要旨
結合場所が四つある分子の協同は、一つ結合すると次が結合しやすくなるか(正の協同)、しにくくなるか(負の協同)で見る。本稿は、形が一つずつ変わり隣どうしで影響し合う模型(KNF)と、全部の形が一度に変わる模型(MWC)で、見かけのヒル係数が取りうる範囲を比べる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、一度に変わる模型の計算は論文936 の値を再現した。MWC の見かけのヒル係数は、結合の強さの比 $c=0.01$・形の偏り $L=10^4$ で $3.008264$、$c=0$・$L=1$ で $1.152240$ で、論文936 と $10^{-6}$ 以内で一致した(第2節)。
第二に、一つずつ変わる模型は、見かけのヒル係数を 1 より下にできる。隣どうしの組に掛ける因子 $s$ を $0.01$・$0.1$・$0.5$ にすると、見かけのヒル係数は $\mathbf{0.038110}$・$0.273292$・$0.705882$ で、$s=1$ で $1.000000$、$s=2$・$10$・$100$ で $1.411765$・$2.732919$・$3.810961$ だった(第2節)。
第三に、一度に変わる模型は、どう置いても 1 を下回らない。$c$ を $0$ と $10^{-6}$ から $1$、$L$ を $10^{-6}$ から $10^{12}$ に動かした $1898$ 通りで、見かけのヒル係数の最小は $\mathbf{1.000000000}$($c=1$)、最大は $3.994003$ だった(第2節)。
第四に、正の側では、どちらの模型も場所の数 4 に近づく。KNF は $s=10^4$ で $3.998001$、MWC は $c=0$・$L=10^{12}$ で $3.994003$ だった(第2節)。
第五に、分離子は、形の変化が隣どうしで伝わるか、分子全体で一度に起こるかである。一度に変わる模型は、形の偏りと結合の強さの比をどう置いても協同が負にならなかった。一つずつ変わる模型では、隣の変化が次の結合を妨げるように因子を置けて、負の協同も作れた(第3節)。
キーワード:協同性、KNF 模型、MWC 模型、見かけのヒル係数、負の協同、アロステリック。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。形が一度に変わる模型(モノー・ワイマン・シャンジュー)、形が一つずつ変わる模型(コシュランド・ネメティ・フィルマー)、前者が負の協同を作れず後者が作れることは、いずれも既知である。並べ方と数を限る。KNF は四つの場所を正方形に並べた場合だけで、形の変わった隣どうしの組にだけ因子を掛けた。一列や四面体の並べ方は扱わない。優劣を裁かない。どちらの模型が実在の分子に合うか、どちらが良いかは言わない。数えるのは、作れる見かけの協同の範囲である。平衡だけを見る。結合と形の変化の速さは入れない(論文936 と同じ)。既刊との関係:論文936 の射程注記は、別の模型と比べず、形が一つずつ順に変わる模型など、ほかの協同の模型との優劣は扱わないと書いた。本稿はその席に座り、優劣ではなく作れる協同の範囲を比べる(先客なし)。論文936 は、二つの形をとる分子の見かけの協同が、形の偏りと結合の強さの比が釣り合うところで山になることを示した。ここでは、その山の反対側、協同が 1 を下回る側に、一度に変わる模型が届かないことを数える。論文878 は、効き始めから効き切るまでの濃度の幅を決めるのが協同の度合いであることを示した。見かけのヒル係数が 1 より小さいと、その幅は広がる側になる。加えたのは、MWC の計算を論文936 の値で確かめたこと、KNF の見かけのヒル係数を因子 $s$ ごとに出したこと、MWC の係数の最小を $1898$ 通りで探したこと、分離子を「形の変化が隣どうしで伝わるか、分子全体で一度に起こるか」に置いたことである。
1. 記法と問い
一度に変わる模型(MWC・論文936):分子全体が二つの形をとり、偏り $L$、結合の強さの比 $c$、結合場所 $4$。飽和の割合は次のとおりである。
$$Y_{\mathrm{MWC}}=\frac{\alpha(1+\alpha)^{3}+Lc\alpha(1+c\alpha)^{3}}{(1+\alpha)^4+L(1+c\alpha)^4}$$
一つずつ変わる模型(KNF):四つの場所を正方形に並べ、結合した場所だけ形が変わる。形の変わった隣どうしの組ごとに因子 $s$ を掛ける。結合した数が $j$ の並べ方と隣どうしの組の数は、$j=0$:$1$ 通り($0$ 組)、$j=1$:$4$($0$)、$j=2$:隣り合う $4$($1$)と向かい合う $2$($0$)、$j=3$:$4$($2$)、$j=4$:$1$($4$)なので、結合の多項式は次のとおりである。
$$Z=1+4x+(4s+2)x^2+4s^2x^3+s^4x^4,\qquad Y_{\mathrm{KNF}}=\frac{x\,dZ/dx}{4Z}$$
見かけのヒル係数:飽和の割合が $1/2$ になる濃さで、$\ln(Y/(1-Y))$ を濃さの対数で微分した傾き(論文936 と同じ測り方)。
問い:二つの模型は、見かけのヒル係数をどこからどこまで作れるか。
2. 作れる協同の範囲
計算 2.1:MWC の自己検査:$c=0.01$・$L=10^4$ で $3.008264$、$c=0$・$L=1$ で $1.152240$(論文936 と $10^{-6}$ 以内)。
計算 2.2:KNF の見かけのヒル係数。
| 隣どうしの因子 $s$ | 見かけのヒル係数 | 半分の飽和の $x$ |
|---|---|---|
| $0.01$ | $\mathbf{0.038110}$ | $1.000000\times10^{2}$ |
| $0.1$ | $0.273292$ | $1.000000\times10^{1}$ |
| $0.5$ | $0.705882$ | $2.000000$ |
| $1$ | $1.000000$ | $1.000000$ |
| $2$ | $1.411765$ | $5.000000\times10^{-1}$ |
| $10$ | $2.732919$ | $1.000000\times10^{-1}$ |
| $100$ | $3.810961$ | $1.000000\times10^{-2}$ |
| $10^4$ | $3.998001$ | $1.000000\times10^{-4}$ |
$s=0.5$ と $s=2$ の値は $0.705882353$・$1.411764706$ で、$12/17$・$24/17$ と $9$ 桁一致した。
計算 2.3:MWC で $c$ を $0$ と $10^{-6}$ から $1$、$L$ を $10^{-6}$ から $10^{12}$ に $0.25$ 桁刻みで動かした $1898$ 通りの見かけのヒル係数は、最小 $\mathbf{1.000000000}$($c=1$・$L=0.316228$)、最大 $3.994003$($c=0$・$L=10^{12}$)だった。
観察 2.4 KNF は 1 の両側を作れるが、MWC は 1 以上だけである。KNF は $s<1$ の三つで $1$ より小さく、$s>1$ の四つで $1$ より大きかった。MWC は $1898$ 通りのどれでも $1$ を $10^{-9}$ より下回らず、最小に届いたのは二つの形の結合の強さが等しい $c=1$ のときだった。正の側の上限は、どちらも場所の数 $4$ に近づいた。
3. 分離子
観察 3.1 分離子は、形の変化が隣どうしで伝わるか、分子全体で一度に起こるかである。MWC では、分子全体の形が一度に変わり、形の偏りと結合の強さの比をどう置いても、見かけのヒル係数は $1$ を下回らなかった(計算 2.3):KNF では、形の変わった隣どうしの組に $1$ より小さい因子を置けば、一つ結合したことが隣の結合を妨げ、見かけのヒル係数は $s=0.01$ で $0.038110$ まで下がった。
観察 3.2 言わないこと。どちらの模型が実在の分子に合うか、正方形以外の並べ方、結合と形の変化の速さは扱わない。示したのは、同じ四つの場所でも、形の変化の伝わり方で作れる見かけの協同の範囲が違い、一度に変わる模型は 1 を下回らなかったことである。
4. 点呼と結び
- MWC と正方形の KNF の結合の式(第1節):同じ測り方のヒル係数。
- MWC が論文936 の値を再現(計算 2.1):$3.008264$・$1.152240$。
- KNF は $s=0.01$ で $\mathbf{0.038110}$(計算 2.2):負の協同を作れる。
- MWC の最小 $\mathbf{1.000000000}$(計算 2.3):$1898$ 通りで 1 を下回らない。
- 正の側はどちらも 4 に近づく(計算 2.2・2.3):$3.998001$・$3.994003$。
- 隣どうしか、全体で一度にか(観察 3.1):分離子・論文936 の射程注記・論文878。
結び:形が一つずつ変わる模型は負の協同を作れるが、一度に変わる模型はどう置いても作れない。正方形に並べた KNF では、隣どうしの因子を $0.01$ から $10^4$ まで動かすと見かけのヒル係数は $0.038110$ から $3.998001$ まで $1$ の両側に広がった。MWC では形の偏りと結合の強さの比を $1898$ 通り動かしても、最小は $1.000000000$ で $1$ を下回らなかった。分離子は、形の変化が隣どうしで伝わるか、分子全体で一度に起こるかである。既刊との位置:論文936 が一度に変わる模型で数えた協同の山の反対側に、一つずつ変わる模型だけが届くことを数えた。正直に言えば、どちらの模型が正しいかは言わない。形の変化の伝わり方で、作れる協同の範囲がどう違うか、そこまでである。
参考文献
- Koshland, D. E., Némethy, G., & Filmer, D. (1966). Comparison of experimental binding data and theoretical models in proteins containing subunits. Biochemistry.
- Monod, J., Wyman, J., & Changeux, J.-P. (1965). On the nature of allosteric transitions: a plausible model. Journal of Molecular Biology.
- 山岸勇輝 (2026). 『効き始めから効き切るまでの濃度の幅を決めるのは、効く濃度ではなく協同の度合いである』[論文878]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/878
- 山岸勇輝 (2026). 『二つの形をとる分子の見かけの協同は、形の偏りと結合の強さの比が釣り合うところで山になる』[論文936]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/936
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「形が一つずつ変わる模型は負の協同を作れるが、一度に変わる模型はどう置いても作れない」[論文955]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/955
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/955・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 形が一つずつ変わる模型は負の協同を作れるが、一度に変わる模型はどう置いても作れない [論文955]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/955
Yamagishi, Y. (2026). A Sequential Model Can Produce Negative Cooperativity, but a Concerted Model Cannot However It Is Set [Paper 955]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/955
@misc{yamagishi2026yoi955,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {A Sequential Model Can Produce Negative Cooperativity, but a Concerted Model Cannot However It Is Set},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/955},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
d8d8107c65b4adec34031e570fde908918a8ccfe2c9b319d1585d5be816a04c2 yamagishi_yoi955_v1_jp.pdfbfbd6fe4b5e123228d61672c2a9761bc82eb8e6d1cb33c29905ca28ad5664aa3 yamagishi_yoi955_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。