【論文366】砂時計が時計になるのは、式に「残りの高さ」が入っていないからである

要旨

水時計は難しく、砂時計は易しい。本稿が問うのはその差がどこから来るかである。答えは流量の式に残りの高さが入るかどうか。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、水はトリチェリの式に従い、残り高さ $0.30$ m で $2.4257$ m/s、$0.01$ m で $0.4429$ m/s になる(第2節)。

第二に、流量の比は $\mathbf{5.4772}$ 倍であり、高さの比の平方根 $\sqrt{30}$ に厳密に一致する(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。砂のベヴァルー則には $h$ が一度も現れず、流量は $\mathbf{0.024473}$ kg/s のまま動かない(第3節)。

第四に、代わりに効くのは粒径であり、$0$ から $3$ mm で流量が $\mathbf{0.256195}$ 倍に落ちる(第3節)。

第五に、粒径が $\mathbf{7.1429}$ mm を超えると式は流れの停止を予言する(第3節)。

第六に、分離子は「底の圧力が高さで決まるか」であって、穴でも物質でもない(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。トリチェリの定理・ベヴァルー則・ヤンセン効果はすべて既知である。粉体力学を作らない。力の鎖(フォースチェーン)やアーチ形成の理論には立ち入らない。名前を挙げるにとどめる。ベヴァルー則を導かない。経験式として置き、係数 $C=0.58$・$k=1.4$ も文献の値を使う。導出は行わない。実験をしない。実際の砂時計での測定は行わない。閉塞を扱わない。アーチによる詰まりの確率は主題ではない。時計を設計しない。砂時計の精度や温湿度依存は主題ではない。既刊との関係:論文343 は穴の大きさが応力集中に入らないことを示した。そこでも「式に入らないこと」が結論を作った。ここでは高さが入らない。論文350 はむだ時間が振幅に入らないことを示した。同じ形である。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。水の流出と砂の流出は、その基準で別根である。論文352 は転移温度が測定条件で動くことを示した。そこでは条件が入り込み、ここでは入り込まない。加えたのは、水と砂の流量を同じ条件で並べたこと、水の比が $\sqrt{30}$ に厳密一致することを確かめたこと、砂の流量が高さによらないことを数で示したこと、粒径の効き方($5/2$ 乗)を五点で出し停止の境目を逆算したこと、分離子を「底の圧力が高さで決まるか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:半径 $5$ mm の穴(断面積 $7.853982\times10^{-5}$ m$^2$)から、水と砂を出す。

$$v_{\text{water}}=\sqrt{2gh},\qquad
Q_{\text{sand}}=C\rho\sqrt{g}\,(D-kd)^{5/2}$$

$C=0.58$、$k=1.4$、かさ密度 $\rho=1500$ kg/m$^3$、口径 $D=10$ mm、粒径 $d=0.3$ mm とする。

観察 1.1 二つの式を見比べると、片方に $h$ があり片方に無い。トリチェリには $h$ が入り、ベヴァルーには入らない。本稿はこの一点だけを扱う。

観察 1.2 $h$ が無いのは書き落としではない。粉体では、底にかかる圧力が高さとともに増えない。壁が力を受け持つからである(ヤンセン効果)。

観察 1.3 結果として、砂時計は一定速度で落ちる。時計にできる。水時計は容器の形で補正しないと時計にならない。

問い:なぜ砂は一定速度で落ちるのか。

2. 水は高さで $5.4772$ 倍違う

計算 2.1:残り高さに対する水の流出(本稿で計算)。

残り高さ $h$ [m] 流出速度 [m/s] 流量 [m$^3$/s]
$0.30$ $2.4257$ $1.905135\times10^{-4}$
$0.20$ $1.9806$ $1.555537\times10^{-4}$
$0.10$ $1.4005$ $1.099930\times10^{-4}$
$0.05$ $0.9903$ $7.777683\times10^{-5}$
$0.01$ $0.4429$ $3.478285\times10^{-5}$

観察 2.2 $0.30$ m と $0.01$ m で流量が $\mathbf{5.4772}$ 倍違う。高さの比 $30$ の平方根、$\sqrt{30}=5.477226$ と厳密に一致する。式が閉じている。

観察 2.3 だから水時計は、時間の目盛が均等にならない。最初は速く、終わりは遅い。目盛を等間隔に打つには、容器の断面積を高さの関数として設計しなければならない。

観察 2.4 これは水の性質ではなく、圧力の性質である。静水圧が $\rho gh$ で高さに比例するからである。高さが増せば押す力も増える。

3. 砂には高さが入らない

計算 3.1:砂の流量(本稿で計算・ベヴァルー則)。

残り高さ $h$ [m] 砂の流量 [kg/s] 水の流量との対比
$0.30$ $\mathbf{0.024473}$ 水は $1.905135\times10^{-4}$ m$^3$/s
$0.10$ $\mathbf{0.024473}$ 水は $1.099930\times10^{-4}$ m$^3$/s
$0.01$ $\mathbf{0.024473}$ 水は $3.478285\times10^{-5}$ m$^3$/s

観察 3.2 これが本稿の芯である。三行とも同じ $0.024473$ kg/s である。近似でそうなるのではない。式に $h$ が一度も現れないからである。

観察 3.3 代わりに効くのは粒径である。$(D-kd)^{5/2}$ の形で入る。口径から粒径の $1.4$ 倍を引いた「実効的な口」が効く。

計算 3.4:粒径に対する砂の流量(本稿で計算・口径 $10$ mm)。

粒径 $d$ [mm] 流量 [kg/s] $d=0$ に対する比
$0.0$ $0.027245$ $1.000000$
$0.3$ $0.024473$ $0.898284$
$1.0$ $0.018686$ $0.685877$
$2.0$ $0.011984$ $0.439877$
$3.0$ $0.006980$ $\mathbf{0.256195}$

観察 3.5 粒径 $3$ mm で流量は四分の一になる。口径の三割の粒、$5/2$ 乗で効くので、少し粗くするだけで大きく落ちる。

観察 3.6 式は自分で止まる速度を指す。$d=D/k=\mathbf{7.1429}$ mm を超えると $(D-kd)$ が負になる。そこで流れは止まると予言する。論文355 で経験則が自分の破れを指したのと同じ形である。

観察 3.7 この口径は砂時計としては大きい。一分で $1.4684$ kg 出る。家庭の砂時計はもっと細い口をもつ。数値の現実味を確かめておく。

4. なぜ高さが入らないのか

観察 4.1 粉体では、底にかかる圧力が深さとともに飽和する。ヤンセン効果と呼ばれる。粒どうしが噛み合って力の鎖を作り、荷重の一部を壁が受け持つ。

観察 4.2 だから上に何メートル積んでも、底の圧力は増えない。増えないものは、流量を増やせない。$h$ が式から消えるのは、この物理の帰結である。

観察 4.3 代わりに、穴の近くの局所的な構造だけが効く。穴の上に自由に落ちる領域(自由落下アーチ)ができる。流量はその領域の大きさで決まり、それは口径と粒径だけの関数である。

観察 4.4 論文343 と同じ形である。論文343 では穴の大きさが応力集中の式に入らなかった。ここでは高さが流量の式に入らない。どちらも「入らないこと」が結論を作っている。

観察 4.5 正直に言えば、本稿はヤンセン効果を計算していない。ベヴァルー則を経験式として使い、その形が $h$ を含まないことを見ただけである。機構の説明は文献に譲る。

5. 分離子:底の圧力が高さで決まるか

観察 5.1 分離子、底にかかる圧力が高さとともに増えるかどうかであって、穴の形でも物質の種類でもない。

底の圧力 流量に $h$ が 時計になるか
水 $\rho gh$ で増える 入る 形で補正が要る
砂 飽和する 入らない そのままなる

観察 5.2 右端の列が実用の全部である。時計にできるかどうかが、この一列で決まる。砂時計が古くから使えたのは、材料が特別だったからではない。

観察 5.3 論文300 の基準で別根である。どちらも「穴から出る」だが、水は静水圧、砂は局所的なアーチが決めている。同じ現象名が二つの機構を指している。

観察 5.4 分離子は動かせる。砂を水に浸せば、粒どうしの噛み合いが弱まり、圧力は高さに依存しはじめる。つまり「砂だから」ではなく「乾いた粉体だから」である。

観察 5.5 正直に言えば、$0.024473$ kg/s も $5.4772$ 倍も、明示した口径・粒径・かさ密度の上での値である。別の砂時計なら別の数が出る。動かないのは、式に $h$ が入るか入らないかという構造だけである。

観察 5.6 最後に一つ、式の中に無い量は、いくら変えても答を動かさない。砂時計を高く積んでも、速くは落ちない。どの量が式に入っているかを見るだけで、何が効かないかが分かる。これは計算より先に済む判定である。

6. 点呼と結び

  1. 水は $h=0.30$ m で $2.4257$ m/s(計算 2.1):トリチェリ。
  2. 流量比は $5.4772$ 倍(観察 2.2):$\sqrt{30}$ に厳密一致。
  3. 砂は三つの高さで同じ $0.024473$ kg/s(計算 3.1):$h$ が式に無い。
  4. 代わりに粒径が効く(観察 3.3):$(D-kd)^{5/2}$。
  5. 粒径 $3$ mm で $0.256195$ 倍(計算 3.4):四分の一に落ちる。
  6. $7.1429$ mm で停止を予言(観察 3.6):式が自分の限界を指す。
  7. 一分で $1.4684$ kg(観察 3.7):この口径は砂時計には大きい。
  8. 底の圧力が飽和する(観察 4.1):ヤンセン効果。
  9. 論文343 と同じ形(観察 4.4):入らないことが結論を作る。
  10. 濡らすと分離子が動く(観察 5.4):「砂だから」ではない。

結び:水時計は難しく、砂時計は易しい。その差は材料の特別さではなく、流量の式に残りの高さが入るかどうかにある。水はトリチェリの式に従う。残り高さ $0.30$ m で $2.4257$ m/s、$0.01$ m で $0.4429$ m/s。流量の比は $\mathbf{5.4772}$ 倍で、高さの比 $30$ の平方根 $\sqrt{30}=5.477226$ に厳密に一致する。だから水時計は最初が速く終わりが遅く、目盛を等間隔にするには容器の断面積を高さの関数として設計しなければならない。砂の式には $h$ が一度も現れない。ベヴァルー則 $Q=C\rho\sqrt{g}(D-kd)^{5/2}$ の上では、$h=0.30$ m でも $0.01$ m でも流量は同じ $\mathbf{0.024473}$ kg/s である。近似でそうなるのではなく、式に $h$ が無いからである。代わりに効くのは粒径である。口径から粒径の $1.4$ 倍を引いた「実効的な口」が $5/2$ 乗で効き、粒径 $3$ mm では流量が $\mathbf{0.256195}$ 倍、四分の一に落ちる。そして粒径が $\mathbf{7.1429}$ mm を超えると $(D-kd)$ が負になり、式は流れの停止を予言する。論文355 で経験則が自分の破れを指したのと同じ形である。$h$ が消える理由は物理にある。粉体では粒どうしが噛み合って力の鎖を作り、荷重の一部を壁が受け持つので、底にかかる圧力が深さとともに飽和する(ヤンセン効果)。増えないものは流量を増やせない。代わりに穴の上の自由落下アーチだけが効き、その大きさは口径と粒径だけの関数である。ただし本稿はヤンセン効果を計算しておらず、ベヴァルー則の形が $h$ を含まないことを見ただけである。分けているものは一つ、底にかかる圧力が高さとともに増えるかどうかであって、穴の形でも物質の種類でもない。砂を水に浸せば噛み合いが弱まり圧力は高さに依存しはじめるので、「砂だから」ではなく「乾いた粉体だから」である。正直に言えば、$0.024473$ kg/s も $5.4772$ 倍も、明示した口径・粒径・かさ密度の上での値である。動かないのは、式に $h$ が入るか入らないかという構造だけである。最後に一つ、式の中に無い量は、いくら変えても答を動かさない。砂時計を高く積んでも速くは落ちない。どの量が式に入っているかを見るだけで何が効かないかが分かり、これは計算より先に済む判定である。

参考文献

  1. Beverloo, W. A., Leniger, H. A., van de Velde, J. (1961). The flow of granular solids through orifices. Chemical Engineering Science.
  2. Janssen, H. A. (1895). Versuche über Getreidedruck in Silozellen. Zeitschrift des Vereines Deutscher Ingenieure.
  3. Nedderman, R. M., Tüzün, U., Savage, S. B., Houlsby, G. T. (1982). The flow of granular materials I: Discharge rates from hoppers. Chemical Engineering Science.
  4. Jaeger, H. M., Nagel, S. R., Behringer, R. P. (1996). Granular solids, liquids, and gases. Reviews of Modern Physics.
  5. Torricelli, E. (1644). De Motu Gravium Naturaliter Descendentium. Florence.
  6. 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 『穴の大きさは、応力集中に入っていない』[論文343]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682218
  8. 山岸勇輝 (2026). 『むだ時間は、振幅に触れずに安定余裕だけを食う』[論文350]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22695565
  9. 山岸勇輝 (2026). 『ガラス転移温度は、測る速さで動く』[論文352]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22695723
  10. 山岸勇輝 (2026). 『反発係数は材料の定数ではない。そして経験則は、自分が破れる速度を自分で指す』[論文355]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697011

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「砂時計が時計になるのは、式に「残りの高さ」が入っていないからである」[論文366]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22697694

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 砂時計が時計になるのは、式に「残りの高さ」が入っていないからである [論文366]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/366 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22697694

Yamagishi, Y. (2026). An Hourglass Keeps Time Because the Height Is Not in the Formula [Paper 366]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/366; DOI: 10.5281/zenodo.22697694

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