わないこと。赤潮や湖や湾の生態、実在の菌の値、死滅や付着や種の競争、落ち着くまでの時間の式は扱わない。示したのは、流れのある槽で増え続けられる境が流れ込む餌の濃さで決まり、産出が境の手前で最大になり、境の近くでは落ち着くのが遅いことである。

6. 点呼と結び

  1. モノーの式の連続培養(第1節):流れと増え方。
  2. 境 $\mathbf{0.380952}$ /h(計算 2.1):流れ込む餌での比増殖速度。
  3. $0.38$ /h で菌体 $0.250000$(計算 2.1):境の手前で急に減る。
  4. 産出最大 $\mathbf{0.312713}$ /h・境の $\mathbf{0.820871}$ 倍(計算 3.1):八割余りの流れ。
  5. $0.38$ /h で落ち着くまで $\mathbf{6060.8}$ 時間(計算 4.1):境の近くは遅い。
  6. 最大と比べるか、流れ込む餌と比べるか(観察 5.1):分離子・論文680 の射程注記。

結び:流れのある槽で増え続けられる境は最大の増え方ではなく流れ込む餌で決まり、産出は境の手前で最大になる。最大の比増殖速度 $0.40$ /h の菌に $10.0$ g/L の餌を流すと、洗い出しの境は $0.380952$ /h で、それを越えた流れでは菌は洗い流された。単位時間の産出は境の $0.820871$ 倍の $0.312713$ /h で最大になり、境の手前 $0.38$ /h では落ち着くまで $6060.8$ 時間かかった。最大の増え方と比べると、境を読み違える。分離子は、最大の比増殖速度と比べるか、流れ込む餌の濃さでの比増殖速度と比べるかである。既刊との位置:論文680 が回分の一回だけを見て立ち入らなかった連続培養を、同じ代表値で流れのある槽として数えた。正直に言えば、海や湖で何が起きるかは言わない。流れと増え方のつり合いがどこで切れるか、そこまでである。

参考文献

  1. Monod, J. (1950). La technique de culture continue: théorie et applications. Annales de l’Institut Pasteur.
  2. Novick, A., & Szilard, L. (1950). Description of the chemostat. Science.
  3. 山岸勇輝 (2026). 『指数増殖の怖さは速さではなく、最後の一倍加に半分が入っていることである』[論文680]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/680 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014794

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「流れのある槽で増え続けられる境は最大の増え方ではなく流れ込む餌で決まり、産出は境の手前で最大になる」[論文933]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/933

YOI 933第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 流れのある槽で増え続けられる境は最大の増え方ではなく流れ込む餌で決まり、産出は境の手前で最大になる [論文933]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/933

Yamagishi, Y. (2026). In a Flow-Through Culture the Washout Boundary Is Set Not by the Maximum Growth Rate but by the Incoming Feed, and Output Peaks Short of It [Paper 933]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/933

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  author = {Yamagishi, Yuuki},
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  year = {2026},
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