要旨
当て推量があると上下法が追う強さは下へずれ、1 回で下げる規則は 2 択で集まる点を持たない(論文954)。そこでは、推定の効率と試行の数の選び方を扱わなかった。本稿は、954 の観察者と規則で 1000 回の乱数の観察者を 1200 試行まで走らせ、試行の数ごとの推定のばらつきを、当て推量の無い課題と 2 択の課題で比べる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、2 択では、同じ規則の推定が刺激の強さで大きくばらつく。1200 試行の推定の標準偏差は、2 回続けて正しければ下げる規則で、当て推量 0 の $0.048149$ に対して 2 択は $0.087400$、比は $\mathbf{1.815195}$ だった。3 回の規則では $1.536978$ だった(第3節)。
第二に、同じばらつきに要る試行が大きく増える。標準偏差の比の二乗は、2 回の規則で $\mathbf{3.294931}$、3 回の規則で $2.362302$ だった(第3節)。
第三に、正答の割合の目盛りに直すと、差はわずかになる。目標での心理測定関数の傾きは、当て推量 0 で $0.343893$、2 択で $0.194841$(2 回の規則)で、標準偏差に傾きを掛けた値の比は $\mathbf{1.028445}$、3 回の規則で $1.049098$ だった(第4節)。
第四に、標準偏差は試行の数の平方根に比例して縮み切らない。標準偏差×√試行は、2 択・2 回の規則で試行 150・300・600・1200 に $2.245348$・$2.814447$・$2.919785$・$\mathbf{3.027628}$ と増えた。試行 150 の推定の平均は $-0.059690$ で、目標 $-0.216719$ から開始点の側に残っていた(第2節)。
第五に、分離子は、心理測定関数の傾きを掛けて読むか、掛けずに読むか。当て推量は傾きに(1 − 当て推量の割合)を掛け、目標の点も動かす(2 回の規則の目標での傾き $0.194841$ 対 $0.343893$)。刺激の強さで読むとばらつきが大きく見え、傾きを掛けて正答の割合で読むと、五つの組の値は $0.014060$ から $0.017358$ に収まった(第5節)。
キーワード:上下法、当て推量、推定の効率、試行の数、心理測定関数、心理物理学。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。上下法とその変形(レヴィット)、適応的な手続きの推定の効率を試行の数とばらつきで比べること(テイラーとクリールマン)、心理測定関数の傾きが推定のばらつきに効くことは、いずれも心理物理学で既知である。置いた値である。当て推量を足した正規分布の累積の観察者、歩幅 0.1、開始 2.0 は論文935・954 の模型の値で、1000 回、1200 試行、推定を後ろ 3 分の 2 の位置の平均とすることは本稿で置いた。どの感覚、どの実験にも対応しない。規則の良し悪しを言わない。どの規則や試行の数を使うべきか、推定のずれとばらつきをどう合わせて評価するかは述べない。ばらつきを並べるだけである。極限を言わない。標準偏差×√試行が一定になる試行の数は数えておらず、1200 試行まで増え続けた組がある。既刊との関係:論文935 の射程注記は、どの規則が良いかを言わず、推定の効率や試行の数の選び方は扱わないと書き、論文954 の射程注記も、規則の良し悪しを言わず、推定の効率、試行の数の選び方、どの規則を使うべきかは扱わないと書いた。本稿はそのうち推定の効率と試行の数の席に座る(先客なし。論文954 は論文935 の射程注記のうち当て推量の席に座った)。論文954 は、当て推量があると上下法が追う強さは下へずれ、1 回で下げる規則は 2 択で集まる点を持たないことを示した。ここでは、集まる点を持つ規則で、当て推量が推定のばらつきをどれだけ変えるかを数える。加えたのは、五つの当て推量と規則の組で四つの試行の数の推定のばらつきを出したこと、同じばらつきに要る試行の比を出したこと、目標での傾きを掛けて正答の割合の目盛りで比べたこと、試行が少ないと開始点のずれが残ることを示したこと、分離子を「傾きを掛けて読むか、掛けずに読むか」に置いたことである。
1. 記法と問い
観察者と規則:論文954 と同じく、刺激の強さ $x$ で正しく答える割合を $p(x)=\gamma+(1-\gamma)\Phi(x)$ とし、$k$ 回続けて正しければ $x$ を $0.1$ 下げ、一度でも誤れば $0.1$ 上げる。開始は $2.0$。規則が集まる目標は $p(x)=0.5^{1/k}$ の解で、$\gamma=0$ の $k=1$・$2$・$3$ で $0$・$0.544952$・$0.819329$、$\gamma=0.5$(2 択)の $k=2$・$3$ で $-0.216719$・$0.220865$ である($\gamma=0.5$・$k=1$ は集まる点を持たない・論文954)。
推定:1000 回の乱数の観察者を 1200 試行まで走らせ、試行の数 $T=150$・$300$・$600$・$1200$ ごとに、$T/3$ 番目から $T$ 番目までの位置の平均を一回の推定とした($T=600$ は論文954 の後半 400 試行と同じ)。推定の標準偏差を 1000 回で出す。
正答の割合の目盛り:目標 $x^*$ での傾き $p'(x^*)=(1-\gamma) \phi(x^*)$ を標準偏差に掛けると、強さのばらつきを正答の割合のばらつきに直した値になる。
問い:当て推量は、上下法の推定のばらつきと、同じばらつきに要る試行の数をどう変えるか。
2. 試行の数と推定
計算 2.1:推定の平均、標準偏差、標準偏差×√試行。
| 組 | 試行 | 推定の平均 | 標準偏差 | 標準偏差×√試行 |
|---|---|---|---|---|
| $\gamma=0$・$k=1$ | $150$ | $0.010144$ | $0.119503$ | $1.463602$ |
| $1200$ | $-0.001702$ | $0.043510$ | $1.507237$ | |
| $\gamma=0$・$k=2$ | $150$ | $0.591997$ | $0.120770$ | $1.479119$ |
| $1200$ | $0.557779$ | $0.048149$ | $1.667936$ | |
| $\gamma=0$・$k=3$ | $150$ | $0.884030$ | $0.131583$ | $1.611562$ |
| $1200$ | $0.835559$ | $0.049300$ | $1.707795$ | |
| $\gamma=0.5$・$k=2$ | $150$ | $-0.059690$ | $0.183332$ | $2.245348$ |
| $300$ | $-0.209578$ | $0.162492$ | $2.814447$ | |
| $600$ | $-0.232855$ | $0.119200$ | $2.919785$ | |
| $1200$ | $-0.231187$ | $0.087400$ | $\mathbf{3.027628}$ | |
| $\gamma=0.5$・$k=3$ | $150$ | $0.412196$ | $0.167160$ | $2.047280$ |
| $1200$ | $0.229859$ | $0.075773$ | $2.624844$ |
五つの組のどれでも、試行を 300 から 1200 にすると標準偏差は小さくなった。
観察 2.2 試行が少ないと開始点のずれが残り、標準偏差×√試行は増え続ける組がある。2 択・$k=2$ の試行 150 の推定の平均は $-0.059690$ で、目標 $-0.216719$ から開始 $2.0$ の側に残っていた。標準偏差×√試行は 1200 試行まで $2.245348$ から $3.027628$ に増え、試行の数の平方根に比例して縮む形には届かなかった。1200 試行での推定の平均と目標の差は、五つの組で $-0.014468$ から $0.016231$ だった。
3. 当て推量とばらつき
計算 3.1:1200 試行の標準偏差の比と、その二乗(同じばらつきに要る試行の比)。
| 比べる組 | 標準偏差の比 | 二乗 |
|---|---|---|
| $\gamma=0.5$・$k=2$ ÷ $\gamma=0$・$k=2$ | $\mathbf{1.815195}$ | $\mathbf{3.294931}$ |
| $\gamma=0.5$・$k=3$ ÷ $\gamma=0$・$k=3$ | $1.536978$ | $2.362302$ |
| $\gamma=0$・$k=3$ ÷ $\gamma=0$・$k=1$ | $1.133063$ | $1.283833$ |
| $\gamma=0$・$k=2$ ÷ $\gamma=0$・$k=1$ | $1.106618$ | $1.224604$ |
観察 3.2 当て推量の効きは、規則の $k$ を変える効きより大きい。当て推量 0 で $k$ を 1 から 3 にしても標準偏差の比は $1.133063$ だったが、同じ $k=2$ で当て推量を 0.5 にすると $1.815195$ だった。2 択で同じばらつきを得るには、当て推量の無い課題の $3.294931$ 倍($k=2$)の試行が要る計算になる。
4. 正答の割合の目盛り
計算 4.1:目標での傾きと、1200 試行の標準偏差×傾き。
| 組 | 目標での傾き | 標準偏差×傾き |
|---|---|---|
| $\gamma=0$・$k=1$ | $0.398942$ | $0.017358$ |
| $\gamma=0$・$k=2$ | $0.343893$ | $0.016558$ |
| $\gamma=0$・$k=3$ | $0.285193$ | $0.014060$ |
| $\gamma=0.5$・$k=2$ | $0.194841$ | $0.017029$ |
| $\gamma=0.5$・$k=3$ | $0.194665$ | $0.014750$ |
同じ $k$ で $\gamma=0.5$ ÷ $\gamma=0$ を比べると、標準偏差×傾きの比は $k=2$ で $1.028445$、$k=3$ で $1.049098$ で、強さの目盛りでの比 $1.815195$・$1.536978$ より 1 に近かった。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、心理測定関数の傾きを掛けて読むか、掛けずに読むか。当て推量は傾きに $1-\gamma$ を掛け、目標の点も動かす(目標での傾きは 2 択・$k=2$ で $0.194841$、当て推量 0 の $k=2$ で $0.343893$):強さの目盛りで読むと 2 択の推定は $1.815195$ 倍ばらついたが、傾きを掛けて正答の割合で読むと五つの組の値は $0.014060$ から $0.017358$ に収まり、2 択と当て推量 0 の比は $1.028445$ だった。傾きを掛けた値がこの範囲に収まる理由は、本稿では式として示していない。
観察 5.2 言わないこと。どの規則や試行の数を使うべきか、推定のずれとばらつきの合わせ方、標準偏差×√試行が一定になる試行の数、ほかの歩幅や開始点、実際の知覚実験は扱わない。示したのは、同じ規則でも当て推量で推定のばらつきが刺激の強さでは大きく変わり、正答の割合で読むと差が小さいことである。
6. 点呼と結び
- 1000 回×1200 試行の推定(第1節):後ろ 3 分の 2 の位置の平均。
- 2 択の標準偏差は $\mathbf{1.815195}$ 倍(計算 3.1):強さの目盛りで大きい。
- 同じばらつきに $\mathbf{3.294931}$ 倍の試行(計算 3.1):2 回の規則。
- 傾きを掛けると比は $\mathbf{1.028445}$(計算 4.1):正答の割合ではほぼ同じ。
- 標準偏差×√試行は $\mathbf{3.027628}$ まで増える(計算 2.1):開始点のずれが残る。
- 傾きを掛けて読むか、掛けずに読むか(観察 5.1):分離子・論文935 と論文954 の射程注記。
結び:当て推量は上下法の推定を強さの目盛りでばらつかせ、正答の割合の目盛りではほぼ同じに保つ。954 の観察者と規則で 1200 試行の推定を比べると、2 回続けて正しければ下げる規則の標準偏差は 2 択で当て推量 0 の $1.815195$ 倍、同じばらつきに要る試行は $3.294931$ 倍だった。目標での傾きを掛けて正答の割合の目盛りに直すと、その比は $1.028445$(3 回の規則で $1.049098$)だった。分離子は、心理測定関数の傾きを掛けて読むか、掛けずに読むか。既刊との位置:論文935 と論文954 が集まる点で数えた上下法に、両編が扱わなかった推定の効率と試行の数を足した。正直に言えば、一つの観察者の模型で、推定のばらつきを並べた。当て推量がばらつきをどの目盛りでどれだけ変えるか、そこまでである。
参考文献
- Levitt, H. (1971). Transformed up-down methods in psychoacoustics. Journal of the Acoustical Society of America.
- Taylor, M. M., & Creelman, C. D. (1967). PEST: Efficient estimates on probability functions. Journal of the Acoustical Society of America.
- 山岸勇輝 (2026). 『上下法が追う割合は下げる規則が選び、非対称な規則では集まる点が歩幅に比例して上にずれる』[論文935]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/935
- 山岸勇輝 (2026). 『当て推量があると上下法が追う強さは下へずれ、1 回で下げる規則は 2 択で集まる点を持たない』[論文954]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/954
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「当て推量は上下法の推定を強さの目盛りでばらつかせ、正答の割合の目盛りではほぼ同じに保つ」[論文988]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/988
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 当て推量は上下法の推定を強さの目盛りでばらつかせ、正答の割合の目盛りではほぼ同じに保つ [論文988]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/988
Yamagishi, Y. (2026). Guessing Spreads Up-Down Estimates on the Stimulus Scale but Leaves Them Nearly Unchanged on the Proportion-Correct Scale [Paper 988]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/988
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author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Guessing Spreads Up-Down Estimates on the Stimulus Scale but Leaves Them Nearly Unchanged on the Proportion-Correct Scale},
year = {2026},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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