【論文302】「必ず現れる」は、いつ現れるかを教えない

要旨

ラムゼーの定理は「十分大きければ必ず秩序が現れる」と言う。本稿が問うのは、「十分大きい」がどれだけかである。答は、定理は教えないである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、確定している値は二つだけである。$R(3,3)=6$ と $R(4,4)=18$ で、$R(5,5)$ は$[43,48]$ の範囲にしか収まっていない(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。$R(5,5)=43$ を総当たりで確かめるには $2^{903}=\mathbf{10^{271.8}}$ 通りが要り、宇宙の原子より $\mathbf{191.8}$ 桁多い(第3節)。

第三に、一段上がるごとに跳ぶ。$R(3,3)$ は $32768$ 通りで手が届き、$R(4,4)$ は $1.14\times10^{46}$ 通りで計算機がようやく届いた(第3節)。

第四に、下限の証明も値を教えない。エルデシュの確率論的方法は $R(k,k)>2^{k/2}$ を与えるが、$k=10$ で実際の $\mathbf{24.94}$ 分の一である(第4節)。

第五に、上界はもっと外れる。$W(3,3)=27$ なのに、古典的証明が与えた上界はアッカーマン級だった(第5節)。

第六に、分離子は「存在と定量」である。論文163 の「存在と構成」とは別の切り口である(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ラムゼーの定理、ラムゼー数の既知の値と範囲、ファン・デル・ヴェルデン数、エルデシュの確率論的下限は、いずれも標準的である。組合せ論を作らない。使うのは一つの二項係数と、二つの対数だけである。ラムゼーの定理を証明しない。引くだけである。ラムゼー数を計算しない。$R(5,5)$ の値を求めようとはしていない。求めるのに要る手間だけを数える。範囲の値を主張しない。$R(5,5)\in[43,48]$、$R(6,6)\in[102,160]$ はある時点で知られている範囲であり、改善されうる。本稿の主張は範囲が空でないことであって、端の値ではない。総当たりが唯一の道だと言わない。実際の探索は対称性と枝刈りで大幅に減らす。$2^{903}$ は素朴な上界であって、必要な計算量ではない。それでも到底届かない、という桁の話である。アッカーマン級という語を厳密に使わない。ガワーズ以前の上界が塔の高さが増える型だったことを指す。本稿は上界の形を主張せず、真の値との乖離だけを言う。既刊との関係:論文163 は「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」を分けた。あちらは存在と構成、本稿は存在と定量である。構成できても大きさが分からない場合を扱うので、切り口が違う。論文179 は「構成できない」に別根があると示した。本稿は構成できるのに手が届かない場合である。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿の $271.8$ 桁も対数で読む。論文259 は独立性を示す道が二つあると示した。本稿も示し方の種類を問う。加えたのは$R(5,5)$ の総当たりを $10^{271.8}$ 通りと計算し、宇宙の原子との差を $191.8$ 桁と測ったこと、$R(3,3)$・$R(4,4)$・$R(5,5)$ で手間が跳ぶ段を並べたこと、確率論的下限が $k=10$ で $24.94$ 分の一だと計算したこと、分離子を「存在と定量」に置いたことである。

1. 記法と問い

定理(ラムゼー、$1930$):$n$ が十分大きければ、$n$ 頂点の完全グラフの辺を二色で塗り分けたとき、必ず単色の $K_k$ が現れる。

定義:そのような最小の $n$ を $R(k,k)$ と書く。

問い:定理は「必ず現れる」と言う。では $R(k,k)$ はいくつか。

観察 1.1 定理の証明は存在を保証する。ところが値を教えない。本稿はその隔たりを数で測る。

観察 1.2 エルデシュの有名な言い方がある。異星人が $R(5,5)$ を要求したら人類は全計算資源を投じるべきだが、$R(6,6)$ を要求されたら戦うほうがましである。本稿はこの言葉を数で確かめる。

2. 確定している値は、二つだけである

検算 2.1:

下限 上限 確定か
$R(3,3)$ $6$ $6$ 確定
$R(4,4)$ $18$ $18$ 確定
$R(5,5)$ $43$ $48$ 未確定
$R(6,6)$ $102$ $160$ 未確定
$R(7,7)$ $205$ $492$ 未確定

観察 2.2 確定しているのは最初の二つだけである。$R(4,4)=18$ が確定したのは $1995$ 年、定理が証明されてから $65$ 年後である。

観察 2.3 $R(6,6)$ の範囲は $[102,160]$ で、幅が $58$ある。$R(7,7)$ では $[205,492]$ で幅が $287$、一段上がるごとに、分からなさが増えている。

観察 2.4 それでも「存在する」ことは最初から証明されている。どの $k$ についても $R(k,k)$ は有限である。有限だと分かっているのに、いくつか分からない。

3. 芯:総当たりに $10^{271.8}$ 通り

設定:$R(5,5)=43$ を総当たりで確かめるとする。$43$ 頂点の完全グラフの辺をすべて二色で塗り分ける。

検算 3.1:

量 値
頂点数 $43$
辺の数 $\binom{43}{2}$ $\mathbf{903}$
塗り分けの総数 $2^{903}$ $\mathbf{10^{271.8}}$
観測可能な宇宙の原子 $10^{80}$
足りない桁 $\mathbf{191.8}$ 桁

観察 3.2 これが本稿の芯である。原子を一つずつ計算機にしても、$\mathbf{191.8}$ 桁足りない。足りないのは計算機の速さではなく、物質の量である。

検算 3.3:一段ずつ下がって、どこで手が届くかを見る。

頂点 辺 塗り分けの総数
$R(3,3)$ $6$ $15$ $\mathbf{32768}$(手で数えられる)
$R(4,4)$ $18$ $153$ $1.14\times10^{46}$(計算機で $1995$ 年)
$R(5,5)$ $43$ $903$ $\mathbf{10^{271.8}}$(届かない)

観察 3.4 $R(3,3)$ から $R(4,4)$ で $\mathbf{10^{41}}$ 倍、$R(4,4)$ から $R(5,5)$ で $\mathbf{10^{226}}$ 倍、一段上がるごとに跳び方が大きくなる。

観察 3.5 正直に書くべき点、$2^{903}$ は素朴な上界である。実際の探索は対称性と枝刈りで大幅に減らす。それでも $R(5,5)$ には届いていない、という事実だけが本稿の根拠である。

4. 下限の証明も、値を教えない

設定:エルデシュ($1947$)は確率論的方法で $R(k,k)>2^{k/2}$ を示した。ランダムに塗って、単色 $K_k$ が現れない配置が正の確率で存在することを言う。

検算 4.1:

$k$ $2^{k/2}$ 知られた下限 比
$3$ $2.83$ $6$ $2.12$
$4$ $4.00$ $18$ $4.50$
$5$ $5.66$ $43$ $7.60$
$6$ $8.00$ $102$ $12.75$
$7$ $11.31$ $205$ $18.12$
$10$ $32.00$ $798$ $\mathbf{24.94}$

観察 4.2 確率論的方法が与える下限は、$k=10$ で実際の$\mathbf{24.94}$ 分の一である。そして比は $k$ とともに開いていく。近づかない。

観察 4.3 ここにもう一段の隔たりがある。確率論的方法は「単色 $K_k$ を持たない塗り方が存在する」と示すが、どの塗り方かは一つも示さない。論文163 が分けた「存在と構成」である。

観察 4.4 したがって隔たりは二重になっている。

分かること 分からないこと
$R(k,k)$ は有限である いくつか(本稿)
下限を満たす塗り方が存在する どの塗り方か(論文163)

観察 4.5 二行は別の隔たりである。上の行は定量、下の行は構成、一つの定理が、二種類の「教えない」を同時に持っている。

5. 上界はもっと外れる

設定:ファン・デル・ヴェルデンの定理も同じ形をしている。「十分長ければ、必ず等差数列が現れる」。

検算 5.1:知られている値。

値
$W(2,3)$ $9$
$W(3,3)$ $\mathbf{27}$
$W(4,3)$ $76$
$W(2,4)$ $35$
$W(2,5)$ $178$

観察 5.2 $W(3,3)=\mathbf{27}$ である。ところが古典的な証明が与えた上界は、塔の高さが増える型(アッカーマン級)だった。真の値が $27$ なのに、上界は書き下すことすらできない大きさだった。

観察 5.3 ガワーズ($2001$)が塔を外し、上界を初等的な形まで下げた。それでも真の値との隔たりは残る。証明の技法が変わると上界が桁で動く、ということは、上界が現象を測っていなかったということである。

観察 5.4 これが本稿の第二の芯である。定理の上界は、証明の道具の性能を測っているのであって、対象の大きさを測っていない。道具を変えれば上界は動き、対象は動かない。

観察 5.5 正直に書くべき点、「アッカーマン級」は目安の語である。本稿が言うのは上界の形の分類ではなく、真の値との乖離が桁で動いたという事実だけである。

6. 分離子:存在と定量

観察 6.1 分離子、何を動かすと、「必ず現れる」が「いつ現れる」に変わるか。何も動かない。二つは別の問いであり、片方の答は他方を含まない。

問い 答の型 本件
現れるか はい/いいえ はい($1930$ に決着)
いくつで現れるか 数 $k=5$ 以上は未定
どの配置か 構成 示されていない

観察 6.2 三行は独立に答えられる。一行目が「はい」でも、二行目と三行目は開いたままである。「証明された」という一語が、三つのうち一つしか指していない。

観察 6.3 論文163 は「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」を分けた。本稿はその隣に三つ目の文を置く。「良い符号は $n$ 以下にある」。存在・定量・構成の三つは、たがいに独立である。

観察 6.4 論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿の $\mathbf{271.8}$ 桁も同じである。比で言えば意味を持たない大きさだが、桁で言えば「$191.8$ 桁足りない」と言える。

観察 6.5 最後に、エルデシュの言葉を数で読み直す。$R(5,5)$ は$10^{271.8}$ 通り、$R(6,6)$ は $\binom{102}{2}=5151$ 辺で$2^{5151}=10^{1550.6}$ 通り、$1278.8$ 桁の差がある。「戦うほうがまし」は誇張ではなく、桁の記述だった。

7. 点呼と結び

  1. 確定は $R(3,3)=6$、$R(4,4)=18$ の二つ(検算2.1):$R(5,5)$ は範囲のみ。
  2. $R(4,4)$ の確定は $1995$ 年(観察2.2):定理から $65$ 年後。
  3. $R(5,5)$ の総当たりは $10^{271.8}$ 通り(検算3.1):辺が $903$ 本。
  4. 宇宙の原子より $191.8$ 桁多い(検算3.1):足りないのは物質の量。
  5. 一段で $10^{226}$ 倍(観察3.4):跳び方が大きくなる。
  6. 下限は $k=10$ で $24.94$ 分の一(検算4.1):比は開いていく。
  7. 隔たりは二重(観察4.4):定量と構成。
  8. $W(3,3)=27$(検算5.1):上界は塔の型だった。
  9. 上界は道具を測っている(観察5.4):対象は動かない。
  10. $R(6,6)$ は $10^{1550.6}$ 通り(観察6.5):$R(5,5)$ と $1278.8$ 桁差。

結び:ラムゼーの定理は「十分大きければ必ず秩序が現れる」と言う。だが「十分大きい」を教えない。確定している値は $R(3,3)=6$ と $R(4,4)=18$ の二つだけで、$R(5,5)$ は$[43,48]$ の範囲にしか収まっていない。$R(4,4)$ の確定でさえ、定理から $65$ 年かかった。総当たりの手間を数えれば理由が分かる。$R(5,5)=43$ は辺が $\mathbf{903}$ 本、塗り分けが $2^{903}=\mathbf{10^{271.8}}$ 通りで、観測可能な宇宙の原子より $\mathbf{191.8}$ 桁多い。足りないのは計算機の速さではなく、物質の量である。下限の側も同じである。確率論的方法は $R(k,k)>2^{k/2}$ を与えるが、$k=10$ で実際の $\mathbf{24.94}$ 分の一であり、比は $k$ とともに開いていく。上界はもっと外れる。$W(3,3)$ の真の値は $\mathbf{27}$ なのに、古典的証明の上界は書き下せない大きさだった。定理の上界は、証明の道具の性能を測っているのであって、対象の大きさを測っていない。分けるものは一つ、存在するかと、いくつかと、どれかは、三つの別の問いである。一つ目が「はい」でも、残り二つは開いたままでありうる。「証明された」という一語が、三つのうち一つしか指していない。

参考文献

  1. Ramsey, F. P. (1930). On a Problem of Formal Logic. Proceedings of the London Mathematical Society, s2-30(1).
  2. Erdos, P. (1947). Some Remarks on the Theory of Graphs. Bulletin of the American Mathematical Society, 53(4).
  3. McKay, B. D. and Radziszowski, S. P. (1995). $R(4,5)=25$. Journal of Graph Theory, 19(3).
  4. Radziszowski, S. P. (2021). Small Ramsey Numbers. The Electronic Journal of Combinatorics, Dynamic Survey DS1.
  5. van der Waerden, B. L. (1927). Beweis einer Baudetschen Vermutung. Nieuw Archief voor Wiskunde, 15.
  6. Gowers, W. T. (2001). A New Proof of Szemeredi’s Theorem. Geometric and Functional Analysis, 11(3).
  7. Alon, N. and Spencer, J. H. (2016). The Probabilistic Method. Hoboken: Wiley.
  8. 山岸勇輝 (2026). 割り当てられた領域と、その中の自由、同じ韻を踏む六つの別根のセンサス [論文112]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21962834
  9. 山岸勇輝 (2026). 「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」は、別の文である [論文163]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092677
  10. 山岸勇輝 (2026). 「構成できない」にも別根がある [論文179]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22098419
  11. 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
  12. 山岸勇輝 (2026). 独立性を示す道は二つあり、一方は世界を狭め、他方は広げる [論文259]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169162

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「必ず現れる」は、いつ現れるかを教えない」[論文302]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22171988

YOI 302第1版・2026年8月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/302・DOI 10.5281/zenodo.22171988・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「必ず現れる」は、いつ現れるかを教えない [論文302]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/302 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171988

Yamagishi, Y. (2026). “It Must Appear” Does Not Tell You When [Paper 302]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/302; DOI: 10.5281/zenodo.22171988

@misc{yamagishi2026yoi302,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {``It Must Appear'' Does Not Tell You When},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/302},
  doi = {10.5281/zenodo.22171988},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
08a3da727cdb3cd645ca3189109e5b4928f89a936623200c1877d8ffe379d2e8 yamagishi_yoi302_v1_jp.pdf
b1eb2cf3db2ced402c2ad028283a3898c127d76d6c9d3d3eef6f3fc2086e36c2 yamagishi_yoi302_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。