要旨
感覚の閾を測る上下法は、正しく答えたら刺激を弱め、間違えたら強めることを繰り返して、刺激をある強さのまわりに集める。本稿は、答えの割合が正規分布の累積で決まる観察者を乱数で置き、何回続けて正しければ下げるかという三つの規則で、刺激がどの点に集まり、そこで正しい答えの割合がいくらになるかを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、規則が追う割合を選ぶ。$k$ 回続けて正しいときに下げ、一回間違えたら上げる規則は、正しい答えの割合が $0.5$ の $k$ 乗根になる点を追う。$k=1$・$2$・$3$ で割合は $0.500000$・$\mathbf{0.707107}$・$0.793701$、刺激の点は $0$・$0.544952$・$0.819329$ である(第2節)。
第二に、一回ずつの規則は、目標の点にちょうど集まる。歩幅 $0.1$ で $1000$ 回×$600$ 試行の後半を平均すると、集まった点は $0.001071$(標準誤差 $0.001959$)で、目標 $0$ と区別できなかった(第2節)。
第三に、非対称な規則では、集まる点が目標より上にずれる。二回で下げる規則は $\mathbf{0.558204}$(ずれ $+0.013252$)、三回で下げる規則は $0.836896$($+0.017567$)で、どちらも標準誤差の三倍を超えた。それでも集まった区間での正しい答えの割合は $0.706395$ と $0.792878$ で、目標の割合と $0.002$ 以内だった(第3節)。
第四に、ずれは歩幅に比例して大きくなる。二回で下げる規則で歩幅を $0.1$・$0.5$・$1.0$ にすると、ずれは $0.012337$・$0.068678$・$\mathbf{0.135898}$ で、ずれを歩幅で割ると $0.123374$・$0.137356$・$0.135898$ だった(第3節)。
第五に、分離子は、下げるまでに続けて求める正しい答えの回数である。その回数が、観察者のどの割合の点を閾と呼ぶかを決める。回数が一より大きいと上がる側と下がる側の歩みが対称でなくなり、刺激の点は歩幅に比例して上に寄る(第4節)。
キーワード:上下法、心理測定関数、閾値、変形上下法、歩幅、推定のずれ。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。上下法、続けて正しいときだけ下げる変形の上下法(レヴィット)、それが $0.5$ の $k$ 乗根の割合を追うこと、心理測定関数は、いずれも既知である。実際の知覚を扱わない。観察者は、刺激の強さ $x$ で正しく答える割合が標準正規分布の累積 $\Phi(x)$ になる模型で、当て推量のある選択課題や、疲れ・慣れは入れない。どの規則が良いかを言わない。推定の効率や試行の数の選び方は扱わない。ずれの係数を理論にしない。ずれを歩幅で割った値は実測を並べるだけで、式として主張しない。既刊との関係:論文837 の射程注記は、測り方を論じず、上下法や恒常法といった心理物理の手続きには入らないと書いた。本稿はその上下法の席に座る(先客なし)。論文837 の本文は、二点弁別の閾には受容野と受容器の間隔という二つの限りがあることを示した。ここでは閾を測る側に回り、同じ観察者でも規則しだいで閾と呼ぶ点が変わることを数える。加えたのは、三つの規則が追う割合と刺激の点を並べたこと、乱数の観察者で集まった点と標準誤差を出したこと、非対称な規則のずれと、それでも割合が目標に合うことを示したこと、ずれが歩幅に比例して大きくなることを実測したこと、分離子を「下げるまでに求める正しい答えの回数」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:刺激の強さ $x$ で観察者が正しく答える割合を $P(x)=\Phi(x)$(標準正規分布の累積)とする。$k$ 回続けて正しければ $x$ を歩幅だけ下げ、一回でも間違えたら歩幅だけ上げる。上がる確率と下がる確率が等しくなる点で刺激は釣り合う。
$$P(x^{*})^{k}=\frac12,\qquad x^{*}=\Phi^{-1}\!\left(2^{-1/k}\right)$$
検算では、$x=2$ から始めて $600$ 試行を $1000$ 回繰り返し、後半の $400$ 試行の $x$ の平均をその回の集まった点とした。
問い:上下法が集まる点は、観察者だけで決まるのか。
2. 規則が選ぶ割合
計算 2.1:歩幅 $0.1$ の三つの規則。
| 規則 | 目標の割合 | 目標の点 | 集まった点(標準誤差) | ずれ | 正しい答えの割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| $1$ 回で下げ | $0.500000$ | $0$ | $0.001071$($0.001959$) | $+0.001071$ | $0.500030$ |
| $2$ 回で下げ | $0.707107$ | $0.544952$ | $0.558204$($0.002077$) | $+0.013252$ | $0.706395$ |
| $3$ 回で下げ | $0.793701$ | $0.819329$ | $0.836896$($0.002334$) | $+0.017567$ | $0.792878$ |
観察 2.2 同じ観察者でも、規則が閾と呼ぶ点を選ぶ。一回ずつの規則は割合 $0.5$ の点に、二回の規則は $0.707107$、三回の規則は $0.793701$ の点に向かう。観察者は一人のままで、変えたのは下げる規則だけである。
3. 非対称な規則のずれ
計算 3.1:一回ずつの規則のずれ $0.001071$ は標準誤差 $0.001959$ の三倍以内、二回と三回の規則のずれは標準誤差の三倍を超えた。正しい答えの割合と目標の割合の差は $0.000030$・$-0.000712$・$-0.000823$ だった。
計算 3.2:二回で下げる規則で歩幅を変える。
| 歩幅 | 集まった点 | ずれ | ずれ÷歩幅 |
|---|---|---|---|
| $0.1$ | $0.557290$ | $+0.012337$ | $0.123374$ |
| $0.5$ | $0.613630$ | $+0.068678$ | $0.137356$ |
| $1.0$ | $0.680850$ | $+0.135898$ | $0.135898$ |
観察 3.3 非対称な規則では、集まる点が歩幅に比例して上にずれる。ずれは歩幅とともに大きくなり、歩幅で割るとどれも $0.12$ から $0.14$ のあいだだった。それでも正しい答えの割合は目標にほぼ合っていた。刺激の点の平均と、その点での割合の平均は、一致しなくてよい量である。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、下げるまでに続けて求める正しい答えの回数である。その回数が一なら上がる歩みと下がる歩みは対称で、刺激は割合 $0.5$ の点にちょうど集まる。回数が二や三になると、下がるには続けて正しく答えねばならず、歩みの対称が崩れて、刺激の点は歩幅に比例して上に寄る。閾は観察者だけの量ではなく、規則と歩幅の約束も含む。
観察 4.2 言わないこと。実際の知覚、当て推量のある課題、推定の効率、どの規則を使うべきか、ずれの係数の式は扱わない。示したのは、上下法が追う割合を規則が選び、非対称な規則では集まる点が歩幅に比例してずれることである。
5. 点呼と結び
- $P(x^{*})^{k}=1/2$(第1節):規則が選ぶ割合。
- $0.500000$・$\mathbf{0.707107}$・$0.793701$(計算 2.1):三つの規則の目標。
- 一回ずつの規則は $0.001071$(計算 2.1):目標に集まる。
- 二回の規則は $\mathbf{0.558204}$(計算 2.1):上にずれる。
- 歩幅 $1.0$ でずれ $\mathbf{0.135898}$(計算 3.2):歩幅に比例。
- 下げるまでに求める回数(観察 4.1):分離子・論文837 の射程注記。
結び:上下法が追う割合は下げる規則が選び、非対称な規則では集まる点が歩幅に比例して上にずれる。同じ観察者に、一回・二回・三回続けて正しければ下げる規則を当てると、追う割合は $0.500000$・$0.707107$・$0.793701$ だった。一回ずつの規則は目標の点に集まったが、二回の規則は $0.558204$ で目標より $0.013252$ 上にずれ、歩幅を $1.0$ にするとずれは $0.135898$ になった。それでも集まった区間の正しい答えの割合は目標に $0.002$ 以内で合っていた。分離子は、下げるまでに続けて求める正しい答えの回数である。既刊との位置:論文837 が入らなかった上下法を、閾を測る側の約束として数えた。正直に言えば、どの規則が良いかは言わない。閾に規則と歩幅の約束が入っている、そこまでである。
参考文献
- Dixon, W. J., & Mood, A. M. (1948). A method for obtaining and analyzing sensitivity data. Journal of the American Statistical Association.
- Levitt, H. (1971). Transformed up-down methods in psychoacoustics. The Journal of the Acoustical Society of America.
- 山岸勇輝 (2026). 『二点弁別の閾には限りが二つある。受容野を細くしても、受容器の間隔より下がらない』[論文837]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/837 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23015616
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「上下法が追う割合は下げる規則が選び、非対称な規則では集まる点が歩幅に比例して上にずれる」[論文935]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/935
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/935・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 上下法が追う割合は下げる規則が選び、非対称な規則では集まる点が歩幅に比例して上にずれる [論文935]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/935
Yamagishi, Y. (2026). The Proportion an Up-Down Method Tracks Is Chosen by Its Rule, and with an Asymmetric Rule the Converged Level Shifts Up in Proportion to the Step [Paper 935]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/935
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author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The Proportion an Up-Down Method Tracks Is Chosen by Its Rule, and with an Asymmetric Rule the Converged Level Shifts Up in Proportion to the Step},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/935},
note = {Preprint, edition 1}
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