要旨
飲食店の数を、衛生行政報告例(令和6年度末、厚生労働省)の営業許可施設数と、経済センサス(令和3年、産業小分類761〜769)の事業所数で数え、比べた。
許可の総数は、2つの表を足さないと出ない。 2021年6月の食品衛生法改正で許可の区分が変わり、旧法の許可は期限が切れるまで有効である。令和6年度末の時点で、旧食品衛生法 488,162、改正食品衛生法 946,451、合計 1,434,613 施設。改正法への切り替えは 66.0% まで進んでいる。
許可は、事業所の2.91倍ある。 経済センサスの飲食店は 493,173 事業所。飲食店営業の許可は飲食店だけが取るものではなく、旅館・病院・学校の食堂、スーパーの惣菜売場なども取る。旧法の内訳で最も狭い「一般食堂・レストラン等」だけを取れば 266,065 で、逆に事業所の 0.54倍にしかならない。
同じ統計の中で、倍率が逆を向く分類がある。 「喫茶店営業」の許可は 27,223(うち 18,589 は自動販売機)に対し、センサスの喫茶店は 58,398 事業所で、0.47倍。改正法に「喫茶店営業」という区分は無く、飲食店営業に統合されたためである。
許可の区分は、商売の区分ではない。 同じ年の同じ統計で、飲食店営業は事業所の2.91倍、喫茶店営業は0.47倍になる。
1. はじめに
I003 は診療所を、I004 は理容所・美容所を、2つの公的統計で数えて比べた。どちらも「許可(施設)」のほうが「事業所」より多かった。
飲食店は、その差がもっとも大きく出る商売である。しかも2021年の食品衛生法改正で許可の区分そのものが変わった。
飲食店は、いくつあるか。許可で数えるのと、事業所で数えるのは、どれだけ違うか。
2. データ
| 営業許可(旧法) | 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」第2表-1 旧食品衛生法に基づく許可を要する食品関係営業施設数(令和6年度末現在) |
| 営業許可(改正法) | 同 第4表-1 改正食品衛生法に基づく許可を要する食品関係営業施設数(同) |
| 経済センサス | 「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類 761〜769(令和3年6月1日)。760(管理・補助的経済活動)は除く |
| 人口・65歳以上 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日 |
衛生行政報告例には市区町村別が無い(都道府県・指定都市・中核市まで)。本稿は都道府県を単位とし、経済センサスは市区町村の値を都道府県ごとに合計した。
奈良県は、旧法の表に行が無い。 表の注に「管理しているシステムの都合上、飲食店営業の営業施設数の内訳を算出することが出来ないため、計上がされていない」とある。全国の欄には入っており、その差は 1,524 施設である(488,162 − 46県の合計 486,638)。したがって全国の数は47都道府県ぶん、都道府県ごとの比較は奈良県を除く46とした。
3. 結果
3-1 総数を出すには、2つの表を足す
| 施設数 | |
|---|---|
| 旧食品衛生法に基づく許可 | 488,162 |
| 改正食品衛生法に基づく許可 | 946,451 |
| 合計 | 1,434,613 |
2021年6月の改正で、許可を要する営業の区分が組み替えられた。本稿が用いた2つの表は、旧法・改正法とも32区分だが、中身が入れ替わっている(「喫茶店営業」「あん類製造業」「みそ製造業」などは旧法の表にあって改正法の表に無い)。旧法で受けた許可は期限が切れるまで有効なので、令和6年度末の時点でも2つの表に分かれている。
どちらか一方の表だけを見ると、総数にならない。 改正法の表だけでは 946,451 で、実際の 66.0% にしかならない。
切り替えの進み具合は県によって違う。
| 改正法の割合 | |
|---|---|
| 愛媛県 | 77.1% |
| 大分県 | 75.7% |
| 福井県 | 75.4% |
| (中央値) | 67.2% |
| 鹿児島県 | 61.3% |
| 神奈川県 | 60.7% |
| 大阪府 | 59.1% |
許可の有効期間は5〜8年の範囲で自治体が定める。切り替えの速さは、その差でもある。
3-2 許可は、事業所の2.91倍
| 数 | |
|---|---|
| 飲食店営業の許可(旧+改正、令和6年度末) | 1,434,613 |
| 経済センサスの飲食店(761〜769、令和3年) | 493,173 |
| 比 | 2.91倍 |
I003 の一般診療所(+26.8%)や I004 の美容所(+72.2%)とは桁が違う。
理由は、飲食店営業の許可を取るのが飲食店だけではないことにある。旅館・ホテル、病院、学校、工場の食堂、スーパーやコンビニの惣菜売場、移動販売車も許可を要する。1つの事業者が施設ごとに複数の許可を持つこともある。
旧法の内訳は、それを部分的に示している。
| 旧法・飲食店営業の内訳(全国) | 施設数 |
|---|---|
| 一般食堂・レストラン等 | 266,065 |
| 仕出し屋・弁当屋 | 28,635 |
| 旅館 | 14,911 |
| その他 | 178,551 |
| 計 | 488,162 |
「一般食堂・レストラン等」だけを取れば、逆に事業所の 0.54倍にしかならない。
つまり、この商売の数は 0.54倍から2.91倍のあいだにあり、どちらの表も単独では答えを出さない。
3-3 「喫茶店営業」は0.47倍、区分そのものが消えつつある
| 数 | |
|---|---|
| 喫茶店営業の許可(旧法のみ) | 27,223 |
| うち自動販売機(再掲) | 18,589 |
| 経済センサスの喫茶店(767) | 58,398 |
| 比 | 0.47倍 |
改正法に「喫茶店営業」という区分は無い。飲食店営業に統合された。残っている 27,223 は、旧法で受けた許可のうち期限が切れていないものである。しかもその 68.3%(18,589)は自動販売機で、店舗ではない。
同じ年の、同じ統計の中で、飲食店営業は事業所の2.91倍、喫茶店営業は0.47倍になる。
片方は事業所より多く、片方は少ない。倍率の向きが逆である。
許可の区分は、商売の区分ではない。
3-4 都道府県ごとの、人口あたりの許可数と事業所数

図1 人口1万人あたりの、飲食店営業の許可と、経済センサスの飲食店(46都道府県)。
灰色は都道府県、橙は北海道、青の破線は「許可=事業所」の参考線。すべての県が参考線の上にある。
人口1万人あたりの許可と事業所はよく対応する(r = +0.795)。ただし、比は県によって違う。
| 比が大きい | 許可 | 事業所 | 比 |
|---|---|---|---|
| 沖縄県 | 30,765 | 8,495 | 3.62 |
| 静岡県 | 43,679 | 12,226 | 3.57 |
| 大阪府 | 137,683 | 39,357 | 3.50 |
| 比が小さい | 許可 | 事業所 | 比 |
|---|---|---|---|
| 広島県 | 27,197 | 11,417 | 2.38 |
| 秋田県 | 9,268 | 3,908 | 2.37 |
| 山形県 | 11,212 | 4,798 | 2.34 |
中央値は 2.82倍(全国の合計では 2.91倍)。すべての県で2倍を超える。
人口1万人あたりでは、事業所と許可で顔ぶれが変わる。
| 人口1万人あたり | 多い | 少ない |
|---|---|---|
| 事業所 | 高知57.9/沖縄57.2/宮崎53.3 | 滋賀30.1/千葉27.1/埼玉26.9 |
| 許可 | 沖縄207.3/長野159.1/大阪156.9 | 千葉84.4/神奈川83.9/埼玉72.8 |
長野県は、許可では2位(159.1)だが、事業所では46.8で上位に入らない(比3.40)。宿泊施設の多い県では、飲食店以外が取る許可が積み上がる。
高齢化率との関係は弱い。人口1万人あたりの事業所とは r = +0.273、許可とは r = −0.066 で、ほとんど関係がない。
3-5 北海道と釧路総合振興局管内
北海道は許可 56,366・事業所 22,170 で比 2.54倍、46都道府県中 37位。人口1万人あたりは許可112.8・事業所44.4(事業所は16位)。許可の水増しが小さいほうの県である。
釧路管内は、衛生行政報告例に市区町村別が無いため、経済センサスの数字のみを示す。
| 市町村 | 人口 | 飲食店 | 喫茶店 | 飲食/1万人 | 喫茶/1万人 |
|---|---|---|---|---|---|
| 釧路市 | 151,566 | 1,030 | 89 | 67.96 | 5.87 |
| 釧路町 | 18,021 | 79 | 8 | 43.84 | 4.44 |
| 厚岸町 | 7,976 | 41 | 4 | 51.40 | 5.02 |
| 浜中町 | 5,172 | 20 | 2 | 38.67 | 3.87 |
| 標茶町 | 6,698 | 41 | 5 | 61.21 | 7.46 |
| 弟子屈町 | 6,327 | 60 | 8 | 94.83 | 12.64 |
| 鶴居村 | 2,368 | 13 | 3 | 54.90 | 12.67 |
| 白糠町 | 6,840 | 34 | 3 | 49.71 | 4.39 |
全国1,889市区町村の中央値は、人口1万人あたり 35.18。釧路管内は8市町村すべてが中央値を上回る。
弟子屈町は 94.83 で、全国中央値の2.7倍。 人口6,327人に対して飲食店が60ある。摩周湖・屈斜路湖・川湯温泉を抱える町で、住民の数では説明できない。鶴居村の喫茶店12.67も同じ向きである。
I002 では、白糠町の介護事業所1か所あたりの認定者が131.8人と管内でもっとも重かった。同じ町でも、商売によって「多い/少ない」は入れ替わる。
4. 考察
4-1 許可を数えても、店の数にはならない
2.91倍という差は、時点のずれ(令和3年6月1日から令和6年度末まで3年10か月)では説明できない。差の中身は、許可という制度が何に対して与えられるかにある。
- 飲食店以外(旅館・病院・学校・工場・スーパー・移動販売)も許可を要する
- 1つの事業者が、施設や厨房ごとに複数の許可を持つ
- 許可は、廃業の届出が出るまで残りうる
「その町に飲食店が何軒あるか」を許可で答えると、2.9倍に膨らむ。
逆に「一般食堂・レストラン等」で答えると、0.54倍に縮む。
4-2 制度が変わると、数の連続性が切れる
2021年の改正は、許可の区分を組み替えた。その結果、
- 総数を出すには、旧法と改正法の2つの表を足す必要がある
- 「喫茶店営業」のように、区分ごと消えたものがある
- 切り替えの進み具合が県によって違うため、県どうしの比較にも歪みが入りうる(59.1%〜77.1%)
経年で追うときは、改正の前後で定義が変わっていないかを確かめる必要がある。本稿は令和6年度末の1時点のみを扱う。
4-3 観光地では、住民の数で説明できない
弟子屈町の 94.83 は、R001 が示した「人口が少ない町ほど人口あたりの事業所は多い」という傾向だけでは説明が足りない。同じ人口規模の白糠町は 49.71 で、約1.9倍の差がある。
飲食店の需要は、住民だけが作るのではない。 ただし本稿は観光客数を用いていないので、この差の原因は確かめていない。
5. 限界
- 衛生行政報告例は令和6年度末、経済センサスは令和3年6月1日、人口は2026年1月1日。時点が違う
- 衛生行政報告例は営業許可を受けた施設の数で、1つの事業者が複数の許可を持ちうる
- 飲食店営業の許可は、飲食店以外(旅館・病院・学校・スーパーなど)も取る
- 奈良県は旧法の表に行が無い。全国の数には入っているが、都道府県の比較からは除いた(46)
- 衛生行政報告例には市区町村別が無い。釧路管内はセンサスの値のみ
- 経済センサスの市区町村を合計した値(飲食店493,173・喫茶店58,398)は、秘匿の扱いにより全国値とわずかに違いうる
- 弟子屈町の多さについて、観光客数を用いた検証はしていない
- どちらの統計が正しいかを、本稿は判定しない
6. 再現の手順
- e-Stat から「令和6年度 衛生行政報告例」第2表-1(旧食品衛生法、CSV)と第4表-1(改正食品衛生法、CSV)を取得する。どちらにも指定都市・中核市の再掲行があるので、都道府県の行だけを使う
- 旧法の表には奈良県の行が無いことを確かめる(全国の欄と46県の合計の差が奈良県ぶん)
- e-Stat から令和3年 経済センサスの産業小分類別 事業所数(市区町村別)を取得し、761〜769 を都道府県ごとに合計する(760 は除く)
- 住民基本台帳の人口・65歳以上人口を都道府県ごとに合計する
- 許可(旧+改正)÷ 事業所、人口1万人あたりの許可数・事業所数、改正法の割合を出す
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_192)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
この論文の位置づけ
新しい理論を主張するものではない。公的統計で商売の数を数えるときに、許可の数と事業所の数がどれだけ違うかを、飲食店で測ったものである。I003(診療所)・I004(理容・美容)と同じ問いを、差がもっとも大きく出る業種に当てた。どちらの統計が正しいかは判定しない。
参考文献・データの出典
- 厚生労働省「令和6年度 衛生行政報告例」第2表-1・第4表-1
- 総務省統計局・経済産業省「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類別 事業所数(市区町村別)
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
- 山岸勇輝「市区町村の人口と、そこにある産業小分類の数」(R001)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22872218
- 山岸勇輝「介護の事業所1か所あたりの認定者」(I002)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22875542
- 山岸勇輝「同じ診療所を2つの公的統計で数えると」(I003)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22875614
- 山岸勇輝「理容所と美容所、1店あたり2人」(I004)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22875820
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-21 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「飲食店営業の許可は、事業所の2.9倍、そして「喫茶店営業」は0.47倍 [I005]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22875863
(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)
© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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書誌
山岸勇輝(2026)「飲食店営業の許可は、事業所の2.9倍」[I005]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22875863
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 飲食店営業の許可は、事業所の2.9倍 [I005]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I005 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22875863
Yamagishi, Y. (2026). Food-Service Licences Are 2.9 Times the Establishments [I005]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I005; DOI: 10.5281/zenodo.22875863
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