要旨
ラムゼーの定理は「十分大きければ必ず秩序が現れる」と言う。本稿が問うのは、「十分大きい」がどれだけかである。答は、定理は教えないである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、確定している値は二つだけである。$R(3,3)=6$ と $R(4,4)=18$ で、$R(5,5)$ は$[43,48]$ の範囲にしか収まっていない(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。$R(5,5)=43$ を総当たりで確かめるには $2^{903}=\mathbf{10^{271.8}}$ 通りが要り、宇宙の原子より $\mathbf{191.8}$ 桁多い(第3節)。
第三に、一段上がるごとに跳ぶ。$R(3,3)$ は $32768$ 通りで手が届き、$R(4,4)$ は $1.14\times10^{46}$ 通りで計算機がようやく届いた(第3節)。
第四に、下限の証明も値を教えない。エルデシュの確率論的方法は $R(k,k)>2^{k/2}$ を与えるが、$k=10$ で実際の $\mathbf{24.94}$ 分の一である(第4節)。
第五に、上界はもっと外れる。$W(3,3)=27$ なのに、古典的証明が与えた上界はアッカーマン級だった(第5節)。
第六に、分離子は「存在と定量」である。論文163 の「存在と構成」とは別の切り口である(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ラムゼーの定理、ラムゼー数の既知の値と範囲、ファン・デル・ヴェルデン数、エルデシュの確率論的下限は、いずれも標準的である。組合せ論を作らない。使うのは一つの二項係数と、二つの対数だけである。ラムゼーの定理を証明しない。引くだけである。ラムゼー数を計算しない。$R(5,5)$ の値を求めようとはしていない。求めるのに要る手間だけを数える。範囲の値を主張しない。$R(5,5)\in[43,48]$、$R(6,6)\in[102,160]$ はある時点で知られている範囲であり、改善されうる。本稿の主張は範囲が空でないことであって、端の値ではない。総当たりが唯一の道だと言わない。実際の探索は対称性と枝刈りで大幅に減らす。$2^{903}$ は素朴な上界であって、必要な計算量ではない。それでも到底届かない、という桁の話である。アッカーマン級という語を厳密に使わない。ガワーズ以前の上界が塔の高さが増える型だったことを指す。本稿は上界の形を主張せず、真の値との乖離だけを言う。既刊との関係:論文163 は「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」を分けた。あちらは存在と構成、本稿は存在と定量である。構成できても大きさが分からない場合を扱うので、切り口が違う。論文179 は「構成できない」に別根があると示した。本稿は構成できるのに手が届かない場合である。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿の $271.8$ 桁も対数で読む。論文259 は独立性を示す道が二つあると示した。本稿も示し方の種類を問う。加えたのは$R(5,5)$ の総当たりを $10^{271.8}$ 通りと計算し、宇宙の原子との差を $191.8$ 桁と測ったこと、$R(3,3)$・$R(4,4)$・$R(5,5)$ で手間が跳ぶ段を並べたこと、確率論的下限が $k=10$ で $24.94$ 分の一だと計算したこと、分離子を「存在と定量」に置いたことである。
1. 記法と問い
定理(ラムゼー、$1930$):$n$ が十分大きければ、$n$ 頂点の完全グラフの辺を二色で塗り分けたとき、必ず単色の $K_k$ が現れる。
定義:そのような最小の $n$ を $R(k,k)$ と書く。
問い:定理は「必ず現れる」と言う。では $R(k,k)$ はいくつか。
観察 1.1 定理の証明は存在を保証する。ところが値を教えない。本稿はその隔たりを数で測る。
観察 1.2 エルデシュの有名な言い方がある。異星人が $R(5,5)$ を要求したら人類は全計算資源を投じるべきだが、$R(6,6)$ を要求されたら戦うほうがましである。本稿はこの言葉を数で確かめる。
2. 確定している値は、二つだけである
検算 2.1:
| 下限 | 上限 | 確定か | |
|---|---|---|---|
| $R(3,3)$ | $6$ | $6$ | 確定 |
| $R(4,4)$ | $18$ | $18$ | 確定 |
| $R(5,5)$ | $43$ | $48$ | 未確定 |
| $R(6,6)$ | $102$ | $160$ | 未確定 |
| $R(7,7)$ | $205$ | $492$ | 未確定 |
観察 2.2 確定しているのは最初の二つだけである。$R(4,4)=18$ が確定したのは $1995$ 年、定理が証明されてから $65$ 年後である。
観察 2.3 $R(6,6)$ の範囲は $[102,160]$ で、幅が $58$ある。$R(7,7)$ では $[205,492]$ で幅が $287$、一段上がるごとに、分からなさが増えている。
観察 2.4 それでも「存在する」ことは最初から証明されている。どの $k$ についても $R(k,k)$ は有限である。有限だと分かっているのに、いくつか分からない。
3. 芯:総当たりに $10^{271.8}$ 通り
設定:$R(5,5)=43$ を総当たりで確かめるとする。$43$ 頂点の完全グラフの辺をすべて二色で塗り分ける。
検算 3.1:
| 量 | 値 |
|---|---|
| 頂点数 | $43$ |
| 辺の数 $\binom{43}{2}$ | $\mathbf{903}$ |
| 塗り分けの総数 $2^{903}$ | $\mathbf{10^{271.8}}$ |
| 観測可能な宇宙の原子 | $10^{80}$ |
| 足りない桁 | $\mathbf{191.8}$ 桁 |
観察 3.2 これが本稿の芯である。原子を一つずつ計算機にしても、$\mathbf{191.8}$ 桁足りない。足りないのは計算機の速さではなく、物質の量である。
検算 3.3:一段ずつ下がって、どこで手が届くかを見る。
| 頂点 | 辺 | 塗り分けの総数 | |
|---|---|---|---|
| $R(3,3)$ | $6$ | $15$ | $\mathbf{32768}$(手で数えられる) |
| $R(4,4)$ | $18$ | $153$ | $1.14\times10^{46}$(計算機で $1995$ 年) |
| $R(5,5)$ | $43$ | $903$ | $\mathbf{10^{271.8}}$(届かない) |
観察 3.4 $R(3,3)$ から $R(4,4)$ で $\mathbf{10^{41}}$ 倍、$R(4,4)$ から $R(5,5)$ で $\mathbf{10^{226}}$ 倍、一段上がるごとに跳び方が大きくなる。
観察 3.5 正直に書くべき点、$2^{903}$ は素朴な上界である。実際の探索は対称性と枝刈りで大幅に減らす。それでも $R(5,5)$ には届いていない、という事実だけが本稿の根拠である。
4. 下限の証明も、値を教えない
設定:エルデシュ($1947$)は確率論的方法で $R(k,k)>2^{k/2}$ を示した。ランダムに塗って、単色 $K_k$ が現れない配置が正の確率で存在することを言う。
検算 4.1:
| $k$ | $2^{k/2}$ | 知られた下限 | 比 |
|---|---|---|---|
| $3$ | $2.83$ | $6$ | $2.12$ |
| $4$ | $4.00$ | $18$ | $4.50$ |
| $5$ | $5.66$ | $43$ | $7.60$ |
| $6$ | $8.00$ | $102$ | $12.75$ |
| $7$ | $11.31$ | $205$ | $18.12$ |
| $10$ | $32.00$ | $798$ | $\mathbf{24.94}$ |
観察 4.2 確率論的方法が与える下限は、$k=10$ で実際の$\mathbf{24.94}$ 分の一である。そして比は $k$ とともに開いていく。近づかない。
観察 4.3 ここにもう一段の隔たりがある。確率論的方法は「単色 $K_k$ を持たない塗り方が存在する」と示すが、どの塗り方かは一つも示さない。論文163 が分けた「存在と構成」である。
観察 4.4 したがって隔たりは二重になっている。
| 分かること | 分からないこと |
|---|---|
| $R(k,k)$ は有限である | いくつか(本稿) |
| 下限を満たす塗り方が存在する | どの塗り方か(論文163) |
観察 4.5 二行は別の隔たりである。上の行は定量、下の行は構成、一つの定理が、二種類の「教えない」を同時に持っている。
5. 上界はもっと外れる
設定:ファン・デル・ヴェルデンの定理も同じ形をしている。「十分長ければ、必ず等差数列が現れる」。
検算 5.1:知られている値。
| 値 | |
|---|---|
| $W(2,3)$ | $9$ |
| $W(3,3)$ | $\mathbf{27}$ |
| $W(4,3)$ | $76$ |
| $W(2,4)$ | $35$ |
| $W(2,5)$ | $178$ |
観察 5.2 $W(3,3)=\mathbf{27}$ である。ところが古典的な証明が与えた上界は、塔の高さが増える型(アッカーマン級)だった。真の値が $27$ なのに、上界は書き下すことすらできない大きさだった。
観察 5.3 ガワーズ($2001$)が塔を外し、上界を初等的な形まで下げた。それでも真の値との隔たりは残る。証明の技法が変わると上界が桁で動く、ということは、上界が現象を測っていなかったということである。
観察 5.4 これが本稿の第二の芯である。定理の上界は、証明の道具の性能を測っているのであって、対象の大きさを測っていない。道具を変えれば上界は動き、対象は動かない。
観察 5.5 正直に書くべき点、「アッカーマン級」は目安の語である。本稿が言うのは上界の形の分類ではなく、真の値との乖離が桁で動いたという事実だけである。
6. 分離子:存在と定量
観察 6.1 分離子、何を動かすと、「必ず現れる」が「いつ現れる」に変わるか。何も動かない。二つは別の問いであり、片方の答は他方を含まない。
| 問い | 答の型 | 本件 |
|---|---|---|
| 現れるか | はい/いいえ | はい($1930$ に決着) |
| いくつで現れるか | 数 | $k=5$ 以上は未定 |
| どの配置か | 構成 | 示されていない |
観察 6.2 三行は独立に答えられる。一行目が「はい」でも、二行目と三行目は開いたままである。「証明された」という一語が、三つのうち一つしか指していない。
観察 6.3 論文163 は「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」を分けた。本稿はその隣に三つ目の文を置く。「良い符号は $n$ 以下にある」。存在・定量・構成の三つは、たがいに独立である。
観察 6.4 論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿の $\mathbf{271.8}$ 桁も同じである。比で言えば意味を持たない大きさだが、桁で言えば「$191.8$ 桁足りない」と言える。
観察 6.5 最後に、エルデシュの言葉を数で読み直す。$R(5,5)$ は$10^{271.8}$ 通り、$R(6,6)$ は $\binom{102}{2}=5151$ 辺で$2^{5151}=10^{1550.6}$ 通り、$1278.8$ 桁の差がある。「戦うほうがまし」は誇張ではなく、桁の記述だった。
7. 点呼と結び
- 確定は $R(3,3)=6$、$R(4,4)=18$ の二つ(検算2.1):$R(5,5)$ は範囲のみ。
- $R(4,4)$ の確定は $1995$ 年(観察2.2):定理から $65$ 年後。
- $R(5,5)$ の総当たりは $10^{271.8}$ 通り(検算3.1):辺が $903$ 本。
- 宇宙の原子より $191.8$ 桁多い(検算3.1):足りないのは物質の量。
- 一段で $10^{226}$ 倍(観察3.4):跳び方が大きくなる。
- 下限は $k=10$ で $24.94$ 分の一(検算4.1):比は開いていく。
- 隔たりは二重(観察4.4):定量と構成。
- $W(3,3)=27$(検算5.1):上界は塔の型だった。
- 上界は道具を測っている(観察5.4):対象は動かない。
- $R(6,6)$ は $10^{1550.6}$ 通り(観察6.5):$R(5,5)$ と $1278.8$ 桁差。
結び:ラムゼーの定理は「十分大きければ必ず秩序が現れる」と言う。だが「十分大きい」を教えない。確定している値は $R(3,3)=6$ と $R(4,4)=18$ の二つだけで、$R(5,5)$ は$[43,48]$ の範囲にしか収まっていない。$R(4,4)$ の確定でさえ、定理から $65$ 年かかった。総当たりの手間を数えれば理由が分かる。$R(5,5)=43$ は辺が $\mathbf{903}$ 本、塗り分けが $2^{903}=\mathbf{10^{271.8}}$ 通りで、観測可能な宇宙の原子より $\mathbf{191.8}$ 桁多い。足りないのは計算機の速さではなく、物質の量である。下限の側も同じである。確率論的方法は $R(k,k)>2^{k/2}$ を与えるが、$k=10$ で実際の $\mathbf{24.94}$ 分の一であり、比は $k$ とともに開いていく。上界はもっと外れる。$W(3,3)$ の真の値は $\mathbf{27}$ なのに、古典的証明の上界は書き下せない大きさだった。定理の上界は、証明の道具の性能を測っているのであって、対象の大きさを測っていない。分けるものは一つ、存在するかと、いくつかと、どれかは、三つの別の問いである。一つ目が「はい」でも、残り二つは開いたままでありうる。「証明された」という一語が、三つのうち一つしか指していない。
参考文献
- Ramsey, F. P. (1930). On a Problem of Formal Logic. Proceedings of the London Mathematical Society, s2-30(1).
- Erdos, P. (1947). Some Remarks on the Theory of Graphs. Bulletin of the American Mathematical Society, 53(4).
- McKay, B. D. and Radziszowski, S. P. (1995). $R(4,5)=25$. Journal of Graph Theory, 19(3).
- Radziszowski, S. P. (2021). Small Ramsey Numbers. The Electronic Journal of Combinatorics, Dynamic Survey DS1.
- van der Waerden, B. L. (1927). Beweis einer Baudetschen Vermutung. Nieuw Archief voor Wiskunde, 15.
- Gowers, W. T. (2001). A New Proof of Szemeredi’s Theorem. Geometric and Functional Analysis, 11(3).
- Alon, N. and Spencer, J. H. (2016). The Probabilistic Method. Hoboken: Wiley.
- 山岸勇輝 (2026). 割り当てられた領域と、その中の自由、同じ韻を踏む六つの別根のセンサス [論文112]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21962834
- 山岸勇輝 (2026). 「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」は、別の文である [論文163]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092677
- 山岸勇輝 (2026). 「構成できない」にも別根がある [論文179]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22098419
- 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
- 山岸勇輝 (2026). 独立性を示す道は二つあり、一方は世界を狭め、他方は広げる [論文259]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169162
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「必ず現れる」は、いつ現れるかを教えない」[論文302]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22171988
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「必ず現れる」は、いつ現れるかを教えない [論文302]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/302 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171988
Yamagishi, Y. (2026). “It Must Appear” Does Not Tell You When [Paper 302]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/302; DOI: 10.5281/zenodo.22171988
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