要旨
「糖尿病の人」という一語で数えられる数を、四つの調査の六通りの数で並べた:国民健康・栄養調査(2023 年)の「検査で強く疑われる人」と「指摘されたことがある人」、国民生活基礎調査(2025 年)の「通院している人」、患者調査(2023 年)の「その日に受療した人」(主傷病と、主傷病か副傷病)、人口動態統計(2023 年)の「一年に亡くなる人」。どれも人口 10 万人あたり・男女計・40〜49・50〜59・60〜69・70 歳以上にそろえた。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、表はそろっている。各表の%は人数 ÷ 総数、総数は男と女のあいだ、70 歳以上(再掲)は 5 歳階級の値のあいだ、第163表の 5 歳階級の和は総数に一致する(第3節)。
第二に、ここが本稿の芯である。同じ「糖尿病の人」でも、数えるもので桁が変わる。 70 歳以上の 10 万人あたりで、検査で強く疑われる 19,500、指摘されたことがある 22,400、通院している 12,130、その日の受療は主傷病 449・主傷病か副傷病 1,948、一年の死亡 44.8(第4節)。
第三に、数どうしの比も年齢で動く。 指摘されたことがある人は強く疑われる人の 1.15〜1.65 倍、通院している人は 0.39〜0.69 倍。その日に糖尿病を持って受療した人のうち、糖尿病を主な理由にしているのは 2.72〜4.34 分の 1 である(第5節)。
第四に、年齢とともに上がる速さも、数えるもので違う。 40〜49 歳から 70 歳以上へ、検査で強く疑われる人は 3.8 倍、指摘されたことがある人は 3.1 倍、通院 6.0 倍、受療 6.5〜10.3 倍、一年の死亡は 29.4 倍(第6節)。
第五に、調べる年は四つの調査でそろわない(2023 年と 2025 年)。国民健康・栄養調査は人数が数百の標本で、20〜39 歳と男女別は 10 人に届かない升目があるので外した(第3節)。
第六に、分けるのは何を数えるか(検査・本人の答え・受療・死因)。「糖尿病の人は○万人」と聞いたときの数は、どの物差しの数かで、同じ年齢でも 435〜3,408 倍違う。
射程注記:本稿は新しい数学定理も新しい法則も主張しない。数はどれも公表の表にあり、本稿は同じ単位にそろえて並べただけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 どの数が正しいかは論じない。六つは別のものを数えている。診断の基準や治療の良し悪しには立ち入らない。 調査の年(2023 年と 2025 年)と対象(標本・世帯・医療機関・死亡票)は同じではない。一人の見通しではない。 都道府県や地域・医療機関は比べない。データについて:国民健康・栄養調査・国民生活基礎調査・患者調査・人口動態統計(e-Stat)は政府標準利用規約(第2.0版)に従って使い、本稿の数・比はそれらを加工して作成した。本稿が加えたこと:「糖尿病の人」の六つの数を同じ単位と年齢にそろえて並べ、桁の違いと年齢の上がり方の違いを示したこと。
1. 記号と問い
- 検査で強く疑われる人:国民健康・栄養調査 第54表。ヘモグロビンA1c(NGSP)が 6.5 % 以上、または現在治療を受けていると答えた人(表の注)。
- 指摘されたことがある人:同 第50表「糖尿病の指摘の有無」の「あり」。
- 通院している人:国民生活基礎調査 第108表の通院者率(入院者は含まない)。
- その日に受療した人:患者調査の調査日(2023 年 10 月)。主傷病(第68表の受療率)と、主傷病か副傷病(第163表の推計患者数 ÷ 人口)。
- 一年に亡くなる人:人口動態統計 第5.15表の糖尿病の死亡(2023 年)。
- どれも人口 10 万人あたり。5 歳階級の表は、2023 年の人口(第5.15表の全死因の死亡数 ÷ 死亡率)で重みづけして 10 歳階級に束ねた。
問い:「糖尿病の人」の数は、何を数えるかでどれだけ違い、年齢でどう違うか。
観察 1.1:M007 は「5 年生存率」という一語が三つの別の数を指すことを、M039 は「高血圧の人」の割合が線の高さと服薬の数え方で 2.32 倍動くことを示した。本稿は「糖尿病の人」で、調査の違う六つの数を並べる。
2. 下見と設計
正直に書く:設計は表を見てから決めた。
| 内容 | |
|---|---|
| 検査と本人の答え | 国民健康・栄養調査 令和5年 第54表・第50表 |
| 通院 | 国民生活基礎調査 令和7年 第108表 |
| 受療 | 患者調査 令和5年 第68表(主傷病)・第163表(主傷病か副傷病) |
| 死亡 | 人口動態統計 令和6年 上巻 第5.15表(2023 年の列) |
| 年齢 | 国民健康・栄養調査の「強く疑われる者」が 10 人以上の 40〜49・50〜59・60〜69・70 歳以上 |
| 途中で気づいたこと | 年齢の札の読み方で「65 歳以上(再掲)」を 65〜69 歳と取り違え、60〜69 歳の値を上書きしていた。第163表の 5 歳階級の和が総数と合わない検査で落ちて気づき、「〜歳以上」を別の札にして直した |
3. データと確かめ
計算 3.1 取得した 6 本のファイルを SHA-256 で固定し、次を確かめた。
- 第54表の判定は、ヘモグロビンA1c(NGSP)6.5 % 以上、または現在治療を受けている。第54表・第50表の% = 人数 ÷ 総数(小数 1 桁)。強く疑われる者は男女計で 40〜49 歳 13 人・50〜59 歳 31 人・60〜69 歳 59 人・70 歳以上 162 人(20〜29 歳 0 人・30〜39 歳 3 人。男女別の 40〜49 歳は 6 人・7 人)。
- 第108表・第68表:総数は男と女のあいだ、70 歳以上(再掲)は 70〜74 歳以上の 5 歳階級の値のあいだ。
- 第163表:5 歳階級と不詳の和 828.8 千人 = 総数 828.9 千人(丸めの幅)。
- 人口から戻した糖尿病の死亡率 = 第5.15表の率(2023 年)。
4. 芯、六つの数
計算 4.1 「糖尿病の人」の六つの数(人口 10 万人あたり・男女計)
| 年齢 | 検査で強く疑われる | 指摘されたことがある | 通院している | その日の受療(主傷病) | その日の受療(主傷病か副傷病) | 一年の死亡 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 40〜49 歳 | 5,200 | 7,200 | 2,010 | 69 | 189 | 1.5 |
| 50〜59 歳 | 8,200 | 13,500 | 4,696 | 152 | 450 | 4.0 |
| 60〜69 歳 | 12,700 | 17,300 | 8,768 | 296 | 975 | 10.3 |
| 70 歳以上 | 19,500 | 22,400 | 12,130 | 449 | 1,948 | 44.8 |
観察 4.2:70 歳以上の 10 万人あたりで、検査で強く疑われる 19,500、指摘されたことがある 22,400、通院している 12,130、その日の受療は主傷病 449・主傷病か副傷病 1,948、一年の死亡 44.8。 どの年齢でも、検査で強く疑われる > その日の受療(主傷病か副傷病)> 一年の死亡の順で、強く疑われる人は一年の死亡の 435〜3,408 倍である。

図1:六つの数を年齢で並べた(縦は対数)。上の三本(強く疑われる・指摘・通院)は寄り添い、受療はその下、死亡はさらにその下で、いちばん急に上がる。
5. 数どうしの比
計算 5.1 数どうしの比
| 年齢 | 指摘 ÷ 強く疑われる | 通院 ÷ 強く疑われる | 受療(主か副)÷ 受療(主) | 通院 ÷ 受療(主か副) | 強く疑われる ÷ 一年の死亡 |
|---|---|---|---|---|---|
| 40〜49 歳 | 1.38 | 0.39 | 2.72 | 10.6 | 3,408 |
| 50〜59 歳 | 1.65 | 0.57 | 2.96 | 10.4 | 2,066 |
| 60〜69 歳 | 1.36 | 0.69 | 3.29 | 9.0 | 1,236 |
| 70 歳以上 | 1.15 | 0.62 | 4.34 | 6.2 | 435 |
観察 5.2:指摘されたことがある人は、検査で強く疑われる人の 1.15〜1.65 倍いる(指摘されたが、いまの判定には入らない人がいる)。通院している人は、強く疑われる人の 0.39〜0.69 倍。その日に糖尿病を持って受療した人(主傷病か副傷病)は、糖尿病を主な理由に受療した人の 2.72〜4.34 倍で、この倍率は 70 歳以上でいちばん大きい。
6. 年齢の上がり方
計算 6.1 40〜49 歳から 70 歳以上への上がり方
| 数 | 40〜49 歳 | 70 歳以上 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 検査で強く疑われる | 5,200.0 | 19,500.0 | 3.8 倍 |
| 指摘されたことがある | 7,200.0 | 22,400.0 | 3.1 倍 |
| 通院している | 2,009.6 | 12,130.0 | 6.0 倍 |
| その日の受療(主傷病) | 69.5 | 449.0 | 6.5 倍 |
| その日の受療(主傷病か副傷病) | 189.1 | 1,948.2 | 10.3 倍 |
| 一年の死亡 | 1.5 | 44.8 | 29.4 倍 |
観察 6.2:一年の死亡は 40〜49 歳から 70 歳以上へ 29.4 倍に上がり、ほかの五つ(3.1〜10.3 倍)より上がり方がずっと大きい。 同じ病名の数でも、年齢とともに増える速さは、数えるものによって違う。
7. 限界
- 調査の年がそろわない(通院は 2025 年、ほかは 2023 年)。人口の重みは 2023 年で共通にした。
- 国民健康・栄養調査は標本の調査で、一つの年齢階級の人数は数百人である。
- 六つは別のものを数えている(検査値・本人の答え・世帯の答え・医療機関の記録・死亡票)。同じ人が重なって数えられるかは表からは分からない。
- 男女を分けていない(国民健康・栄養調査の升目が小さくなるため)。
- どの数が正しいかは論じない。一人の見通しではない。
結び
「糖尿病の人」の数は、70 歳以上の 10 万人あたりで、検査で強く疑われる 19,500 から一年に亡くなる 44.8 まで、何を数えるかで桁が変わる。年齢とともに上がる速さも、指摘されたことがある人の 3.1 倍から一年の死亡の 29.4 倍まで違う。
分けているものは一つ、何を数えるか(検査・本人の答え・受療・死因)。
「その病気の人は○万人」と聞いたら、検査の数か、本人の答えか、受療の数か、亡くなる人の数かを、一緒に確かめる。
データと再現
| データ | 国民健康・栄養調査 令和5年 第54表・第50表、国民生活基礎調査 令和7年 第108表、患者調査 令和5年 第68表・第163表、人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.15表(e-Stat・2026 年 9 月 26 日に取得) |
| 利用条件 | e-Stat は政府標準利用規約(第2.0版)に従う。本稿の数・比は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない |
| 範囲 | 日本・男女計・40 歳以上・2023 年(通院は 2025 年) |
| 検算 | 検算/M045.py(--zu で図も書く)。本文の数字はすべて 検算/M045_output.txt から取った |
| 生データ | data/ に取得した 6 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・定義と計算の置き方) |
| 図 | 図/M045_zu1(png・svg・英語版) |
参考文献
- 厚生労働省. 令和7年国民生活基礎調査 健康票 第108表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 厚生労働省. 令和5年国民健康・栄養調査 第50表・第54表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 厚生労働省. 令和5年患者調査 全国編 第68表・第163表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.15表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 山岸勇輝 (2026). 「5 年生存率」という一語は、三つの別の数を指している [M007]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22964570
- 山岸勇輝 (2026). 「高血圧の人」の割合は、線の高さと服薬の数え方で 2.32 倍動く。2023 年の調査の 20 歳以上で 27.6 % から 64.2 %、20〜49 歳では線を下げた分が、70 歳以上では服薬を数えた分が大きい [M039]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22974218
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「糖尿病の人」の数は、何を数えるかで桁が変わる」[M045]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22974556
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M045・DOI 10.5281/zenodo.22974556・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「糖尿病の人」の数は、何を数えるかで桁が変わる [M045]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M045 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22974556
Yamagishi, Y. (2026). The Number of “People with Diabetes” Changes by Orders of Magnitude with What Is Counted [M045]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M045; DOI: 10.5281/zenodo.22974556
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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